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【大森靖子】常に全力だった10年の集大成『THIS IS JAPANESE GIRL』全曲解説!

2024.09.18
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超歌手の大森靖子さんが、7枚目のメジャーアルバム『THIS IS JAPANESE GIRL』をリリースしました。9月18日、自身の誕生日にメジャーデビュー10周年を迎え、その集大成とも言える本作。「なんの感情も諦めない」ことをモットーに、楽曲を量産し、ステージに立ち続けてきたこの10年間の活動への自負が、「これが日本の女の子」というタイトルにも刻まれています。
従来のJ-POPや日本の“カワイイ”カルチャーを刷新するとともに、つんく♂や大沢伸一、向井秀徳、の子など、敬愛するアーティストとのコラボレーションも光る本作について、たっぷりと語ってもらいました。


今自分がどういう大森靖子をやるべきかを考えて描いた「THIS IS JAPANESE GIRL」



──『THIS IS JAPANESE GIRL』、実に素晴らしいアルバムでした。この10年間、大森さんはずっと休まずやってきた。その集大成だなと。
 
大森 本当にずっと働きましたね。自分がエイベックスに在籍している意味って、会社に求められることをやるんじゃなくて、大森靖子をやり続けることだと思ってきたので。
 
──大森靖子をやる。
 
大森 特殊な感情を歌うってことですね。なんの感情も諦めない。そのための歌詞のプロトタイプを作った自信はあります。
 
──SNSで1フレーズだけ流れてきても、大森さんの歌詞だとわかります。
 
大森 だと嬉しいですね。歌詞のどこを切り取られても、自分の世界観が出せるように作ってきました。ギターの弾き語りから始めたんで、音の数が少ない分、言葉で刺すことを意識してきたんです。あと、J-POPを聴いて育ってきて、歌詞を更新したいなという思いもありました。言葉の連なりと感情の関係を磨き抜くことで、おこがましいですけど、より作品としての強度を上げられるはずだって。
 
──その点でも、本作は到達点といえそうです。と同時に、さまざまなアーティストとコラボして間口も広い。オープニングの表題曲「THIS IS JAPANESE GIRL」は大沢伸一さんの作曲・編曲 ですね。

大森 ド頭は華やかでインパクトのあるイメージだったのでお願いしました。この曲は、今自分がどういう大森靖子をやるべきかを考えて描いたんです。女の子を救っていて、何の感情も諦めてない人だよなって。
 
──大森靖子をメタで捉えている。
 
大森 そうですね。世の中にアンチテーゼを投げかけるだけじゃなくて、世界を変えるためには「私が世界です」って名乗るのが一番いいなって描いた曲です。
 
──「JAPANESE」にはどういう意味を託したんですか。
 


大森 今、日本に来る海外の人が受け取る「カワイイ」カルチャーって、ポップでキャッチーじゃないですか。でも、もっとヌメッとした、土着のカワイイもある。カワイイに惹かれてわざわざ日本まで来る人って、そのヌメッとした「カワイイ」を本当は求めてるんじゃないかと。そして、私はそれを提示することができる、という気持ちもずっとありました。
 
──続く「大森神社」では、ジャパニーズつながりで、自身を神社に見立てています。
 
大森 語弊があるかもしれないけど、あえて言うと、神社って空洞じゃないですか。何もない場所に、何かあることにして拝むわけですよね。バーチャル的というか、AI的というか。私についても、みなさんが持つイメージがあり、私は私で実体としての私にできることを考えるんですけど、一方で、バーチャルな「大森靖子」が果たす役割もあるよなと。
 
──大森神社には、いろんな悩みごとや打ち明け話ほかあらゆるDMが届いたりもするわけですよね。
 
大森 そうですね。全部受け止めますけど、メッセージに引きずられるようなことはないです。いつなんどきも元気でライブやってるし。
 
──中には、「裏切られた!」みたいなものもありますか?
 
大森 それはありますよ。ファンにも、現場派と在宅派っていう二種類の活動タイプがあって、そんなふうに幻滅するのは、お家で楽しんでくださってる方が多いです。バーチャルな「大森靖子」像と、実在する私の言動がズレると「裏切られた!」と思ってしまうんでしょうね。でも、実体をいくらか無視して作られたイメージの面白さというのもあるじゃないですか。だから現場派も在宅派も、どちらも私にとっては大事なファンです。

──3曲目の「小悪魔的ッ☆相当キレてる」は、「非国民的ヒーロー」ぶりに、の子さん(神聖かまってちゃん)との共作ですね。



大森 いろんな人と歌ってきたけど、の子くんとの声の相性がいちばんいい気がします。リズムの取り方もけっこう似てるし。
 
──デビュー当時を振り返れば、お二人とも東京のカルチャーシーンでも、徒花的な注目のされ方をしていたと思います。ですが、10年経ち、SNSの喧騒や社会の混沌も極まったいま、逆にお二人のまともさが際立っています。
 
大森 の子くんも私も、信念を曲げることなく、活動をずっと続けている。私たちみたいにスジを通している人は、案外少ないのかもしれない。そういう意味でも、の子くんは戦友ですね。

──そして、「ミス・フォーチュン ラブ 」は、大森さんが敬愛してやまない、つんく♂さんの作曲です。シグネチャーの強いメロディに詞を乗せる作業はいかがでしたか?

大森 テーマは、つんく♂さんが絶対に使わない言葉で、つんく♂さんのテーマを伝えることでした。
 
──「君の死因になんて死んでもなりたくないよ」というAメロの出だしから、完全に大森さんの筆致ですね。
 
大森 つんく♂さんは絶対に「死」という単語は使いませんからね(笑)。
 
──歌入れはいかがでしたか。
 
大森 つんく♂さんの楽曲の歌唱法を押さえているディレクターさんに、いろいろ教えてもらいました。「ここからここまでちゃんと伸ばしましょう」「頭はここです」って音のハコがちゃんと決まっていて。それに合わせたり、逆に私なりの歌い方をしたり、使い分けるのが面白かったです。
 
 
「こういう感情を書けるのは大森靖子だけだよね」というのを示したかった「更衣室ディストピア」
 
 


──5曲目の「桃色団地」は向井秀徳さんの作詞作曲。大森さんのアルバムで、作詞作曲編曲まで丸ごと依頼した曲は、これが初めてじゃないですか?
 
大森 結果的にそうなったんですけど、本来お願いしたのは作曲だけだったんです。でも、曲のデモが届いたら、向井さんの歌入りだったんです(笑)。「歌詞もできてしまいました」って。なので、向井さんの歌はそのまま使わせてもらって、私との歌割りを考えたんです。とても贅沢で楽しい作業でした。
 
──大森さんの歌唱は向井さんを踏襲しつつ、自分のカラーも出ています。
 
大森 マネしているって思われないギリギリまで攻めました。向井さんと一体化したかったんです。コーラスも向井さんの声に合わせようと思って何度も聴いたんですが、「あいまい」(曖昧)ってフレーズが、何度聞いても「あ! ま!」しか言ってなかった(笑)。
 
──「This is 向井秀徳」な歌詞世界で、大森さんが見事に描写されていました。
 
大森 こんなに分かってくれてるんだって、びっくりしました。向井さんって『ディストラクション・ベイビーズ』って映画のサントラやられたじゃないですか。
 
──大森さんの地元である愛媛県の喧嘩神輿がモチーフになっていましたね。
 

大森 向井さんは私のことを絶対あの荒々しさで認識されてるんだろうなと勝手に思ってたんですよ。絶対にギターが歪みまくった曲が来ると思ってたから「こっちなんだ!」って嬉しかったです。大好きなミュージシャンでも、その人の楽曲の世界に私は入れないなってなることがあって。例えば銀杏BOYZは好きだけど、私みたいな女は絶対出てこないみたいな。でも向井さんの曲のなかにはいられるかもって。そしたら団地の住人にしてくれました。団地に住んでたこと、なんで知ってたんだろう。
 
──「田中愛愛愛子」は、浅野いにおさんの漫画『おやすみプンプン』のヒロインがタイトルです。

大森 浅野さんとは、けっこうネットで並べて語られることが多いんです。「自分のこと田中愛子だと思って、大森靖子聴くような女」みたいな。でも私は、そういう類型やサブカルチャーとは関係なく、自分に刺さることをしているだけだし、浅野さんもそうだと思う。それに、私にとって田中愛子は抵抗すべき対象なんです。なので、自分のリズムとグルーヴを大事に、アレンジもsugarbeansさんにお願いして、ライブ感を強めに出してもらいました。

──「更衣室ディストピア」は昨年、先行リリースされた曲です。
 


大森 この曲で、アルバム制作へのギアを入れた感じですね。「こういう感情を書けるのは大森靖子だけだよね」というのを示したかった。
 
──以前、MeTooムーブメントが盛り上がっているときに、「MeToo」もいいけど、「InMyCase」も大事にしたい、ということをエッセイ集『超歌手』に書いていたことを思い出しました。
 
大森 私はどうしたって女だし、女の子であることにものすごくこだわってる。だけど、世の中を変えるには、一人の人間として「これが自分の世界だ」という何かを示すしかないと思うんです。私はそれを音楽でやっているつもり。
 
──編曲は、インディー時代から関わりの深いカーネーションの直枝政広さんです。
 
大森 また、そんな背景の曲なのに、直枝さんが「更衣室ってそんなに大変なの?」って無邪気に聞いてくるんですよ(笑)。「オレには全然わからない話だな~」って。それでいて、バンジョーで乙女心を表現するとか意味がわからないんですけど、ちゃんとハマるんですよ。さすがとしか言いようがありません(笑)。
 
──アルバム後半に入り、「幸内炎」と「SickS ckS」と四天王バンドのサウンドが続きます。
 
大森 「幸内炎」は私にとっての王道ですね。「カワイイ」の世界にちょうどいい歪みが入っている。
 
──四天王バンドはいつも即興的にレコーディングされるそうですね。
 
大森 そうですね。「SickS ckS」もノリで作ったんですけど、このときは「シューゲイズ」についてみんなで語り合ったんですよ。靴(シュー)のつま先を見つめ(ゲイズ)ながら演奏するから「シューゲイズ」らしいけど、ジャンルとしてのシューゲイズの音って、むしろ見上げてないか? みたいな。だから本当につま先を見ているような音楽をイメージして演奏しました。
 
──メロディーがまた美しくて。
 
大森 歌詞の内容が酷ければ酷いほどメロディーはきれいにしたくなる。そこはずっと変わらず天邪鬼です。
 
 
「けっきょく私は、私が変わらないための選択しかしたことがない……はず!」
 


 
──「さみしいおさんぽ」はクラムボン・ミトさんのアレンジが絶品ですね。
 
大森 ミトさんには「大森さんがひとりで宇宙にいるイメージです」って言われました。レコーディングでは「透明感を出してください」って指示されたけど、透明感、生きてきて一回も出したことないからわかんなかった(笑)。
 
──結果的に成功してますよ。
 
大森 いろいろ試したんですが、最終的に使ったのは、いつもどおりの私のクセが出たところでした。だから、自分らしくいることが透明感(笑)。
 
──佐内正史さん撮影によるアルバムのジャケット写真が、「さみしいおさんぽ」のイメージとも重なりますね。
 
大森 最近、夜中に数時間かけて散歩するんですけど、夜の散歩って、何かの途中な感じがしていいんですよね。ニュートラルというか。私は普段、とことん相手にあわせるか、逆になにかを演じるか、そのどちらかの状態が多いんですけど、佐内さんとの撮影では、ただおしゃべりしたり、一緒にパンを食べたりして、キラキラした「途中」の感じでいられました。
 
──そんな透明感から一転、ヘヴィな曲が続きます。「だれでも絶滅少女」は、アルバム『絶対少女』を想起するタイトルです。
 
大森 たしかに、その延長線上にある曲ですね。2013年に『絶対少女』を出した当時は、少女や彼女像を描く男性の作品が目立っていて。それを逆手にとって、あえて自称したのが『絶対少女』でした。
 
──男性が勝手に投影した少女の理想像を奪還するという。それから10年が経ち、「もっと 欲張ればよかったな」というフレーズがぐっときます。
 
大森 こんな私でも生きていけるよ、いちおう社会に乗れているよ、というのが希望だと思っていたんです。ただ、そのためには人一倍、周りに気を遣う必要もあった。でも……というところですよね。
 
──もっと欲張ればよかった、と(笑)。そのぶちまけ方もまた、大森さんの魅力だと思います。続く「絶対運命ごっこ」は、MAPAに提供した楽曲のセルフカバーです。
 
大森 ちょっと自分のことを書きすぎたので、この曲は自分でも歌わないとなって。
 
――決定的な「別れ」の曲ですよね。
 
大森 何回聴いても、泣いてしまう。別れの曲って、恋愛の終わりとか死とか限定的じゃないですか。だから縁は自分で整理しなきゃいけないって歌を作りました。
 
──大森さんの近況を踏まえると、離婚の件も想起されますが。
 
大森 ああ、それは、この曲にはまったくないですね。そちらの感情は、MAPAの「怪獣GIGA」という曲に少し投影されているかな。
 
──この10年間を振り返ると、とても充実した活動であったと同時に、失うものもなかなか多かったのではないかと想像しますが。
 


大森 でも、常に全力だったし、これはいいとこどりで残しておこうなんて、そんな都合のいい生き方はできないんですよね。けっきょく私は、私が変わらないための選択しかしたことがない……はず!
 
──次曲の「ムゲン来世」はドラマ『来世ちゃん』シリーズ3回目の主題歌です。「絶対運命ごっこ」ですべてを精算したあとに、来世が来るという曲順も見事です(笑)。
 
大森 そう、曲順を決めたあとで、歌を録り直したんですよ。「絶対運命ごっこ」のあとにくる以上、説得力のある歌唱にしたかったので。
 
──ラストは「最幸♡きゅん」。7分半の長尺です。
 
大森 私が作ったデモは5分半だったんですよ。それを直枝さんがアレンジで1分半も伸ばしたんです(笑)。曲が伸びたぶん、レコーディングの際に、即興で歌詞を書き足しました。
 
――締めにふさわしい大曲だと思います。「人生ってマジうんこだよね」から始まるくだりがいいですね。
 
大森 まさにそこが即興で書いた箇所です!(笑)
 
──さすがです(笑)。さて、10周年の集大成のアルバムが完成し、次はどこへ向かいますか?
 
大森 たくさんありますが、ひとつ思うは、自分の表現を受け継ぐこと。伝統芸能や絵画の世界だと、名跡とか流派みたいなかたちで芸風や作風が継承されていくじゃないですか。歌手にもそういうものがあっていいと思うんですよ。
 
──二代目・大森靖子?
 
大森 たとえば、そうですね。実際、ZOCをやる前に、ファンから「二代目・大森靖子」を募ったこともあったんです。
 
──ちなみに「大森靖子」を継承するとしたら、その心得はなんでしょう?
 
大森 まずは、あらゆる感情の引き出しがあって、観客や空間にあわせて、それを差し出すことかな。TOKYO PINKの子たちにも、「感情はむやみに吐き出さず、ストックとして貯めておこう」ということをよく言っています。
 
──今回まさに、その結晶のようなアルバムでもありますね。ちなみに、これで「大森靖子10周年プレミアム輪廻ガチャ10」で発表された10個の企画がほぼ実現しました。あとは、そこで予告されていた初小説の企画だけが、担当編集者としても気がかりです(笑)。
 
大森 ですよね(笑)。
 
――すでに8割方の原稿を受け取っており、お世辞抜きに傑作になると確信しているのですが……。
 
大森 自分でも面白いとは思っていて、あとは終わらせ方だけなんです。……がんばります!
 
 
 
取材 九龍ジョー
構成 安里和哲
撮影 堀内彩香





『THIS IS JAPANESE GIRL』
2024.9.18 ON SALE

 


大森靖子「THIS IS JAPANESE GIRL TOUR 2024」

2024年11月9日(土)新潟県 GOLDEN PIGS RED STAGE
2024年11月10日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
2024年11月24日(日)大阪府 GORILLA HALL OSAKA
2024年11月30日(土)福岡県 BEAT STATION
2024年12月1日(日)福岡県 BEAT STATION
2024年12月14日(土)東京都 豊洲PIT
2024年12月18日(水)愛知県 DIAMOND HALL
2024年12月22日(日)宮城県 Rensa

https://oomoriseiko.info/live/tour.php?id=1002615&fdate=2024-11-09&ldate=2024-12-22



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九龍ジョー
WRITTEN BY九龍ジョー
ライター、編集者。大森靖子の著作『超歌手』『かけがえのないマグマ 大森靖 子激白』(最果タヒと共著)をはじめ、編集を手がけた書籍・雑誌・メディアなど多数。最近はYouTubeチャンネルの監修も。著書に『伝統芸能の革命児たち』、『メモリースティック』ほか。
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