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【ビッケブランカ】全部の曲を主役にしたいアルバム『FATE』全曲解説!

2021.09.01
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音楽
インタビュー
前作から約1年半ぶりとなる4枚目のアルバム『FATE』をリリースしたビッケブランカ。3月に発売されたシングル「ポニーテイル」など12曲を収録したこのアルバムは、どんな過程を経て完成したのか? この中の1曲で実行された、驚くべき作曲方法とは? そしてなぜかお寿司の話まで、ダダダダーッと語っていただきました!


コロナ禍で作品作りに影響はあったのか?
 

 
※別の場所で撮影を済ませ、インタビューの部屋へ移動しながら……
 
ビッケ 今日、この取材が終わったら家で寿司を握るんですよ。
 
──お寿司ですか! 自分で握って自分で食べるんですか?
 
ビッケ 最近ハマってて。今日は友人も来るんで、一緒に食べるんです。
 
※……と話していたら部屋に到着。
 
──さて、1年半ぶりのアルバムということで、2枚の間がまさにコロナ禍の期間ということになりますが。
 
ビッケ そうですね、その間に作った曲がほぼ全てで、スケジュールはタイトでしたけど、逆に家にずっといられたので作業ははかどりました。
 
──この7月には『HEY』、8月には『BYE』という2枚の配信EPを出されていて、その収録曲はほとんどアルバムにも入っています。この2枚はアルバムの中のピースとして作られたものだったんでしょうか。
 
ビッケ はい。アルバムを9月1日に出そうというのがまずあって、でも、アルバム中の全部の曲を主役にしたいと。「じゃあ、1曲シングルを走らせて配信で出す?」「1曲じゃもったいない、全曲目立ってほしい」「ならミニアルバムにして2回出しちゃおうか。その代わり、完パケのタイミングが7月になるから、メッチャ忙しいよ?」「頑張ります」というやりとりがあった末に、何とか頑張ったのがこの2ヵ月間でした。
 
──なるほど(笑)。結局アルバムにはその配信EPから3曲ずつで計6曲、シングル「ポニーテイル」から2曲、イントロ&アウトロ、そしてあと2曲がこのアルバムで初公開という構成ですね。この計12曲を、1曲ずつ語っていただけますか?
 
ビッケ 分かりました。「Lack - Intro」の「Lack」は「不足」という意味で、最後の「Luck - Outro」の「Luck」(幸運)と発音記号は全く同じです。不足した状態から始まって、楽曲がサプライされて、最後僕らは幸運を掴む運命…「FATE」という流れですね。まあ「Lack - Intro」は本当にイントロダクションという感じで。
 
──プリミティブなパーカッションが印象的です。
 
ビッケ いろんな要素を混ぜたし、エスニックな感じの音をうっすら後ろに流したりして、だけどサウンド自体はエアロスミスみたいなドラムが鳴ってるみたいな、いろいろごちゃ混ぜにした感じ、カオス感を出したかったんです。日の出前の、何が起きるか分からないみたいな感じを。
 
──そういうところからスタートすると。
 
ビッケ そこからスタートして、「夢醒めSunset」は「BYE」のリード曲で、けっこう初めてぐらい曲をループさせました。ヒップホップのタッチで曲を作って、メロディックラップみたいな感じで行きつつも、日本人なら誰もが絶対に経験したことがある、夏の終わりの言葉にできない寂しさとか、でも気持ちよさもあるみたいな、あの絶妙な瞬間を切り取ろうと思って作った曲です。


──ただイントロなどは意外なほどにアコースティックな音ですよね。
 
ビッケ そうですね、あのリフを思いついた時に、この曲が輝くかなという予感がしました。
 
──次は「蒼天のヴァンパイア」です。
 

ビッケ これはめちゃくちゃポップハウスでドーン!って行ってるんですけど、サウンドの作りにメチャクチャこだわって、アレンジのタイミングからミックスを同時進行でやっていったような感じでした。でもサウンドが分厚くなっていくと歌が二の次になってしまって、「何の歌か分かんないけど、サウンドはこだわってるらしいよ。まあ聴かないけどね」みたいなことになるのがイヤだから、サウンドをブーストアップしたのに負けないぐらい、メロディと歌詞というところに、逆に一番力を入れた曲ですね。
 
──そういうことなんですね。
 
ビッケ あと、「サビ」って言われるところに歌がなくてサウンドで押すというところが、今、世界中では普通なんですけど日本にだけはまだ入ってきてないので、それをこれから僕が先陣切って広めたいなという、心意気の一曲です。
 
──そんな決意までこもっていたとは(笑)。次は「Death Dance」です。
 
ビッケ これも同じくポップハウス、ちょっとテックハウス寄りで、もうちょっとドープなところですね。それをやりつつ、ひたすらあのベースラインを聴いてもらって中毒性がある、みたいな。自分で聴いてて完全に中毒性があったので、これは荒削りでもこのまま行っちゃおうってことで、意外と大味なミックス、大味な作曲をした感じですね。でもすごく好きで、この「Death Dance」ってタイトルもすごく合ってるなと思います。
 
──歌詞にはどんなものが込められていますか?
 
ビッケ 緊急事態宣言で渋谷に人がいなくて、「すげえ! うぉ、人いねえ!」みたいになって、クラブも閉まったしバンドのライブもないし、みたいな。で、俺たちには見えんけど、夜になったら人間がいないのをいいことに人間じゃないものが盛り上がってたりして、みたいなことを想像したんですよね。イギリスで、人間がいなくなったから街中にヤギが溢れたっていうニュースが面白かったんですよ。渋谷だったら動物はいないからお化けが来て何かやってんじゃねえのと。そっちの世界の方が楽しそうだなあと思って、歌詞にしました。
 
──あの頃の光景って、想像力を刺激するものがありましたよね。
 
ビッケ ありましたね! 「すげええええ!」ってなりました。見たことない光景だったから、感動すらしましたよね。何かパラレルワールドみたいでした。でもそれで、ライブができない、人に会えない、曲も作れないという状況で心が“負”に陥ってできた曲、ではないんですよ。どっちかというと、その様子を面白がってるというものなので。全編通してコロナの期間中に作ったんですけど、コロナの影響はほぼゼロです。
 
──そうなんですか。
 
ビッケ 「コロナ禍で曲作りは変わりましたか?」っていう質問をずーっとされてきたんですよ。みんなそうやって聞くから、何が変わったかっていうのを期待してるんですよ。でも、僕に関しては「ない」。ずっと家にいられてよかったとすら思ってますから。この曲に関してだけは、あの光景を見てブラックジョーク的に歌ってみた、っていう感じですね。ちょけたというか。
 
──確かにあの光景は、SF小説が現実になったかのようでした。
 
ビッケ すごかったんですよ。夜、道玄坂に人がいないってないんですよ。店も全部閉まってて。そこを車で通って、感動しましたから。衝撃的なシーンだったので、あの一瞬の気持ちを切り取って、ちょっとフィクションっぽくストーリーテリングしたって感じですね。


驚愕! 夢の中で作った楽曲!?


──次がアルバム・タイトル曲の「FATE」ですね。
 

ビッケ アルバムのタイトル曲なので、前向きでありながらも、ちょっとダークサイドに堕ちてる感じを表現しました。「FATE」っていう言葉が持ってるそのままのイメージというか、「運命」とか「命運」って、明るいだけじゃないですよね。その感じが、パワフルさと危うさの両方でバランスが取れたなという気持ちで書いて。サビに出てくる「よだか」、宮沢賢治の「よだかの星」という童話がインスピレーションの元なんですけど、よだかがガッと夜の空に飛んでいくという開放感みたいなところもイメージしました。
 
──「FATE」というタイトルの元に、アルバムのタイトル曲という前提で作られたものなんですか?
 
ビッケ これはもともと「よだか」というタイトルで、何となくできてたんですよ。それでこのアルバムに入れるとなった時に、「FATE」を冠るならこの曲しかないなという感じでタイトルをつけました。
 
──冒頭の歌詞で「みちのくの二本松が落ちたら」というフレーズが、何の説明もなく登場します。調べてみたら戊辰戦争の際の二本松城落城のことなんですね。
 
ビッケ そうですね。「よだか」とかもそうなんですけど、この時はフィーリングというか制作のモードがちょっと“和”なんですよね。それで「さようなら」も「左様なら」になってたり。「よだか」とか「左様なら」が「みちのくの二本松」を呼んだか、「みちのく」から引っ張られていったのか、どっちだったかはもう忘れちゃいましたけど、歌詞同士が影響し合って曲全体の世界観を作ってるって感じですね。しかも、これをアメリカでミックスしてるっていうのがミソです(笑)。
 
──面白いですね。次は「ミラージュ」です。
 
ビッケ これはドラマ(「竜の道 二つの顔の復讐者」)用に書き下ろしたものですけど、完全にドラマの世界に入り込めて、双子の主人公に本物と偽物の蜃気楼が映るというテーマで歌いつつ、人間の本質的なところを描けたらいいなと思って、なるべく僕なりに、そんなに研いでないナイフで真実を斬りつけたつもりではいるんですけど。
 
──ドラマが昨年の8月なので、この曲だけ制作時期が少し早いですよね。
 
ビッケ ちょっと前ですね。コロナの最中に放送されてましたけど、作ったのはちょうどその時期が始まるぐらいだったので。他の曲とは少し時期が違いますけど、シングルだったというのもありますし、「いい」と言ってくれる人も多かったので、もっと光を当てたいなと思って。ドラマで十分に光は当ててもらってましたが、ライブでやったりすると明らかに違う光を放つので、アルバムには収録したいと思いました。
 
──この「FATE」「ミラージュ」あたりは、アレンジ面でもかなりビッケさんらしさが前面に出てますよね。
 

ビッケ そうですね、「ミラージュ」のあのメロディーは……夢の中で作ったんですけど。

──夢の中で?
 
ビッケ 僕、明晰夢が見れるんですよ。起きたまま「あ、夢が始まる!」って言って入っていけるんです。その時期は毎日夢を見続けてて、それに飽きてて。「そういや曲を作らなきゃいけないから、次に明晰夢に入ったら曲を作ろう」ってことで夢に入って。夢はベッドから始まるんですけど、起き上がったらたまたま、ありがたいことにピアノがそこにあって。それで作ったのが、このサビのメロディーですね。
 
──そうなんですか! そういうことって、けっこうあるんですか?
 
ビッケ いえ、これが初めてです。そんなに、天才風な演出はできないです(笑)。
 
──でも、それがたびたびできたらすごくよさそうじゃないですか。
 
ビッケ よさそう! でも明晰夢だと、他にやりたいことがいっぱいあって。まだ俺、空を飛べてないんですよ。そのチャレンジがすげえ大変で。
 
──夢の中で空を飛ぶためには、普段から空を飛ぶイメージを作っておくとか、そういうことですか?
 
ビッケ 夢の中では自由になることは分かってるので、心持ちなんですよ。つまり夢の中で、俺が「飛べる」と思ってないんです。だから飛べないんですよ。
 
──ああ、なるほど。
 
ビッケ 「ああ、分かんねえ! どうやったら飛べるんだ!」って。明晰夢が見れる人はたまにいて、みんな飛べるらしいんですよ。何で俺だけ飛べねえんだ!って思って。「翼もがれてるわ!」と思いますよ。次はレッドブル飲んでからやってみます。
 
──翼を授けてもらうわけですね(笑)。えーと、アルバムの話に戻って(笑)、「Divided」です。
 
ビッケ これは最後にできた曲です。正確にはイントロ、アウトロが最後なんですけど、それ以外では最後にできた曲で、タイトなスケジュールの中で制作を続けてたんですけど「1曲足りない!」ってなって。本当は別の曲を入れる予定だったんですけど、それは残り2日ではできない作業量だということが分かっていたので、「じゃあ弾き語りを作るよ」と言ってアレンジから歌詞からメロディーから2日で作り切って、気付けばアルバムの中でも別の存在感を放ってて、すげえな!って思いました。
 
──2日で作ったとはとても思えないですよ。
 
ビッケ やっぱり、アレンジとかに時間がかかるんですよ。いろんな楽器を考えたり、コードの当たり方とか、メロディーもそれに合わせて日々変化していっちゃうから。でもこれは、ピアノとバイオリンしかないと言ってもいいぐらいで、要素がシンプルだから。
 
──今作で唯一の英詞ですよね。それは何か理由が?
 
ビッケ 個人的に、英詞の方が感情を込めやすくて。なおかつ、他にないからアクセントにもなるだろうし、「せっかくできるんだからそれもやったら?」って言ってもらえて、本気で英語で書いて本気で英語で歌いました。


ビッケブランカにとってのJ-POPとは?



──次は「Little Summer - Standalone」です。
 
ビッケ これは、もともとはLAMP IN TERRENの松本 大さんと一緒にコラボしたものなんですけど、ここでは自分一人で歌ってます。「Standalone」っていうのはメカニック用語で、「ネットワークに接続しないで単独で立ち上げる」という意味なんです。
 
──ああ、そういうことなんですね。
 
ビッケ もともとの「Little Summer」は2人でやってるものなんですけど、これは「Standalone」です、っていうことで。いろんなところにテック系のアイデアが入ってたりするんですよ。曲自体は「奥ゆかしき夏」みたいなことをテーマに、ちょうどその頃覚えたてだったトロピカルハウスをやってみようと思って作ったものです。
 
──次は「オオカミなら」ですね。
 
ビッケ この曲と次の「ポニーテイル」は本間昭光さんという方と一緒に作っていて、僕はメッチャ好きな人なんですよ。「ポニーテイル」を作る時に「絶対J-POPになりそうだな」と思って、最終的に確かにJ-POPになったんですよ。今までは完全にJ-POPやることってなかったんですけど、やってみたらすごく面白かったし、いろんな人が「いい」って言ってくれたから、「じゃあ、アルバムの中でもう1曲、J-POPやりましょうよ、本間さん」ということで。「ポニーテイル」は今の時代に合わせてちょっとアレンジしたりとかしてるんですけど、「オオカミなら」に関しては「イヤになるほどJ-POPにしてくれ」って言って。「ど真ん中ど真ん中の図星行ってくれ」みたいな。だから逆にふざけてますね、これは。
 
──ふざけてるほどやり切ったと。
 
ビッケ コードの響きとか、どこまで古いん?みたいな感じですからね。「日本の古き良き」をやり尽くした感じで。
 
──「ビッケブランカがJ-POPやってみた」状態ですね。
 
ビッケ もはやそんな感じです。歌詞とかも一瞬を切り取って、強気になりたいけどなれないような、意気地があるようでないようである男みたいな、そういうものを描いてます。
 
──歌詞は応援歌に聞こえますよね。
 
ビッケ そうですね。だからそういう、意気地の決まらん男たちの後押しになればいいなと思いますけど。意外と違う空気を出してて、好きな曲ですね。
 
──そして今、話にも出た「ポニーテイル」。
 

ビッケ これが新しいチャレンジでしたね。ずっとJ-POPのフィールドにいるにもかかわらず、J-POPのど真ん中をやったことがなかったので、メジャー3~4年目の、このタイミングでやるかって感じでしたけど。これはこれで、聴き終わった後に「いい曲だったなー」ってジンワーと思ってほしいというか、それを叶えようと思って作って、最終的にいい春の歌になったなと思いました。
 
──今年3月、この曲がリリースされた頃のインタビューでは、「最近はあまり複雑な曲は聴きたくない」と発言されてましたよね。
 
ビッケ そうなんですよ。ずっと家にいてゆったりしていたかったから、曲に驚かされるとかがイヤだったんですよ、その時は。最近はまたそういうのが大好きですけど。当時は「Salyu聴きたい!」と思って、Salyuばっかり聴いてましたから。その時から、「次の新曲はそういう優しい曲になるんだろうな」って予想はついてて。それで案の定この曲になったって感じですね。
 
──この2曲でJ-POPらしいスタイルをやったわけじゃないですか。これは今後、スタイルの幅となって生かされていく感じなんでしょうか。
 
ビッケ 分かんないですねえ。その時何をやりたいかによるんで。明確に言えるのは、「J-POPを書く」って言って書いた詞っていうのは、やっぱり書き方が違ったりするんですよね。ストレートな方がいいんだけど、ただストレートなだけだったら誰にでも書ける言葉にしかならないので、ちょっと変化をつけさせないといけないし、より伝わるストレートさみたいなものがないとダメなんだなと。ツーシームですよね。フォーシームじゃなくて、ツーシーム(注・どちらもピッチャーが投球する時の握り方の名称)ぐらいのストレートにしなきゃ、みたいな。分かります?
 
──いえ、あんまり(笑)。野球の投げ方ですよね?
 
ビッケ そうそう。フォーシームって、ただのまっすぐなんですよ。ツーシームもまっすぐなんだけど、ちょっとだけ変化する、みたいな。その方がいいってことに気づけた曲でしたね。だからここで作った感覚は、「夢醒めSunset」とか「蒼天のヴァンパイア」あたりにも影響してるんですよ。メンタリティーとしてというか、考え方の基盤になってる感じですね。
 
──次が本編としては最後となる「天」ですね。これは「ポニーテイル」のカップリングでした。
 
ビッケ 音がすごく明るくて、「そうですね」って言葉で始められたところが「愛せるな、この曲」と思えるんですけど、人によっては「コロナ禍を描いてる」と受け取った人もいるみたいなんですよ。本当はそれよりだいぶ前に書いてるんですけど、たまたまそういうのが時代に合って違う解釈をされるっていうのが、音楽とか作品の面白いところだと思うので、そこを体現してくれてるんだなと。やっぱり最後を飾るにふさわしいぐらいのパワーが何かあるから、飾ってくれたって感じです。


アルバムの流れがこの形になったのは……



──ひと通り語っていただきましたが……「アルバム全曲を語っていただく」ということはいろんなアーティストの方にお願いするんですけど、こんなに駆け抜けるようにダーッと語ってくださった方は初めてです(笑)。
 
ビッケ そうですか? 全部分かってますからね。
 
──どのアーティストも「全部分かってる」のは同じだと思うんですが、こんなに淀みなくしゃべってくださった方は初めてというか。ここまで20分かかってないですしね。
 
ビッケ 早口ですしね。だから時間は短くても、文字数にしたら十分だと思うんですよ。
 
──おそらくそうだと思います(笑)。(注・実際この分数でこの文字数になっているのは例外的)
 
ビッケ やっぱりどの曲にも思い入れがあって大事な部分があるし、スケジュールがタイトだったからその時その時で1曲としか向き合わずに作り続けてたんですよ。終わって「アルバムには何が入るんだっけ?」って分かんないぐらいになってて、ラインナップをもらったら全曲が「俺が主役になりてえ!」「俺を主役にしてくれよ!」って曲ばっかりだったんですよ。それぐらい、1曲1曲と向き合ってきたので、どこが大事でどこがウリかっていうのは自分でよく分かってます。
 
──アルバム全体の流れなんですが、最初はけっこうアッパーに始まって、中盤でダークな曲やスローダウンした曲があり、最後は「オオカミなら」「ポニーテイル」「天」と明るく終わりますよね。この流れにも意図が?
 
ビッケ そんなに明確に計算したわけじゃないですね。アルバムの曲順については、全体を通して考えるということをやめたんですよ、今回から。「一番聴いてほしい曲を、一番上に持ってくる」という、それだけのルールにしたんです。
 
──そうなんですか!
 
ビッケ そうしていった中で、唯一例外があるとしたら、この「天」というのはクローザー(※野球で勝ち試合、特に僅差で勝っている試合の終盤に起用され、確実に勝利に導くことを期待されている投手のこと)なんですよね。「9番ピッチャー●●」じゃなくて、マウンドに立ってる岩瀬(仁紀。中日ドラゴンズで活躍し、日本プロ野球で最多登板および通算セーブ数の記録を保持。現在は引退)なんですよ。岩瀬は大事じゃないですか。だから「天」は最後を飾るにふさわしいと。で、全員がいいバッターで、たぶん「ポニーテイル」とかは他のアルバムだったら四番なんですよ。でもこのアルバムだと、七番か八番っていう。それ以上に聴かせたい若手がいる、みたいな。なんで野球にたとえだしたんですかね?
 
──野球がお好きということは、よく伝わりました(笑)。ただ、アルバムの構成で最後に明るい曲が続くというのは、意外にないんじゃないかと思って。
 
ビッケ それはたまたまですね。曲がその流れを呼んだとしか言えないです。でもそういう「偶然いいよね」っていうのは、いいものには付き物なので、それもよかったなと思います。何かいい形になったというか。
 
──最初に聴いた時は、「コロナ禍で暗かった世の中から、明るい未来が見えて終わる」という流れなのかと思ったんです。でもお話を伺っていると……
 
ビッケ そういうのではないんです。そういう意味を込め出すと、違うものになってしまうんで。逆にそういう狙いとかは、一切ないと思っていただいて構いません。それをどうにか入れ込もうとすると、敵の思う壺みたいな気がするんで。「どうでもいいし、お前なんか」っていうメンタリティーでいたいんですよ。実際、そんなに苦境にも立たされなくて恵まれた生活をしてたし、幸い家族も健康でいてくれたし。亡くなった方もいた中で、自分は本当に幸運だなと思うので、目くじら立てる方が思う壺のような気がするので。人間ごときにやれることは限られてるんで、自分のやれることだけ一生懸命やればいいのかなと思います。
 
──また、前作から今作までの間の時期って、メディア進出が進んでご自身の活動にもけっこう変化がありましたよね。
 
ビッケ そうなんですよ! 何だか分かんないんですけど、進んだんですよね。普通は停滞すると思うんですけど。
 
──ですよね。そのへんの影響というのはありますか?
 
ビッケ たぶんそのへんのことも、本当に幸運だから心が疲弊しないんだなと思いましたね。自分のもともとの性格というのを土壌に、幸いこの1年半とかも、誰かに何かやらせてもらえたっていう感じで恵まれてたから、暗くなってないんだろうなということですよね。
 
──確かに、普通は萎んでもおかしくない状況ですよね。そうならなかったのは、そこまでにやってきて積み重ねてきたことがうまく機能したのでは?
 
ビッケ そうですね。長いこと、大それたことは別に言わずに、やれることだけをやってゆっくりゆっくり斜めの坂を上がってきたような感覚はあるので。それがこの時期になってもずーっと同じペースでいられるというのは、よかったですね。
 

今後の楽しみはツアー、そして……寿司!?


──このアルバムがリリースされて、下旬からはツアーが始まります。もちろんこのアルバムの曲が中心になると思うんですが、どういうライブになりそうですか?
 
ビッケ 現状では何にも考えてなくて、いつもリハが始まってから考えるんですよ。それまでは頭をやわやわにしておきたいので。アルバムが出たら、曲がいろんな歩き方をすると思うし、それによってライブもまたいろいろ変わってくると思うので。今は逆に何も考えずに、忘れてたぐらいにしてます。で、リハーサル期間の約2週間で出てきたアイデアを全部生かす、ぐらいの感じでいつもツアーをやってます。
 
──ではリリース後は、曲ごとの反響を気にして、ライブに生かすわけですね。
 
ビッケ そうです。曲作りの時は「他人のことなんか関係ない」って感じで自分のやりたいことだけやってますけど、リリースされたら、今度はライブのため、人のためにしか動かないというか。それまではずっと自分のためなので。
 
──なるほど。ツアータイトルについている「2147」というのは?
 
ビッケ 「メッチャ未来」ってことです。「TOKYO2020」が、2021年にやってるじゃないですか。すげえイヤなんですよ、このズレが。シンメトリー好きで几帳面な僕からすると、このズレはすげえイヤなんです。誰のせいでもないですけど。だから僕のツアーは2021年にやるんですけど、万が一また何かが起きて、2022年に延期になったらイヤなんですよ。そのズレがイヤなので、だったらメッチャ未来にしておこうと思って。ここまでズレることはないだろうと。「うわー、2148年に『ツアー2147』やってるよ!」とは言われんだろう!ということで、なるべく未来にしといた感じです。
 
──126年間は、何があっても平気ってことですね(笑)。今年の前半に行われたライブでも、お客さんの反応が昨年とは違ったというお話を以前にされていましたが、今度のツアーはまた違いそうですよね?
 
ビッケ 違うと思いますね。ただ、僕がやってることは変わらないんですよ。同じことをやってるんで。コール&レスポンスができないぐらいで。残念ながら僕、コール&レスポンスはメチャクチャやるんですね。フランス語の部分をお客さんに歌ってもらったりするんで。それが一切できないというので大変かなあと思ってたんですけど、それでも何だかんだ成立はするので、何とでもなるだろうなと思ってて。だから頭をひねるだけ無駄かなとも思ってます。
 
──やれない期間も長かったので、ご自身としても楽しみなのでは?
 
ビッケ 楽しみです。ワンマンライブはいつもメチャクチャ楽しみなんですよ。ワンマンって、何してもいいじゃないですか。ルールを自分で決められるから。フェスもメチャ楽しいんですけど、演奏時間を守らなきゃいけないとか、何となく流れがあったりしますよね。「みんなで作ってるんだ」みたいなMCもちょっとしなきゃいけないみたいな。一応、僕もなぞりますよ、礼儀なんで。(※カメラマンに)何でこの話してるイヤな顔を撮ろうとするんですか(笑)。
 
──わざわざイヤそうな顔をしなくても大丈夫です(笑)。
 
ビッケ ああ(笑)。でもワンマンって、僕を見に来てくれる人たちが集まる場なわけじゃないですか。そう考えると、メチャ甘えますよね。甘えてるんですよ。「疲れた!」って座っちゃったりとか、バラードゾーンをちゃんとやり切って「もう集中が切れました」みたいになったり。それでも皆さん笑ってくれて、すっごく甘やかしてくれるから、代わりにメチャクチャ楽しい時間にしなきゃなっていう責任感も同時に生まれるんですけど。
 
──アルバムとツアー、どう楽しんでほしいですか?
 
ビッケ アルバムは、たぶん1曲は好きになってもらえる曲があると思うので、1回全部聴いてみてと言いたいですね。必ずどこかがあなたにマッチして、あなたの生活を豊かにしてくれると思うので。で、アルバムの曲を聴いてツアーに来てくれたらより楽しめると思いますけど、とにかく来てくれたらたぶん大丈夫です。(※と話しながら、手が寿司を握る形に……)
 
──あのー……「早く寿司を握りたい」という気持ちが手に出ちゃってるんですが……(笑)。
 
ビッケ 全然出てないっすよ! 気のせいです! (※前に置かれていたICレコーダーを手に取り)これ、大きさ的にちょうどいいネタっすね。いい寿司になりそうです。
 
──これは食べれません! せっかくなんでお寿司のこともちょっと伺っていいですか(笑)。いつ頃からやってるんですか?
 
ビッケ ホントに最近ですよ。1ヵ月前とかです。漫画を読んで。
 
──漫画がきっかけなんですか!
 
ビッケ 「江戸前鮨職人きららの仕事」(原作:早川光、作画:橋本孤蔵)っていう、メッチャ古い漫画があるんですよ。(2002年~2010年の作品。2005年にはTVドラマ化も)伝説の寿司職人を父に持つ女の子が主人公で、彼女が板前の頭になっていくみたいな話で。それを読んでて、握り方とか奥深いな~!と思ってて。また僕が魚釣りが好きで、釣った魚を持って帰ってパスタに入れて……とかやってたんですけど、今は釣りにも全然行けないから、違う形で海に触れ合おうと思って。
 
──それで自ら握り始めたんですね。
 
ビッケ 寿司って、みんな食べたいじゃないですか。でも食べに行きづらい時期があって、「だったら自分で握ったらいいんじゃねえか」と思って調べたら意外とできるなと。それで飯台とか寿司下駄とか、道具も全部買い揃えて始めたんです。自分で握れば、いつでも食べれる!みたいな。これからも突き詰めていこうと思います。
 
──ちゃんと握れるものなんですか?
 
ビッケ 握れますよ。偏差値50は簡単に叩けます。奥が深いから、それを70に持っていこうと思うと難しいですけど。
 
──どのあたりが奥深いんですか?
 
ビッケ まず温度ですね。「どの魚にはどの温度がうまいんだ?」とか言い出したらキリがなくて、そこは音楽とメッチャ似てます。EQかけるにしても、どの楽器にどれだけEQかけるかとか、そういうことと。それでシャリをふわふわって握って(※手つきを示しながら)、シャリの上のところを指でクッって押して凹みをつけるんですよ。それをやると米がフワッとなるんですけど、それをやらないでただ握ると、機械が握ったのと同じになるんです。米は固めに炊くから、それだとすぐ壊れちゃうんですよ。
 


──ああ、なるほど。
 
ビッケ それを逆手に持ち替えて固めて固めて、それから最近、筆を仕入れたので煮切り醤油をサッと塗って、「醬油つけずにどうぞ」と。……これ、聞く必要ありました?(笑)
 
──いえ、大変面白かったです(笑)。それは人に振る舞いたくなりますね。
 
ビッケ なります。寿司下駄は2つ買ったので、今日も2人来るんですけど。みんなで食べながら、練習も兼ねて握るのは俺、という。
 
──早く寿司を握りに帰りたいところ、すみませんでした(笑)。ありがとうございました!

 
撮影 長谷英史


4th Album『FATE』
2021.9.1 ON SALE


 


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FATE TOUR 2147
(読み:フェイト ツアー ニーイチヨンナナ)
9/24(金)福岡・福岡市民会館
開場 17:30 / 開演 18:30
10/1(金)北海道・札幌市教育文化会館
開場 17:30 / 開演 18:30
10/15(金)東京・LINE CUBE SHIBUYA
開場 17:30 / 開演 18:30
10/17(日)愛知・日本特殊陶業市民会館フォレストホール
開場 16:30 / 開演 17:30
10/30(土)大阪・フェスティバルホール
開場 16:30 / 開演 17:30
 
チケット:¥6,000(税込)
先行受付中
https://vickeblanka.com/


【ビッケブランカ OFFICIAL WEBSITE】
https://vickeblanka.com/
【ビッケブランカ Twitter】
https://twitter.com/VickeBlanka
【ビッケブランカ YouTube】
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【ビッケブランカ TikTok】
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【ビッケブランカ official fanclub「French Link」】
https://vickeblanka.fc.avex.jp/



高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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