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【KEIKO】いろんな主人公がいる短編集みたいなアルバム『CUTLERY』

2023.02.06
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インタビュー
ソロシンガーとしては3枚目となるアルバム『CUTLERY』を2月8日にリリースするKEIKOさん。さまざまな作家の楽曲に挑んだこのアルバムで、彼女が表現しているものとは? タイトル、曲順、そしてそれぞれの曲に込められた意味とは? いろいろと伺ってみました!


「『CUTLERY』の意味は調べてほしくない!」って?
 

 
──KEIKOさんはこのavex portalコラムには2020年12月以来、2回目のご登場となります。前回は1stアルバムが出る時で、「ソロ活動には全然慣れない」とおっしゃっていたんですが、さすがにもう慣れましたよね?
 
KEIKO そうですね、1人でいることには慣れました(笑)。
 
──そこからほぼ1年に1作という感じでアルバムが出ていますが、これはご自分に合ったペースなんでしょうか?
 
KEIKO 早いですよね。Kalafinaの時も1年に1作というペースで、驚異的な早さだったんですよ。それを経験していたので、同じ感じかなとは思いましたけど、普通に考えたら「早いな」とは思います。
 
──ただ、ファンの方からするとこのペースはすごくうれしいですよね。
 
KEIKO そうですよね。人間みんな飽きっぽいですし、自分も含めて変化を探すものなので、新しいシングルとか楽曲って、お互いワクワクしますよね。大変だけど、すごく楽しくて刺激的ではあるなと思います。
 
──そこでまずアルバムタイトルの『CUTLERY』なんですが、日本語にしづらい言葉ですよね。
 
KEIKO そうなんです! このタイトルはたくさん候補を出してもらった中から選んだんじゃなくて。コロナになってUberEatsとか頼む人って増えたと思うんですけど、あの注文画面の下に「カトラリー選択」っていうのがあって、あれを指定しないとカトラリーって入ってこないんですよ。たぶんコロナになって「カトラリー」という言葉を知った人が増えたと思うんですよね。日本語の直訳だと「刃物」とかになっちゃうんですけど、今までは「洋食器」ぐらいの認識だったじゃないですか。それがコロナの時期にみんな、特に男性が「カトラリー」という言葉を知ったというのは、時代が本当に変わった瞬間だったんだなと思って。
 
──ああ、確かにそうですね。
 
KEIKO 日常的に使うお箸とかフォーク、スプーンとかなんだけど、でも「カトラリー」っていう、みんなが知らない言葉で呼ばれていて、日常的なんだけどちょっと特別感のある雰囲気ですよね。そういう言葉がほしかったんですよ。「日常に溢れていて、みんなが常に使っているもので……『歯ブラシセット』みたいなヤツだよ!」って(笑)。でもアルバムのタイトルにはできない。私のアーティスト・イメージとして「歯ブラシセット」はないじゃないですか(笑)。もうちょっとオシャレなもので、女の子がキュンとするもの……という言葉を探していた時に、「あ、『カトラリー』がいい!」となって、即決でしたね。私はUberのイメージでしたけど(笑)。

──目的にピッタリの言葉が見つかったわけですね。確かに、辞書で調べると「刃物の総称」とかって出てくるので分かりづらいですが……。
 
KEIKO そう、調べないでほしい! お願い、皆さん調べないで!(笑)
 
──分かりました(笑)。今回のアルバムには、昨年7月からの6ヵ月連続配信の曲が収録されています。それも含めると、この1年というのはかなり慌ただしかったのでは?
 


KEIKO 梶浦由記さんのツアーが毎年夏に行われていて、その中で制作をしていた形だったんですけど、今回は配信という形があったので、「アルバム制作」としてまとまった作業ではなくて、今年のKEIKOの音を1ヵ月ずつ作っていくという感じで、一昨年とはずいぶん違ってたんですね。ツアー中というのもあったので、一昨年以上にあっという間だったなと感じました。
 
──アルバム全体の構成としては、新曲で始まって2曲目から配信の曲が並び、その後また新曲3曲が続いて、締めが配信の1曲目という形ですよね。この意味というのは?
 
KEIKO 曲順はすごく悩みました。連続配信している時に、配信のリズムみたいなものもあるじゃないですか。全体のバランスを考えつつ、ちょっとみんなの期待を裏切るものを入れてみたりとか、ちょっと安定なものに行ってみたりとか。待っててくれているリスナーの方との心理戦みたいなものが毎月あって(笑)。「次は何が来るかな」みたいな。その空気感を完璧に壊した曲順にして、一つのアルバムとして構成し直した方がいいのか、それとも去年1年間の配信の流れをうまく入れて作った方がいいのか、そこでまずすごく悩んで。でも結果こうなったのは、曲順を決めていた時に、今回はいろんな作家さんが制作してくれている中で、いろんな女性像、いろんな主人公のカラーがあったんですね。でもどこか日常にいるような人物像があったので、できれば聴いてくれる人の日常感で決めようかなと思って、電車に乗ったり散歩したりしながら、各曲をエンドレスでリピートして聴いていって、「最終的に心地よいところはどこだろう?」ということで曲順を決めたんです。
 
──実際に日常生活の中で曲を味わってみたわけですね。
 
KEIKO そこで「あ、やっぱりこれまで配信してきた流れというのは悪くなかったんだな」ということに気づいて、それがあったからこその他の曲たちの制作でもあったので、じゃあこのまま上手に行きたいなとは思いつつ、パンチがほしかったので、1曲目にそういう曲を入れて、あとは配信の流れにということで落ち着きました。

──1曲目の「私アップデート」は確かにパンチが効いています。
 
KEIKO 何かほしかったんですよ。プロデューサーの与田春生さんとも「『Alcohol』よりも意外性のある、刺激的なオープニングにしたいね」という話をして、この曲に決めました。
 
──バンドサウンドに乗ったアップテンポの楽曲は、1stアルバム『Lantana』の1曲目「Be Yourself」を思い出しました。ここぞという時にはこういう楽曲がほしくなる?
 
KEIKO あーそうですね、気合いが入るのかな?(笑) 自分でも分かんないんですけど、でも自分がアルバムを聴いている時も、退屈だと流しちゃうんですよね。音楽って刷り込みじゃないですか。よく聴いてた曲とか馴染みのある曲が序盤にあるとみんな安心するけど、スタートがまったりすると流しちゃう傾向が私にもあるから、スタートの3曲ってけっこう大事だなって思ってて。わりとサッと流れていくような感じにしたいなと思ってこの曲にしました。
 
──確かに、1曲目が「私アップデート」で始まるのと、「Alcohol」で始まるのとでは、アルバム全体の印象はまるっきり変わるでしょうね。
 
KEIKO 私もそう思って、プロデューサーと相談して。「どうかな? やりすぎかな?」とか「『Alcohol』の方が無難でいいかな?」とか(笑)。私自身、突拍子もないことができない性格で、ついつい無難にまとめたがるというか、キレイなところ、美しいところに落としたがる傾向がいつもあって。
 
──そしてこの「私アップデート」は、特に歌い出しの部分、すごく難しそうですね。
 
KEIKO 難しいです! 全体的に、本当に言葉が多い曲で。今のJ-POPって特に言葉が多くて、音符が入っているというより言葉が入っているという感じじゃないですか。私は意外にそういう曲を歌ったことがなくて、どちらかというと白玉中心というか、1音が長かったり、短かったとしても3連のワルツのような、そんなドラマチックなものが多くて。
 
──ですよね。
 
KEIKO 制作としては「Alcohol」が早かったんですね。たぶん「Alcohol」が歌えてなかったら、「私アップデート」はプリプロで仮歌入れさえもしなかったと思います。それぐらい、2022年の制作で歌えるようになった曲だという感じです。だからこの曲自体は最後の方に収録しました。
 
──サウンドも風変わりで印象的ですが、歌詞がまた、これまでのKEIKOさんの印象からは離れているというか。
 
KEIKO そうですよね。私の中では今回のアルバムの中でこの主人公だけ年齢が若くて、大きなひとり言を言っているという感じで(笑)。時代なのか、みんなつぶやきたがるというか、自分の意思を主張したいんだけど、「でもどこで言おう?」というところがどこかあって。表現者として何かを発していたい、そのトゲトゲ感がすごくいいなと思っていて、私としては自分の中で自分を壊していくインパクトのようなものに、この曲がなればいいなと思ってます。
 
──ちなみに歌詞にはエゴサ的な言葉も出てきますが、ご自身はエゴサしたりされるんですか?

KEIKO 私は気分屋なので、する時はするんですけど、携帯すら一切シャットダウンしちゃう時もあるんです。見ない時にはSNSもログアウトしちゃうぐらい極端で。たぶん自分のメンタルが大丈夫な時は見るし、だいじょばない時は見ないようにしてます。メッチャ守ってます(笑)。
 
 
「安い酒」が似合う? 自己認識と周りからのイメージの違いとは?
 
 

──2曲目が、先ほどもお話に出た「Alcohol」です。昨年8月、連続配信の2曲目として出された曲ですが、なかなかセクシーな歌詞で。
 
KEIKO そうですね。「私、お酒飲めないのに『Alcohol』かぁ」とかって笑ってました。でもプロデューサーとかは「何かいいんだよ」「KEIKOっぽいんだよ」って言ってて、「ホントに?」みたいな。
 
──周りからのイメージはそうだと。
 
KEIKO そうみたいです。うれしいんだかうれしくないんだか、複雑でしたけどね。全く掴ませに行かない感じ、「スンッ」ってそっぽ向いてる感じが、サビの中でずーっと歌われてるんですけど、「そういうところが、ほら、KEIKOじゃん」とか言われて。「あ、うん……。じゃあ歌うね」ってレコーディングに入ったんですけど(笑)。
 
──そうですか(笑)。
 
KEIKO 作家さんも、仮歌からフルになる時に歌詞を変えてくるのかなと思ったら、「歌詞は全部変えません」って。全部、変えないんだ…こだわり方、素敵だな。「Alcohol」というタイトル通り、浮遊感を表現したいなとは思いました。
 
──お酒がテーマの歌はたくさんありますが、「安いお酒飲み干して」と、わざわざ「安い酒」を歌うのも珍しいなと。
 
KEIKO そうですよね! そこは作家さんのこだわりでした。歌友達で、私のことを長く知ってくれている人から「KEIちゃんっぽいところもあるけど、『安い酒』とか、チョーKEIちゃんっぽくないじゃん?」って言われて、「それもまたどういうこと?」って(笑)。そもそもお酒飲めないし、その時点で裏切りだし。だから、人から見られる印象と自分の本当のところって、私に限らずみんな違うじゃないですか。だけどこの仕事をしているからこそ、そういうことを言われるし、自分も出していくから、この「Alcohol」に関しては、いろんな人たちからいろんなツッコミをされました。安い酒も飲みますし。もはや自分が何なのかわかんなくさせた曲ですね。

──そうですか(笑)。配信当時、ファンの方の反応はどうでしたか?
 
KEIKO 「斬新すぎて、“こう来るか!”と思った」って言われましたね。でも昔から私のことを知ってくださっているファンの方は「こういうのが聴きたかった!」って言うんです。「ソロでは型にハマらずもっと掘り下げてほしい」という思いがあったのかもしれません。こういうニュアンスものというか、ながら聴きできるような軽めのものを、ファンの人は「新しい!」と思ってくれたみたいです。
 
──3曲目は「夜の嘘と」です。先ほど「主人公」という言葉が出ましたが、この曲の主人公は別れにあたっても気丈さを装っていますよね。この主人公には共感していますか?
 


KEIKO 今回は1曲ずつ作家さんが違うことによって、その主人公たちのことをどこまで想像して妄想するかというのがすごく楽しくて。作品に入り込むというのは昔からすごく好きな方なんですね。自分が書いているわけじゃなくても心が共鳴する瞬間って、いろんなところにあると思うんですけど、どの曲も入り込むのがすごく楽しいという制作で。この曲も夜1人でいる時間の時に、自分が触られたくない、大事にしている思いみたいなものを呼び覚ましてくれるような曲だなあと思って……あんまりそういうのはオープンに出してきてないんですけど、曲によって出すきっかけをもらってるなあと思いました。同性でも異性でも、大事にしまっておきたい人っていうのはあるなあ……そうだよなあ……と思いながら歌ってました。

──なるほど。こうやって1曲ずつ伺っていると、このアルバムって短編集みたいな感じですね。
 
KEIKO はい、そうなりました(笑)。全部が全部、みんなが共感できたわけじゃないとしても、その中のどこかの切り口は思いを寄せやすかったりするっていう、そこを目指しました。結局、みんないろんなことを消化していく中で、自分のことは自分しか分からない、最終的には他人には分かってもらえないというところに行き着きながら、みんなちゃんと生活を回していくと思うんですけど、でもどこかで共感できるポイントがある人とそばにいたり、一緒に音楽を聴いたり、映画を見たりするわけで、何かそこのポイントを突ければいいなと思って、いろんな主人公を歌ってみたいなと思ったというのも、一つあります。そういった意味では、この「夜の嘘と」の主人公はすごく丁寧な女性だなと思いました。
 
──それでいくと、4曲目「キライ。」の主人公はどうですか?
 
KEIKO 「キライ。」の子、大好きなんですよ!(笑) 私は、周りに結婚してる子が増えてきたんですけど……まだ日本には「結婚適齢期」って言葉が残ってると思うんですけど、その頃って女子界隈はザワザワし出すし、「あの人、超有望株だね!」って人のことを株みたいに言い出すし(笑)、ハチャメチャなんですよ、女子たちって。でも世代がどんどん若返ってるというか、昔だったら30代だったのが、今は10代20代の子たちでももう将来を考え出してるというか。夢を見ないというか、リアリストが増えてるということだと思うんですけどね。私は「キライ。」の歌詞を見た時に若い層だという感じがしたんですけど、歌詞的には30代みたいな感じもあるし……みたいな。すごく女性の像が幅広いなと思ったので、ながら聴きできる、違和感がない歌にしたいなと思って。
 
──違和感がない歌ですか。
 
KEIKO それこそ今のTikTok世代とかにとっての、何かしながらの音楽というか、耳障りにならないけど、「あ、メロいいな」みたいな、そんな歌唱にしたいなと思って。この主人公が好きだからこそ、歌う言葉に違和感がない歌唱にしたくて、悩んだんですが、結果最終的には難しく考えずに歌いました(笑)。

──そこに行き着いたと。
 
KEIKO そうなんです。それで、初めてセリフがある曲だったので、はじめはそこに「ウッ!」となって抵抗があったんですけど、最後にレコーディングする時は普通の歌詞を歌うところとあんまり変わらない感じでしゃべれました。この曲はいろんな面で新しさをくれた曲でしたね。「渋谷発内回り」とか「新宿で丸の内乗って」って、東京生まれ東京育ち的には毎日接する景色ですしね。歌詞も、ワンコーラスだけだった状態からあまり変えないでもらって、「この形のままフルコーラスが歌いたいです」ってオーダーをさせてもらいました。
 
──歌詞を読むと、漢字が多いですよね。「四面楚歌面食らい」とか「五臓六腑に直撃」とか。
 
KEIKO 多いんですよ。ちょっと韻を踏んでるところとか言葉遊びもいっぱいあるので、音が軽快で楽しいんですよね。「軽く歌いたいなあ、女子のいろんな悩みを」みたいな感じで。内容は軽くなくて、夜な夜な考えるべきことなんですけどね(笑)。それをあえて軽~く歌いたくて。
 
 
主人公のことが大好きな曲、逆に嫌いな曲はどれだ?
 

 
──逆に軽くないのが、次の「Close to you」ですよね。
 
KEIKO そう、ここでふんわり、大人~な感じに戻しました。
 
──正統派バラードという印象です。
 
KEIKO 私もそう思いました。作家のCarlos K.さんともお話させてもらったんですけど、実は2ndアルバム『dew』の時にもトライさせてもらってる曲なんですよ。ワンコーラスだけだった時点では、後半にかけての壮大な広がりがなかったので、「終始優しい曲だなあ」と思っていて。ダイナミックな感じの歌詞とか展開じゃないからこそ表現するのが難しくて、去年は寝かせたんだと思うんですよね。
 
──なるほど。
 
KEIKO アルバムって、流れってあるじゃないですか。フッと息をつく時間をくれる曲になるなと思って、そういった意味合いも含めて「今年だな」ということで、最後まで仕上げました。

──「キライ。」と、次の「天邪鬼」との間で、うまく収まっているというとアレですが(笑)。
 
KEIKO ホントに「収まってる」んですよ(笑)。配信の時にこの並びだったんですけど、「そろそろ、ちょっと王道バラードいきたいね」っていう感じになったんですよね。私もリスナー側としていろいろ考えていて、意外なとこ来たり、緩急があったり王道バラード来たりというのが毎月起こっているからこそ、「ちょっと一息つきたいな」という瞬間がほしくて、タイミング的にもちょうど秋口でしたしね。レコーディングしながら、スタッフさんとも終始「優しい曲だねえ……」って話してました。
 
──ここでひと息ついたからこそ、次の「天邪鬼」で遊べるわけですね。
 
KEIKO そうです、そうです! この曲は作ってる方がギタリストさんだから、ギターのアレンジとかもいい意味でものすごくクセがあって、「天邪鬼」って言葉自体も久々に聞いたな、みたいな(笑)。でもその天邪鬼感がチグハグしてる感じが、ギターのアレンジですごく出来上がっていて、プリプロの時点でワンコーラスだけでも曲が見えていたので、やっぱりこういう曲は1曲歌いたいなと思いましたね。あと、女の子像がかわいくて。天邪鬼さんって、かわいいじゃないですか。付き合いたくはないですけど(笑)。

──振り回されそうですもんね。
 
KEIKO 私としては、そういう女の子もこのアルバムにちゃんと入れたいと思ったんです。お利口さんだけじゃなくて、こういう子も大事にしたいなって。歌い方も、ライブになったらきっともっと感情的に、限界ギリギリヒステリックな女の子になってあげたいなっていう気がします。
 
──7曲目の「Fly, Black Swan」はちょっとミステリアスなムードのある曲調の中、ベースがよく効いていますね。
 


KEIKO 私もこのベース好きです。ただ、デモの段階ではもうちょっとジャジーでデジタル寄りのサウンドで、私の中では落としどころが難しかったのと、好みの問題なんですけど私としては主人公が苦手なタイプで、「何? この人……」みたいな(笑)。でも、プリプロで歌ってブースを出たら、スタッフ4人中3人がひと言目に「いい!」って言ってくれて、引き返せなくなっちゃって(笑)。「あ、うん……よかった?」みたいな(笑)。
 
──意外な反応だけど好評みたいだし……と(笑)。
 
KEIKO 最終的なアレンジは、わからないので全部お任せました(笑)。そしたら私の好きなベースの音がガツガツ入ったアレンジになっていて、初対面の時よりも好きな女に変わってました。
 
──いいオンナに見えてきた(笑)。
 
KEIKO いいかどうかはまだ分かんないんだけど、「あ、突破口あったかも! ちょっとごはん行ってみようかな? どうしよう?」みたいな(笑)。拒絶はしちゃいけないな、イカンイカン、みたいな男目線になりました。

──男目線(笑)。
 
KEIKO 今回、どの曲も女性が主人公なので、男目線になっちゃうんですよ(笑)。
 
──8曲目の「ゆらゆら」は、先ほどの「Fly, Black Swan」とは違ったベクトルのジャズ感がありますよね。その中でボーカルの感じが面白いです。
 
KEIKO ボーカルが立つ曲なのもあって、弦楽器とか効果音みたいな音とか、バックのコード感が全部マニアックな感じで作られたサウンドで、“ひと聴き惚れ”でした。こねくり回さない感じで、すごく分かりやすい女の子像があって、「とにかくこの曲、気になる! 歌いたい!」という思いがすごくあった曲なんですね。そういった意味では、セリフのように歌っていくという歌唱が「あ、本当にできるようになったんだな」と思って、自分の変化が感じられる曲でした。「ゆらゆら」ちゃんは、小学校の同窓生がおじちゃん、おばちゃんになってから集まるみたいなセンチメンタルな感じが好みで、それを少し幼い声で表現できたらいいなと。

──次の9曲目「ユア」は、歌い出しの後からガーンとスケールがアップする展開で。
 
KEIKO これも難しかったんです!(笑) 私が用意して作っていったボーカルが全く違っていて。「KEIKOちゃん的には雑に歌ってもらってちょうどいい」ってディレクションしてもらったんですけど、私は雑に歌うのが苦手なんですよね。語尾とかも最後の最後まで大事に歌いたいタイプだから、表現をあえて攻撃的に鋭い感じにするというのをあんまりやったことがなくて。「男性ボーカルみたいな感じに切り替えた方がいい」とも言われて、タテのリズムも全然違ったし、全てが真逆でレコーディングした曲でしたね。作った後に壊さないといけなかったので、一番難しくて。一番最後にレコーディングした曲だったので、時間も一番かかりました。
 
──具体的にはどう違ったんですか?
 
KEIKO デモの時にはもっとかわいらしい曲のイメージがあったんですよ。だけど結局キーも下げて、バンドサウンドになって。間奏もデモではギターをしっかり聴かせる時間みたいな感じで、私の中ではそこの部分も含めて、いろんな未練がいっぱいある女の子が、「時間がほしい」というのがちょうどそこの間奏で。そういう面でも私の作ったものが全く崩されて、ちょっと悩みながら時間をかけて作り直して、「これは本当に男性ボーカルのイメージで作った方がいいんだろうな」と。そういうレコーディングというのも初めてだったので、すごく印象に残る曲になりました。
 
 
連続配信の1曲目が最後に収録されている意味とは?
 

 
──最後の10曲目が「ひとりじゃないから」。これが連続配信では1曲目だったものですよね。ピアノがメインですが。
 
KEIKO 去年、いろんなタイプのサンプルの曲を持ち帰ってた時があったんですよ。それを夜中に近い時間にいろいろ聴いていて。ここから制作していく方向性を決めるという段階の時に、コロナ禍があって人のつながりとかをいろいろ考えるようになって、自分の大切なものも明確に見えるようになって、すごく精査された1年目、2年目があったんだけど、でもみんな1人じゃない、誰かとつながってることがすごく大事だということが見えて、それが1人の時間だからこそ、すごくハッキリと見えたんですね。でも、それを強引に押しつけてくるような音楽って、今の、誰しもちょっと心が痛んでいるという中ではちょっとうざったくて重たいなと。もっと自分の中で好きに解釈できて、自分の中だけで好きに自分を重ねられる、それぐらいのすごくソフトな音楽がほしいなと思ったのがきっかけだったんです。
で、とてもシンプルなバラードで、「支えるよ」とか「包むよ」みたいな押しつけがましさもない曲を1曲歌いたいなと思ってて。そこで1人の時に「ひとりじゃないから」という歌がとても刺さったので「これは歌いたい」と思ったら、みんなも「時代に合ってる」ということで意見が一致して。だから配信の1曲目はそういう王道のものを選ぼうということにしたんです。それが今回、アルバムという形にまとめる時に、私もグループから1人になって、考えさせられることがたくさんあって。自分と向き合う時間って、逃げようと思えばいくらでも逃げられるんだけど、逃げちゃいけないなと。「自分と向き合う時間を丁寧に持つこと」っていうのを、最後にメッセージとしてこのアルバムに残したいなと思ったんです。内容的には「ユア」で完結してるんだけど、最後にもう一度そういう時間が持てるアルバムにしたいなと思って、最後に持ってきました。日常を歌えるようになったからこそ、最後にそれを歌いたいなと思って。
 
──それでここに入っているんですね。
 
KEIKO 「短編集」という形でいろんな主人公の物語を歌うという形では「ユア」で完結してるんですけど、1人の女性として、というところでの、30代の女性像の一つとして、丁寧に自分と向き合う時間があるというのは孤独じゃなくて、とても幸せなことなんだよということを示したいと思ったんです。
 
──ということでアルバム全曲について詳しく語っていただきましたが、3月17日には横浜、24日には大阪のビルボードライブでの公演が決まっています。どういう内容になりそうですか?
 
KEIKO レコ発なんですけど、これまでレコ発のタイミングでのライブってやったことなかったんですよ。アルバムの曲のいろんな主人公たちを私が演じてみるということと、ビルボードライブの距離の近さ、大人でラグジュアリーな場所ということも相まって、みんなが1曲1曲の作品の世界に入っていけるような時間を作りたいと思っています。
 
──『CUTLERY』の世界を再現するということは、これまでのライブともまた違ったものになりそうですね。
 
KEIKO そうですね。DVD、Blu-rayに収録されているライブ映像と同じ編成になるので、わりと大人な感じでいくのかなというのはありますね。これまではライブでも「自分のアーティスト像ってどれだろうな」と思いながらやってたんですけど、3枚目にもなると、お客さんにも私にもその空気が何となく伝わって、その空気が好きな人が集まってるよねっていう空間になると思うんですよね。来てくれた方がリラックスできる時間になればいいなって、いつも思ってます。
 
──今年はまだ始まったばかりです。これからはどうしていきたいですか?
 
KEIKO 今年は「ハマっていく」というのが自分の中でのプチテーマなんです。昨日決めたんですけど(笑)。
 
──それはタイムリーな(笑)。「ハマっていく」というと?
 
KEIKO 今年は梶浦由記さんが30周年のアニバーサリーなんですね。梶浦さんの現場の歌姫としてずーっと参加させてもらっているので、そこの形にしっかりハマって、表現者として立っていたいというのがまず一つ。また今回の『CUTLERY』というアルバムも、いろんな作家さんの世界に染まっているから、それを自己流にアピールするんじゃなくて、それぞれの世界に染まった形でお届けしたいんです。だから私は、自分の表現したい何か、その型にハマってみたいなと思って。そういうのも久しぶりなので、そんな1年になったらいいなと思ってます。

──それはまた面白そうですね。

KEIKO なかなかないじゃないですか、こういうのも。だから自分でもワクワクしてます。

──ファンの方にとっても楽しみだと思います。ありがとうございました!

 
撮影 長谷英史




3rdアルバム『CUTLERY』
2023.2.8 ON SALE

 
※アルバム試聴動画はこちら:https://youtu.be/ykSKbMEcMQo


KEIKO Billboard Live 2023 “CUTLERY” K009~012

◆2023年3月17日(金)ビルボードライブ横浜
1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00

◆2023年3月24日(金)ビルボードライブ大阪
1stステージ 開場17:00 開演18:00 / 2ndステージ 開場20:00 開演21:00



【KEIKOオフィシャルホームページ】
https://avex.jp/keiko-singer/

【KEIKOオフィシャルTwitter】
https://twitter.com/keikostaff

【KEIKO YouTube Channel】
https://www.youtube.com/channel/UCRr3yX9Kp5QVyr6JwxNnIJA

【KEIKOオフィシャルInstagram】
https://www.instagram.com/keco.choco/
 
高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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