10月11日、毎年恒例の「中秋の名月」ライブを「moumoon FULLMOON LIVE SPECIAL 2020~中秋の名月~ONLINE 2020.10.11」というタイトルのもと、生配信形式で開催したmoumoon。新体制となって初、そしてオンラインも初という「中秋」で見えた光景とは……? ライブレポートをお届けします!
楽しめなかった夏の代わりに……リゾート感に満ちたステージ
波の音、風の匂い、柔らかな光に満ちた曖昧な空模様、どこまでも続く海……いったいここはどこなんだろうと思うまもなく、その風景に溶け込むかのように、ちょこんと腰かけて、生ギターをポロンと鳴らすYUKAがいた。三つ編み風のエクステをつけたいつもと違うヘアスタイルで、まるで太陽の代わりだよというようなオレンジ色のドレスで、満たされた静かな眼差しで、「Baby Goodbye」を歌う。その姿は、そのまま風景画として飾っておきたいほどきれいだった。
moumoonという名前にちなみ、2009年の日比谷野音から1年に一度の、ファンとの絆をつなぐ大切なコンサートとして続けられてきた「中秋の名月」シリーズが、今年は「moumoon FULLMOON LIVE SPECIAL 2020~中秋の名月~ONLINE 2020.10.11」という生配信ライブとして開催された。スタートの10分ほど前に開場されるや、コメント欄には「中秋の名月おめでとうございます」と開催を喜ぶ声が飛び交った。なかには台湾、中国、アメリカといった海外の国や地域からの書き込みも。
moumoonと、そしてファンにとって「中秋」は、新しい一歩を踏み出すまさにお正月のようなイベントなんだなとつくづく思う。思えば、現在制作に専念しているギターのMASAKIが、フロントに立つ最後だったのが1年前の「中秋」。今年はYUKAが初めてひとりで臨む。そういう意味では新体制のmoumoonの元旦とも言える。とはいえ、気負いはmoumoonには似合わないし、そんな必要もない。今まで通りたゆたふように前に進んでいくだけだ。そんな心境が冒頭のシーンに象徴されていたのではないだろうか。
さて、そこからカメラがパンすると、そこはオープンエアのウッドデッキの上。歩いて移動してきたYUKAが、待っていたバンドに混じると、スティックの音で「Sunshine Girl」が始まった。一瞬マイクの入っていない状態があったが、そんなのなんくるないさと思えてしまう海近の生。moumoonではお馴染みの松永俊哉(d)、なかむらしょーこ(b)、シンガー・ソングライターでもある真藤敬利(k)、斉藤和義やザ・コレクターズなどのサポートで知られる真壁陽平(g)が紡ぎ出す、太くオーガニックなバンド・サウンドに、波と風の音が染み込んでとてつもなく気持ちいい。「Dreaming Driving」を歌うYUKAの瞳の輝き、空に解き放つ声、すべてが生き生きとして力強かった。
「みなさんこんにちは! moumoonです。いやー、台風が行ってくれたよー」と元気な第一声。「なかなかレジャーを楽しめなかった方が多いと思うから、海に行っちゃおうかってなった」と、YUKAはこのシチュエーションの理由を話すと、まずは今日のメンバーを紹介。「サウンド・プロデュースとして柾くんもいるんですよ」というと、画面にはミキサー卓から照れくさそうに手を振る柾が映った。あ、こういうことなのか、と、moumoonの活動スタンスがわかってホッとした人は多かったんじゃないだろうか。
「あ!」 YUKAが海上に見つけたものとは?
「波と風の音、空の色を感じながら楽しんでいってください」と、景色にぴったりの爽やかな「summer time」。ディストーション・ギターが波打つ大きなグルーヴに乗り、YUKAが熱情を込めた「カタルシス」。もうここまでの4曲で、このバンド4人の達人とYUKAの相性のよさと可能性にワクワクが止まらなくなった。ここで一度メンバーはハケるのか、と思ったら、全員でさらに海に突き出た船の舳先のようなデッキに移動。YUKAはそこに広がる景色に思わず「きれい! 風感じますか?」と視聴者に問いかけた。
一本の椰子の木の下にソファーが置かれたこのサブステージは、リゾート感いっぱい。早速アコースティック・セットで届けられたのは、ミルク色に輝き出す夕方の海にぴったりの「金の砂漠、銀の星空」だった。どこまでも届きそうなYUKAの歌声を、真藤となかむらのコーラスが優しく包む。「こころのしずく」では、どこからともなくストリングスの音が聞こえてきたと思ったら、なんと真壁がギターを弓で奏でていた。そのシルキーな響きがファンタジックな世界へと誘ってくれる。たった今のこの頃合いと同じ黄昏の砂浜を舞台にしたこの曲が、どうしようもなくせつなく響いた。
「会いたい人に会えなかったり、当たり前のことができなかったり、世界中まるごと変わってしまって戸惑いを感じてたけど、順応しなきゃ、生きていかなきゃと。時々ふっと無気力になることもあるけど、でも、心のなかにある灯火は、どんなに小さくても燃やし続けていきたいです」と「トモシビ」。“闇にのまれそうならば連れ出してみせるよ だから「強く」なくていい ただ信じて”という歌詞には、多くの人がジンとしたことだろう。続く「I say You say I ♡You」も「トモシビ」と同じく距離を歌った曲だが、こちらはとびきりのハッピー・サウンド。真藤以外のメンバーがハケて、曲に向かおうとしたそのとき、「あ、虹が出てる!」というYUKAの絶叫が聞こえた。素早くカメラがパンすると、画面ではうっすらとだったが、本当に海上に虹のアーチが。しかも、「I say~」の歌い出しは、“滲む光に”。もちろん「ニジ」違いだけど(笑)、この奇跡に「ワーッ!」と驚きの声を出さずにはいられなかった。
その2コーラス目から再び元の場所に戻り、続きはバンド・サウンドで。ここでも一瞬マイクが途切れたが、すかさず「聞こえなくても聞こえてるよ」とファンの応援コメントがあふれてほっこり。「うふふっ! ビール飲みながら。いいですね~」とYUKAもタブレットでコメントをうれしそうに眺める。そのMCの隙に、さっきより濃くなった虹にスマホを向ける松永。「あ、松永さん写真撮ってる。あとで送って!」と、極々フツーの反応をする姿にクスッとしてしまった。そして、「頭振りながら聞いて」と、思わず体が動く軽快な「Yes」、「Bon Appetit」、そして、繊細さと力強さがないまぜになった「PINKY RING」。ハイトーンでもまろやかさのコーティングされたYUKAの声とこのバンドが織りなすロック・サウンドは、唯一無二の魅力にあふれていた。
靴音がするなと思うと、YUKAは再びサブ・ステージへ。今度はキーボードの真藤とふたりきりだ。「だんだんと日が暮れてきました。最近、秋の夜の風を聞くたびに、ヤダ、寂しいと思ったりします。真藤さんも、ありますか?」とYUKAがトークを振ると、真藤は記憶を呼び覚ます匂いに言及し、ふたりしてしばし匂い談義。そして、「せつなくなるようなラブソングを1曲歌いたいと思います」と、「青い月とアンビバレンスな愛」をしっとりと奏でた。波の音が最高のSE。並んで風に揺れるおもちゃのような電球に明かりが点ったせいだろうか、せつなさに貫かれた幻想的なこの曲が、いつもより温かく響いたのは不思議だった。
とっぷりと日も暮れて、ライブはクライマックスへ!
バンドが待つ場所に戻る頃には、もうとっぷりと日も暮れた。刻一刻と変わる景色のなかでライブができている幸せを噛み締めたYUKAは、「もうずっとここにいたい。住みたい!」と感慨深げ。そして、「もうちょっと爆音鳴らしていこうと思います」とラストスパートへ。「エターナル」、「エメラルドの丘」とYUKAとバンドのグルーヴ感はどんどん濃密になっていく。さらに、「中秋」と言えばこれ!の「ハレルヤ」。ロック讃美歌ともいうべきこの曲を歌うときのYUKAの決意を込めた歌声が、個人的に大好きだ。きっと視聴者はみんな、リアル・ライブと同じように、画面の前でもYUKAに向かって手を差し伸べていたことだろう。
爆音系クライマックスを越えたところで、ちょっとホッとした表情を浮かべたYUKA。続く「Hello, shooting-star」はスカートの裾でタンバリンを揺らしながら。真藤がはさみこむブルージィなフレーズに、「お、そうくる?」と真壁が笑顔を浮かべる。ライブの終盤にたどり着いた安堵感と充実感で、心から音楽を楽しむメンバーとYUKAを見ていると、こちらもつられて笑顔になった。「こんなシチュエーションでできるなんて夢みたいだったなと思います」と、YUKAは見てくれたことに感謝すると、最後は松永の威勢のいいカウントでエネルギッシュな「リフレイン」へ。「会いたい切なさは あなたと私を繋ぐ だから どんなに遠くたって、感じてる」という歌詞が、まさに今年の「中秋」にドンピシャだ。画面越しに「感じてるよ」と思わず手拍子を送った。こぼれるような笑顔で、エンディングの演奏の“リフレイン”で飛び跳ねたYUKAは、「本当にありがとうございました!」とVサインで本編ラストを締めた。
「ゆーか! まさき!」というアンコールのコメントが飛び交うなか、Tシャツときれいなピンク色のスカートに着替えて出てきたYUKA。独特のふわっとしたトーンで、今回のために尽力してくれたたくさんのスタッフにも感謝すると、「またやりたいですよね」とすべての人と気持ちを分かち合った。そして、希望が湧いてくるような「BF」、ファンとmoumoonを繋ぐ曲として愛されている「Triangle」。最後はやっぱり「good night」だった。間奏ではもう一度メンバー紹介してソロ回し。パンされたMASAKIにも「手を振って!」と言うと、「最高の時間でした。また会える日まで元気でいましょう!」とYUKAは画面に向けてありったけの愛を送った。毎度思うけど、「♪Good night」で手をクシュクシュッとするポーズ、一緒にやるとホント、いい夢が見られそうです。
波、風、空、光、虹、夕焼け、宵闇……自然が生み出す予期せぬさまざまな彩りが、素晴らしい演出効果となり、まるでmoumoonと一緒にそこにいるような感覚で、ライブのすべてを鮮やかに目に焼きつけることができた。2020年の「中秋」は、新体制での可能性、生配信ライブのあり方という意味でも、長く忘れられないものとなることだろう。
【moumoon OFFICIAL WEBSITE】
https://www.moumoon.com/
【moumoon YouTubeチャンネル】
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【moumoon Twitter】
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ライター
藤井美保
神奈川県生まれ。音楽関係の出版社を経て、'83年頃から作詞、作曲、コーラスなどの仕事を始める。真沙木唯として佐藤博、杏里、鈴木雅之、中山美穂などの作品に参加。90年代初頭からは、音楽書籍の翻訳やライターとしてのキャリアも。音楽への愛、作り手への敬意をしのばせた筆致で、数々のアーティストを紹介してきている。