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林部智史

【林部智史】『III』は、おうちでコンサートを感じていただけるアルバム

2022.10.31
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音楽
インタビュー
11月1日にニューアルバム『III(サード)』をリリースする、シンガーの林部智史さん。「泣き歌の貴公子」とも呼ばれる林部さんですが、このアルバムの内容はジャンル的にも実にバラエティーに富んだものになっています。そして中には「宇崎竜童&阿木燿子」という、日本歌謡曲の歴史に輝くコンビによって作られた新曲「虹めいて」も収録。聴きどころ満点のアルバムの内容はもちろん、林部さんと「昭和」の関係、そしてコンサートとアルバムの関係など、さまざまなテーマについてもお聞きしました!
 
 
宇崎竜童・阿木燿子コンビによる「虹めいて」。「虹」の意味とは?
 

 
──11月1日にニューアルバムが出るということで、タイトルの『III』の読み方というのは……
 
林部 「サード」です。
 
──それでいいんですよね。これまでの「I」(ファースト)、「II」(セカンド)に続いて「サード」ということで。そこでちょっと先に確認でお聞きしたいんですけど、昨年リリースされた『まあだだよ』というアルバムはどういう位置づけになるんでしょうか。
 
林部 あれは小椋佳さんの書き下ろしというコンセプトがあったんですが、オリジナル・アルバムでもあるので、あれを3枚目としていいと思います。だから今回は、タイトルは「III(サード)」ですけど4枚目のオリジナル・アルバムということで。ちょっとややこしくなっちゃいましたけど(笑)。
 
──分かりました(笑)。さっそく収録曲についてお話しいただければと思うんですが、まずはリード曲の「虹めいて」。いただいたアルバムについての資料を見て「おっ!」と声を上げてしまったんですが、宇崎竜童さんと阿木燿子さんのコンビによる新曲なんですね。
 
林部 すごいですよね(笑)。小椋佳さんに続いて、そんな大作家の方々に書いていただいて。阿木さんには僕の4枚目のシングル「恋衣」で作詞をしていただいてて、そのときは作曲が来生たかおさんだったんですね。その時に初めてつながりを持たせてもらったんですけど、そんな中で、僕が来年7周年なんですね。そこに向けて、宇崎さんとお2人で新曲を作ってほしいということをお伝えしたんですね。これは僕も直接お2人のところに行ってお願いしてきたんです。より断れない状況というか、「僕が最初から行って大丈夫ですか?」みたいな感じで行かせてもらって。だから本当は制作にもうちょっと時間がかかって、来年歌っていく流れになると思っていたので、出来上がるのももっと遅くなると思っていたんですけど、このアルバムのタイミングでもう出来上がってしまったんですね。
 
──あ、想定よりかなり早く。
 
林部 メチャクチャ早く作っていただいたんですよ。お願いしてから2週間ぐらいで。でもそれは本当にうれしいことなので、早速入れちゃったっていうことなんです。「7周年」で「七色」から「虹」ということで、「虹」をテーマに楽曲を作ってくださいとお願いしたんですね。まさに来年のテーマとして投げた楽曲なんですよ。でも今できたということはすごくうれしいことなので、ちょっと曲の立ち位置を変えて、「7周年に向けて」ということで7周年の中でも歌っていける楽曲という意味で作っていただきました。
 
──ではある種、7周年のオープニングというか……「予告編」と言うには、あまりにも豪華すぎますよね(笑)。
 
林部 そうですね(笑)。7周年の中でも核になってくる楽曲にはなるんじゃないかなと思います。
 
──曲が出来上がってきた時は、どういう印象を持たれましたか?
 
林部 ものすごく壮大な楽曲ですよね。明るい楽曲、悲しい楽曲……どんな楽曲ができてくるか予想していなかったので、「コンサートの一番最後に歌えるような壮大な楽曲を」っていうお願いの仕方はしてしまったんですけど、僕の歌で使える声の最高音と最低音に近い部分を全部入れ込んでくださっていて、だから僕が今まで100曲ぐらいレコーディングしている歌の中でも、一番低いし一番高い、そんな1曲に仕上がってます。宇崎さんは「俺はセルフカバーできない」って言ってたんですけど(笑)、そのぐらい音域という点でもすごく壮大な楽曲になりました。最初に聴いた時は「難しそうだな」っていう印象を持ったんですけど。
 
──実際に歌ってみると……?
 


林部 めちゃくちゃ難しいです。今のツアーではコンサート本編の最後に歌わせてもらってますけど、音域を目一杯使っているから、下げることも上げることもできない曲なんですよ。やっぱりちょっとでもノドの調子が悪かったら、しかもコンサートの最後の方に歌うからノドの疲労も蓄積してくるので、コンディションの面でもすごい大変な楽曲だなあと。でもこれを歌い切りたいなって思う、挑戦的な楽曲だなと思いますね。
 
──林部さんは1988年生まれで、実質的に昭和最後の年の生まれですよね。
 
林部 そうですね。1988年は昭和63年で、昭和64年が1月8日までしかなかったので、ギリギリ昭和生まれです。
 
──ですよね。だから「宇崎竜童&阿木燿子」というのは、確かにものすごい大物コンビですが、簡単に言うと林部さんは「その世代ではない」ですよね?
 
林部 そうですね。簡単に言うとそうなります。今回、小椋佳さんの楽曲も入ってますけど、「その世代ではない」ということになりますね。
 
──いわゆる「昭和のレジェンド」という方々じゃないですか。その方々を、林部さんの感覚としてはどのように見てらっしゃるんですか?
 
林部 そうですね……僕の感覚としては、僕がステージに立ててるのってやっぱりお客さんがいるからで、お客さんの世代がそこにドンピシャな方が非常に多いんですよね。だから僕としては、もちろんそこは学んでいかなくちゃいけないところですね。阿久悠さんとか都倉俊一さんとかもそうですけど、実際その時期に聴けてはないですし世代ではないからこそ、学ぶべきことが多いですね。歌の歴史としては、そこは今でもたくさん学んでいきたいなと思うぐらい、すごく重要なところかなと思ってます。
 
──だから、オリジナル・アルバムにはもちろん令和の今に作られた楽曲が収録されていますが、同時に手がけられているカバーアルバムや叙情歌のアルバムでは、けっこう昭和の歌にも挑戦されていますよね。林部さんから見た昭和って、どう見えてるんでしょうか。
 
林部 逆に言うと僕は、今の人々にメチャクチャ聴かれてる歌っていうのをほとんど聴かなくなっちゃったので、僕が今、その昭和の時代に生きているような感覚があるんですよ。今のこの、歌い手としての林部智史でいるには、僕がその昭和の時代にいる必要があって。だからYouTubeとかの「おすすめ」にもそこらへんの時代の曲が常にいっぱい出てきますし。だから、僕はその時代に過ごしていなかった分、“今”そこにいるのかなっていう感覚です。
 
──今、お1人だけ昭和にいるということですか。
 
林部 そうですね(笑)。でも不思議なもので、僕のコンサートに来てくれるお客様も、昭和の哀愁とかそういうところを求めてと思いますし、逆に新しいものを求めてないというか。僕はいろんな新しいこと、例えば今まで歌ってこなかったジャンルとかに挑戦する気持ちは出していこうと思ってるんですけど、だからといってお客さんが流行りの歌を求めてコンサートに来てるかっていうと、やっぱりそうじゃなくて。だからそんな意味を踏まえると、僕は今そこに歌い手としている意味はあるなと思ってます。
 
──宇崎竜童&阿木燿子コンビの曲で、一番に思い浮かぶものというと?
 
林部 やっぱり「ヨーコ」じゃないですか。
 
──1975年に大ヒットしたダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」ですね。
 
林部 たぶん、僕の世代まで残って一番流れてた曲だと思うんですよ。パロディーとかも含めて、形を変えてですけど。『学校へ行こう!』って番組ですごくパロディー化されてたんですよね。だから逆に、本家を知らないのにそういう伝わり方をしてきてる楽曲と言えるんじゃないですかね。
 

「勝手に」昭和歌謡の要素が入った?「急行列車」
 
 

──ああ、そうですね! また何というか、パロディにしやすい曲ですからね。で、「昭和」とか「いろんなジャンルに」という言葉が出てきたので、その連想で「急行列車」に移りたいと思います。タンゴを基調にしながら、ムード歌謡調でもありますよね。これもかなり昭和の香りがしますが。
 
林部 そうですね。特にBメロで、タンゴだけど昭和歌謡で使われるようなリズムの取り方を取り入れたりとかしてますね。今回のアルバムはラテン系とかジャズ系とか、いろんなジャンルを取り入れてますけど、今僕が作詞作曲する楽曲って、やっぱりどうしても昭和テイストが入るんですよね。僕が今聴いてる歌がそうだから。だから無理して新しい感じの歌を作ろうと思って、今の曲をたくさん聞き込んでこれを取り入れようとかっていうのは……たまにありますけど、でもほとんどないですね。この「急行列車」もやっぱりそういう要素が勝手に入りました(笑)。
 
──「勝手に」というか、「自然に」という感じですか。
 
林部 ああ、そういう感じです。僕が作る曲は、やっぱり聴いているものからその要素を取り入れることが多いですね。
 
──ではこのアルバム全体としては、いろんなジャンルに挑んでいるけれど、その背骨には昭和歌謡、昭和の音楽があるという感じでしょうか。
 
林部 そうですね。やっぱり平成や令和というよりは、昭和歌謡を一番聴き込んでいるので……出そうと思っているわけではないですけど、僕が今“そこ”にいるので、それが出ちゃっているというのはいいことだなと思います。
 
──なぜか1人だけ昭和にいる林部智史さんからのニューアルバムが、令和4年に届いているみたいな。
 
林部 そんな感じです(笑)。僕が作る楽曲はそこにありますね。もちろん、今を生きているからこそ、昭和楽曲にはない部分というのも出てくるところはあると思うんですけど、それも踏まえて僕になっていればいいなと思います。
 
──この「急行列車」で言うと、歌詞の世界もまさに昭和感というか。
 
林部 ハハハハ! 演歌の世界とはまた違うと思うんですけど、あんまり最近の曲では「いけない恋」とかは描かないですからね。やっぱり、歌の中ではちょっと冒険させてほしいですよねっていう意味合いが、昭和歌謡を聞いてるとけっこうありますからね。阿木さんに書いてもらった前作「恋衣」もテーマは「いけない恋」だったし、そういうのは増えてきますかね。
 
──その一方で、「あなたが化粧する理由」は関取花さんの楽曲ですよね。
 


林部 これもまた僕が直接「作ってください」ってお願いして作ってもらった楽曲です。関取さんは、今でも昔でもなく、関取さんが作る世界観というのがあって。その世界がすごいく好きで、本来は僕もそうなりたかったというか。僕はいい意味でたぶん器用貧乏で、その色に染まっちゃおうとするんですよ。でも、だからたぶん小椋佳さんの歌をいただけたんだろうとか、阿木さん、宇崎さんに曲をいただけたんだろうという自負もあるんですけど。もちろんそこに対して努力もしたいし。だけど関取さんはもシンガーソングライターで、僕は自分のことをシンガーソングライターだとは思ってないんですよ。
 
──そうなんですか?
 
林部 曲は書くけど、やっぱり「シンガーソングライターの林部智史」と言われるとちょっと違うなと。歌い手というイメージなので。だから関取さんの世界を僕のオリジナルとして取り入れたかったんですよね。そうしたら、自分には出せないすごく尖った詞が来ました。
 
──テーマなどについてはどういう過程だったんですか?
 
林部 宇崎さん・阿木さんには「虹」っていうテーマを出させてもらったんですけど、関取さんの場合は最初の打ち合わせの段階で、「次に男性に歌ってもらう機会があったらこういう歌を提供したいと思ってたんです」って言ってました。その入りも何か独創的でうれしかったですけど(笑)。
 
──この歌詞の「あなた」にはいろんな捉え方ができると思うんですが、林部さんはどういうイメージを持たれていますか?
 
林部 この歌の中での「あなた」というのは「私」のことだと思うんですね、鏡に対する「あなた」は自分自身なので。やっぱり普遍的にこの歌は、特に僕のコンサートに来てくださってるお客様もそうですけど、皆さん1人1人の立場で聞いていただけるんじゃないかなと思っていて。ただ、僕がその立場に立ってほしいと思うのは……僕がそう思うのは失礼な曲だと思うんですよね。僕は別に化粧してほしいとも思ってないし、だから正直、聴いた方がどう感じるんだろうっていう気持ちがあって、その反応が楽しみな楽曲ではあります。僕では書けない世界観なので、これがお客様にこれからどう届くんだろうと。お客様が1人1人、「自分のことだ」と思うのか、親のことだと思うのか、友達のことだと思うのかっていうところはそれぞれだと思うので、僕はその誰だと思われてもいいように歌っていこうかなと思っています。
 
──子育てを終えた女性だったりとか、いろんな取り方ができると思うので、その聴く方の立場によってまた変わってきそうですからね。
 
林部 そうですね。僕がそこに当てて歌うとまた違った話になって、難しい曲ですよね(笑)。ここに僕じゃなく、他の方が作ってくれた面白みがあるというか。僕も自分で書くからこそ、こういった詩を書いてくださった意味があって、うれしかったなと思いました。
 
 
まさにトラウマ級? 「トラウマ」で見せた新しい挑戦
 

 
──「表裏」「いま、ここから」「風車」といった楽曲は、もうコンサートで歌われてきているんですよね。
 
林部 はい、歌ってきました。僕のオリジナル・アルバム制作の流れというのは、コンサートで披露した楽曲が基本的に入っていくんですね。コンサートの中で歌詞を変えたり、曲を変えたりして、温めに温めた楽曲が入っていくという、ちょっと珍しいスタイルでもあるんですけど、そんな楽曲が今回ようやくアルバムに入りました。この中では「風車」が一番古くて、2019年に僕の地元で作った楽曲ですし、「いま、ここから」はコロナ禍からようやくステージに立てるようになって、少し光が見えてきたのかな、という時に作った楽曲だったり、曲によって作った時期は違いますけど。
 
──こういった曲は、その時に出したアルバムには入れなかったけれども……みたいなところもあるわけですよね。
 
林部 だからファンの方は「何で音源化されてないの?」っていう曲だと思うんですけど、僕自身としては、アルバムを短いスパンで出してはいないので、その意味ではどうしても、入れられない楽曲とかもたくさんあるんですよ。コンサートの中だけで披露する楽曲もありますし、こうした曲については、僕もようやく収録できてうれしいです。
 
──「旅立つ日」もコンサートでは歌われてきた曲ですね。
 
林部 これは、僕のセカンドシングルを作ってもらった山本加津彦さんに作っていただきました。山本さんの世界観もすごく好きなので、依頼して作ってもらいました。
 
──「トラウマ」はちょっとドキッとするタイトルですが、曲調はジャジーですね。
 
林部 今年、僕は「旅」をコンセプトにしたコンサートをやっていて、世界各地の音楽ジャンルを取り入れるというのもそこから来ているんですね。その中で僕が作るということで、僕なりのジャズだったり、先ほどのタンゴだったりラテンというところを出せればいいなと思って。その中でこの曲は僕なりのジャズですね。
 
──ジャズというのもけっこう取りようがいろいろあるジャンルですが、林部さんにとってのジャズとは?
 
林部 もちろんジャンルの一つであることは変わりがなくて、日本におけるジャズの捉え方って、よくも悪くもBGMにもなりうる曲だなって思ってて。例えばラウンジバーとかで生演奏で歌っているシンガーって、大体ジャズじゃないですか。BGMになれる心地よさというのはあるんですけど、僕はやっぱり歌い手として、BGMにはなりたくないなっていうところが正直あるので、どれだけ心地よいジャズのサウンド感の中に、歌で聴かせる部分、歌謡曲の部分、キャッチーな部分を入れるかっていうところのせめぎ合いをしたんです。しかも「トラウマ」っていうことで、本来ジャズは聴き心地のいいものですけど、逆に聴き心地の悪いものを作ったんです、今回は。効果音だったり、ちょっとトラウマになるような気持ち悪い音の響きを入れてみたりして、ちょっと面白い作品があってると思います。
 
──林部さんの作品にそういう音が入ることって、これまでなかったですよね。
 
林部 初めてですね。そもそもジャズを作る時にどんな歌詞を書いたらいいんだろうとか、そういうことを一から考えながら作って、たまたま「トラウマ」っていう曲になったので、じゃあちょっとトラウマ級の効果音のある曲にしようと思って、そういうフックを自分の中でいろいろ入れ込んでみたんですけど……初めてですね。
 
──これまでずっと林部さんのアルバムを聴いてきた人はビックリしそうですが。
 
林部 ああ、驚くと思います。人によってはその曲を飛ばす人もいると思いますけど、そういうのもいいんじゃないかなって。
 
──そこまでのものを入れるのは、度胸のいることではなかったんですか?
 
林部 アルバムだからできることでもあると思いますけどね。ただ何か、そういう試みがあって挑戦的な1曲でもあるので、違う人の耳に「この曲聴いてみて」みたいな感じで。残る曲になると思うんですよ。決して遊び心だけじゃなくて、誰かに響けばいいなとは思ってますね。
 
──なるほど。そういうところも含めて、いろんな挑戦をしたアルバムという感じですか。
 
林部 特に自分で作詞作曲した曲に関しては、わりと今回は多ジャンルが入っていて、コンサートの「旅」っていうコンセプトもあるんですけど、世界を感じられるジャンルを今僕の中に落とし込んで作っているので、このぐらい多ジャンルのアルバムは多分あんまりないと思うし、自分の中でも挑戦だし、周りを見渡してもたぶん、これぐらいいろんなことを取り入れてるのは少ないんじゃないかなと思ってます。
 
 
林部智史にとってのコンサートとアルバムの関係性とは?
 

 
──そして、最後に収録されている「ボン・ヴォヤージュ!」は今のコンサートのタイトルにもなっている曲ですね。明るいムードから途中でジャズっぽい展開に移行し、終盤はすごく壮大になって。すごくコンサートで盛り上がりそうな曲だなと思いました。
 
林部 まさにそう思って作った楽曲ですね。今はアンコールをいただけたら一番最後に披露している楽曲なんですが、僕は今まで「泣き歌の貴公子」なんて呼んでもらってましたけど、楽しさを皆さんに残したいなと思って作った楽曲なんです。歌で皆さんに楽しんでいただくには、普通に歌う以外でどんな方法があるだろうと思いながら、エンターテイメントを追求して1曲作りたいなと思って、この「ボン・ヴォヤージュ!」という曲を作りました、だから間奏で、楽器に合わせてスキャットを入れていくところとかあるんですけど、普通に歌う以外でどう皆さんに盛り上がっていただこうかって考えた末に生まれたのがあれだったんです。
 
──あんなにさまざまに展開する曲ってこれまでなかったのでは?
 
林部 そうですね。忙しい曲です(笑)。今年のコンサートが「旅」をテーマにしていることはお話しした通りですが、そこに来てくださったお客さんが日常という名の旅にまた帰っていく、その余韻になるような歌をお届けしたいと。旅の道連れにしていただきたい楽曲という意味で、一番最後に楽しくしようと思って作りました。
 
──まさに「旅」に送り出すというか、「じゃあ明日からの生活も頑張っていこうね」という応援ソングという感じになっていると思います。
 
林部 「ボン・ヴォヤージュ!」という言葉も「よい旅を」という言葉なので「旅」に引っかけているというか。コンサートの最後に「よい日常を」という意味で送り出せればという曲ですね。なので、アルバムの方でも最後に収録させていただきました。
 
──いろいろとお聞きしてきて、各楽曲の彩りの理由みたいなものもかなり伺えました。その中で前作からの、特に「歌」という部分での成長を感じているのはどのあたりですか?
 
林部 もちろんその期間に、小椋佳さんにいただいた楽曲をを自分のオリジナルとして歌ってきたりとか、その他にもいろんなコンサートがあり、ジャンルの幅を広げていったりして、後に自分自身を振り返った時にも足跡になるような、そんな作品になるんだろうなとは思ってるんですね。単純に、いろんな幅が広がった1枚になるかなと思います。音域もそうだし、ジャンルもそうだし、幅は広がりましたね。
 
──その中で、叙情歌のツアーがあったり、企画もののコンサートがあったりして、ステージでもいろんな挑戦をされているじゃないですか。そうした挑戦がご自身にもたらしてるものとは?
 
林部 全ての挑戦が結果として、僕の歌い手としての深さになればいいなと思ってます。もちろん挑戦することって、苦じゃなくて楽しいことだなって今思っているんですね。苦だったら挑戦しないし、やっぱり楽しいからこそ歌を、音楽を好きでいられるし。好きでいることはこれから先も続けていくことにつながっているので、挑戦は、僕が音楽を続けていく上で、やり続けなくちゃいけないものだなっていうふうに思ってます。
 
──今のツアーがもうすぐ千秋楽ですが、このツアーはアルバムを見据えた上で始まったものだったんですか?
 
林部 まだ、「アルバムはいつ出せるんだろう?」と思ってた段階でコンサートを作ってきたんですけど、アルバム楽曲も数曲歌ってますし、ちょうどそのアルバム発売とつながったらいいなぐらいな感じでいつも思ってるんですね。逆に言うと、やっぱりステージに立つことが何よりもメインなので、そこに合わせてもらった形ですね。
 
──通常のアーティストだと、アルバムを出して、そのアルバムのツアーとして回るという形が一般的にありますよね。それとはまたちょっと違うと。
 
林部 はい。僕はたぶんそこじゃなくて、逆というか。だから僕はアルバムを出すタイミングはどこでもいいかなと思いながら、だけどもちろんコンサートで手に取っていただけたらそれに越したことはないので。だからそういった意味ではなかなか珍しいタイプだと思います。
 
──例えばツアーしている途中のどこかでアルバムが出たとしても、そこからアルバムに合わせてセットリストが変わるとか、そういうことは……。
 
林部 ないです。これは僕の足跡として、ずっとそうやってきました(笑)。
 
──言い方が失礼かもしれないですが、なかなか他にはないタイプで、面白いですよね(笑)。
 


林部 ハハハハ! まあ、効率は悪いのかもしれないですよね。コンサートというのはCDを売るためのものでもないのかなって正直思っているので、こうやってるんですけど。コンサートで考えると、アルバムって難しいですよね。アルバムを引っ提げてのツアーが普通だとしたら、皆さんどんな感じでやってるんですかね? 僕の場合は最初から、曲を披露するのが先でやってました。
 
──例えば、ツアータイトルとアルバムのタイトルが同じか連動していて、セットリストもアルバムの曲が中心、アルバムの1曲目をオープニングに持ってきたりというツアーをするアーティストは、けっこう多いと思うんですが。
 
林部 そういうコンサートもこれからやれればいいなと思ってるんですけど……最初がそうじゃなかったから、なかなかそうならないんですよね。アルバムを作るのってメチャクチャ時間を取られるし、大変なので。逆に言うと、他のアーティストがそういうやり方なんだとして、ツアーなんかしてたら、そのツアーをしてる間に次のアルバムレコーディングしてると思うんですよ。で、次の新しいアルバムを引っさげてツアーをやってる時には、また次のアルバムを作ってるみたいな。たぶん僕は、それがあんまり器用にできないんだと思うんですけどね(笑)。だから今はツアー中で、次のことも考えますけど、でも基本はツアーのことをいっぱい考えてますから(笑)。
 
──ただ、アルバムが発売になってからのコンサートは、アルバムを聴いてから来てもらった方がいいというのはありますか?
 
林部 あ、僕はたぶん、そういう感覚がないんですよ。
 
──あ、そこから違うんですね。
 
林部 予習しなくても楽しめるコンサートでありたいなと思ってて。僕自身、「ボン・ヴォヤージュ!」は楽しんでもらおうと思ってますけど、振りとかは作りたくないし、予習しない人は楽しめないようなコンサートには、僕も行きたくないし。7年目とは言え、何回も来てくださるお客さんだけにコンサートをしてるつもりもなくて、新しい方にも楽しんでいただけるコンサートをやっていかないと、これから先続かないので。そういった意味で、予習いらずのコンサートを毎回したいなと思ってます。
 
──ただこれはニューアルバムのリリースを受けてのインタビューなので、聴かなくてもいいよという結論にもできなくてですね(笑)。
 
林部 そうですね(笑)。でも今の時期は特に、やっぱりまだまだコンサートに来られない方が非常に多いと思いますし、アルバムに入れる曲ほとんどがコンサートで歌い込んできた楽曲で、自分のセールスポイントとしては、よりコンサートを感じていただける音源になってると思うんですよね。録音方法にもこだわっていて、なるべく1曲ツルッと歌いながら録るようにしてますし、そんな意味でおうちでも楽しんでいただけるコンサートみたいなアルバムにはなっていると思います。だからそれを聞かないとコンサートに来られないってわけでもないですし、とにかくおうちでのコンサート時間を今は作ってもらえればなと思ってます。
 
──通常、新作のインタビューだと最後に、「このアルバムをどう楽しんでほしいですか」とか「これからアルバムを聴く人たちにメッセージをお願いします」みたいな質問で終わるんですが、それがまさに今のお答えに全て入っていました(笑)。ありがとうございました!
 
 
撮影 長谷英史

 
『III』
2022.11.01 ON SALE

 

 
「林部智史 CONCERT TOUR 2022 いずこ ~ふたたび歌を 空に翔ばそう~ 大海原へ ボン・ヴォヤージュ!」
10/29(土)千葉・千葉市民会館 大ホール
11/5(土)神奈川・横浜・関内ホール 大ホール
11/16(水)香川・レクザムホール(香川県県民ホール) 小ホール
11/18(金)大阪・NHK大阪ホール
11/19(土)静岡・静岡市民文化会館 中ホール

ファイナル特別公演
林部智史 CONCERT TOUR 2022 いずこ ~ふたたび歌を 空に翔ばそう~ 大空へ!大海原へ!Final Bon Voyage!!

11/29(火)東京・東京国際フォーラム ホールC
 
 
林部智史 Dining & Concert 2022
12/23(金)大阪・ウェスティンホテル大阪
12/24(土)千葉・ホテルニューオータニ幕張
 
 
【林部智史 OFFICIAL WEBSITE】
http://hayashibe-satoshi.com/
 
【林部智史 OFFICIAL Twitter】
https://twitter.com/hayashibe3104
 
高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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