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【大森靖子】拡散してほしい吉田豪との『超天獄』インタビュー

大森靖子

【大森靖子】拡散してほしい吉田豪との『超天獄』インタビュー

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約2年ぶり、6枚目のオリジナルフルアルバム『超天獄』をリリースした大森靖子さん。このアルバムのことや収録楽曲のことはもちろん、過去と現在に至る大森さんを巡る状況やその中での創作に対する気持ちの変化などさまざまな話題について、アルバム中の歌詞にも登場している(笑)プロインタビュアーの吉田豪さんに聞いていただきました。そこで語られた内容とは……?

ニューアルバムは「ふつうにちゃんとしたアルバム」?

──大森さんのニューアルバム『超天獄』の取材に来たんですけど、自分のことが歌詞になっているアルバムの話を聞くのは初めてです。
 
大森 意外とまだ歌詞にはなってなかった(笑)。
 
──意外じゃないですよ! その「告発」という曲を大森さんがライブで歌ったとき、「吉田豪とか拡散してよ」と歌っている動画を不思議な感情で拡散してました。
 
大森 ハハハハハハ!
 
──そもそも、なんでそんなことになったんですか?

 
大森 自分は演者側も全体的に経験しているけど、運営側という立場になることも多いじゃないですか。それでいろいろ見てきて、誰かに自分の正しさを訴えたい人のヤバさってあると思ったんですよ。どっちが正しい、どっちが悪いとかじゃなくて。「私の正しさを押し広めたい」っていうタイプは、一見してどんなに主張が正しくても……いろんなニュースとか事件とか見てて、この人はこんなに叩かれてるけど、ホントはこう思ってたんじゃないかとか昔から考えているんですよ。殺人事件とか、最近だったら炎上のニュースとか。
 
──単純な善悪の話じゃない部分を、まず考えるわけですね。
 
大森 そうなんですよ。そういうとき派手に被害を訴えているほうにすぐ共感してしまいがちだけど、「私はこういう被害に遭いました、こいつが悪です!」って言ってる人ってけっこうヤバい人が多いなってことに気づいてきて(笑)。
 
──うわー!
 
大森 でも、いろんな時代に正解とされてるものがあったり、いまの時代に合わないとされてるものがあったり、生き方にフィットしなかったりするような人たちが、どんどん「この世界に生きてはいけませんよ」っていう烙印を押されていくのは、ある種、仕方ないことかもしれないけど、そもそも音楽でしか生きられないとか芸能でしか生きられないっていう人ってそんなに正常ではないと思ってるので(笑)。
 
──どこかが壊れてたりズレてたりするはずで。
 
大森 そう。通常の社会に乗れる多様性でジャッジされるのは厳しいなって思いながら、しょうがないけどそうだよね、でも厳しいなーって思って。やっぱり近しい人間でも、女性に何かした人の名前を見るのも嫌で一生許せないって人が多かったりするので、自分はその気持ちもわかるし、そういう芸術家の気持ちもわかるので、ウゥッてなることがけっこう多くて。でも、みんなの正義があること自体がそもそもの諸悪の根源なのにな、でもけっこう言ったもん勝ちだよなって思いながら書いたのが「告発」っていう曲で。そのへんをフラットにどう精査してこれをRTするしないってジャッジの線引きが絶妙だな、豪さんと思いながら(笑)。そういうことをけっこう考えますね。
 
──評価してもらえてるんですね(笑)。たとえばZOCのゴタゴタのときに「なんで吉田豪はこれを拡散しないんだ!」って一部で怒られましたけど。
 
大森 けっこう言われてましたね。
 
──基本的なルールとして最近たどり着いたのは、本人による告発かちゃんとした報道じゃない限りはなるべく拾わないようにしていて。あれはそうじゃなかったから。
 
大森 なるほど!
 
──あと、関係性としてゴタゴタの間に入れるものだったら、拡散する前に自分で動こうっていうことになりました。
 
大森 ああ、たしかに……(その後も当時のエピソードを語るが自粛)。
 
──いまでこそ普通に話せるようになってますけど、ダメージはとんでもなかったわけじゃないですか。
 
大森 ダメージありましたね。自分がダメージを負っていることへのダメージみたいな。自分の名前がダメージを負うことにより自分のファンが傷つくことへの自分へのダメージみたいなのがありました。
 
──そういう大波を乗り越えて、いまはだいぶ落ち着いている状態ですか?
 
大森 自分を立て直さなきゃ、ふつうに活動したいなと思って。私はたぶんふつうにはなれないけど、アーティストとしてふつうにライブしてリリースして、それをファンの人に見せて、ライブが楽しいねっていう、そういう活動をふつうにしたいなと思って、それができるようにまず整えなきゃっていう気持ちになりました。
 
──わかります。今回、ハッキリ言ってふつうにちゃんとしたアルバムだったんですよね。

大森 そうそうそう(笑)。ふつうに大森靖子としての、変なてらいとか何もなく。
 
──普段もうちょっといびつだったりするんですけど。
 
大森 人のことも誰のことも書かずに書かずに(笑)。

──Twitterで余計なことはなるべく言わないようにして。
 
大森 そう、ネットを使わない、使わせない。
 
──ハッキリと自分の考えを書く『TV Bros.』の連載とかは有料でほぼ読めないようにして。それに関してはボクの結論も近くて、やっぱり無料の場が荒れるんですよね。
 
大森 無料は荒れますね。たぶん文字を読むっていう文化じゃない人たちが多いんだと思います。昔のネットの感覚でやっちゃってたなっていうのはすごくありますね。
 
──まあ、これも無料の場の原稿なんですけど(笑)。本来は届かなくていいところまで届いちゃうと荒れるんだろうなって。
 
大森 うん。あとZOCが売れてたんだなって思います。
 
──そこを注意するようになって、気持ちはちょっと落ち着いてきたんですか?
 
大森 落ち着いたから気をつけてるところはあるんですけど。私はけっこう人生として自己肯定感がないことを大切にしてたんですよ。それが私だから、私の可愛くなれなさとか、私の持ってなさみたいなものを邪魔されたくなかったのに、そこに対しての「持ってないのになぜここにいるんですか?」みたいな攻撃を受けすぎて、「いや、違うもの持ってるからいられるんだよ」みたいな。だから私が私を守って、ちゃんと才能があるからここに立ててる人だっていうのを自分で認めないと立っていられない、みたいな。もともと私はできない、何もない、ここに立ってはいけない、歌ってはいけないと思ってるから努力する人でありたかったのに、それをしちゃいけないんだなって気づいて。だから自分は愛されていい人間だよっていう方式を採るようにしたらファンも離れなくなったし(笑)。いいことが多いです。
 
──炎上したことで違う流れになってきたわけですよね。現実逃避するにはこれしかないぐらいの感じで作品づくりもスピードを増してきたし。
 
大森 そうですね。やらなきゃいけないこともわかったし。その感じでいっぱい作れるプラス、MAPAっていうのを立ち上げるときに、立ち上げだから曲がいっぱいないといけないけど、そんなにいっぱい資産があるような事務所でもないから、とにかくレコーディングを短い時間で抑えようって3日で13曲録ったときに、このスピード感だからできることってあるな、自分の作品も同じようにつくりたいなと思って。

世の中の流れの方が不思議。みんな乗っかっちゃうよね

──炎上うんぬんでいうと、『街録ch』のイベント用に作られた「前説ADvance」は大森さんの長年の思いが凝縮されている感じがしましたね。 

大森 三谷(三四郎『街録ch』ディレクター)くんの曲なのに(笑)。

──MVのキャスティングが完全に大森さんだったじゃないですか。
 
大森 ああ、キャスティングはたしかに。テレビマンならではのそういうのを汲み取ったキャスティングなのかもしれない。
 
──事情を知らない人に説明すると、主演の坂上忍さんへの愛は訴えてきてたじゃないですか。
 
大森 はい、ずっと。めちゃめちゃ好きです。坂上さんのことかな、みたいな歌詞ありますよね。
 
──坂上さんが過剰に叩かれてたとき、大森さんは「叩かれる人のほうが好き」みたいなことを公言してましたよね。
 
大森 そう。べつに叩かれる人を誰でも好きになるっていう意味じゃないけど、坂上さんは自分を貫いたゆえに叩かれてるだけだから。
 
──プロとして自分の仕事をやった人っていう。

大森 仕事をやって、やるべきことがわかってて、それを理解しない人、読めてない人が好き放題言ってるだけってわかってたから。

──『バイキング』が終わってヒール的な部分では目立たなくなって、そこで保護犬とかの面倒をみているとイメージは変わりますよね。
 
大森
 ね、ホントに。やだ! 元から優しい人じゃん、そんなのもわかんなかったくせに。でも、保護犬の活動して、さらにちゃんと尖ってる感じが消えてないのがいいですよね。
 
──大森さんはつくづく世の中の流れには乗っからないというか。
 
大森 流れのほうが不思議ですね。みんな乗っかっちゃうよね。
 
──大島美幸さん(森三中)の話も長年していたじゃないですか。
 
大森 はい、ずっとしてました。ホントはMVのなかで、サウナで裸になってほしかった(笑)。でも、さすがに無理だから相撲っていう。
 
──大森さんは、かつて大島さんが『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』や大晦日の『笑ってはいけない~』でサウナに入って陰部や胸を丸出しにしてきたのを観て勇気を与えられたんですよね。
 
大森 しかも松本(人志)さんの番組でっていうのが。
 
──松本さんは著書『遺書』で、「女がコメディアンに向いていないのは宿命のようなもの」「男はチンコを出して笑いを取れるが、女が(ピー)を出したら、立つ奴はいても笑う奴はいない」とか書いてましたからね。
 
大森 そう、「脱げないから」って言ってた人の番組でふつうに脱ぐっていうのがおもしろすぎて。
 
──脱いでちゃんと笑いを取るのが。
 
大森 そう! サウナにいる風体も、女湯には絶対いない感じの寝方をしてて超おもしろくて。最高でした。

──「前説ADvance」は初披露を三谷さんが歌うのも観てましたけど、やっぱりぜんぜん違いますね。

大森 ハハハハハハ! 三谷くんの歌けっこう好きなんですけどね。10回ぐらい「どうですか? 練習しました」っていう動画が来て、みんなに送ってて、(巫)まろにも送ってて、「うまいですね」とか言わせてて、つんく♂さんにも送ってて。

──すごい勇気だなあ(笑)。
 
大森 つんく♂さんにも「プロじゃないんだからうまく歌うことは考えなくていいよ」みたいなメッセージをもらって、すごくいいこと言ってくれてるのに、「プロじゃなくてもできるようなアドバイスだよな」みたいなことを三谷くんが言ってて、マジクソ「Rude」(大森靖子作の『街録ch』主題歌タイトル。意味は「失礼」)だな、最低って思いました(笑)。
 
──三谷さんはいろいろバグッてますよね。
 
大森 たまに『街録』で、「あの人に紹介されたから行かなきゃ」みたいな興味ない人のとこで、すごい適当な返事してコメント欄でボロクソ叩かれてるのが超おもしろくて。「芸能人にはちゃんと接するのに、この人のことはバカにして、その感じよくないと思います」とか。単に興味ないだけだよと思って。それも伝わらないか、まあしょうがないなって。興味が偏ってますもんね。
 
──ボクの紹介で氏神一番さんの取材したときも、雑に扱いすぎて叩かれてましたね。「豪さんから雑に扱っていいって聞いてたんですけど……」って。
 
大森 ハハハハハハ! 氏神さんを雑に扱って叩かれる人いるんですね、初めて見ました。氏神さん、楽屋で見たことないぐらい雑に扱われてましたから。人類で一番雑に扱われてました。
 
──それで大丈夫な人ですからね。

大森 おもしろかったです。

アルバムタイトル『超天獄』の意味とは?


 
──今回のアルバムはふつうに作るのがテーマだったんですか?
 
大森 最近ずっとそれ。TIFに出るときも絶対に爪跡を残さないっていうテーマのセットリスト。普通にいいライブだったな、ちゃんとしたことやってるって思われればそれでいい、ふつうにライブできて帰れればそれでいい、それを主軸に活動してるようなもの(笑)。
 
──とにかく波風を立てない。
 
大森 絶対に立てない! アカペラなんか絶対にやらない。
 
──へー、ひたすら爪痕を残そうとして戦ってきた人が。
 
大森 それで戦ってきたけど実力がないわけではないので。ふつうに実力でも勝てるので。
 
──初期の、そのチャンスを逃したら後がないかもしれない時期には有効だったけど。

大森 そうそう、たぶんTIFに出たの私が最年長じゃないですか。なので実力でいきたいなと思って。あとはマスタリングの音もきれいすぎて透明みたいに聴こえて、逆にノイズみたいになっちゃってあんまり耳に入ってこない……まあ好みの問題ですけど。その量が多すぎるなと思って。まったく逆のグルーヴのあるものにしたいなっていうのはアルバム作るときに思ってました。
 

──このアルバムタイトルはどういう意味なんですか?
 
大森 別府に地獄めぐりってあるじゃないですか。インディーズのときからおもしろいイベントやってた友達がいて、その子が地元の別府に帰っちゃったんだけど、別府を盛り上げようみたいな感じで別府でイベントを続けてて毎年行ってて、地獄めぐりの海地獄っていうところで『超地獄』っていうイベントをやったんですけど。それが自分的にけっこうよくて。次に行くときは超天国にしたいな、みたいな。自分の思ってる天国はもっといびつなものだったり、きれいじゃないものだったり、足掻いていたり、面倒くさい人がたくさんいたり、うまく生きられない人が輝いてたり、みんなそれぞれ「それでも!」と思ってここに居座ってることが美しいしここが天国だなって思うので。私は生きててこの世がふつうに好きだし、世界には中指を立ててたいし社会というものは壊したいものだらけだけど、この世に居座ることが好きだし。なのでこっちが天国だ、みたいに思ってます。
 
──最近の大森さんの文章で「多様性」という言葉がよく目につく気がして。
 
大森 多様性が一番イジメるじゃんって思う(笑)。
 
──一見、優しい言葉のようだけど。
 
大森 多様性が私たちをいつも殺すじゃんって思う。多様性って言ってるヤツ絶対イジメるんですよ。これは被害妄想じゃないんですよ。
 
──そういう実感があるんですね。
 
大森 あります。絶対一番嫌われるタイプだから。基本的にどの思考タイプも「みんな違ってみんないいをするために私を否定しないでね」じゃないですか、思想を持ってそれを主張をするっていうことは。思想を持つまではいいんですけど、思想を主張するっていうのはちょっとしんどいんですよね。押しつけなければね、歌っていたり踊っていたり、心に秘めて行動に移すことは素晴しいけど、思想を主張するってけっこう危ないことなんだぞっていうのはホントに思います。
 
──それは自分に対しても思う?
 
大森 自分にも。基本、自分のこと。思想を主張しなければ炎上しないし、主張するから炎上する(笑)。だけど言語化することは絶対に大事だし、だから場所を選ばなきゃいけない。難しいですよね。思想を広めたいときは道化になるしかないですよね。
 
──歌詞もいままでよりは抑える感じになったんですか?
 
大森 わざと刺しにいったりするようなことはないけど、自分が考えてることをオブラートに包まず言ってもいるので、生々しくなってるかもしれない部分もあるんですけど、そういうところは特に速く歌うとか(笑)。
 
──聴き取れないように(笑)。

大森

 はい、譜割をおかしくしたりしてます。

──歌詞も行が変わったらわかんないかな、みたいな。
 
大森 バレても恥ずかしくもなんともない、誰が歌ってもおかしくないことを歌ってるから、みんなあんなにゆっくり歌えるんですよ。私は聴こえたらマズいから速く歌わないと。
 
──「聴き間違いかな?」ぐらいにしないといけない。
 
大森 そうなの(笑)。
 
──歌詞の情報量も増やさざるを得ない。
 
大森 そうそう、増えすぎて覚えられなくなってきた。
 
──しかし、大森さんはその姿勢でよくこれだけの期間、活動を続けてこられましたよね。
 
 自分でも思います。いま平和だなって、求めたものがやっと手に入った。
 
──本来ならもっと早くこうなりたかった。
 
大森 なりたかった! なりたかったけど、なりかけたときにいつも自分で壊してたから。自分はそうなっちゃいけない、幸せになっちゃいけない現象と同じだと思うんですけど、結婚して幸せになってるじゃんって思うかもしれないけど、私にとってライブがいっぱいできて曲もいっぱい作れてみんなに愛されてその活動が認められて、みたいなことがふつうに幸せだから、そのふつうの幸せを得ちゃいけないと思ってたんですよ。満足したくないから。でも、そこで満足いったところでちゃんと飢え続けるような性格の人間だってもういい加減わかったから、幸せになってもいいや、みたいな。自分が幸せにならないとオタクのこと幸せにできないし。周りも死んでいくから。
 
──ファンも弱っていっちゃいますからね。
 
大森 周りの命が消えていく感じが、もしかしたらマジで私のせいかもってずっと思ってたし。そうならないようにしたい。
 
──周りの命が消えていく問題はここ何年か言ってた話ですよね。そのモードの曲がしばらく多かったけど、今回はちょっと落ち着いたかなっていう。
 
大森 ああ、そうかもしれないです。自分のことばっか歌って誰が興味あるんだろう、もう興味ないだろうなと思ってやらなかったんで(笑)。
 
──確実に興味はありますよ!
 
大森 そんなに世の中にシンガーソングライターの人いないじゃないですか。私に共感するシンガーソングライターの人も絶対にいないじゃないですか。誰が私に共感なんかする? ふつうに曲を作って、誰が私の楽曲をいいねって思うんだろうって。かわいい曲を作ったりしたらTikTokとかでバズるけど、ふつうに作っても……。
 
──自分のそのままをさらけ出したときに。
 
大森 そうそうそう。でも、まあいっかと思って。他のユニットとか楽曲提供でそのままじゃないものを頑張って作ってるんで。

──「名前とメロディが剥がされて捨てられる鬱が3年くらいあってキツかった」っていう発言もありましたけど、これはどういうことですか?
 

大森 フフフフフ、キツかったですよね。曲を書いても「もっとパンチある曲を書いてくださいよ」とか言われて。そんなの言われたことなかったから、これでパンチないのかとか。あと私の歌詞がめちゃめちゃバズるんですよ。自撮りに私の歌詞を載せるブームが3年ぐらいあって、ぜんぜん嫌じゃないですけど、それやった人が同じアカウントでめちゃめちゃ叩いてきたりするわけですよ。怖い! 使ってたじゃんと思って。
 
──「私の歌が好きだったんじゃないの?」って。
 
大森 そうそうそう、キツいなーって。あと倍速再生とかもふつうにね。
 
──TikTokとかで音楽を雑に使われるのがつらいって話はしてましたね。

大森 倍速再生つらいです。ミュージシャンはみんな「いいよ」って言うから、宣伝になってるし、「いいよ」って言いたいなーって気持ちはあるんですけど。みんなみたいになりたいなって気持ちもあるけど、なかなかうまく納得できなかったですね。


時代とかじゃなくて、もともと生きづらいから変わらないんですよ


──他にも最近の大森さんの文章をいくつか拾ってきたんですけど。
 
大森 あんまり書いてないですよね、書かないようにしてる、燃えるから(笑)。

──「明るくて辛辣で頭よくて才能あると怖がられるのつらい」とか(笑)。
 
大森 ハハハハハハ! かわいそう。よく怖いって言われるんですよね、超気にしてて。高圧的な態度を絶対に取ってない相手にも怖いって言われるんで、なんでだろうと思って。ペチャクチャしゃべるからかな、わかんないんですけど。
 
──同世代の女性アーティストでも怖がられてる人は意外といるし、ぐらいに考えるしかないんじゃないですかね。
 
大森 ハハハハハハ! そっか。
 
──ひとりで戦ってるような人はだいたい怖い面もあるのかな、みたいな。
 
大森 ああ、そうですね。あんなに仲良く話したじゃんって思います。「怖いって言ってたよ」って聞くと、「あんなに仲良く話してたじゃん! 嘘だ!! あの笑顔はなんだったんだろう?」って(笑)。
 
──大森さんの曲って「私たちの気持ちをわかってくれる!」みたいに入りやすいから、あとからマイナスが積み上がりやすい面もあるのかなー。
 
大森 あ、そうなのかな。
 
──たとえばボクは最初に椅子を持った写真から入るから、「意外といい人だった」ってなりやすくて。
 
大森 じゃあ私もカラーコーンとか持ってたほうがいいですかね、アー写。

──ダハハハハ! 大森さんとしては生きづらい時代になってるなって感覚はあるんですか?
 
大森 把握はしました。こういう時代でこれがアウトなんだねっていう把握はしたけど、時代とかじゃなくてもとから生きづらいから変わらないんですよ。
 
──そもそも生きやすかった時代がない(笑)。
 
大森 ないないない! やってる振りをすることができるようになっただけで。そんなのホントはそうじゃなくてずっとはできないから、嘘ついて生きるだけ。
 
──うわー。まあ、学生時代は生きやすかったとかそういうわけでもないですからね。
 
大森 ないないない!
 
──そうやってある程度合わせることができるようになったものの、鬱憤は溜まりそうですよね。
 
大森 まあ、そうなんですけど、私の会社にグループいっぱいあるんで、ちゃんとしないとさすがにかわいそう。古正寺(恵巳)が私の会社に来たときにブクガ(Maison book girl)のファンにバチクソ叩かれて。「なんだよ、よりによって」って。タイミングもちょうどよくなくて、それが古正寺にマジで申し訳ないと思って。古正寺を傷つけることになるんだって思うと、ちゃんとしなきゃ!
 
──いままでその考えがあまりなかった?
 
大森 なかったです。なかったし、さすがにZOCに関してはそのぶん得てるもののほうが多くね? とは思ってたから。でも、いまのMAPAはまだそうじゃないから、ちゃんとしなきゃ。よく藍染(カレン)に相談してます。「これは世の中的にどうですか? このツイートは大丈夫ですか?」って。
 
──え! そんなことしてるんですか(笑)。
 
大森 してるしてる。「この言葉は説明が必要なので、説明が必要な言葉は切りましょう」とか、炎上講座みたいにやってくれます。

──そのおかげで炎上とは距離が出来て、落ち着いて活動できている。
 
大森 でも、そんなふうに生きてる自分はあまり好きではない。裏アカとかあるの好きじゃないし。でも、しょうがない。
 
──とはいえ、大森さんがそうやって落ち着いた状態で作品をつくれて、余計なノイズのないものとして届けられるのは新鮮ではありますよね。
 
大森 新鮮ですね。いままであっただろうか……2014年からずっとないかもしれない。最近『魔法が使えないなら死にたい』の帯を読んだら、帯でケンカ売ってて、ひどいなと思いました、こりゃ炎上するわ。いまよりもうちょっと拙い言葉で言ってるから、うわーっ!! これをずっとやってるんだって。
 
──あの頃はジャケから何からすべてが好戦的でしたからね。女性アーティストが椎名林檎っぽいとか雑に括られがちなことへの皮肉として、『勝訴ストリップ』オマージュのジャケにしたりで。
 
大森 フフフフ、はい。いまもその気持ちではある。
 
──ただ、その見せ方が変わった。
 
大森 うん。そもそもライブに関しては場数が違うんで、なんのケチのつけようがありますかって思うから。「怖い」しか言える悪口はないはずなんで。
 
──好戦的といえば、大森さんと交流のあるお見送り芸人しんいちさんも……。
 
大森 あ、めっちゃ好戦的ですよね。
 
──R-1で結果を出したものの順調に叩かれ、燃えてますね。
 
大森 かわいい(笑)。頑張ってる! 
 
──あんまりいまの芸人が選ばない道を選んでますよね。
 
大森 選んでますね。やろうと思ってやってますもんね。だいたい「頑張れ頑張れ」と思って観てたんですけど、『水曜日のダウンタウン』で永野さんの悪口を言っちゃってケンカになったところはふつうに心配しました、そこはやめたほうが、みたいな。同じ事務所なのに大丈夫かな。でも、ちゃんと優勝した瞬間に連絡くれて、「今日優勝しました。ありがとうございます、またお願いします」って電話くれて。ちゃんとした人ですよ。
 
──いまは相当イメージが悪くなってるけど。
 
大森 はい。でもそのブーストでいくって決めたなら応援します。なんかのブースト踏むしかないですもんね、あのタイミング。自分の実力でいけるブーストがそれしかなかったらいくだろうなと思うんで。
 
──大森さんの近くの人は燃えていくんだなって思いましたよ。
 
大森 でも、エルフの荒川ちゃんとかもお互いファンで、荒川ちゃんはそんなに燃えないですね。平和です。
 
──アルバムの話に戻ると、『魔法が使えないなら死にたい』と歌っていた人が、「魔法ってなんの役にも立たないもの」と歌っているのも興味深かったです。
 
大森 なんの役にも立たないですね(笑)。『魔法が使えないなら死にたい』の頃は「カワイイは作れる」とか「メイクの魔法」とかが広告業界の流行りワードだったんですよね。世の人たちもそのワードを遣い、食いつぶし、そのあと『まどマギ』が生まれ、魔法というワードが陽も陰も駆けめぐり。
 

「誰も傷つけない表現なんてつまんない! やる意味がない!」
 

 
──そんな大森さんが、「魔法使いにしかやっぱなれないよ 魔法使いなんてならなきゃよかった」と歌うようになって。
 
大森
 フフフフ、ね。使いすぎてますからね。可愛い人は可愛くなる発明を特にしないので、そうじゃない、足りない、こうなりたいって思ってる意思の強い人が新しい可愛いカルチャーを発明していくっていうのがずっとあるじゃないですか。それの音楽の人だったんだなっていうのは思うんですけど。使えすぎるようになっちゃったんだなって思います。べつに顔がかわいくなったとかそういう話じゃなくて。生まれてからなんの不自由もなく生きてたら、そんなに刺さるような自撮りに添えられる詞を書かずに済んだんじゃないかなって。
 
──魔法がないと戦えなかった。
 
大森 そうそうそう。
 
──魔法なしで戦える人が一番強いですよね。
 
大森 強い……難しいね、その人たちの継続の意味とかわからなくなっちゃいますもんね。何が幸せかわかんない。
 
──ボクがよく言う武器がなければ戦えない側の人かどうか、素手で勝てちゃう人が一番強い、みたいな話に近いですよね。ボクは武器を持つしかなかった側だから。
 
大森 ホント早く30~40代になりたいなと思ってたんで。もう武器を磨いたから戦える年代にさえなればってずっと思ってた。なったらなったで一生炎上してるから、なんでだろうって(笑)。なったら勝ちゲー、30歳で全クリぐらいに思ってたのに。
 
──結局、落ち着ける場所がどこにもない。
 
大森
 ない(笑)。でも、なんか幸せですね。自分の周りに残った人は優秀だし。自分のことを安く使ったり見積もったり、その武器だけくれっていうことをする人について、それでもと思ってつき合ってきたけど、そういうことする必要ないんだなってふつうに思えてきて。自分は義理で生きていこうってずっと思ったからそういうのも大事にしたかったけど、そういう人を大事にしてたら自分が壊れて結局は誰のことも大事にできないんだって気づいたときに、「ダメダメ、つき合うのやめよう」ってなれたのがよかった。
 
──大森さんは幸せな状態でいい作品をつくりたいみたいなことはよく言ってたけど、結局は精神的に追い込まれたときにいい曲ができちゃうのかも、みたいな思いはあったと思うんですよ。でも、淡々と生きて淡々と作品をつくる、これもこれでいい、みたいな結論になったんですかね。
 
大森 もう十分経験したから(笑)。それを掘り起こせば書ける。あのとき嫌だったなとかで曲が書ける。
 
──たしかに大森さんはもうちょっと落ち着いていいはずなんですよ。
 
大森 そっか。
 
──最近ちょっと追い込まれてる感じがあったんで。
 
大森 追い込まれてたよね。1年で5回ぐらい走ってる車から飛び降りたもん。
 
──えぇーっ!! そのレベルだったんですか。
 
大森 フフフフ、うん。たぶん運動神経がめちゃくちゃいいんですよね。
 
──飛び降りても受け身が取れるってことですか?
 
大森 そう。家でワーッとなって屋根とかから降りようとしてもスタスタッて行けちゃうし。めちゃめちゃ飛んでるのに「ヤバ、明日ライブ」とか思うし。
 
──急に冷静になって。「ホントに誰も傷つかない世界が作りたいだけなんだよ」っていう発言もあって、ホントそうなんですけど、それも難しいんでしょうね。
 
大森 ホントにね。でも私も傷つけますからね……ってみんなが思ってればいいのにね。みんな「俺も傷つけてるけどね」って思ってればべつに。
 
──自分の加害性を自覚したうえで、なるべく周りを傷つけないようにしましょうっていう。
 
大森 そうそうそう、その前提がちょっと足りないかもしれない。
 
──傷つけない表現はまず無理だけど。
 
大森 無理! つまんない! やる意味がない!
 
──ダハハハハ! 言い切った(笑)。
 
大森 しゃべる意味がない、部屋に引きこもってればいい。だから部屋に引きこもってる音楽ばっかりなんだよ。
 
──最近ホント思うんですよね。10年前、20年前の発言で叩かれるようになると、その時期から人を傷つけてない表現をしている人って、当時は表現活動を一切してなかった人かホントに昔から無難なことしか言ってない人かどっちかになっちゃうはずなんですよ。どんなにちゃんとした人でも、その時期ならいまとは違うルールで何かは言っちゃってるだろうし。
 
大森 うん、何かは言ってますよね。極論、人を救うものじゃないですか、救いたいと思ってやってるかどうかはさておき。何かやろうっていうのは、「あ、こんな人もいるんだ、じぶんも頑張ろう」っていうものですよね。病院に行ったって、「ここ痛いです」って言ったら「これは切らなきゃいけませんね」って切られたりするわけで。傷つかずに癒えるとでも思ってんのかという。
 
──「薬を塗っとけばなんとかなります」ぐらいの感覚なんですかね。
 
大森 薬だって副作用もあるしさ。デメリットなくメリットだけなんてものは世の中にないんだ、それは質量がおかしい! 
 
──覚悟を決めるしかないですね。傷つけるかもしれないけど救えるかもしれない。
 
大森 うん。それでもなんか言うほうを選びたいなと思ったときに言う場所を選ぶっていう。それがネットじゃないっていうのはわかったから。昔のFacebookみたいな使い方ですよ、「今日、私はこんなに充実してこんなに人が集まり活動してます、楽しい」みたいな。ひどいなと思いながらやってます。
 
──現状の正解は場所を分けるしかないですよ。
 
大森 ないない。あんなに疎ましかった幸福マウントみたいなものをいまTwitterで平気でやってます。みんなべつに幸福マウントだと思ってないだろうけど、「今日ライブだったよ」とかを。
 
──それは、ただの報告ですよ。
 
大森 でも、私にとっては最大の幸福マウントじゃないですか。
 
──「こんなに楽しかったよ」っていうのは。
 
大森 そうそうそう、ひどいなーって思いながら。
 
──それだけ気を使っているのに、「どうして出してないのに、ニコニコしてるのに、ぶっ殺すぞっていう気持ちで生きちゃってることがバレるんだろう」っていう発言もありました(笑)。
 
大森 ね、なんでですかね。けっこうニコニコ頑張ってるのに。だってつまんないじゃないですか。ステージでつまんないことされたら殺したくなるじゃないですか。
 
──ダハハハハ! それは覚悟の話ですよね?
 
大森 そうそう、「は?」みたいになるから。頑張ってニコニコして「お疲れさまです」とか言ってるのに、なんでバレるのかわからない。バレないように生きてるのに!
 
──他のアーティストの覚悟みたいな話で、「一緒にされたくない」とか言うじゃないですか。
 
大森 一緒にされたらしんどいですよね。
 
──それはボクも気持ちもわかるというか、インタビューなりでイベントなりでおもしろくする方向に向かわない人に対して「吉田豪がキレた」とか言われることがあるんですけど、キレたことはないんですよ。ただ、そういう人に対してキツめに注意することはあるっていう。
 
大森 何しに来たんだとは思いますよね。
 
──そう(笑)。
 
大森 客もこっちも時間を使ってんだからさーって。
 
──お互いおもしろくする方向で頑張りましょうよって。
 
大森 ホントにそう! 尖ってるのがカッコいいと思ってやってるとか一切ないですからね、ぜんぜんニコニコしますから。みんなでニコニコ歌うとかもぜんぜんしますから。
 
──ちゃんと合わせられますよね。
 
大森
 できるできる! みんなが楽しいほうがいいよ。

 

撮影 堀内彩香


『超天獄』
2022.10.26 ON SALE

 
 

<大森靖子 超天獄 ZEPP TOUR 2022>
■2022年12月15日(木) 会場:Zepp Osaka Bayside
■2022年12月16日(金) 会場:Zepp Nagoya
■2022年12月20日(火) 会場:Zepp Haneda
【チケット販売情報】 ●一般販売: 11月3日(木祝)10:00~

詳細はこちら
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吉田豪

ライター

吉田豪

1970年生まれ。取材対象への徹底的な事前調査で知られるプロ書評家&インタビュアー。『聞き出す力』、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズ、『サブカル・スーパースター鬱伝』など著書多数。