KEIKOの1stソロアルバム『Lantana』が12月2日にリリースされる。
『魔法少女まどか☆マギカ』のテーマソング「Magia」などの、アニメソングを歌い、また日本武道館2デイズ公演を開催するなど、梶浦由記プロデュースのボーカルグループ・Kalafinaの一員として活躍していたKEIKO。2019年にグループが解散して以来、その去就に注目が集まっていたが、2020年4月にソロプロジェクトを始動することを宣言。5月に「命の花 / Be Yourself」、7月に「Ray / 始まりは」を配信リリースし、9月には東京・渋谷CLUB QUATTROで初のワンマンライブも開催した。
『Lantana』はそんなKEIKOが満を持して発表するソロデビューアルバム。果たしていかにして制作され、そこにはどんな想いが込められているのか……大いに語ってもらった。
ソロ名義のKEIKOは何を求められているのか、本当にわからないんです
──今年はソロプロジェクトを立ち上げたことと、新型コロナ禍という2つの物語を背負うことになりました。
KEIKO 4月に「ソロデビューをします」という告知をしようと思っていたら、ちょうど政府から緊急事態宣言が出るのか? 出ないのか? という時期と重なってしまったので、いつどういうスタイルなら誰にも不快感なく発表できるのかについては本当に悩みました。でも、シンプルに伝えてみたら「こういうご時世だからこそ『KEIKOのソロが始まるよ』っていうニュースを聞いて明るくなれた」って言ってくださるファンの方が少なくなくて。あの状況でも「スタートします」って伝えられてよかったなあ、と思っています。で、ちょうどその時期に始まったプロジェクトだったので、本当に新型コロナ禍と私のソロプロジェクトの付き合いが始まった感じもしています(笑)。
──新型コロナ禍でなにもできなくなってしまったのではなく、状況を鑑みつつプロジェクトを進めた。まさにwithコロナ的だった、と。
KEIKO どうやってKEIKOの音楽を発信していくか。新型コロナの様子を見ながら本当に考えました。言い方はちょっと変ですけど、新型コロナと一緒に歩んだ1年だった気がします。
──5月にまずは「命の花」「Be Yourself」という2曲を配信リリースして、7月には「Ray」と「始まりは」を配信。さらに9月には東京・渋谷CLUB QUATTROでソロライブを行っていますもんね。この9カ月でソロ活動に慣れました?
KEIKO 全然(笑)。
──やっぱり両サイドにはWakanaさんとHikaruさんにいてほしい?
KEIKO 人が好きなんですよね。その点、今のKEIKOソロプロジェクトのチームには一緒にセッションしながら音楽制作をしている感じがちょっとあって。みんなで役割分担しながら、でもその役割を超えてみんなで意見を出し合っていくというか。誰か強烈なリーダーが全部を決めるチームじゃないことに救われている気はします。10年間、KalafinaのメンバーのWakanaとHikaruがいて、プロデューサーの梶浦(由記)さんがいてっていうチームでやってきているので。もちろんKalafinaチームと今のチームは別のものなんですけど、みんなで一緒に物作りをしている環境が今の私の支えになってはいます。
──そして今月、そのチームとともに初のフルアルバム『Lantana』を発表します。既発の配信楽曲4曲とも収録されていますけど、録音はリリース順だったんですか? それとも12月のアルバムリリースありきで、先行シングルとして4曲を配信した?
KEIKO そこも新型コロナ禍の状況とともにすごく変化していきました。もともと音楽の世界に復帰するに当たって「いろいろな音楽をやってみたい」という好奇心があって。「それを実現するためにはやっぱりアルバム制作だろう」「十数曲作っているうちにじっくりKEIKOのやりたい音楽を探していったらどうかな」という提案をいただいてアルバム制作が始まったんです。でも、状況が状況だったので、アルバムリリースまで何も発信しないのはちょっと惜しいよね、ということで「命の花」「Be Yourself」「Ray」「始まりは」の4曲を先に配信させてもらいました。
──ただ第1弾配信タイトルである「命の花 / Be Yourself」リリース時の発言を振り返ってみると、ソロプロジェクト始動時にはKEIKOのやりたい音楽がよくわかっていなかった、とおっしゃっていた。
KEIKO そうですね。
──それがちょっと不思議だったんです。Kalafinaの一員として10年のキャリアがあるし、そもそも歌がうまい。その一方でKalafinaは梶浦さん主導のプロジェクトだったわけだから、その看板が外れたとき、自らの表現欲求みたいなものが芽生えたりしなかったのかしら? って。
KEIKO 私もビックリしました(笑)。そして「なんでだろう?」って考えたときに「それだけ梶浦さんの音楽に惚れ込んでいたんだな」ということ気付いて。梶浦さんの作るKalafinaの音楽を歌うことがすごく楽しかったんです。これが永遠に続いてくれたらすごく幸せだなって思えるくらいに。
──でも自らの体調不良などがあって、その歩みを止めることになった。
KEIKO 「今思うと」なんですけど、それが逆に自分を見つめ直すきっかけ、新しいことにトライするきっかけになってくれたのかなって。もしお休みをしていなければ、“自分の音楽”なんて探さなかったと思います。
──となると逆に面白いのが、今回のアルバムには惚れ込んでいる梶浦さん作曲の「七色のフィナーレ」が収録されているんだけど、それだけではない。アルバムリリースを発表したときに「見事にそれぞれ『個』感の強いアルバムになったかな」とコメントを寄せています。
KEIKO ふふふふふ(笑)。
──そして実際、ほかの9曲は梶浦さん的な楽曲ではない。
KEIKO プロデューサーと一緒に「これ、KEIKOが歌ったら面白いんじゃない?」っていう話をしながら曲を選んでいたら、こんなアルバムになってました(笑)。私は“聴き専”というか、音楽を聴いていると「自分では歌ってこなかったタイプの曲だけど、これを歌ってみたらどうなるんだろう?」という、いつも好奇心が湧いてきていて。言ってしまえば、そういう音楽を片っ端からやってみただけ。本当に手探りで作っていったんですけど(笑)、その手探り感がすごく面白かったんですよね。デモの段階ではすごくミニマムでシンプルだった曲が、アレンジャーさんの手に渡ったら音数が増えたり、曲のテイスト自体がどんどん変わっていったりして。そういうふうにスタッフさんと作家の皆さんと私という、みんなで作っていった感があります。
──「KEIKOのソロデビューアルバム」ではあるけど、KEIKOさんが主導したわけではない?
KEIKO だって私、わからないですもん(笑)。KEIKOという人にどんな音楽が似合うのか。KalafinaのKeikoに求められているものならさすがにわかっているつもりなんですけど、ソロ名義のKEIKOは何を求められているのか本当にわからなくて。わからないものはわからないから、いただいたデモを聴いて、チームの誰かが「いい」って言ったらそれをとりあえず歌ってみる。そんなプロジェクトなんです(笑)。
──だから5月の第1弾配信楽曲にはビックリさせられたんですよ。「命の花」みたいな、本当に“いいバラード”を歌うKEIKOさんの姿は容易に想像できたんですけど、「Be Yourself」みたいなキレがよくてストレートなギターロックも歌うのか! って。
KEIKO 梶浦さんにもビックリされたし、私自身ビックリしました(笑)。「これ、歌うの!?」って。
──KEIKOのソロプロジェクトである以上、最終的に歌う / 歌わないの判断はご自身が下すのでは?
KEIKO でも私「ソロ活動に関してはNGを言わない」って決めているので。
──それだけ今のKEIKOチームを信じている?
KEIKO そうですね。
──でも今のチームとの付き合いってそれほど長くは……。
KEIKO ないですね(笑)。みんなとは去年出会った感じですから。でも時間ってあんまり関係ないんですよ。「いいものを作りたい」「音楽が好き」、そして「歌っているKEIKOが好き」っていうスタッフが周りに集まってくれたので、なにも心配はなくて。「いいね」という言葉を信頼して、楽しく歌わせてもらっています。
──確かに先行配信された楽曲を聴いて「カッコいいんだけど、なぜKEIKOさんがこの曲を?」という印象を受けました。Kalafinaでは低音担当だったのに「Be Yourself」は……。
KEIKO キーが高い(笑)。
──はい(笑)。で、7月に「Ray」や「始まりは」が配信されたときには「こんなレイドバックしたダンスミュージックもやるのか」という驚きがあって。
KEIKO Kalafinaの楽曲とも「命の花」や「Be Yourself」ともスピード感が違いますよね。
──だから『Lantana』は「命の花」「Be Yourself」「Ray」「始まりは」という肌合いの違う4曲の延長線にある楽曲群が収録されているのかな、と思ったら「あれっ? この人、まだカードを隠してやがった!」ってビックリして。
KEIKO 言い方!(笑) どれが好きでした?
──「溜め息の消える街」ですね。それこそ「こんなスタイリッシュなシティポップというカードを隠してやがったか!」って(笑)。
KEIKO 「始まりは」とビート感が似ている曲な上に、ほぼ同時期に制作していたので、最初は「アルバムにはどっちかを収録しよう」って言っていたんですけど、いざ歌ってみたら、どっちも全然ボーカルのスタイルが違っていて。「それならどっちも入れようよ」という話になった曲なんです。でもこうやって取材の場なんかで、アルバムを聴いてくださった方に「どの曲が好きですか?」って聞くのがマイブームなんですけど、それが本当に楽しくて。バラエティに富んだアルバムだから、みなさんが今、どういう情景に心を寄せたいのかがすごくわかりますから(笑)。このアルバムはある意味人となりが知れる作品。逆に言えば「今のオレは / 私はこういう気持ちだな」って、自分の感情に寄り添える曲を探せるアルバムになったな、と思っています。
アルバムで一番、「挑戦」した曲とは……?
──KEIKOさん自身は、この10曲で歌われている心情に思い当たるところはある?
KEIKO いや「私自身メロディやアレンジの音の響きを優先するタイプなんだな」ということに、このプロジェクトが始まってから気付かされました。
──デモを受け取ったときには、そこに収録されている仮歌ですら楽器のひとつとして認識している感じ?
KEIKO でも人の声ってやっぱりほかの楽器より説得力やパワーがあるから、仮歌さんの声を聴き込んでいると、私の歌唱自体、それに左右されちゃうんですよ。だから割と早い段階で仮歌は外したデモをもらうようにしています。シンセでメロディを追っているだけのデモをもらって、そのメロディと後ろで鳴っている楽器のアンサンブルの面白さや曲全体の質感を感じ取りながら「じゃあ、このアレンジの中で自分はどういうポジションで声を当てたら気持ちよくなるだろう?」って探していってレコーディングを進めていった感じですね。プリプロのときまでに自分なりの歌唱を固めておいて「こんな歌い方どうかなあ」「私としてはこの響きが気持ちいいんですけど」って、ちょっと弱気な感じで提案をして(笑)。「あっ、いいね」って言っていただいたところから、さらにディスカッションしてアルバムを作っていきました。
──やっぱりそれってすごいですよね。ご自身とスタッフさん、そして作家陣の全員が「KEIKOのソロ作はこうあるべき」という美意識や価値観を共有していることになる。
KEIKO ねっ(笑)。だから今、すごく楽しいんですよ。今回のアルバムに収録されているのは、私がこれまでにやったことのない曲ばかりなんですけど、その知らない景色を見ることって怖くもあるけどワクワクするじゃないですか。怖いけど、信頼できるスタッフと一緒だからやってみられる。さすがに私はド素人じゃない。新人ではないんだけど、やったことのないことにトライするときはやっぱり新人っぽくなるし、私1人が主導するプロジェクトだったらその景色を見に行くことについて絶対に躊躇しちゃうんだけど、みんながいるからできる。今回のアルバムはそうやっていろんなトライをさせてもらえた、すごく贅沢な1枚になったな、と思っていて。このアルバムをみなさんに聴いていただいて、ソロシンガー・KEIKOにみんなはどんなことを欲しているのか、を知ることができて、次の作品ではちょっとジャンルを絞れればいいですし。逆にそのジャンルの中で世界を拡げていけるかもしれないし。『Lantana』ではソロシンガー・KEIKOの入り口を楽しんでもらえると嬉しいですね。
──ちなみにご自身の中で「これは一番の挑戦だった」っていう曲は?
KEIKO 「始まりは」ですね。
──ヒップホップですもんね。
KEIKO しかも歌い方が……。
──すごくラブリーです。
KEIKO ありがとうございます(笑)。あと「始まりは」と一緒に先行配信した「Ray」のAメロもそうなんですけど、発声をガラリと変えた曲だから受け入れてもらえるのか? アリなのかナシなのか? それがまったくわからないまま「いっちゃいますか」って感じでリリースしていたので、すごいチャレンジでした。
──あと『Lantana』の収録曲の中でも「KalafinaのKeikoさん」のイメージを大きく裏切ってくれるのが「エンドロール」と「Change The World’s Color」で……。
KEIKO エモいし、熱いですよね(笑)。
──どんな曲でも歌える人であることは知っていたけど、それでもなお「こういう曲も自分のものにするのか!」とビックリしました。
KEIKO この2曲に関しては、9月の渋谷CLUB QUATTROでのライブのあとにレコーディングしたんです。私自身は「Be Yourself」が収録されているから、これ以上アッパーな曲を入れるつもりはなかったんです。「もっと大人っぽいアルバムに仕上がるんだろうな」と想像していたんですけど、その気持ちも新型コロナ禍の影響で変わっていったんです。9月に「ライブをやろう」「配信ライブをやろう」というアイデアが持ち上がったとき「だったらみなさんの気持ちが沸き立つようなビートの曲をもう少し増やしたいですよね」という話になって。新型コロナ禍と配信ライブという、私に降りかかったこの2つの状況がなければできあがらなかった2曲なんです。
──となると『Lantana』はKEIKOの1stソロアルバムであると同時に「2020年の様子を記録したアルバム」でもある、と。
KEIKO 本当にそういうアルバムができあがったな、と思っています。リリースも12月……まさに今年を振り返るタイミングなので「みんな、今年は大変だったけど『そんな状況があった』という事実から生まれるものもある」「それも忘れちゃいけない世界の歴史だし、それをちゃんと受け止めた音楽を作りたい」とは思っていました。そういう音楽って望んでも作れるものじゃないじゃないですか。
──こういう緊急事態だからこそ生まれる歌ですよね。1曲目の「Be Yourself」から6曲目の「Ray」あたりまでは困っている誰かにそっと手を差し伸べる……。
KEIKO 優しい曲が多いですよね。
──そして後半戦には「エンドロール」と「Change The World’s Color」のような、元気をもらえるアゲ曲が収録されている。だから今年の状況をにらんだ上でコンセプチュアルにアルバムメイキングしたのかな? と思っていたんですけど……。
KEIKO むしろ逆ですね。今の状況を切り取るダークな音楽も作ってみたかったんですけど、そういうどこまでも堕ちていくような曲って歌っている間に私自身気持ち悪くなっちゃって。今年私が求めている音楽も、みんなが求めている音楽もきっと違うんだろうな、って感じたんです。優しくて救済になる曲を多くの人が求めてるんじゃないかな、って。その感情に素直に制作したつもりなので、すごくムリのない1枚になった実感はあります。
──そうやって、ある意味時流に翻弄されながらも、楽曲群はバラエティに富みつつもちゃんと「アルバム」然としている。上質なJ-POPアルバムを作れていることって、本当にすごいですよね。
KEIKO でも本当に翻弄されていたというか、流れに身を任せていただけなんですけどね(笑)。
──であれば「KEIKOの波に乗る技術よ」という気がします。
KEIKO 乗りこなせているのかなあ(笑)。9月にライブがあったり、徐々に活動できるようになったときのお客さんの反応とか、スタッフさんの仕事をしている姿に刺激されたからこそ作れたアルバムのようが気がしますし。本当に未知数なまま、世の中の状況やスタッフの意見に寄り添ったからこそ作り上げられたアルバムだとは思っています。今回は本当にみなさんの力をすごく借りちゃったので、今後はもう少し、私自身が自分に対して意識を向けて、ちゃんと意図的な音楽制作をしなきゃいけないな、っていうプレッシャーはちょっと感じています(笑)。
──その「みなさん」の中でもとりわけ目立つ存在が2曲目「七色のフィナーレ」の作曲家である……。
KEIKO 梶浦さん(笑)。
──先ほど「スタッフからの提案にNGは出さない」とおっしゃっていましたけど、この曲に関してはKEIKOさんのリクエストですよね?
KEIKO 梶浦さんにラブコールを送らせていただきました(笑)。梶浦さんとソロでご一緒させていただくのは……2005年かな? 『ツバサ・クロニクル』というアニメの劇中歌をFictionJunction KEIKOとして歌わせていただいたとき以来なので、作詞にも歌唱にもすごく時間がかかりました。
──梶浦さんからデモが届いたときの印象は?
KEIKO 「梶浦さんだー!」(笑)
──段落ごとの文字量・行数が全然違う歌詞カードで一目瞭然なんですけど、基本的に〈未来へ〉が含まれるフレーズ以外、メロディが循環しない構造になってますもんね。〈未来へ〉を起点にいろんなメロディがあっちに行ったり、こっちに行ったりしている(笑)。
KEIKO 梶浦さんにお話を伺ったら「『Be Yourself』にいい意味で裏切られた」「『KEIKOちゃんにこんな歌の表情があったのか』って知れた」っておっしゃっていて。それで「じゃあ私もKEIKOちゃんに明るいナンバーを歌ってもらおう」ってなって、デモが届いたんです(笑)。そのメロディを聴いたとき、光や未来といったとても前向きな想いが込められている気がして。「早く歌いたい」ってなったんですけど、プロデューサーから梶浦さんのデモが届いたあとに「作詞はKEIKOだからね」って後出しで言われるという(笑)。15年ぶりに梶浦さんの曲を私1人で歌うっていうだけでプレッシャーがすごいのに「作詞も私?」って。
──しかも清水信之さんのアレンジも、およそ大御所のものとは思えない。シンセの使い方からギターの入り方まで、梶浦メロディに寄り添うようにスムーズなんだけど、どこかクレイジーだし(笑)。
KEIKO あっ、それは私のせいなんです(笑)。信之さんに「梶浦さんのこの曲調に、ちょっとキャッチーなアメリカンポップの要素を入れてほしい」ってお願いさせていただいたので。梶浦さんの独特なメロディにそんなアレンジが重なったらどんな化学反応が起きるんだろう? って。
──しかもKEIKOさんはその曲に言葉を与えなきゃいけない。
KEIKO 作詞は「命の花」で生まれて初めてやって、「七色のフィナーレ」は2作目だったので、本当に必死でした(笑)。デモを聴いたときにイメージした景色に似合う言葉を探しまくって書き上げたというか。ただ、作詞をしている当時、来年のオリンピックに関するニュースをすごく多くやっていたんですよ。果たして来年東京でオリンピックが開かれるのか、先は読めないんだけど、それでも懸命に競技に取り組んでいる選手の方々を見て「これだよね!」って。「それでも前を向くっていう気持ちはなくしたくない」という想いからできあがった歌詞でもあるんです。
そもそもアルバム・タイトル『Lantana』の意味って……?
──あと面白いのが、そのKEIKOさんの想いがほかの作家さんにも伝わっているというか。いろんな作詞家さんが参加しているのに「Be Yourself」と「七色のフィナーレ」にはモロに〈光〉という言葉が出てくるし、「茜」では朝日と夕日のことを歌っているし、「Ray」はまさに光線という意味です。
KEIKO ホントだ! 今気付いた!(笑)
──あれっ!? これ偶然なんですか?
KEIKO そうだし、今そのお話を聞いていて「すごくロマンチックだな」ってちょっと泣きそうになりました(笑)。制作している皆さんが同じところを見ているようで…。
──それでいてKEIKOさんならではの作家性みたいなものもちゃんと歌詞に刻まれているのがいいですよね。さすが「梶浦塾」出身というか。
KEIKO そうですか?(笑)。梶浦さんの書く言葉の響きや、歌詞の中にある余白感とかが大好きだから自分の歌詞にも反映されている気はします。
──梶浦さんはなんなら造語を歌わせる人だから、KEIKOさんが梶浦さんと同じとは言わない。もうちょっと〈僕〉や〈君〉といった登場人物にちゃんとフォーカスの当たった言葉を紡ぐんだけど、「がんばれ」みたいなモロなメッセージは歌わない。
KEIKO その余白は残したんですよね。ただ、それもまだ3曲しか作詞していない今だからこそというか、今はそれしかできないから。
──じゃあ作詞家としてのキャリアを重ねていくと、いずれは「戦争反対!」みたいなことを歌い出す?
KEIKO かもしれない(笑)。本当に今はできる限りの精一杯の力を振り絞って、心を削りながら作詞しているので。
──その3曲目の作詞曲「夕顔」なんですけど、僕、2推しの曲なんですよ。
KEIKO この曲は一番最後にレコーディングしたんですけど「エンドロール」と「Change The World’s Color」を録ったあと「あっ、あともう1曲入るかな」という話になって。アルバム制作が始まったときから、ちょっとミニマムな短編みたいな曲……心が疲れちゃったときにそのまま目を閉じて眠りにつけるような曲がほしいという話をしていたので、それでできあがった曲なんです。
──自分の発言を翻すようで恐縮なんですけど、まさに入眠時っぽいというか、この歌詞は抽象度が高いですよね。夢なのか? 現実なのか? なんならこの曲の主人公は生きてるのか? 死んでいるのか?
KEIKO それ、みんなに言われるんですよ(笑)。この子は生きてますっ! 眠いだけですっ!
──でも本当に夢とうつつ、生と死のあわいを歌っている。
KEIKO まさに眠るときのふわふわしている感じ、あの浮遊感がほしかったので、リアルな言葉を声を張って歌うと聴く人が疲れるだろうな、と思っていて。力を抜きつつも、ギリギリ“歌”として成立するボーカルを目指しました。しゃべるように歌う、語り部みたいなイメージで。
──そのボーカルスタイルについてもうかがいたかったんです。収録曲のテイストがバラエティに富んでるからこそ、ボーカルスタイルも曲ごとに全然違いますよね。
KEIKO それが楽しかったんです。さっきもお話したとおり、まずデモを聴いてその曲に合う音色というか声色を探しておいて「どうですか?」という感じでスタジオに持っていくので。Kalafinaとして活動を始めてからはおかげさまで忙しくさせてもらっていたこともあって、自分の声に向かう時間はあまりとれなかったので。新型コロナ禍だからこそ1曲ずつ、じっくり時間をかけてその曲に似合う声を探すことができたと言ってもいいかもしれない。
──その声ってどうやって探すんですか? デモを聴いたり、歌詞を読んだりして、そのメロディでその言葉を歌う人物像を探るのか?
KEIKO 単純に響きの気持ちよさだけを優先させています。このメロディやアレンジに乗っていて気持ちのいい響き、気持ちのいい声ってどれだろう? って。「始まりは」とか「溜め息が消える街」であれば艶っぽい歌い方やストレートにエモい歌い方をすると逆に“棒歌い”みたいになるだろうな、みたいなことを考えながらさじ加減を探っていきました。メロディに対して一番心地よく響く声を探すのはKalafinaのころからやっていたことなので、なんかボーカルスタイルは曲の中での声の響き方を基準に探しちゃうんです。
──だからか、どの曲もすごく声の温度感がいいんですよね。「Change The World’s Color」みたいなエモ散らかしたようなアレンジの曲であっても暑苦しくない。歌詞の世界にベッタリ寄り添わないから、〈全てを貫いてけ 鳴り響かせ どこまでも〉というリリックすらちょっとクールに響く。
KEIKO よかったあ(笑)。これまで3人で歌ってきたから、ソロデビューすることになってから、1人で歌いきるためのボーカルスタイルを再構築しなきゃ、と思っていたので。そういうふうに聞こえていたなら嬉しいです。
──そして、これも「梶浦塾」「Kalafina塾」出身だからだと思うんですけど、コーラスワークが面白いですよね。
KEIKO そうですか? Kalafinaでの梶浦さんのコーラスの積み方って独特で……私とほかのメンバーの声がぶつかってもそれが面白く響くという。III度でハモるというJ-POP的なハーモニーを目指すグループではなかったのかもしれません。でもソロプロジェクトではそのJ-POP的なハモを作っている。それはプロデューサーのアイデアだったので、私自身、レコーディングした後に初めて「へえ。私がIII度でハモるとこんな感じになるんだあ」ってビックリしたくらいですから。
──では「Be Yourself」のBメロ、基本的に全部のフレーズにハーモニーが入っているのに〈わずか〉というワンフレーズだけコーラスを切って、逆に言葉を立たせたりするのは……。
KEIKO プロデューサーのアイデアですね。ただ私、宇多田ヒカルさんのコーラスワークが本当に好きで……。
──宇多田さんほどJ-POP的なフォーマットに乗っかっておきながら、ユニークなコーラスワークで魅せる人もいないじゃないですか。
KEIKO ねっ(笑)。「ここだけハモる!?」みたいな、あのコーラスの使い方が好きなので、それに似ているのであれば本当に嬉しいですね。
──しかもKEIKOさんが意図したわけではないのに、ちゃんとその「ここだけ!?」になっているのがスゲーなあ、という感じなんですけどね。
KEIKO だからやっぱりチームの状態が本当にいいんだと思います。感覚が近い人が集まっているから、お任せしておけば、ちゃんと好きなものを作り上げてくれるというか。
──で、このアルバムにはボーナストラック的に「茜」のアコースティックバージョンも入っていますけど、なぜオリジナル版からドラムやギターやベースを抜こうと?
KEIKO 好きだからですっ!(笑)
──了解ですっ!(笑)
KEIKO 作・編曲の大島(こうすけ)さんのストリングスのアレンジが本当に好きなので、これを聴かせないのはもったいないと思って。生の弦をどんどん重ねてくださっていたから、本当に弦と私のボーカルだけのバージョンを聴きたくて、レコーディングのたびにそう言っていたら「じゃあ入れよう」ということになりました。
──確かに弦を全部生で録るっていうのがまず金銭的な意味でリッチだし、しかもできあがった音は音響的にリッチだし、これは存分に聴かせたいですよね。
KEIKO しかも弦だけのバージョンを作ってみたら、オリジナルバージョンからより弦がドラマチックで熱くなるっていうのを私も体感したので、その熱さを感じてほしいですね。
──なるほど。……あっ、すみません。そもそもの話を聞くのを忘れていたんですけど、アルバムタイトルの由来って?
KEIKO ホントにそもそもの話だ(笑)。
──『Lantana』(ランタナ)ってアジサイみたいに小さい花をいっぱい付けていて、その花の色がどんどん変化していくっていう植物ですよね?
KEIKO そうですそうです。アルバムタイトル決定会議のときにスタッフのひとりがアイデアを持ってきてくれたので即決しました。
──ソロプロジェクトなんだけど、本当にチームで作りたいんですね(笑)。
KEIKO 私のボキャブラリーなんてたかが知れていますし(笑)、これは私もスタッフも思っていることなんですけど「KEIKOが歌えば最終的にはKEIKOの歌になるからそれでいいじゃん」って。それが逆に私みたいな歌い手、ボーカリストの特権だと思うんです。シンガーソングライターの場合、基本的に自分の作った曲を歌うことになるけど、私はいろんな作家さんの世界に入り込むことができる。それってすごく贅沢なことだと思うので。だからアルバムタイトルの会議でも歌い手やボーカリストとして参加したいんです。いろんな人の意見や心を知ることで、より良いものができればいいな、って。特に『Lantana』はいろんな声のバリエーションで作られたアルバムだっていう意味でもすごく似合っていたし、和名には「七変化」という、まさにアルバムそのものみたいな意味が込められていたし。あと響きもすごく好きなんですよ。しかも「アルファベットでどう綴るんだろう」「できればRじゃなくてLから始まっていてほしいな」と思っていたら、ちゃんとLから始まっていて(笑)。
──RよりLが好き?
KEIKO 『Lantana』という単語においてはそうあってほしかった。そういう感覚の話なんですけどね(笑)。「ランタナ」という響きを持つ言葉にはLで始まっていてほしいというか。
──ある意味作詞術と同じ。本当に言葉の響きを徹底的に追究したい。
KEIKO エンタテインメントって五感で味わうものですから。人が心地よくなる場所を探したいと思っているから、歌詞やアルバムタイトル……いろんなところにその想いが表れちゃうのかもしれないですね。しかもその想いをちゃんとチームで共有できていて。会議は一瞬で終わりましたから(笑)。『Lantana』っていうアイデアが出てきた瞬間、ちょっと考えられないくらい、全員の心を掴んでましたし。
1st Album『Lantana』
2020.12.02 ON SALE
初回生産限定盤【CD+Blu-ray+アナログ盤(EPサイズ)】
AVCD-96600/B~C
¥8,200(税抜)
通常盤【CD+DVD】
AVCD-96601/B
¥4,500(税抜)
通常盤【CD ONLY】
AVCD-96602
¥3,000(税抜)
KEIKO Live K002 **Lantana*咲いたよ**
日時:2020年12月16日(水) 開場18:00/開演19:00
会場:Zepp DiverCity TOKYO
※公演に関するお問合せ先
HOT STUFF PROMOTION TEL 03-5720-9999(平日12:00~15:00)
https://www.red-hot.ne.jp/play/detail.php?pid=py20557
【KEIKOオフィシャルホームページ】
https://avex.jp/keiko-singer/
【KEIKO Official Twitter】
https://twitter.com/keikostaff
ライター
成松哲
1974年、大分県生まれ。フリーライターから音楽ナタリー編集部を経て、再びフリーライター。著書に『バンド臨終図巻』(共著。河出書房新社/文春文庫)など。