3月11日から開幕している舞台『千と千尋の神隠し』。2022年3月からの初演で話題になった作品の再演ですが、今回、「ハク」役に加わっているのが、GENICのメンバーであり俳優としても活躍中の増子敦貴さんです。そんな増子さんに、この作品の見どころや稽古でのエピソード、この後に国内各地とロンドンまで続く公演のことなど、いろいろと伺いました!
神様の役だけに、稽古でのハプニングも“魔法”で乗り切った!?
──このインタビューの時点で7公演を終えた状況ですが、ここまではいかがですか?
増子 率直に、すごく楽しいですね。初日が明けるまで、正直プレッシャーがいっぱいで不安だったんですけど、始まってみたら演じる喜びの方が勝って、今は毎日新鮮に、世界観を楽しみながらハク様を降臨させてます。
──もともと、『千と千尋の神隠し』という作品はお好きでしたか?
増子 最初に見たのは3歳ぐらいの頃で、何度も繰り返し見てましたね。
──そんなに見ていた作品の役が回ってくるなんて、なかなかないことですよね。
増子 そうですね。回ってきたというよりもオーディションだったので、そこで掴めたのはうれしいです。
──では、ハクについては演じる前から知り尽くしてるぐらいの勢いだったのでは?
増子 いえいえ。姿勢だったり、ムダな動きを極力なくすとか、指先の動きまで意識するとか、立ち振る舞い含めた役作りについてはいろいろ考えました。
──映画の中では千尋が10歳、ハクは神様なのでハッキリしませんが、見た目は子供ですよね。。そこについては?
増子 何よりも千尋との身長差があって、そこはどうしても……「身長を縮めたいな」とは思ったんですけど、なかなか縮まらなくて。一応、やってはみたんですけどね。
──何をやったんですか?(笑)
増子 おまじないを。「身長小さくなーれなーれ」みたいな。でもなりませんでした。
──それでなっても困りそうですけどね(笑)。
増子 そうですね(笑)。まあそこは、声色とか声の質、千尋との距離感とかでうまくハクと千尋のバランスがよく見えるように、努力はしました。
──では今回、ハクを演じるにあたって一番意識したことは?
増子 「神様」だというところには、すごくフォーカスを当てました。千尋と並んだ時に「人間2人」ではなく、僕はあくまでも川の神様だということ、言ってみれば神々しさをすごく意識しました。千尋が、神様とかいろんなものがいる世界に迷い込んだ感を出すにはそれが一番いいと思うし、その中で、神様だけど「千尋を守ってあげたい」という思いだけがこぼれるぐらいがいいんじゃないかと思って、「神様」というキャラクターについてたくさん研究しました。
──その一つが、先ほど言われた立ち姿勢だったんですね。
増子 そうですね。姿勢については本当に意識しました。姿勢、所作、目線、顔の向き、シルエット、声。全部こだわりました。
──稽古はどんな感じだったんですか?
増子 今回は再演ということもあり、初演の皆様はもう形が出来上がっているので、まずはその形から入れていく作業でした。普通は、舞台の稽古だと最初に本読みをして、「じゃあ、台本を持ちながらでいいから、動きながらやってみよう」という感じで、とりあえず探り探り形を作っていくところから始まるんですけど、今回はもう形が出来上がっているから、その形を覚えてから、意味付け、理由付けを足していくというパターンだったので、初めてのことで難しかったですね。「どうしてハクはここで動くんだろう?」と疑問に思う場面もあったので。そういうところでは自分なりの解釈を取り入れつつ、新しいものを発信しながら作っていったという感じです。
──そこには再演なりの苦労があるわけですね。
増子 ジョン・ケアードさんが演出した形をまず覚えて、ひと通りやったら頭まで戻って、ジョンがまた変えていくところもあって。それにプラス・アルファ、自分が「こう動きたい」というのがあったらそれを発信して、ディスカッションしていって、っていう連続でしたね。
──増子さんはすでに舞台経験も豊富ですが、今までの中でも大変ですか?
増子 大先輩の俳優さん方がたくさんいらっしゃるので、正直プレッシャーはありましたが、学ぶことも多くて楽しいですね。
──稽古期間のエピソードなどは?
増子 千尋におにぎりを渡す場面で、おにぎりを落としました。
──あの大事な場面で!(笑)
増子 「お食べ」って言う前にコロコロ……って転がっちゃって。とっさだったので、魔法で除菌しました。
──えっ、魔法?
増子 (魔法で祓うような手つきを見せて)土とかを魔法で除菌しました。
──魔法とかおまじないとか……あ、おまじないは通じなかったんでしたっけ(笑)。
増子 でも魔法は使えるんですよ。神様だから。おまじないは僕なのでできなかったんですけど、除菌の魔法はハクなので、大丈夫なんです。
──それはどうなんでしょう?(笑)
増子 いや、僕もどうかなとは思ったんですけど。
──思ったんですね(笑)。ところで、稽古では同じハクを演じる醍醐虎汰朗さん、三浦宏規さんとは会っていたんですか?
増子 お2人はすごくお忙しくて……こたくん(醍醐)は何回か稽古に来ていたんですけど、宏規君とは1回も会えなかったですね。幻のような存在でした。こたくんは初演で経験されているので、稽古はほとんど僕が受けていました。
──他の人が演じるハクは意識するものなんですか?
増子 お二人とも素敵だなとは思いますけど、意識して引っ張られすぎるのはよくないので、オリジナリティー重視で挑みました。
目の前に広がる『千と千尋の神隠し』の世界観にドップリ浸ってほしい!
──稽古の間は共演者の方々とはどんな雰囲気でしたか?
増子 とても温かいカンパニーで、アンサンブルやプリンシパルの皆様も全員優しい方たちばっかりで助かってます。千尋役の4名の方(橋本環奈、上白石萌音、川栄李奈、福地桃子)もリスペクトできるところが本当に多くて、初演のお2人(橋本、上白石)はもちろん新キャストのお2人(川栄、福地)も、1人1人がものすごく頼れる座長なので、“四天王”みたいな感じですね。現場を引っ張って下さっていて、本当に尊敬してます。それと、僕がこの業界の中で一番憧れているのが三浦宏規君なんですよ。会いたいと思ってたんですけど、彼はなかなか忙しくて。
──三浦さんはロンドンだけだから稽古でも会えなかったわけですね。稽古の空き時間などで共演者の方々と交流などは?
増子 千尋役の方々は本番同様稽古もでずっぱりなので、ほとんどお話はできてないですね。ただ本番中の楽屋で、一幕と二幕の幕間の時に、千尋に何かを差し入れするというのにハマっています。ひとつ面白かったのは、萌音ちゃんに差し入れしようと思って、ケータリングのところに置いてあったエナジードリンクを「萌音ちゃん、お疲れ様です! 差し入れ持ってきました! 二幕も頑張ってくださいね!」って持って行ったら「あ、それ、私が差し入れしたヤツだ!」って言われて(笑)。
──グルグル回しちゃったわけですね(笑)。
増子 あと、こないだは栄養ゼリーを買って持っていきました。次回は何にするか考えないと。
──3月30日までが東京公演で、増子さんは4月半ばから6月頭にかけて名古屋、福岡、大阪、そして6月後半から7月にかけてはいよいよロンドンと、続いていきますね。
増子 ロングランですよね。体調管理だけは怠らず、毎日、万全の状態で舞台に立てるように頑張りたいなと思ってます。
──体調管理のために、何か気をつけていることは?
増子 初日とかはアドレナリンが出てますけど、それを切らさないようにしていきたいなと思ってます。アドレナリンずっとドバドバでいきたいなと。
──それも大変じゃないですか(笑)。
増子 大変ですけど、お客さんにとっては毎日が初日ですから。アドレナリンとかって、持っていても消えてしまうものなので、持ち続けたいなと思ってますね。そうすれば私生活も自然に健康でいられると思うし、とりあえず作品への準備は、怠らないようにしていきたいですね。
──以前、GENICの皆さんに取材させてもらった際、「ツアー期間を乗り切るために必要なものは?」という質問に、増子さんが即答した答えがあったんですが、覚えてますか?
増子 「肉」ですよね?
──その通りです!
増子 覚えてた(笑)。肉も含めて、食はとっても大事にしてますから。と言っても、食べたいものを食べるだけなんですけど。その中でも肉はエネルギー源として一番いいなと思うので。
──では今回も?
増子 今回は……どっちかというと主食かな。脳を動かし続けないといけないので。
──なるほど。これから巡業で回る土地で、楽しみにしていることは?
増子 まず名古屋は、「味仙」というお店で台湾ラーメンを食べます。福岡は、もつ鍋を食い漁ります。大阪は、西中島南方の「人類みな麺類」というラーメン屋に行きます。過去、テニミュでも行ったんですが、行列が出来ていたのと営業時間がギリギリで食べられなくて。今回は必ずリベンジします!
──各地で具体的にあるんですね(笑)。
増子 ロンドンは……「生き延びる」。生きて生還できるよう頑張ります。
──ロンドンって、そんなに怖いところでしたっけ?(笑)
増子 僕はリュックサックごとなくしちゃうタイプなので、野垂れ死にしないようにしないとと思って。
──他の皆さんとはぐれないようにしてください(笑)。
増子 はい。「迷子にならないように見張っててください」って、今度皆さんにお声がけしてみます。
──ロンドンは初めてですか?
増子 初めてですね。楽しみです! 検索して、行きたいところとかを調べておこうかなと思ってます。どこかオススメとかありますか?
──いえ、僕は行ったことないので(笑)。パッと思いつくのはビッグベンとか……。
増子 ああ、ありますね!じゃあ向こうで写真撮ったら、Xに上げますね。ぜひチェックしてください。
──分かりました! さて、今回の作品、見に来るお客さんにはどう楽しんでほしいですか?
増子 「千と千尋の神隠し」の世界が目の前にあるという感覚で、アニメを見ている時よりも世界観にドップリ浸ってほしいし、舞台ならではの臨場感とか、キャスト1人1人が織りなして作り出される物語をただただ楽しんでほしいです。その中のスパイスの一つとして、僕がいい意味で生かされていたらなと思いますね。複数回来られる方は、キャストの組み合わせが違うと、お芝居も全然違ったりするので、そういう細かい変化も楽しんでもらえたらと思います。
──その中で、ハクのここを見てほしいというポイントは?
増子 ハクが龍になるシーンは見どころです。おにぎりの場面から龍になるシーンがつながってるんですけど、そこをしっかり見てほしいですね。
──今回も大きな仕事ですが、この先はどうしたいですか?
増子 仕事に大も小もないと思って頑張らせてもらっているので、そこの価値観は大切にしつつ、自分にとってレベルアップになる作品にたくさん出会いたいですし、その一つとして朝ドラだったり大河ドラマだったり、自分の出たいものに少しでも近づける努力をしていきたいなと思っています。
──それが早く実現することをお祈りしています。ありがとうございました!
舞台『千と千尋の神隠し』
●日本公演
https://www.tohostage.com/spirited_away/
●ロンドン公演
https://www.spiritedawayuk.com/
<公演スケジュール>
2024年3月11日(月)~3月30日(土) 【東京】帝国劇場
2024年4月【愛知】御園座
2024年4月~5月【福岡】博多座
2024年4月30日(火)~8月24日(土)【ロンドン】ロンドン・コロシアム
2024年5月~6月【大阪】梅田芸術劇場メインホール
2024年6月【北海道】札幌文化芸術劇場 hitaru ※増子敦貴の出演はございません
【増子敦貴 X】
https://twitter.com/atsuki_mashiko
【増子敦貴 Instagram】
https://www.instagram.com/atsuki_mashiko
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ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。