7月29日、大森靖子がデジタルシングル「シンガーソングライター」をリリースしました。
2000年代後半の音楽活動開始以来、自らの楽曲制作やライブ活動、大型フェスの出演、さらには道重さゆみら数多くのアイドル・ミュージシャンとのコラボレーションや、ほかのアーティストへの楽曲提供やプロデュースなど、精力的にアクションを起こし続けてきた大森。そんな彼女が今回自らの肩書きを冠した楽曲を発表したのはなぜか? また新型コロナウイルスの影響で活動を制限せざるを得なくなったこの春、なにをしていたのか? 幅広い話を聞きました。
新しくて豊かな日常を作り上げるための音楽活動とネット活用
――この自粛期間ってなにをなさってました?
大森 緊急事態宣言が出る前からライブはできなくなっていたんですけど、それによって空いた日には全部仕事を入れていました。YouTubeチャンネルでラジオ番組を配信してみたり、それまでは撮る予定はなかった曲のMVを作ってみたり。
――この状況に焦ったり、不安になったりはしなかった?
大森 ただライブが減っただけ、という感じというか。現場が減ったし、みなさん外出自体を自粛しているようだし、それならインターネットでの表現にちょっと力を入れてみようかな、と思って、毎日Twitterに弾き語り動画を上げたりもしていたし、けっこう忙しくしていた気がします。
――これはインディー時代から感じていたことではあるんですけど、大森さんってすごくタフだし、フットワークが軽いですよね。「ライブができないならネットを活用してみよう」とすぐにアイデアを出して実行している。
大森 ずっとやりたかったんだけど、音楽活動が忙しくてなかなかできなかった映像編集を始めたりもしています。
――そして実際に自ら編集したYouTubeラジオや弾き語り動画を発表した、と。逆に新型コロナ禍だからこそ、これはやるまい、と思っていたことってあります?
大森 いろんなミュージシャンがTwitterでやっていた、歌の動画をチェーンメールみたいに回し合う“歌つなぎ”バトンだけは絶対やらねえぞ、って思ってました。
「新型コロナ禍にある今だから、みんな特別なことをしよう」みたいなノリがあるじゃないですか。でも今の状況が特別かといったら……確かに特殊な状況ではあるものの、じゃあ新型コロナ禍以前の毎日が特殊じゃなかったかというと、そうじゃない。毎日なにかしら普通じゃないことが起こりえたし、実際起きていた。だから私は「こういう状況にあっても、また新しい日常、それも毎日を質の高いものにできる日常を淡々と作っていけたらいいな」と思っていて、ネットでもそういうことを伝えていきたいんです。
――だからこそ、バトンのような非日常的な“お祭り”に参加しなかった。ただ大森さんはいろんなミュージシャンと共演……つまり音楽を通じて積極的に誰かと連帯してもいますよね。
大森 それはある意味、私が勝手につながっていただけというか。たとえば「次はこの人たちにバトンを回したいと思います」ということで5人の友だちを指名することって、逆に言うと、ほかの友だちやフォロワーを仲間外れにすることにもなるじゃないですか。そうやって限られた誰かだけを特別な存在にはしたくないし、そもそもその人と自分の関係性についてなにも説明することなく「○○さんにバトンを回します」とだけ書くのって、ただ単に「おれ、この人と友だちだから」ってアピールしたいだけなのかな? というふうに見えちゃいますし。自分の好きな人のことを周りの人にも知ってもらいたいなら「これこれこういうカッコいい音楽を作っているから、○○さんのことが好きなんです」とちゃんと紹介したいし、逆に私もそうやって紹介されたいんです。5人の友だちのうちの1人という紹介のされ方も、なんで友情を感じているのかの説明すらない紹介のされ方はイヤなんです。
――ファンの方とも同じ感覚で接していますか? たとえば2000人キャパのライブハウスに出るときは「大森靖子対2000人のファン」という雑な向き合い方をするのではなく「大森靖子対1人のファン」という個別具体的な関係を2000個構築する感じ?
大森 昔からそれを目指しています。
――それもライブが開けない状況にあっても気持ちが揺るがなかった理由だったりします? ステージに上がれないならネットを通じて1人ひとりとじっくり向き合おう、という、いい意味での割り切りができたというか。
大森 確かにライブとネットという違いはあるけど、いつもと同じ感覚でファンと向き合えばいいんだなとは思っています。
大森靖子の考える、“大森靖子”と“シンガーソングライター”の関係
――今のお話をうかがった上で今回配信された「シンガーソングライター」の歌詞を眺めてみると、すごく示唆的ですよね。〈お前に刺さる歌なんかは 絶対かきたくない〉、〈共感こそ些細な感情を無視して殺すから〉と、まさに安易な共感や連帯を呼びかける最近のムードにアンチテーゼを投げかけている。
大森 でもこの曲って去年の秋にはすでにライブで歌っていたんです。
――そうなんですよね。だからあらためて聴かせてもらったとき、当時から今の状況を予言してたのかな? という気がしたんですけど……。
大森 さっきお話ししたとおり、以前からバトン的なつながり方はしたくなかったし、Twitterなんかで好きな曲について「刺さる」って書く人についても、そんなにたくさんいろんなものが「刺さ」ってたら死んじゃうよっていう気がしますし。
――そうしたら図らずも今の状況と重なってしまった?
大森 そういう感じかもしれないです。美意識に基づいて曲を書くと半年から5年後に評価されるという。
――いや、2010年前後のインディー時代にすでに「なんかすごいミュージシャンが出てきたぞ!」って界隈をザワつかせていたじゃないですか。
大森 うーん……。それはやっぱり界隈だけの話というか、私と近しい世界でお仕事をなさっている人たちがザワついてくれただけだと思っています。でも世の中には、界隈の人の見ているTwitterのタイムラインや私の見ているタイムラインとはまた別の、私たちの知らないタイムラインというものもたくさん存在していて。そのタイムラインを見ている人に曲が届くまでには、いつも時間がかかる印象はあります。「絶対彼女」(2013年発表)もリリース当時は「なに言ってるんだかわからない」って言われてたんですけど、2018年ごろになってようやく「『絶対彼女』みたいな女の子ってかわいいよね」って評価してもらえるようになりましたし。
――「シンガーソングライター」もリリースタイミングこそ時宜にかなったものの、世の中がこういうムードになるよりも前に作っていた。やっぱり半年早いわけですね。
大森 それについては私が新型コロナによって世の中の状況がガラッと変わったとは思っていないからでもあるんだと思います。もともと「シンガーソングライター」で歌っていたような状況って新型コロナ以前からあった気がしますし。そういうもともとあった問題や危機が新型コロナをきっかけに表面化しちゃっただけのことというか。だってたとえば政治のあり方って新型コロナ前から実は変わってはいないじゃないですか。
――政権が変わっていない以上、そのありようもそうそう変わらない。
大森 だけど新型コロナ対策をしなきゃいけない状況になって、それまで抱えていた悪いところや、いいところが剥き出しになっちゃった。そしてそれは政治にかんしてだけでなく、なにごとにおいてもそうなんじゃないかな、という気がするんです。
――それこそ大森さんが中高生だったころからバトン文化はあったように。
大森 あれもこれまでずっとみんなの中にくすぶっていた「ネットを通じて誰かとつながりたい」という気持ちが新型コロナをきっかけにあらためて表面化しただけですよね。
――その、誰もが安易につながりたがる様子を批評的に眺める曲のタイトルがご自身の職業名である「シンガーソングライター」というのも皮肉めいていて面白いですよね。「あれ!? じゃあ大森靖子は何者なんだ?」という話になりますから。
大森 確かに私はシンガーソングライターではあるんだけど、その肩書きにはすごく違和感を覚えていて。雑誌やWebの記事のプロフィールに「シンガーソングライター」って書かれていると、できれば変えてほしいなあと思っちゃいますし。
――自分で曲を書いて歌う活動自体はまさにシンガーソングライターそのものながらも、「刺さる」音楽を通じて聴き手と感情を共有しがちなカッコ付きの「シンガーソングライター」ではないというジレンマが生まれる、と。
大森 あとシンガーソングライターというと、自分のことを歌う人だと思われがちだけど、私は「私はこういう人間です」と歌っているわけではない。「自分の視点でそのときどきの空気を切り取りたいな」と思っているだけ。そういう意味でも周りの方と私のシンガーソングライター像に齟齬が生まれていて。その齟齬や苦手意識を自分なりに因数分解していったら、なにか見えてくるものがあるんじゃないか? と思って作ったのがこの曲なんです。
――その成果物である歌詞を読むに、シンガーソングライターという人って……。
大森 ロクな人間じゃないですよね(笑)。この曲は今度の冬にリリースする『Kintsugi』ってアルバムに収録しようと思っているんですけど、そのアルバムには不倫している人の曲とか、ギャンブル依存の人の曲とか、もうダメな人の歌しか入ってないですから。
――とはいえ、先ほどご自身もまたシンガーソングライターであるとおっしゃってましたよね?
大森 だから私もダメだ、ということです(笑)。
――ファンから「靖子ちゃんのこういう考え方が好き」「この表情が好き」みたいな肯定的な声ってたくさん寄せられていますよね?
大森 でもファンが言う私のいいところなんて一生歌詞にするつもりはないし、この表情が好きって言うなら、そんなショットは絶対に撮らないし、そんなMVは絶対に作ってやらんと思ってます(笑)。だってみんなが「いい」って言うものなんてありふれているし、無個性もいいところじゃないですか。「この表情の○○ちゃんが好き」っていうことは、その表情をした彼女の写真はすでにあるわけだから、あらためて撮る必要はないですよね。「それだったらお前がまだ見たことのない、私だけが知っているその子のいいところを見せてやる」っていう気持ちのほうが強いです。
――その「いいところ」のひとつが「ダメ」である?
大森 ダメなところって、ただダメなわけじゃないじゃないですか。たとえば「あいつは○○なところがダメだけど、××については信用できるからいいヤツだよね」っていう評価って、けっきょくその人のダメなところも含めて愛していることになりますよね。それがもっと認められる社会を達成したいな、という思いは常々あります。人ってもともとデコボコしていてグチャグチャでトゲトゲした存在だと思うんですけど、そのデコボコやグチャグチャやトゲトゲを、みんなしてヤスリでキレイに磨いて社会性100点みたいな存在ばかりが作りたがる世の中はつまらないですよ。みんながそれぞれいろんな形をしていたほうが絶対面白いはずですから。
――「シンガーソングライター」って、そうやって人の持つデコボコやグチャグチャも愛そうとする大森さんが手がけた曲だからか、言葉は強いけどむやみに攻撃的ではない。どこかチャーミングでポップに響きます。
大森 自分なりのデコボコと上手に付き合っていくのが人間だと思うし、みんなも推しや好きな人のことって、そのデコボコも含めて愛しているんじゃないの? という気はします。
――であれば「シンガーソングライター」のように、人のダメをもポップに表現できるのは大森さんならではの能力ではなく、実は誰しもができる可能性を秘めている?
大森 その自分の持っているポップネスを発揮するタイミングが時代の空気みたいなものにピッタリハマると、その人は今いる世界でヒットを飛ばせたりするんじゃないですか。
大森靖子の2020年下半期はどうなる?
――あと今作の編曲家は鈴木大記さんで、そのアレンジはドラム、ベース、ギター、ピアノといういわゆるロックバンド的な編成による、本当にロックバンド然としたものに仕上がっています。
大森 アレンジについては基本的にはアレンジャーさんにお任せです。
――だから大森さんのディスコグラフィには「シンガーソングライター」のような楽曲もあれば、「ミッドナイト清純異性交遊」や「絶対彼女」みたいな打ち込み全開の曲も並ぶことになる?
大森 これまで聴いてきた音楽がアイドルなので。アイドルってなんでも歌うじゃないですか。
――大森さんのディスコグラフィがバラエティ豊かなのは、モーニング娘。が「LOVEマシーン」と「One・Two・Three」と全然ジャンルの違う楽曲を歌うのに似ている、と。
大森 あと、レコーディングのときに与えられた環境の中でなにができるのかを考えるのが楽しくて。アレンジャーさんが作り上げたアレンジであったり、そのアレンジを受けたエンジニアさんが選ぶマイクであったりを見たり聴いたりしながら「あっ、こういうボーカルを求められているのかな」って想像しながら歌うのがすごく好きなんです。だからいろんなアレンジャーさんやエンジニアさんとセッションしたいんですよね。
――そして、その人たちなりのスコアやエンジニアリングに出会いたい?
大森 もう結婚しているし、子どももいるので恋愛の世界では冒険するつもりはないんだけど、音楽の世界ではしてみたいですね(笑)。
――そのいろんな人とのセッションの集大成になるであろうアルバム『Kintsugi』なんですけど、タイトルの由来は? 「金継ぎ」って割れたお茶碗を接着剤みたいなものでキレイにくっつける技術のことですよね?
大森 漆でお茶碗やお皿の破片をつないで、そのつなぎ目を金メッキで装飾するという。壊れれば壊れるほど、使い込めば使い込むほど美しくなるという感覚ってすごく日本的だし、人間も年齢を重ねれば重ねるほど美しくなると思っていて。でもやっぱり年を取れば常にキラキラできるわけでもない。どこか傷ついたりとか、以前よりは壊れやすくなったりもするじゃないですか。その人のありようがすごく「金継ぎ」的だなあ、ということでこのタイトルにしてみました。
――で、アルバムリリースも待ちどおしい、2020年下半期ってなにをしましょう?
大森 先行きが不透明もいいところなので、この春と同じ。状況に応じてそのときにできることを考えながら活動するしかないですね。……あとはそうだな、これまでずっと特になにかを語るわけでもなく、ガンガン曲をリリースして、ガンガンライブをやっていたので、ちょっと楽曲や私について解説したりしてみてもいいのかな、と思っています。
――あとプライベートではなにをしましょう?
大森 今はプライベートで使える力のパラメーターを子育てに全振りしちゃってるし、これから半年もそうなると思います。
――確かにSNSを拝見しているとお仕事かご家庭のことしかしてない印象があります。
大森 ホントにそれしかないです(笑)。
――ご趣味は?
大森 アイドルを観ることと……。
――道重さゆみさんと共演したりしているし、それももはや趣味ではなく仕事になっちゃってますよね?
大森 じゃあシールを貼ることと文字を書くことかなあ。最近、ちょっといい万年筆を買いましたし。
――その万年筆ではなにを書いてます?
大森 ファンクラブの会報の原稿とか?
――それ仕事ですよね?
大森 ホントだ! でもアイドルを観ることといい、文字を書くことといい、趣味がすぐに仕事になってるからラッキーな人生だな、と思ってます(笑)。
「シンガーソングライター」
2020.7.29デジタルリリース
「大森靖子2020♥️ハンドメイドホーム6♥️」
1♥️【アルバム「Kintsugi」リリース決定】
今年の冬、発売予定!お楽しみに!先行配信もあるかも!
2♥️【おやすみ弾語りand投げ銭デコチェキ】
すでに行われている毎日Twitterに撮り下ろしおやすみ弾語り動画がアップされる企画。投げ銭として、お気に入りの曲のデコチェキを毎週金曜18時にmu-moショップで購入可。
FC会員限定で、リクエストおやすみ靖子ちゃん動画が届く企画も。
3♥️【復活!大森靖子ミッドナイト清純異性交遊ラジオ】
YouTube公式チャンネルでラジオ番組スタート!アーカイブ有。たまに生放送もあるかも! #せいこりん
スケジュール:たぶん毎週火曜20時~
大森靖子YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCNOmXQPlJpFzLbe1Gymsy6w
4♥️【プレイバックラストイヤーライブ】
大森靖子の去年の今頃のライブを本人オーディオコメンタリー付き実況配信。みんなでみましょう。アーカイブ無し。さらにゲリラ視聴会もあるかも!お楽しみに!
スケジュール:毎月第2木曜日配信
チケット料金:777円(税込)
5♥️【大森靖子の続☆実験室@家】
ファンクラブ実験現場会員限定イベントだった実験室がオンラインで登場。
毎回最速解禁映像も一緒に見れる!
スケジュール:毎月最終木曜日20時~
チケット料金:1,500円(税込)
6♥️【シン・ガイアズ配信生ライブ】
次回開催をお楽しみに♥
【大森靖子オフィシャルサイト】
http://oomoriseiko.info/
【大森靖子Twitter】
https://twitter.com/oomoriseiko
【大森靖子スタッフ Twitter】
https://twitter.com/oomoriseiko
【大森靖子Facebook】
https://www.facebook.com/oomoriseiko?ref=hl
【大森靖子YouTube】
https://www.youtube.com/user/oomoriseiko
【大森靖子TikTok】
https://vt.tiktok.com/Uv6TuT/
【大森靖子オフィシャルファンクラブ「実験現場」ご入会随時受付中】
https://seiko-gkn.com/
【大森靖子】「THIS IS JAPANESE GIRL」弾語りイベントのライブ映像を公開!
【大森靖子】9/18発売ニューアルバム「THIS IS JAPANESE GIRL」収録楽曲より「だれでも絶滅少女」のミュージックビデオを公開!
“大森靖子生誕祭2024”より「VOID」のライブ映像を公開!
【大森靖子】9月18日(水)発売ニューアルバム「THIS IS JAPANESE GIRL」収録楽曲より「幸内炎」のミュージックビデオを公開!
【大森靖子】9/18発売ニューアルバム「THIS IS JAPANESE GIRL」収録楽曲より向井秀徳提供楽曲「桃色団地」のミュージックビデオを公開!
ライター
成松哲
1974年、大分県生まれ。フリーライターから音楽ナタリー編集部を経て、再びフリーライター。著書に『バンド臨終図巻』(共著。河出書房新社/文春文庫)など。