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FEAR NO EMPIRE(フィア・ノー・エンパイア)

【ゼブラヘッドのメンバー参加】フィア・ノー・エンパイア結成の意味とは!?【大統領選まで1週間】

2020.10.28
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昨年avexに移籍し、第1弾アルバム「ブレイン・インベーダー~脳内ジャック」をリリースしたことも記憶に新しいゼブラヘッドの中心メンバーであるアリ(ボーカル/ラップ)、ダン(ギター)、ベン(ベース)の3人に、デス・バイ・ステレオのドラマー、マイクを加えた4人によって、新たなハードコア・パンクバンド“フィア・ノー・エンパイア”が結成されました。8月に第1弾「REVOLT」をはじめとして4曲のシングルを配信した彼らは、それらの曲も含めた1st EP『FEAR NO EMPIRE』をアメリカ大統領選挙の1週間前にあたる10月28日に配信リリースします。ボーカル/ラップのアリに、バンド結成の意図や各曲の背景にある社会問題について聞きました。


ひどい社会問題全てに対応するには、音楽を作るしかない!



──FEAR NO EMPIRE(以下FNE)結成の、直接のきっかけになったような出来事は何かあったんでしょうか?
 
アリ FNEの結成のきっかけとなった出来事はいろいろあるけど、Sum 41とのヨーロッパツアーから戻ってから1ヶ月ほど経っていたときに、COVID-19のパンデミックに対してアメリカが誤った対応をしていたこと、BLM運動の発端になった警察官によるジョージ・フロイド殺害事件など、ひどい問題がたくさん起こってたよね。俺はそれらにフラストレーションを感じてたんだ。そして俺たちは、こうしたネガティブな物事全てに対応するには、音楽を作るしかないと思った。俺たちはみんなの気持ちを反映した曲を書き始めたんだ。この楽曲たちが、これらの社会問題に光を当てることを願ってね。
 
──ゼブラヘッドの楽曲も社会情勢を背景にしたものが多くあると思いますが、FNEの活動はゼブラヘッドの枠には収まりきれないものだったということでしょうか?
 
アリ FNEの目的は、社会的、人種的不平等が存在しているということを人々に知らしめること。そして、人々が自ら声を上げて、前向きな変化を起こすように促すこと。そういう音楽を作ろうと、意識的に取り組んでいるんだ。ゼブラヘッドの曲も似たようなテーマに触れているけど、それほど焦点を絞らずに、あらゆる種類のトピックを曲にしているところが違うかな。
 
──ゼブラヘッドの楽曲が何よりも好きというファンにとっては、FNEはかなり刺激の強いサウンドになっていると思います。そのようなファンに向けて思うことは?
 
アリ ゼブラヘッドのファンのみんなは常にオープンマインドで、様々なスタイルの音楽を楽しんでくれると思う。FNEに興味を持って俺たちのやっていることを好きになってくれる人もいれば、そうじゃない人もいる。FNEを始めた時、自分たちがどう受け取られるか、また自分たちの音楽がゼブラヘッドのファンにも響くかについては、考えていなかった。自分たちの周りで起きていることにインスパイアされて、それを全て理解するためにFNEの音楽を作ったんだ。俺はこの新しいプロジェクトをとても誇りに思っているし、俺たちの音楽がゼブラヘッドのファンのみんなにも共感してもらえると信じているよ。
 
──FNEのサウンドにはメンバーのパンク、ヒップホップのルーツが取り入れられているとのことですが、具体的に強い影響を及ぼしているアーティストはありますか?
 
アリ 俺はBeastie Boys、 A Tribe Called Quest、Cypress Hill、Ice CubeといったヒップホップアーティストやRage Against the Machineを聴いて育ったんだ。ベンに出会って、彼がパンクシーンを紹介してくれた。ベンはPropagandhi、Lagwagon、Bad Religion、Minor Threatといったバンドに影響を受けて、俺も聴くようになった。俺にとってパンクロックとヒップホップは、攻撃的であることと、権力に媚びないという共通点がある。
 
──これはあくまで私見なんですが、パンクとヒップホップでは社会問題への向き合い方が少し違うのではという印象を持っています。ヒップホップの方が、より「自分の周りの問題」として捉えている傾向があると思うのですが、いかがでしょう?
 
アリ それはジャンルというよりも、アーティストによる違いの方が大きいと思うよ。同じように「社会問題を扱う」にしても、あるアーティストは、自分たちに直接影響を与えた体験に特化した曲を描いている。一方で別のアーティストは、コミュニティ全体に蔓延している問題について曲を書いている。人々はみんな、歌に対して異なった関わりを持つから、両方とも重要で必要だと思う。Ice Cubeが社会問題を描く方法と、Rage Against the Machine やPublic Enemyが社会的不正について描く方法は全く違うもの。みんなそれぞれのやり方でかっこいいよね。
 

俺たちの歌によって、人々が団結するきっかけになれれば。



──さて、1st EP『FEAR NO EMPIRE』に収録される曲についてお聞きしたいと思います。サビで「マスクをつけろ、この馬鹿野郎!」と歌う「Super Spreader」のテーマは「反マスクの人々」でしょうか?
 
アリ そうだよ。「Super Spreader」は、パンデミック時のアメリカで、マスク着用がバカげた政治問題に利用されていることにインスパイヤされた曲だ。科学が「マスクは命を救う」と言っているのに、マスク着用を拒否する人々への俺たちのフラストレーションを解消するために書いたんだ。俺は何度も日本に行ったことがあるけど、具合が悪い人が周りに迷惑をかけないようにマスクをつけていることに、いつも感謝しているよ。それは他人への敬意の表れだよ。悲しいことに、マスク着用政策を「市民の自由への脅威」とみなしているアメリカの一部の人々には、そういう敬意が失われているんだ。
 


──「Revolt」や「Amplifier」「Feed The Pressure」に共通するテーマの一つに「分断」があると思います。そういった状況に対して、FNEのような音楽が果たせるのはどのような役割だと思いますか?
 
アリ アメリカの分断に光を当てることが重要だと俺は思っている。何十年にもわたってアメリカを悩ませてきた社会問題はたくさんあるけど、今の政権下では間違いなく事態はエスカレートしている。彼らが社会的不平等と制度的人種差別を認めなかったこと、そして憎しみに満ちた巧みな言い回しを使って恐怖をかき立てたことによって、我々はさらに分断に追い込まれている。今はまさに勝負所だね。変化を求めて戦う声が連帯して集まる中で俺たちの国が目覚めて、これまでの文化が変わっていくことを経験しようとしている。俺たちがミュージシャンとしてできることは、音楽を作ることだ。時にそれは社会的規範に抵抗して、不正行為の存在を暴いて人々に気づかせるという意味を持つこともある。FNEの歌が人々をインスパイアして、自分たちで声を上げて団結するきっかけになれたらうれしいね。
 
──このような状況下にあってなお(だからこそかもしれませんが)、トランプ大統領のように分断を利用するリーダーを支持する層は、世界中に広がっていますよね。
 
アリ そう、トランプがいい例で、ナショナリズム、ポピュリズム、極右保守主義がたくさんの国で増加している。残念なことに、アメリカに限ったことじゃないんだ。俺はこういう“リーダーたち”を権力の座につけ、居続けさせる一定の情報源があるとも思っている。最も注目すべきは、誤解を招く情報、陰謀説、そして露骨な嘘で特定の層を引きつけているソーシャルメディアだ。彼らは疑惑や誤った信念を植え付け、最終的に反対意見を持つ人々への恨みを引き起こしている場合もあるよね。
 


──日本では、「ミュージシャンや芸能人が政治を語るな」と言う人々が多いという現状があります。あなた方のように「音楽で発言する」立場から、その状況はどう見えるでしょうか?
 
アリ アメリカでも同じように感じる人はいるよ。なぜ政治について話すべきではないんだ? ミュージシャンもエンターテイナーもプロのアスリートも、地元のドーナツ屋で働く男性と同じように社会の一員だよ。彼が、彼自身の問題、彼のコミュニティに関わる問題について話す時は、俺たちも耳を傾ける。有名人にはファンがたくさんいるけど、それが、「人は皆信じるもののために立ち上がる権利を持っている」という事実を変えるわけじゃない。政治も含めて、自分たちが情熱を持っていることを話すために、それぞれが持つ手段も使うべきだと思う。
 
──「On Fire America」の歌詞の背景には戦争や紛争状態があると思います。一方で、こうしている間にも現実にアルメニアとアゼルバイジャンの紛争が激化しているという状況があります。この現状をどのように捉えていますか?
 
アリ 「On Fire America」は、組織的人種差別、警察の残虐行為やその他の不正に対して街頭で抗議する人々の混乱を取り上げている。今の政権はそれを認めることを拒否し、抗議する人々を鎮圧するために力を行使した。そしてその行為がいくつかの都市で暴動や暴力的な衝突を引き起こした。俺たちは歌の中で直接戦争を語ってはいないけど、戦争は決して平和的な交渉の代わりとして受け入れられるものではない。罪のない一般の人々が巻き込まれ、途方もない不利益を被るのだから、国家が武力紛争や戦争に関わることはとても悲しいことだ。


日本でのライブをする日が待ちきれない!



──さて、FNEではこれからどのような活動を考えていますか? ライブもやりますよね?
 
アリ そう、絶対に!ライブが安全になったらね。それまではより多くの曲を書いて、来年にはフルアルバムをリリースする予定だよ。
 
──今後、FNEとゼブラヘッドでの活動の住み分けについてはどのように考えていますか?
 
アリ 両方のプロジェクトにエキサイトしているよ。パンデミックの心配することなくフィア・ノー・エンパイアとゼブラヘッドのライブをする日が待ちきれないよ。
 
──もしFNEの活動がコンスタントに続くとすると、それは人々が怒りを覚える出来事や社会情勢が少なくなっていないことを示すという皮肉なことになりますが……。
 
アリ アメリカは、長く続く難しい問題を明らかにして、地域社会の結集と実際の解決策に繋がるであろう全国規模の対話を推し進めることで、少し進歩を見せたと思う。11月の大統領選挙でトランプを落選させられれば、過去4年間に彼とその腐敗した政権がもたらしたダメージを癒すことができるだろう。俺たちはみんな、今の政治情勢が改善されて国の分断が少なくなると楽観視しているけど、俺たちはこのEPで表現したことは、自分たちが伝えたいことの表面をほんの少し引っかいた程度なんだ。俺たちが直面している問題はまだまだたくさんあって、今後もそういった問題にインスパイアされて曲ができていくことを確信しているよ。何しろそうでないと、この新しいバンドでみんなに会うこともできないからね(笑)。ライブが安全に開催できるようになっていたらだけど……来年は日本に行く予定だ。待ちきれないよ!
 
 
最後にメンバー全員から、日本のファンへのメッセージも届きました。延期となっているゼブラヘッドの来日ツアーと同様、FNEとしてのライブパフォーマンスを見られる日が楽しみ!
 
ベン 日本の全てのファンと友人へ…長年の応援本当にありがとう、素晴らしい国日本で俺たちを家族のように扱ってくれて感謝しているよ。日本はいつだって俺たちの第二の故郷さ。愛してるぜ、そして早く会いたいよ!
 
ダン フィア・ノー・エンパイアのダンです。また日本に行ってみんなの前でプレイするのが待ち遠しいよ。みんなが安全で健康でいることを願っている。いつも本当にありがとう! 近いうちに会おうぜ!
 
マイク やあみんな! フィア・ノー・エンパイアのマイクだよ。日本のみんながくれる愛はかけがえのないものだ。日本に行ってフィア・ノー・エンパイアの初ライブをする日が待ち遠しいよ。みんなに会って、ライブの後にどこか行くのも楽しみだ。ラーメンも1杯…いや2杯とか! それまで元気でな!
 
アリ 長年にわたる日本のファンと友人からの応援にありがとうと伝えたい。また会える日まで安全に健康でいてほしい。早く会いたいし、心から感謝しているよ。



 

1st EP『FEAR NO EMPIRE』2020.10.28 ON SALE
 
01. Revolt
02. Amplifier 
03. Destroyer (Destroyer feat.Zebrahead)
04. Super Spreader 
05. Feed The Pressure (EP収録)
06. On Fire America (EP収録) 




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高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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