昨年秋の『FULLMOON LIVE SPECIAL 2019~中秋の名月~IN CULTTZ KAWASAKI』を最後に、ギターのMASAKIが制作に専念することとなり、新たなフェイズに突入したmoumoon。分岐点となったその特別な一夜が、映像作品としてリリースされた。ふたりでのラストステージで見えた景色、そこで去来したさまざまな思いが、moumoonの未来につながっている。そうたしかに思えるYUKAとMASAKIの今をお届けしよう。
新体制になって5ヵ月。今の2人の心境は……
──まずMASAKIさんから、制作に専念する道を選んだワケをあらためて聞かせていただけますか?
MASAKI これまでずっと、曲を作って、プロモーションをして、ツアーを回ってという流れで活動してきて、実際、ライブに来てくれるファンの人たちから直に感じるものが、僕にとって大きなエネルギーになっていました。でも一方で、自分が得意だと思うことをもっと突き詰めたいという思いも募っていたんです。で、昨年、これからはそこにフォーカスする人生にしたいと思い、「中秋」を最後に制作に専念する決心をしました。いつも応援に来てくれているファンのみなさんには、本当にいくら感謝してもしきれないんですけど。
──その選択を、YUKAさんはどう受け取りましたか?
YUKA MASAKIくんがそう決めた段階で「それがいい」と思いました。得意なことをとことん追求してほしい。私は表で歌ったり、考えたことを発信してるけど、元をたどればそのエネルギー源はMASAKIくんが作る音なんですよね。音に感動して浮かんだイメージが、私の言葉になり、歌声になってきた。そういうMASAKIくんの素晴らしさは、あえて自身がフロントに立たなくても、moumoonが存在するかぎり十分伝わり続ける。だから、私も新しい一歩を踏み出すことにしたんです。もっとずっと昔に、「俺、ライブ苦手なんだよね」とポロッと言われたときは、「いや、そこは頑張ろうよ」って思ったんですけど(笑)。
MASAKI ああ、そんなこともあったね。
YUKA その頃はMASAKIくんへの理解も足りてなかったし、「ライブするのがミュージシャンにとってのハッピーでしょ」と私自身が凝り固まってたんです。今は、「音楽との幸せな関わり方ってライブだけじゃないよね」と思えてます。
──「中秋」から5ヶ月ほど経った今、どんな心境ですか?
MASAKI すごくスッキリしています。 分散してたエネルギーを集中して使えるようになって、物事を広い視野で見られるようにもなりました。先日、『LIVE ENPOWER CHILDREN 2020』という小児がんのチャリティで、moumoonがイベントのための楽曲を作り、演奏する機会があったんですね。自分がステージに立たない初めてのライブ。客観的にリハーサルを観て、気づいた点を言うのも初めてでした。当然、本番中も客席にいました。にも関わらず、まるで自分がステージに立っているかのように感動できたんです。ああ、この方向を選んでよかったんだなとあらためて思いました。
──隣にMASAKIさんがいないライブは、YUKAさんにとってはどうでしたか?
YUKA ステージ全体、音全体を見渡して、改善すべき点を伝えてくれるので、心強かったです。ふたりでステージに立っていても、それぞれが自分の持ち分でいっぱいでお互いが見えてないこともよくありましたから(苦笑)、ステージの中と外でコミュニケーションをとってひとつのライブが作れるのは、逆によかったんじゃないかと。「ステージにMASAKIくんがいないと寂しい」と言っていたファンの人たちがどう思うかなとちょっと心配だったけど、「今日観て安心しました」と言ってくれる人も多くて、私も安心しました。
「自分でも恥ずかしくてしょうがなかった」場面とは?
──では、今回映像作品となった2019年の「中秋」を振り返っていきましょう。やはり特別な日でしたか?
MASAKI だと思うんですけど、実は記憶が薄いんです(苦笑)。
──そうなんですか!
MASAKI 何ヶ月もかけてギューッとそこに気持ちを集中させていってたし、当日もやっぱりどこか緊張してたとも思うんですね。正直寂しさもあったし、ファンの人たちとたくさんの曲を共有できるのがうれしくもあった。たぶん、すごく複雑な気持ちだったんだろうなと。唯一ハッキリと言えるのは、本当にお客さんと一体になれたいいライブだったなということなんです。
YUKA そうだね。あんなに終わってほしくないライブは初めてでした。ライブがどうとかって以上に、とにかくファンのみなさんとあの日一緒にいられて本当によかった。
──特に印象的なシーンは?
YUKA 映像化にあたってのミックス作業をしているときに、聴くたびに恥ずかしくてしょうがなかったのは、自分が泣いちゃったシーンですね。
──アンコールの「愛は続くよどこまでも」。
YUKA バンドメンバーにもずっと、「私、今日、泣かないから。泣くわけないし」と宣言してたし、実際ライブ本編ではずっと堪えてたんですけど。
──あの曲の大サビで涙腺決壊。
YUKA その前からも鼻の裏で涙がダラダラ流れてました(笑)。
MASAKI でも、大サビに続く「♪アー!」はうまく歌えてるんだよね。
YUKA そうそう。自分でも、「こんなに泣いてるのに、意外と出たな」なんて思ったりしてました(笑)。ああ、でも恥ずかしい!
──MASAKIさんはどのシーンが印象的ですか?
MASAKI 「リフレイン」です。お客さんが「もう我慢できない」って感じでみんな立ち上がってくれて。
YUKA あのワサワサ感はすごかった!
──それぞれのペースでジワジワと極まっていくのが、moumoonのファンっぽいなと思いました。
YUKA うん。ぽい、ぽい(笑)。きっと過去のライブのこととかも、その当時のそれぞれの記憶とともに思い出してるんだろうな、と、思ってました。
MASAKI ライブで何度もやってきた曲だから、僕自身も、「ああ、これぞmoumoonのライブだ!」って思ってましたね。
──MASAKIさんがハッチャケてるメドレー・コーナーも楽しいです。
YUKA ああいうMASAKIくんは珍しいですよね。基礎体温が低くて、普段息を切らすことなんてないですから(笑)。
MASAKI たしかにあの場面の僕は、楽しそうです(笑)。
YUKA メドレーをやること自体もレアでしたし。
MASAKI そうだね。全体の選曲は僕がしたんですけど、選びきれなくてメドレー・コーナーを作ったんです。
YUKA 当初メドレーだけでも20曲。「それじゃライブが終わっちゃう」と言って7曲に収めました(笑)。
──映像のテクスチャーはナチュラルですが、演奏者、音楽をとても大事にしているなと思いました。
YUKA 音楽的に「きてほしい」ってところで、タイミングよく、たとえば鍵盤の手元がフィーチャーされると気持ちいいですよね。moumoonがストレートに伝わるライブだったということもあるかもしれません。
──なるほど。奇をてらったところがないから、映像編集でも奇をてらう必要がないのかも。照明の美しさで十分ですもんね。
YUKA 照明さんには、「楽器と同じくらいに奏でてください」とお願いしているので、毎回気合を入れて応えてくれてます。それ以外は、もうシンプルに歌と演奏を届けるスタイルですね。
MASAKI そこを理解してスタッフのみなさんが動いてくれた結果、音楽を大事にする映像が出来上がったんだと思います。
──moumoonのことをよく知らない人たちにも、よさが伝わる映像だなとも思いました。
YUKA moumoonの音楽が醸し出すものって、けっしてとっつきにくかったり尖ったりはしてなくて、「みんなおいでよ」という雰囲気だと思うんです。聴いてくれた人が「あ、入っていけそう」と思える隙間がある。なので、まだmoumoonを知らない人にも観ていただけるとうれしいです。
MASAKI 知らないけど興味のあるアーティストのライブって僕も観てみたい派だけど、どれを観るべきかってなかなかわからない。そういう意味で、この映像はmoumoon初心者にはベストです。
YUKA そう。まずコレを観てほしいです。
──「みんなおいでよ」という雰囲気は、フロントに立つのがYUKAさんだけになっても?
YUKA 変わらないです。というか、よりクッキリしてくるのかも。テーマは輪&和。入り込める隙間はいっぱいありますよ。
MASAKI さらに入り込みたいと思う人には、そういうマニアックな隙間もたくさんあるし(笑)。
今後のmoumoonが進む道は?
──ホントにそうですね。さて、豪華盤に併録されるふたつのライブはどんな位置づけですか?
YUKA moumoonが今後どうしていくかを水面下でいろいろと揉んでた時期の主要なライブ。どちらにも思い入れは強いんです。
MASAKI 一部はYouTubeに出してたんですけど、商品化を望まれる声が多くて、今回お応えしました。「九段教会」のほうは、通常の「FULLMOON LIVE」のスタッフが撮ってくれているので、温かい映像になっていますね。
YUKA ライブごとに心境の変化も如実に現れています。「九段教会」の私はだいぶ頼りない。生まれたての子鹿みたいにブルブル震えちゃってる感じに見えます(苦笑)。「OFUTARISAMA」になると、「助けてくれる人はいない。よし、やるぞ!」という気持ちも出てきますね。
MASAKI たしかに。だんだんたくましくなっていくのがわかります。
──とうことは、「九段教会」、「OFUTARISAMA」、「中秋」と、時系列順に観るのも一興ですね。
YUKA 超マニアックな楽しみ方ですけど、ぜひ!
──豪華盤には、あの「中秋」のための新曲「愛は続くよどこまでも」のシングルCDも。完成版、ライブ・バージョン、インストゥルメンタル、デモの4種類が収録されています。
MASAKI 完成版とデモの差は、小さい音ではわからないくらいかもしれないんですけど、いつもこんな感じでデモを作って、ブラッシュアップさせているんですよという流れは感じてもらえるかなと。
YUKA デモのときからすごい力の入れようだったから、MASAKIくんにしてみたら、「これ以上何をしたらいいんだ?」という感じだったと思うんですけど、「そこをなんとかお願いしますよ、先生!」と言って、完成版を作ってもらいました(笑)。
MASAKI ejiちゃんにピアノを、(なかむら)しょーこちゃんにベースを生で弾いてもらいました。でも音的にはほとんど何もしてないくらいです。もちろん歌はあらためて録ったんですけど。
YUKA ejiちゃんとしょーこさんには、コーラスにも入ってもらいました。私の歌は、デモよりずっと強い感じになってます。
──歌入れに臨む思いはどう違いましたか?
YUKA デモの声はなんかずっとフワフワしてますよね。不安もあったし、ちょっと悲しい気持ちもあったし、歌詞も書いたばかりだったから、未消化の部分もあった。いろんな拙さが伝わってきます。それが、あのライブを経たことで変わりました。何回も何回も歌ううちに、思いを昇華し、受け入れることができて、結果、気持ちが前に走り出した状態で歌えたんです。その違いを味わうっていうのもまた、マニアックな楽しみ方(笑)。完成版が作れてよかった。
MASAKI やっぱデモと本チャンは全然違いますね。「いい!」と思えるものができました。「そのプロセスと微妙な違いを楽しんでね」と言えるファンがいてくれるのがうれしいです。
──さて、今後のmoumoonですが。
YUKA 「新体制のmoumoonも応援したい」と思ってもらえるように、とにかくいい曲を楽しんで作って出すということを、着実に重ねていきたいです。
MASAKI 目下、いろいろと整えている最中です。
YUKA MASAKIくんは生活環境も変わって、今、すごく健康的なんですよ。
MASAKI めっちゃ料理してます。
YUKA 昔のMASAKIくんはコンビニでできてたのに。
MASAKI 今は自分で作るでっかいサラダでできてます。オリーブオイルが減る、減る(笑)。ホント、料理が面白い。というか、そういうことから一つひとつ見直していかなきゃいけないなと本気で思いました。これまで、そういうこと全部をないがしろにして音楽を頑張ろうとしてましたから。これからは、ちゃんと食べて、運動して、健康に気を遣って、そこから生まれる音楽をお届けします。
──細胞が変わると音楽も変わりますね。
MASAKI 「中秋」の前と後では、きっと全然違うと思います。一体いくら使ったんだよとツッコみたくなるほどあった楽器や機材も、思い出とともに整理して、減らして、ついでに引越しもして、新たな制作環境も整ってきました。
──いい断捨離の時期だったんですね。
MASAKI 今はすごくスッキリして、「さぁやるぞ。いや、そろそろやれよ!」という段階です(笑)。
──今後こういった取材には?
MASAKI 全然顔を出さないということはないですよ。その都度考えます。新しい作品ができて、何かを伝えたいときは出てきます!
YUKA ステージに出ない分、急におしゃべりになったりするのかもね(笑)。
LIVE DVD, Blu-ray
「FULLMOON LIVE SPECIAL 2019 ~中秋の名月~ IN CULTTZ KAWASAKI 2019.10.6」
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DVD AVBD-92899 ¥5,500(税抜)
Blu-ray AVXD-92900 ¥6,500
オフィシャルファンクラブ / mu-moショップ限定盤
AVX1-92901~3/B ¥11,500(税抜)
【moumoon OFFICIAL WEBSITE】
https://www.moumoon.com/
【moumoon YouTubeチャンネル】
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【moumoon Twitter】
https://twitter.com/moumoon_staff
ライター
藤井美保
神奈川県生まれ。音楽関係の出版社を経て、'83年頃から作詞、作曲、コーラスなどの仕事を始める。真沙木唯として佐藤博、杏里、鈴木雅之、中山美穂などの作品に参加。90年代初頭からは、音楽書籍の翻訳やライターとしてのキャリアも。音楽への愛、作り手への敬意をしのばせた筆致で、数々のアーティストを紹介してきている。