翻訳
12月24日にリリースされるASTRHYME RECORDS 第一弾シングル「mote mote♡」。本作は田中美久さんがHKT48卒業後初のソロ作品となる楽曲で、プロデューサーに溝部ひかる、音楽プロデューサーにCHIHIRO、振り付けにはらん先生を迎えて送るGIRLS POWER炸裂の一曲となっています。この楽曲と、新レーベルASTRHYME RECORDSについて、田中美久さんと、レーベルをプロデュースするA&Rの牧祐介さんにお聞きしました!
「小学校の頃からエイベックスに憧れてたから、話が来たときはびっくりしました!」(田中)
──HKT48の卒業後、田中さんは幅広い分野で活躍されていますが、歌うことについてはどういうスタンスでいたんでしょうか。
田中 アイドルを卒業してからは「歌うことはもうない」って思ってました。なので、今回こういう機会をいただけて、ご縁を感じてます。
──じゃあ、今回の話が来たときはびっくりしたんじゃないですか。
田中 いや、本当にびっくりでした! 私、本当の本当に、小学生の頃からエイベックスに憧れてたんです! 好きなアーティストさんが全員エイベックスだったくらい。
──それはすごい。
田中 当時はまだレーベルっていうものを知らなくて、そのアーティストさんのことしかわからなかったんですけど、小学6年生でアイドルになってからレーベルとか音楽業界のことについていろいろと知っていく中で、私の好きなアーティストさんが全員エイベックス所属だったことに気づいたんです。そうしたら、アイドルを卒業してからこういうお話が来て、なんか、やっぱりどこかで結ばれる運命だったのかなって。だからもう、今回のお話をいただいたときは信じられなくて、めっちゃ嬉しかったです。

──当時好きだったアーティストの名前は挙げられますか?
田中 お母さんとかおばあちゃんと一緒によくカラオケに行ってたんですけど、私が最初に知ったのは倖田來未さん。「Butterfly」とか「キューティーハニー」はちっちゃい頃から歌ってました。あとは、浜崎あゆみさん、AAAさん、大塚 愛さん……。最近すごいなと思ったのは安斉かれんさん……いっぱいいますね!
──ということは、ずっとエイベックスの手のひらで転がされてきたんですね。
田中 そうですね(笑)。「私が好きになるの、全部エイベックスだわ!」みたいな感じでした。
──じゃあ、今回の驚きは本当にすごいものだったと。
田中 めちゃくちゃ驚きました!夢が叶った瞬間でしたね。以前はHKT48でアイドルをしていたし、めちゃくちゃ歌に自信があるわけでもなかったから、エイベックスから歌を出すなんてことも想像もしてなかったし、エイベックスが好きだっていうことはこれまで誰にも言ってなかったんです。そもそも、アイドルが天職だと思ってたので。だから今回、理想的な形でエイベックスさんとお仕事ができて、歌まで歌えるっていうのは夢のように嬉しいです。
──牧さんは、田中さんのエイベックス愛はご存知だったんですか?
牧 いや、全く知らなかったです(笑)。
田中 私、本当に誰にも言ってなかったから。小学生の頃からずっと、密かにずんずんずんずん想いを募らせてました。

──そうなんですね。では、牧さんにお聞きしたいんですが、今回「mote mote♡」をリリースするASTRHYME RECORDSは、どういう経緯で設立されたんでしょうか。
牧 まず、多くのインフルエンサーを抱えてらっしゃるstar musicさんと一緒に何かをやりたい、というところから始まりました。僕としては、ASTRHYME RECORDSが目指すのは、映像からバイラルさせて音楽のヒットを生むということで。というのも、これまではTikTokで映像が流行っても、サブスクの再生回数に返らないものもあれば、返ってくるものもあるという状態だったので、映像がしっかり音楽のヒットの入り口になるものを作りたいと思ったんです。そこで、歌を作って歌えるインフルエンサーっているのかな、ということで、50名ぐらいのインフルエンサー・クリエイターとお会いしました。多岐にわたるジャンルの方々とお話したんですけど、そのときに思ったことがあって。
──なんでしょう?
牧 普段はクリエイターやインフルエンサーとご一緒するのは、アーティストが制作した楽曲に振りを作ってもらったり、コラボレーションして動画を投稿して頂くという関わりが多いんですけど、様々なクリエイターに会って話した時に発想力が素晴らしいなと思いったんですよね。ある日突然自分で決めて自由な発想で映像を上げて、それがしっかりと世の中のトレンドになっている。自分たちで映像をTikTokにあげることが、もう仕事になっている。彼らのそういった発想力を活かせないかなと思ってたんです。ちなみに、ASTRHYME RECORDSがレーベルで、ASTRHYMEがプロジェクト名になります。
──なるほど。
牧 今回、映像から音楽へと波及するためには何が一番確率が高いかをレーベルのメンバーで考えたときに、「かわいい」とか「あざとい」が最近のTikTokではすごく多いということを感じて。そこで、かわいくてあざとい曲をつくろうと考え、恋愛系クリエイターの溝部ひかるさんに声をかけて、女の子はこう振る舞ったらモテるよ、というような要素を歌詞に入り込むことにしました。たとえば、ある女性アーティストは恋愛の歌詞を書くときに、多くの女の子にインタビューして、そこで聞いた話を参考にしていたと。じゃあ、僕らは溝部さんの発想力をどうやって具現化しようかと考えたときに、女性の気持ちを楽曲にするのが秀逸なプロデューサーのCHIHIROさんにお願いすることにして、曲作りに入る前に、溝部さんとCHIHIROさんと3人で2時間にわたるインタビューを3回ぐらい行ったんです。今回は多くの人に刺さる恋愛の曲ではなく、ひとりのインフルエンサーさんの恋愛観をより深掘りして曲にしようということで、今回の「mote mote♡」ができました。さらに、曲ができたときに、TikTokとの親和性が高くて、歌が歌えて、この歌詞の主人公として一番合う人は誰だろうってみんなで考えていろいろと調べた結果、出てきたのが田中美久ちゃんで、今回オファーさせていただきました。
田中 全部ご縁ですよね。
「みんなも『mote mote♡』を聴けば私と同じようにマインドが上がって幸せになれると思います!」(田中)

──田中さんのどんなところが特に良かったんでしょう。
牧 美久ちゃんにお声がけする前に、HKT時代の曲を聴かせていただいたところ、彼女の声はすごく合うんじゃないかと思ったんですよね。レーベルとして、しっかり歌えて、声質がいいっていうところを大事にしたかったんです。
田中 本当に嬉しいです。想いって通じるものなんだなって思う。
──では、田中さんの視点で「mote mote♡」の楽曲解説をお願いできますか。
田中 正直言うと、私は基本、めちゃめちゃネガティブ女なんです。明るく振る舞ってはいるんですけど、考えすぎちゃうし、意外と心配性なんですよ。でも、この曲を聴くとマインドが上がるんですよね。そういう女子って私以外にも多いと思うし、みんなもこの曲を聴けば私と同じようにマインドが上がって幸せになれるんじゃないかと思います。
──じゃあ、レコーディングも気持ちを高めて臨むことができたんじゃないですか?
田中 はい、そうですね。どういう感じでいくかプロの方々とお話したり、いろいろと教えてもらいながら、何時間もかけてレコーディングしました。アイドル時代の10年分を全部詰め込みました(笑)。
──ある意味、集大成ですね。
田中 集大成です。それくらい時間をかけたし、めっちゃこだわりましたね。マインドアゲアゲで、「届け!」って思いながら歌ってました。
──そこまで気持ちが入っていたということは、自分から歌い方の提案をしたり?
田中 全然ありました。でも、私の声ってかわいい感じではなくて、ちょっとハスキーなんですよ。だから、自分が歌いたかったものと実際の声とのギャップがすごくて。なので、そこはプロの方と話し合いながら進めました。
牧 レコーディングの様子を見ていて、「さすが俳優だな」と思ったことがあって。レコーディング前に丸一日プリプロをやったんですけど、仕上がったものを聴いて、美久ちゃんは「ここはちょっとかわいく歌いたい」とか、「ここはちょっとクールにしたい」とかいろいろと修正してきてくれたんです。たとえば、僕らはあんまり意識していなかったんですけど、<気になーる?気になーる!>の<?>と<!>の歌い分けもしたほうがいいんじゃないかと提案してもらって、実際にそこを変えたり。
田中 この曲、(ばきゅーん)とか(ふふん♡)みたいなセリフパートが多いじゃないですか。そこがめっちゃやりやすかったです。
──ニュアンスの表現が難しそうですけど、田中さんには上手くハマったんですね。先ほど、ご自身のことをネガティブな性格だと話していましたけど、そんな田中さんにとって共感度の高い歌詞はどこですか。

田中 なかなかこうはなれないからこそ、全部共感しちゃうんですよ……<追われる女は焦らない>とか、<ネガティブ変換しない主義です>とか、確かに落ち込む暇があるなら<ハッピーオーラ磨く>ほうがいいし、<急な「会える?」(ごめん!無理!)>とか、<クズなんて選ぶ価値はないの>なんかも、「この女、強すぎん?」みたいな。あと、<選ばれるより”選ぶ” マインド♡>っていうのも、「そっか、私が選ぶのか……!」って。私、実はモテるんですけど……。
──でしょうね(笑)。
田中 (笑)ファンの方とかがいつも応援してくださったり、私のことを選んでくれて嬉しいんですけど、それって違うんだ、そうじゃなくて、私が選ぶくらいのマインドでいるほうがいいんだ、って。だから、もしフラれたとしても、「私に似合わない男が去っただけなんだ」っていうマインドにさせてくれそうです。<だって主役は私でしょ?>ってもう、その通り! 今もTikTokでいろんな女の子が「この歌詞ヤバい!」みたいに言ってくれてるんですけど、本当にそうなんですよ。
──その他にも歌詞で気になるところがあって、<3:3:7の法則>ってどういう法則なんですか。
田中 まず、1回目のデートは3時間で帰るんですよ。2回目も3時間で、3回目になって初めて長い時間一緒にいる。それくらい待ってくれる男を選ぼう、っていうことみたいで。だから、3時間、3時間、7時間ってことなんですけど、そんなに一緒にいたらこっちが好きになっちゃいますよね(笑)。
──あはは!
田中 でも、余韻を残すのが大事だから、1回目で満足させずに「また会いたいな」「もうちょっと楽しみたいな」っていうところでバイバイするのがモテポイントなんです。本当にこの歌詞から学ばせていただいてます(笑)。恋愛の教科書みたいなものなので、これ、男子に見せちゃっていいのかな……?
──確かに、手の内を明かしちゃってますね。
田中 なので、女子にはこっそりと見てほしいです(笑)。
「美久ちゃんはいろんな声が出せるし、今後もどんどん歌をやっていけたら」(田中)

──牧さんの話にもありましたけど、俳優としての経験が今回の歌唱に影響を与えている部分はありますか?
田中 めちゃくちゃあります。セリフパートはみなさん、「めっちゃいい!」って言ってくださるので、嬉しくていろんなパターンを試しちゃいました。アイデアがどんどん出てくるんですよ! だから、どれを採用するかポジティブに悩む部分が多かったです。
──それは制作サイドとしても嬉しい悲鳴ですね。
牧 そうですね。本当にいろんなバリエーションができたんで、「これ、どうまとめよう……」って(笑)。
田中 そうなんですよね。「ありすぎてまとまんない!」みたいな。でも、私の意見もすごく大事にしてくださるから、「優しい!」って思いました(笑)。
──現在、この曲は手振りがTikTokでフィーチャーされていますけど、曲全体ではどんな振付になっているんですか。

田中 イントロは一瞬、アイドルに戻った感じがします! 振付師のらん先生が歌詞に合わせて振りを作ってくださっているので、1サビと2サビで振りが違うんです。そこにも注目してもらいたいです。
──レーベルサイドとして、「mote mote♡」の仕上がりはいかがですか。
牧 僕らが当初考えていたことは具現化できたと思っています。あとは、美久ちゃんの発信力をお借りして、この曲をどんどん広めていきたいですね。すでにいろんな方からコラボしたいという話をいただいているので、そこからさらに波及していったらいいなと思っています。あと、今後この曲のパフォーマンスを披露する機会があると思うので、そこでは音源とはまた違った魅力がお見せできると思います。
──お披露目の機会があるんですね! 田中さんはどんな気持ちでパフォーマンスを楽しみますか。
田中 「久しぶりに歌ってるところが見たい!」と言ってくださるアイドル時代からのファンの方にとっては嬉しいことだと思うし、私も嬉しいので、「ぜひ見てね!」って気持ちと、アーティスト・田中美久として歌うのはこれが初めてなので、そんな姿にも注目していただきたいです。
──アイドルを卒業したとは言え、また歌うきっかけになったらいいですね。
田中 今もTikTokとかでいろんな方が踊ってくださっている中で、「これ、田中美久ちゃんが歌ってるんだ!」って言ってくださる方がいて、私の名前は知ってくれてるってことはわかったので、これからもどんどん曲を広めていきたいです。
牧 僕はディレクターとして普段から様々なアーティストを担当しているんですけど、一番大事なのは歌の上手さよりも声質だと思ってるんですよ。美久ちゃんの場合、いろんな声が出せるし、今後もどんどん歌をやっていけたらすごくいいなと思いますね。
田中 おお、嬉しい。私、小学生の頃に、秋元先生から「あの子、たぶん伸びる」って言われてたらしくて、それがすごくうれしかったんですけど、女の子にも声変わりがありまして、自分の求めていた声質で歌えなくなったり、上手く歌える曲が変わってきたりして、そのせいで悩んだ時期があったんですよ。しかも、私の声ってよくも悪くもほかの人の声に馴染みやすくて、めっちゃかき消されちゃうくらい特徴がなくて。だから、本当は自分の歌声はあんまり好きじゃないんですけど、そう言ってくださるのは嬉しいです。
──そうは言いますけど、この曲の歌唱なんて特徴しかないじゃないですか。
田中 もう、ほんとに! 頑張らせていただいてよかったです。
──田中さんとしても、今回は新たな自分を発見できたんじゃないですか?

田中 そうかもしれないです。これまでこういうアップテンポの曲を歌ったことがなかったので最初は変な感じがしましたけど、曲を聴いた人たちから「もう、耳から離れん!」って言われるので、やっぱりインパクトがあるんですね。「つい口ずさんじゃう」とか「歌っちゃう」って言われて、私も「わかる!」って思うし、いい歌をいただけたと思います。
──何年か後に振り返ったときに、「あの曲が新たなスタートでした」って言えるようなったら素敵ですよね。
田中 はい、あざとい代表で頑張ります!
──では最後に、ASTRHYMEの今後の展開を教えてください。
牧 今後も、ASTRHYMEとして毎回テーマを決めて、それに合わせていろんな方をアサインしていくような感じで楽曲をリリースしていきたいと考えています。ただ、その中で僕らが一番大事にしてるのは、順番なんですよ。
──順番、ですか。
牧 要は、座組を先に決めるんじゃなくて、どんな曲を作ったらいいのか、それを誰が歌ったらいいのか、ということを毎回考えていきたいと思っていて。実は、今回とは全然違うジャンルで、RAPやバンドなんかも考えてはいるんですけど、他にも卵みたいな状態の楽曲がたくさんあるので、今後どういった方向でいくのかじっくり考えていきたいと思います。
撮影 沼田 学

ライター
阿刀“DA”大志
1975年東京都生まれ。学生時代、アメリカ留学中にHi-STANDARDのメンバーと出会ったことが縁で1999年にPIZZA OF DEATH RECORDSに入社。現在は、フリーランスとしてBRAHMAN/OAU/the LOW-ATUSのPRや音楽ライターなど雑多に活動中。Twitter:@DA_chang