ニューアルバム『+11 Hours』をリリースしたUKのアーティスト、コナー・メイナードさん。2012年のデビューアルバム『Contrast』は全英チャート1位を獲得。2020年からはメジャーレーベルを離れ、インディーズで活動しています。今作の収録曲は、昨年末に経験したオーストラリア人女性との困難な別れからインスピレーションを得て制作されたもので、タイトルの『+11 Hours』はロンドンとシドニーの時差から取ったもの。このインタビューではアルバム全曲解説を中心に、いろいろと伺いました。
「別れを作品にするのは辛い面もあったけど、セラピー的な役割も果たしました」
──メジャーレーベルから独立してからは初のアルバムになりますが、制作の過程は大きく変わりましたか?
コナー そうですね、だいぶ変わりました。今までよりもさらに、全ての工程に携わっているというか。もともと僕は曲も書いてたんですが、さらに曲の全体に関わるようになったし、プロデュース面に関しても、最終的な工程でプロデューサーと一緒に座って作業に携わっているので、クレジットにも自分の名前が入っています。
──作業量が増えたという面はあると思いますが、逆にメジャーレーベルを離れてよかったと思うことは?
コナー 一番いいことは、印税を分けなくて済むことですね(笑)。あとは、全てをコントロールできるというところがいいです。企業と一緒に何かをやる時というのは、自分自身はやりたくないことでもやらないといけない場合があります。それで結果的にうまくいかなかった時に、「本当はやりたくなかったのに……」というモヤモヤ感が生じたりしますが、それも同時になくなりました。やっぱり全てが自分の手の上にあるというのはいいことで、もしもそれで物事がうまくいかなかったとしても、自分の誠実な選択肢の上で判断してそうなったんだったら納得できますから。
──では、この先も今の体制でいきたい?
コナー 100%そうですね。特に今はSNSがものすごい影響力を持つ時代なので、TVでの露出やラジオでのエアプレイをレコード会社に委ねないと何もできないというわけではないですから。もともとSNSのコンテンツも自分で作っているし、他の人に委ねたくないというのもあるので、100%このままインディペンデント・アーティストとして続けていきたいと思っています。
──ニューアルバム『+11 Hours』についてお聞きします。今作はご自身が経験した辛い別れを元にした作品が並んでいますが、そのことを思い出して歌にする作業自体が辛いものではなかったのでしょうか?
コナー もちろん辛い時もありました。でもある意味、自分の気持ちを整理するという意味で、セラピー的な役割を果たしてくれたという面もあります。そのプロセスを通して気持ちを解き放つことができたというか。大変ではあったんですが、だからといって友達と毎晩飲みに行って大変なことになってしまうよりは、その思いを美しい曲に仕上げることの方が、よほど生産性があって、正しい選択だったんじゃないかなと思っています。
──歌詞の内容からは、アルバム全体が暗く沈んだ雰囲気になりかねないですが、実際にはそうなってはいません。曲調、サウンド面で意識したことは?
コナー リアルな別れ、別れた後の気持ちを表現したかったんです。別れた後って、いつもいつも暗く落ち込んでるわけじゃなくて、時には「もう大丈夫! 僕はもう乗り越えたし、力強く生きていけるんだ! この先の光も見えてる!」という気持ちになることもありますよね。でも時には、すごく悲しくて、相手に会いたくて切なくなることもあります。またある時は、もう二度と話したくないし、顔も見たくないと思うことも。その感情の幅全てを、このアルバムで表現したかったんです。だから、アルバムを聴いて「沈んでいるだけじゃない」と捉えてもらえたのは正しいし、意図的にそうしたというのはあります。
──ご自身の経験、それも最近の経験を一作のアルバムにまとめて、世界中に向けて放つ直前の今は、どのような心境ですか?
コナー わりといい気分ですよ。すでに収録曲から3曲はシングルとしてリリースしているんですが、聴いてくれた方たちからはすごくいい反応をもらっているし、アルバムによってその物語の全体を聴いてもらえるということでワクワクしています。それに、音の部分でもみんなに聴いてもらいたいというところがすごくあって、今回はいろんなジャンルの音を提示しているので、その全体像を聴いてもらえれば驚いてもらえると思ってるんです。「あ、こう来たか」と。そういう点で、自分のアーティストとしてのいろんな側面を、皆さんに観ていただければと思っています。
──では、アルバムの各楽曲についてお聞きします。1曲目は「Intro」。これはロンドンからシドニーに向かう空港の音声ですよね?
コナー そうですね。その時に付き合っていた彼女がオーストラリアに住んでいたので、今後、自分の恋愛が広がっていくんだろうと思っていた、始まりの場面ですね。実際はそうはならなかったんですが、「今後は彼女の住むシドニーに行く機会が増えるんだろうな」という想像を象徴したイントロです。
──実際、シドニーには何回ぐらい行ったんですか?
コナー 実は、1回も行ってないんです。彼女がロンドンに来たことはあったんですが。
──あ、そうなんですね。そこから続くのが「If I Ever」ですが。
コナー そもそもアルバムの曲順は時系列に沿って並んでいるわけでもないんですが、この「If I Ever」からの3曲はシングルとしてリリースした順番になっています。「If I Ever」は、歌詞の最後の部分、「何でこんなことになったんだろう」「なぜ彼女はこんなことを僕にしたんだろう。全然理解できないよ」というところがこの曲全体を象徴していて、そこから「もしも僕が君と話したくて連絡したとしても、反応しないでほしい」という気持ちがこもった歌です。自分が弱くて、彼女に連絡をしてしまって、もしそこで何かが始まっても、もしかしたらまた彼女に傷つけられてしまうかもしれない。それは耐えられないので、連絡しても反応しないでほしいという思いですね。
──次の「By Your Side」は一転してビート感のある曲ですね。
コナー この曲はちょっと前、2021年に書き上げた曲なんです。でもその時は、どういう方向性に仕上げたいかが自分でも分からなくて、ノートPCに入ったままになっていて。アルバムの制作が始まった時に「ああ、あの曲があったな」と思い出して、もう一度チャレンジしてみてもいいかなということでまた引っ張り出しました。さっきも言ったように、アルバム全体を暗いムードにはしたくなくて、この歌詞も「もう大丈夫」という時期を歌ったもので、「終わったのは分かっているけど、僕はまだ君を愛しているし、何があっても君のことを思っているよ」という内容なんです。そういう時もあったということで(笑)。
──4曲目は「Storage」。心の余裕をストレージにたとえた歌詞の表現が面白いなと思いました。
コナー 僕もこの曲の歌詞は、アルバム全体の中でも一番うまくできたと思っていて、自分自身、すごく大切に思っている詞ですね。ある特定の感情を歌ったもので……心が引き裂かれてしまって、愛する人もいなくなってしまったんですが、そうなる前は彼女のことについて、細部にわたって何でも記憶しておこうと思っていたんです。当時は他のことを何も考えられなくなるぐらいに、そういう思いで溢れていたんですが、別れてしまったからといって、その思いが消えてしまうわけではないんですよね。そうした思い出がストレージに残ってるんだけど、もうストレージが足りないから解放してほしい、そういう歌詞になっています。
──続く5曲目、「Enemies」は、「忘れるより、敵同士になって嫌い合えた方がいい」という、別れた後の感情の揺れ動きがよく表現されていると思います。
コナー この曲のアイデアは、彼女と別れてしまって、その気持ちをどう処理していいか分からないからこそ、お互いに敵意を持って、二度と口をきかない方がやりやすい、という思いから生まれました。確かに、この曲は一番辛かったポイントを綴っているところがありますね。最悪な出来事だったり、彼女がやったひどいことだったりについて語っています。
すぐにでも日本に行きたいし、日本のアーティストともコラボしたい!
──ここまでで半分の曲についてお聞きしましたが、この「別れ」というテーマについて、ご自身が聴いてこられた曲で思い浮かぶものと言ったら何があるでしょう?
コナー 例えば、マルーン5の「Wait」ですね。誰かと別れる時っていうのは、全てを言い尽くしてしまってこれ以上言えることが何もない、だけどまだ去ってほしくないから、ちょっと待っててくれと。そういう気持ちをすごくよく表した曲だと思うんです。だからこの曲は大好きですし、あとはジョン・メイヤーの「Slow Dancing In A Burning Room」。別れを感じてる2人をすごく詩的に表してるなと。それから、グリフの「One Night」。曲もカッコいいんですけど、歌詞が非常に深くて、別れた時の心境をすごくうまく言い表していると思います。
──実際、そういった「別れ」や「失恋」をテーマにした曲というのは、コナーさんご自身はお好きですか?
コナー そうですね、すごく好きかもしれません。別れの曲にはすごくパワフルな感情があるし、それはすごく大切な感情なので。特に、自分がそういう思いになった時に、癒やしになるので。
──では後半の曲に入ります。6曲目の「How Am I」はまた切ない歌詞ですね。
コナー そう、この曲はとても悲しいんです。曲自体は明るい感じなんですが。この曲は、アルバムのプロデューサーであるブレンダン・バックリーと一緒にロンドンのパブにいる時に生まれました。座ってくつろいでいる時に僕が突然、鼻歌でメロディーを口ずさんだら、彼が頭の中でアイデアを練り始めて。僕らが最初に考えた詞は「どうやってまた誰かを信じればいいんだろう」だったと思います。それは僕の思いそのままでした。僕の頭の中では全てが本当にうまくいっていたのに、突然、彼女が「もう付き合っていたくない」と言い出して、もう誰も信じられない気持ちになって。それに僕は、その理由が分からなかったんです。だから、「どうしたらまた同じことが起きないようにできるんだろう?」という気持ちになりました。どうすれば、誰かがまた僕にそんなことをしないって信じられるんだろう?って。
──次の「Dark Side」は? タイトル通り暗い曲ですが。
コナー これは、別れの最も深い思考に陥っている曲です。誰かに感情的になるとき、愛には“ダークサイド”があるという事実を受け入れることになるのです。また、別れた後に自分がしたことや、もっとうまくやれたのではないかと考え、混乱する様子も描かれています。
──8曲目は「I’m Here Forever」ですね。
コナー これは「恋の終わりを受け入れる」という曲です。この曲は、「まだ永遠に君を愛しているような気がする」というような、僕が経験した心境を表しています。だから、たとえ君がいなくなってしまっても、僕がここにいる、というような気持ち。当然その気持ちは永遠に続くものじゃないんですが。何というか……これは自分の選択ではなかったと認めているようなものなので、書くのがちょっと辛い曲でしたね。この関係がうまくいくことを僕は望んでいたのに、彼女はそうじゃなかった、そして僕はそのことに耐えなければならなかった。この曲は、自分にとっての新しい現実として、受け入れなければならない苦しみを経験するような曲です。
──9曲目は「A Different Way」。
コナー この曲は、恋愛において相手を信頼すること、しかし相手が嘘をついたら、その信頼は崩れるということを歌っています。将来的に欲しいものの話を共有すれば、関係性の中で相手に誤った希望を与えてしまい、結局は幸せになれないということです。関係をうまく維持していくために、相手との関係の中でいろんな話をしたり、いろんな行動をしたりするんですが、結局、それは常に救われないものでした。
──最後は「Outro」です。再び空港の音声ですね。
コナー イントロとアウトロは、アルバムにちょっとした背景を与えるものと考えています。ハッキリとしたものではないんですが、僕が思っていた未来を表現しています。このアルバムは、目の前で崩れ落ちるような未来の様子を描いたものです。僕はこれからの人生のほとんどを、シドニーへの往復に費やすだろうと思っていました。この女性と長い間付き合っていくことになると思っていたので。でも実際は、そんなことにはなりませんでした。だから、イントロとアウトロは、期待していたのに、結局手放さなければならないようなものを選んで表現したんです。
──さて、アルバム全曲を解説していただきましたが……日本でのパフォーマンスを見たいというファンの方も多いと思います。また、韓国ではSHAUNさんとコラボされて、ソウルで共演もされたそうですが、そのように日本のアーティストとコラボしたいという考えはありますか?
コナー もうずっと前から、日本にはぜひ行きたいという思いでいっぱいです。できれば、すぐにでも行きたいですね。それから日本のアーティストには才能豊かな人たちがたくさんいるというのも知っているので、ぜひ何か一緒にできればなと思っています。
──日本でお会いできる日を楽しみにしています。ありがとうございました!
『+11 Hours』
2023.06.09 デジタルリリース
【コナー・メイナード WEBSITE】
https://www.conor-maynard.com/
【コナー・メイナード TikTok】
https://www.tiktok.com/@conormaynard
【コナー・メイナード YouTube】
https://www.youtube.com/@ConorMaynard
【コナー・メイナード Instagram】
https://www.instagram.com/conormaynard/?hl=ja
【コナー・メイナード Twitter】
https://twitter.com/ConorMaynard
ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。