TSUYOSHI 3rd Album 『BEAUTIFUL』 Liner Notes
ついこの間、キャリアの長い音楽関係の方とひょんなことから邦楽のヒップホップを一緒に聴く機会を持つことがあった。その時にその方がこんなことを漏らしていた。
「黒人になりたい人って、根強くいるんだよねー」
これを耳にして“あー、この人、何も分かっちゃいないんだなあ”と痛切に思ったのと同時に、やれヒップホップだ、やれR&Bだといっても、日本では所詮この程度の認識なのかと侘しく感じられたのも事実だ。
ヒップホップも、R&Bも、無論黒人音楽に触れることなく語ってみようなどとは誰も思っていないだろう。だが、日本のヒップホップやR&Bがここまで成熟してこれたのは寧ろ「黒人のようにやれるハズがない」と悟ることで日本人だからこその表現や技術を丹念に磨き上げてきたからに他ならない。
TSUYOSHIが目指してきた方向は一途にR&Bである。これまでに彼がリリースしてきた作品を振り返れば、彼の表現主体に一切のブレがなかったことは手に取るように分かる。だからと言って、彼の音楽がU.S.のR&Bに対する憧憬を無謀に準えたものだったり、本場のR&Bなるものを利己的に模倣したものだったり、つまりは黒人音楽に感化され、その衝動だけをエネルギーにして作られたものではないことは明白である。
TSUYOSHIのR&Bには如何にも日本人らしい情景や情愛に満ちている。歌詞の世界観もそうなら、その余りに美しい歌心と、一衣帯水のような歌い口もそう、だ。
ただ、誤解してほしくないのは音楽がR&Bである以上、テクスチャーは求められる。そしてそれは常にU.S.のR&Bに照らしあわされることで、R&BがR&Bとして成立する。こうした感覚もTSUYOSHIには天才的なものがある。(1)の”Neo Sparkle”では流行の兆しを見せる80sのディスコ~ブギーを早速TSUYOSHI流に粋に演じてくれているが、このテクスチャーの取り入れ方などはその典型と言ってよいものである。その一方で、タイトル・トラックの(10)”Beautiful”などはまるでメイヤーホーソンも羨むような、リズム&ホーン・アレンジはまるでトム・トム・ワシントンが手掛けたかのような全編ライヴ・インストルメンツによるlate 70sなソウル・チューンに仕上げられており、MAZEにも一派通じる、これは圧巻と言うより他にない1曲となっている。そして、そこまでひとまず固めておいてから、TSUYOSHIにしかできないもてなしをたっぷりと味あわせてくれる訳で、それは決して「U.S.のR&Bに対する憧憬を無謀に準えたもの」でも、「本場のR&Bなるものを利己的に模倣したもの」でもない、彼だけの”リズム&ブルース”なのだと僕は思う。筋骨隆々なサウンドにパーカッシブなヴォーカルを乗せた名曲”For Real”を彷彿とさせる(4)”Famme Fatale”や、その滑らかな歌い口がヴァ―スが始まるや否や耳を掴んで離してくれない(6)”きみの忘れもの”、口数は多くなくても逞しく包容できる男の心の有り様を伝える(8)”そう、君はひとりじゃない”、殊更スウィートに彼ならではのロマンティシズムを綴る(3)”Always”など、レパートリーは相変わらず逸品が揃う。
アルバム3枚目を数え、一層熟成を見せてくれたTSUYOSHIのR&B。日本人としての真のクリエイティヴィティとは果たして何なのか。そんな思いも改めて呼び起こしてくれた大作の誕生を喜びたい。
(JAM)
収録内容
1.DISC 1
- Neo Sparkle
- Love You Better
- Always
- Femme Fatale
- Secret Lovers
- きみの忘れもの
- Chu Chu feat. 大神:OHGA
- そう、君はひとりじゃない
- 夏の調べ
- Beautiful
形態数:1