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【アイナ・ジ・エンド】3年ぶりのニューアルバム『RUBY POP』 常にやり過ぎぐらいで生きていきたい

    アイナ・ジ・エンド
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    【アイナ・ジ・エンド】3年ぶりのニューアルバム『RUBY POP』 常にやり過ぎぐらいで生きていきたい

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      2021年の2ndアルバム『THE ZOMBIE』以来3年ぶりとなるニューアルバム『RUBY POP』をリリースしたアイナ・ジ・エンドさん。今作はBiSH解散後初のソロアルバムということもあり、今までよりも幅広い楽曲が収録されています。その内容や各曲の表現などについて、いろいろとお聞きしました!

      それぞれに思い出がある宝石のような楽曲を集めた『RUBY POP』

      ──今回の3rdアルバム『RUBY POP』は、ソロアルバムとしては3枚目ですが、BiSHが解散してからのソロアルバムとしては初めてというところが、過去2枚と大きな違いかと思いますが、ご自身の中ではどういうところが違いますか?

      アイナ BiSHにいた時期は、ミックスとかマスタリングとかに立ち会ったことはないんですけど、1人になってからはほぼ全てに立ち会わせていただいていて、「音楽がこうやって生まれていくんだ」とか、そういう学びが以前より深くなってきたので、BiSHの活動中とはメンタルが違いますね。

      ──ご自分で立ち会った中で、意見とか希望も出されるんですか?

      アイナ もちろん言うんですけど、それこそ4年前ぐらいの頃はギターとベースの音の区別もつかないような状況だったので、意見を言いたくても意見の“い”の字もなかったんですよ。ですけど今はバンドメンバーのなかむらしょーこちゃんとかにずっと教えてもらって、『キリエのうた』(2023年公開の主演映画)でギターを弾いたりもして少しだけ分かってきて、今では意見も少し言えるようになりました。ちょっとだけですけど。

      ──全体を通して聴かせていただくと、サウンド面では細かいところの音作りにすごく気を配られているように思えました。例えば「Frail」のサビ前にギターがちょっと入るところとか、「Jewelry Kiss」のイントロの、音を重ねて面白い世界を作っているところとか。

      アイナ ミックスにはけっこうこだわりが出てきちゃって、8時間ぐらいやった末にミックスをもう1回やり直すとかもあるぐらい、こだわるようになってしまったんですよ。「風とくちづけと」のBメロとかは声が水に落ちていくイメージで、深い音質というか、頭で鳴っている音を可視化していく作業というのにものすごくこだわりを貫いてみたりとか。以前よりは、音作りも自我がかなり入ってますね。

      ──ただ頭の中の音って、言葉で伝えるのはすごく難しいですよね。そういうところで意識した部分というと?

      アイナ アルバムの最後の「はじめての友達」という曲は、バンドメンバーと制作合宿みたいにして、みんなで顔を突き合わせて一つの曲を作っていく作業を何日間かやった中の1曲なんですね。歌詞は家に帰って1人で念入りに書いたんですけど、やっぱりアルバムの最後って超大事だなと思ったので、誰が聴いても心が痛くならなくて、柔らかくて温まるような音色となると、例えばウーリッツァー(電子ピアノの一種)とか、ギターでもアコギが部屋鳴りもしていて、空間ごとまったりできるような音色とか、そういう音のこだわりもちょっと拙いながら自分も意見してみたりはしました。

      あとは声ですね。マイクもレコーディングマイクじゃなくて、「ゴッパー」っていう、ライブハウスとかで使ってる普通のマイクで歌ったんですよ。何か、これが一番ダイレクトに人の心に届くかなと思って、あえてそのマイクでも歌ったので、そこは聴いてみてほしいです。

      ──アルバムの終わり方って、にぎやかに締めるものもあるし、静かにスッと終わっていく場合もあるし、好みが分かれるところだと思うんですが、アイナさんは「静かに終わらせたい派」ですか?

      アイナ 今のところはそうですね。静かにというか、ちゃんとそのアルバムに込めた思いの、最終的なテーマみたいなことを歌って終わりたいんですよ。今回は、「時間とか人を愛でて、ちゃんと愛して人生を耕していこうね」っていうテーマなんですよね。だから最後にも、愛でる前に星になってしまうかもしれないから、そうならないように「また会おうね」って言って締めてるんですけど、そういう言葉がちゃんとジンワリ伝わるように、柔らかい曲を置いてますね。

      ──そういうテーマとイメージで作られたアルバムのタイトルが『RUBY POP』。この意味合いが、ジャケットデザインとかにも繋がってるのかなと思ったんですが。

      アイナ 3年間をフッと省みた時に、「宝」という言葉を使ってるのが3曲もあったんですよね。「宝者」「宝石の日々」「Jewelry Kiss」と。自分ってけっこう、曲のことを宝石みたいに思って紡いでるんだろうなって思って、そこから「Jewelry」とか「宝石」というワードを入れたタイトルがいいなと思って、3年間で作ってきた曲をガーッと並べたんですよ。そしたらもういろんな曲があって。せわしなくて情念に溢れた曲もあるし、メチャクチャまどろみで、柔らかい雲みたいな曲もあるし。それを一緒のアルバムにすることはわりと不可能に近いぐらい幅が広くて、混沌として見えたんです。「いやー、どうしよう?」ってなったんですけど、「ちょっと待てよ」と思って。1曲1曲を思い出してみたら、全部思い出がいくらでもきらめくんですよね。「この曲はあの人と作った」、「この曲は寒い冬に作ったなあ」とか「この曲をライブで初披露した時、お客さんはアングリしてたな」とか全部思い出があるから、ちゃんと1曲1曲を芽吹かせて、輝かせようと思って。「やっぱり宝石だ」と思ったんです。

      ──なるほど。

      アイナ な「これは全部、ちゃんと宝石なんだ」と思って、私の今の宝石箱、RUBY POPという意味で聴いていただけたらなと思って、タイトルにしました。

      ──そういう括りがあると、それぞれの時期にそれぞれの目的があって作られた各曲を、一つの宝石箱に収められるという感じですか。

      アイナ そうですね。やっぱり曲って聴いてもらって育つし、聴いてもらうことでやっと完成するじゃないですか。ちゃんと届けたいという思いがあって、届いた先で、あなたの心で弾けたらいいなと思って「POP」ってつけたんですよ。このアルバムのラインナップの中で、どの曲が一番あなたの心に弾けたかっていうのを聞けたら楽しいかななんて思ってるので、そういうところも楽しみですね。

      「宝石の日々」の歌声に隠された工夫とは?

      ──もう一つ全体的なことなんですが、曲調だけでなく、歌声と表現も一層、かなり幅広くなっているなと思ったんです。例えば「Love Sick」では歌い上げている一方、「クリスマスカード」はすごくナチュラルに出している感じがしました。一方、「帆」では声の使い分けが顕著で。

      アイナ そこに対してはあまり深く意識はしたことがなくて、作った曲とか作ったメロディー、歌詞が呼んでくれるままに歌うって感じですかね。「こういう気持ちで歌おう!」みたいな女優バイブスがあんまりなくて、自然に成り行きで、「この曲にはこういう声だろうな」みたいに呼ばれていくみたいな感じが多いんですよ。だから言語化して、「こういう風に意識して努力しました」みたいなのは、あんまりないかもしれないですね。

      ──その曲によって、結果的にそうなったという感じなんですね。

      アイナ そうですね。だから難しいところもあって、例えばTKさん(凛として時雨)が作る曲っていつも死ぬほど難しいんですけど(笑)、家で練習して練習して声枯れて、次の日休んでまた練習して……みたいなことを繰り返していってやっと「あ、この声が呼ばれてたんだ」って気づくこともあるし。だから、サラッとしてるわけではないです。わりと考えて、わりと練習してはいますね。

      ──それはもちろん(笑)。もう一つ歌声に関して、「宝石の日々」は最初ちょっと幼いというか、あどけない感じから始まって、どんどんトーンが変わっていくように感じたんですが、そこは意識されたんですか?

      アイナ すごい、初めて言われました(拍手)。

      ──あ、ありがとうございます(笑)。

      アイナ この曲は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の最終回に使われた曲で、主人公であるスレッタとミオリネちゃんっていう2人の女の子の物語でもあったんですよね。同時に、自分の人生の話でもあるんですけど。だからアイナ・ジ・エンドとスレッタとミオリネっていう3人の女性が織り交ぜられて歌詞を紡いでいるんです。ミオリネとスレッタはちっちゃいときから友達というか、地球に行きたいミオリネちゃんと、スレッタはいつも元気で、アイナ・ジ・エンドはおでこ30針縫って……みたいな(笑)、そういう3人の人生が交わったらこんな感じかなということを書いたので、子供の時の記憶というのも3人にはあって。だから冒頭ではわりと幼い声で歌って、どんどん紡いでいく日々と一緒に大人になるっていう気持ちで歌っているので、誰にも気づかれないだろうと思いながらそういう工夫はしてました。だからうれしいです(笑)。

      ──気づけてよかったです(笑)。そんな風に歌詞の内容だったり、曲調だったりに応じた歌い方を、曲の中で変えたりもしていると。

      アイナ そうですね。すごくやってたら、一緒に曲を作ってくれている子とかに「ちょっとやりすぎ」って言われたりして直すこともあるんですけど。「それ、やりすぎ」って言われるまでやらないと、「やりすぎ」とは言われないので、一回やりすぎて、そこから引いていく作業をいつもしてますね。

      ──それぐらいがちょうどいいんですね。

      アイナ ダンスを習っていた時に、先生に「やり過ぎぐらい踊ってもらわないと、こっちは駄目出しできない」って言われたんですよ。「中途半端なものを見せられても何も言えない」って。そこからは表現する時に、例えば気持ち悪い動きの時はすごく気持ち悪く、激しいなら激しい、優しいなら優しいとか、1回やりすぎると、そこから最近はSNSとかで世の中の人に罵詈雑言を受けるので、「おお、やりすぎてたんか自分!」って思ってちょっと引いたりとかしてますね(笑)。

      ──制作過程で引き算するところもあるし、世に出してみたら「そうか!」と思うところもあると。

      アイナ はい。基本的には常にやり過ぎぐらいで生きていきたいです。人生全体で考えるとまだ若いと思いたくて、その若さゆえの見切り発車感というか、その勢いっていうのは、往年の先輩とか見てても、全員から感じるんですよね。「やっぱり若い時は勢いあるな、今は大らかだな」みたいな。私が好きな女性シンガーとかは特にそう感じることが多くて。今は出産もしたりして、たゆたうように活動してらっしゃるけど、20代の頃とかは荒々しかったりして、ドキュメンタリーとか見ていてもすごい毒を吐いたりしていて、それはやっぱり勢いなんだなと思って。となると、やっぱり自分もやり過ぎぐらいに、人を傷つけないことだけを意識してやれることだけをやって、それで反省したいという時期ではありました。それが、歌い方にも出ているところはあると思います。

      1月からの“ハリネズミスマイル”ツアーは原点回帰。カラフルでハッピーなものにしたい!

      ──歌詞についてなんですが、静かな曲ほど、実は大きく強い心を歌っているものが多いのかなという印象を受けたんですが。

      アイナ そうですね。速い曲とか疾走感ある曲って、語呂が大切だったりするし、あと一発で聴いた時に、キャッチーだなという響き方とかを意識して歌詞を書いたりするので、そんな深いとこまで描けないことも多いんですよ。ただその代わり、ライブですごく映えるとか、振り付けがしやすいとか、いいところもたくさんあって。一方でバラードとかだと、ちゃんと音符と言葉が掛け合わさったいいものをしっかり提案できるので、そういう意味ではもうおっしゃる通りで、ゆっくりな曲の方がメッセージ性は、必然的に強くなりますね。

      ──ただ、またその一方で、「ハートにハート」は静かな曲ではないですが、「目には目をみたいに愛をばらまく」とか、その後に続く歌詞とかに、所信表明に近いような印象を受けました。

      アイナ 22歳ぐらいの時、1人で夜を越えるのが苦手だったんですよ。一度、六本木に飲み行ったら社長に連れ帰られたこともあったりして。それはそれでありがたい経験でね、そういうのがなかったらどうなってたか分からないので。そこからはずっと、1人で黙々と本を読んだりして過ごすようになるんですけど、やっぱりどうしても夜が来てしまうと暗がりの気持ちになって、でも誰にも会いたくない。1人で越えるしかないって言って毎晩泣いてたのが22歳ぐらいの時で。その時に、「どうやったら夜を越えられるんだろう」と考えてたんです。もう夜と結婚するぐらいにこの暗闇を愛しちゃえば、私は強くなれるかもとも思ったんですけど、当時はまだそれを歌にはできなくて。29歳になった最近になって「そろそろ夜と結婚できるかな」と思って。ちょっと強くなってきたし、夜も受け入れて、朝に向けて眠れるようにもなったし。「よし、そろそろ歌詞に起こしても誰にも怒られないだろう」と思って、今回は22歳の時の自分の気持ちを引っ張ってきた感じです。

      ──なるほど、その22歳当時から変わらない自分の気持ちが歌われているんですね。

      アイナ はい。そういう子って、自分だけじゃない気がするので。例えばうまく眠れない子とかも、ファンの方や友達にもいるので、そういう子たちがみんな、毎晩夜と結婚して、どんな夜だって越えていってくれたらいいなとか。おこがましいけど、22歳の頃の自分だったら他人のことまでそう思えなかったから、今なら歌っていい気がして、やっています。

      ──年明けの来年1月から、全国8都市ツアーが開催されます。このアルバムを引っ提げてという形になると思いますが、どういうツアーにしたいですか?

      アイナ ツアータイトルが“ハリネズミスマイル”ツアーって言うんですけど、私2015年にBiSHのメンバーになって、「チェキ会」っていうのを初めて経験させていただいたんです。それまで自分は人生で「かわいい」とか言われたことはなくて、いつもおちゃらけ担当というか。でもチェキ会とかで笑ったら、当時のファンの人に「ハリネズミみたいでかわいいね」って言われて、そこから自分の笑顔を「ハリネズミスマイル」っていう名前にして、以後はチェキ会とかでも「ハリネズミスマイルください!」とか言われるようになったんです。そこから10年経って、今回ちょっと原点回帰しようと思って。

      ライブハウスツアーだし、久しぶりに地方も回るし。あの頃、「ハリネズミスマイル」って言われてたなと。あの時いたファンの人はどこ行ったんだろうと。その人たちも全部迎えに行けたらいいなと思って、“ハリネズミスマイル”っていうツアータイトルにして原点回帰して、ちゃんと日本を回ろうということになりました。

      ──それはセットリストの選曲にも反映されそうですね。

      アイナ はい。友達のSUMIREちゃんにツアービジュアルを描いてもらったんですけど、カラフルでハッピーなバイブスを放ってるので、ツアーもカラフルなものになるかなと思っています。スマイルが満ちるような、そんな感じになれたらいいなと思います。

      ──では最後に、ファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

      アイナ 1st、2nd、3rdでアルバムの色が全部違うんですけど、今回は本当に周りの人がいての自分っていうのを、これでもかってぐらい表現できていると思うんですね。その周りの人っていうのはあなたのことなんだよって、自分に言われていると思って聴いてもらえたら、ジンワリ温かくなれるかなと。だから、よかったらあなたの宝石箱にしてほしいです……って、お伝えください(笑)。

      ──分かりました、責任を持って伝えます。ありがとうございました!

      撮影 長谷英史

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      高崎計三

      ライター

      高崎計三

      1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。