11月12日、アニメーション映画「サマーゴースト」が公開されます。これはイラストレーターとして活躍し、これまでにいくつものアニメ作品に関わっているloundrawさんの、初の映画監督作品となります。「花火をしている間だけ会える女性の幽霊」と、生きる意味を探す3人の少年少女の、ひと夏のお話。人気作家・乙一さんが脚本で参加されていることも話題のこの作品について、監督のloundrawさんにお話を伺いました。
「イラストレーター」と「アニメ監督」とは相反する職種
──まず、イラストレーターとして活躍されている中で、今回、アニメ映画を製作するに至った経緯を教えていただけますか?
loundraw そもそもイラストレーターとして、アニメ映画を作るということが約束されていたわけではなく、これから何をしたいかと考えた時に、単純に1枚の絵を書くということ以外の創作もしたいなと思っていたんですね。普段、イラストを描くときはその前後の出来事の設定を考えてから絵にしています。イラストという静止画を作る中でも時間軸を考える、とするとアニメーション表現もできるのではないかという思いがあり、世に意思表示をするためにもまずは一度作ってみようと、大学の卒業制作でアニメーション作品を自主制作しました。そこからありがたいことにたくさんの反応をいただき、「映画を一緒に作ってみる?」という声もあり今があるという感じです。
──以前から、映画やアニメをやってみたいと?
loundraw そうですね。やってみたいという気持ちはすごくありました。そもそもアニメーション作品にずっと触れてきた世代ですし、絵を描くうえでアニメからの影響も当然ある。アニメがイラストの延長と簡単に言ってしまうことはできませんが、自分がもしやらせていただけるのであれば、いつかやりたいなとずっと思っていました。
──監督ご自身もすでにイラストレーターとして活躍されて制作されていますが、アニメーション映画の監督として作品を制作するにあたって、異なる点や大変だったと思うところ、逆にこれまでの経験が生かされていると思ったところはどんなところでしょうか?
loundraw 大変だったのは、ディレクションに当たる部分ですね。イラストレーターは基本的に自分の中で全ての作業を完結させる職種なので、自分が答えを分かっていれば問題ないですし、自分だけのこだわりみたいなものも自由に取り入れられます。それがアニメーション制作という共同作業が中心になると、自分の絵を知らない人に、自分が気にしている点を共有する必要があり、そこがすごく難しかったです。アニメーション表現は、たくさんのカットを作るためにも絵作りを画一化していくことがある種、必要なプロセスですが、そことイラストレーターとして作品を作るアプローチは相反する部分が大きく、進めていく中で……今もですけど、ずっと苦労している部分ですね。ですが、逆に言えば、自分のイラストレーターとしての経験が生きる部分かなとも思います。アニメーションの「絵を動かす」という部分以外で、自分がアニメを作る意味は構図や色を1カットづつ考えること。設計図に対して強くこだわりました。
──やはりディレクションは難しいんですね。
loundraw そうですね、難しいですね。やはり他のアニメーション作品と差別化をしたいという気持ちはありました。自分だからこそできる表現でアニメーション作品を作らなければ意味がないというところで、どうすれば自分の色が出せるか。ただ、それとは別に「アニメってこうだよね」という価値観も理解しないと、独りよがりな表現になってしまうので、自分自身の価値観と、アニメーション表現という歴史ある、ある種記号化されているものの中で、どこが作品にとってのベストかを探さなければいけないので、すごく難しいですね。
──今回の「サマーゴースト」は3人の高校生と幽霊のひと夏の出会いが描かれたストーリーに鳴っていますが、この構想はどうやって固められていたんでしょうか?
loundraw まず一番最初の原案に当たる部分を決める時から、乙一さんにご参加いただいきました。、いくつか方向性が見え始めたときに「幽霊の女の子と花火をしている時だけ会える」というアイデアを提案させていただき、「それは面白いかもしれないね」という話になりました。「死者とある条件下でしか会えない」など、中心となるアイデアができた段階で乙一さんが「それを最大限生かすならこういう形かな」とプロットを作っていったんです。
──なるほど。
loundraw その脚本を作る作業と同時並行で、ビデオコンテも作らせていただきました。やはり文章として面白いものと映像として面白いものは違うので、映像としてのベストを取りたいというところで、脚本を一稿いただいたら全編通してビデオコンテを作り、映像的なテンポ感でセリフを変えるなど、脚本にも微調整を加えさせていただきました。脚本家さんの目線から見るときっと嫌なことをされたということになるんですが、乙一さんはそこをすごく面白がって下さって。脚本が完成する時にはほとんどビデオコンテもできているというような方式を取らせていただきました。
──乙一さんとのやりとりで印象に残っていることは?
loundraw 僕は中学ぐらいの頃に乙一さんの小説を読ませていただいて、ずっとその世界観が好きだったので、プロットの段階で、これはすごくいいお話になるな、と分かりました。プロットだけで人を感動させられるものを作れるということは、すごい才能だなと、改めて思いましたね。
──今回、乙一さんと組まれることになったのはどういう経緯だったんですか?
loundraw 乙一さんの小説が好きだという話は、これまでもさせていただいていて、プロデューサーさんから、脚本制作にあたって乙一さんはどうかというご提案をいただきました。もしご一緒させていただけるのであれば、ぜひ!という形ですね。
──乙一さんも10代でデビューされていて、シンパシーがあるのかなと思うんですが。
loundraw いえ、大先輩なので、シンパシーを感じられるような立場ではないんですけど(笑)、ただ、「いいものを作る」というところに対して、すごくまっすぐな方だと思います。ある種、僕のわがままで「ビジュアルがこうだから脚本を変えたい」という話を「それもいいかもね」と受け入れてくださって。時には引っ張り、時にはアシストしてくださり、本当に助かりました。
──ちょっと気になったんですが、乙一さんのデビュー作が「夏と花火と私の死体」ということで、何か共通点があるのかなと……。
loundraw 直接的には関係ないのかもしれませんが、いわゆる“青春映画”のフォーマットはなぞらないと決めていました。決して奇をてらいたいわけではないのですが、何か別の要素も入れた中で、多くの方に見てもらえるような作品を作りたい。それでホラーやサスペンスのような要素をいれ色々な捉え方ができる作品にしたいという話をさせていただきました。
「どうして生きているのか」を疑問に思っている人に、ヒントを感じてほしい
──この作品を通じて、監督が伝えたいメッセージというのはどういうものでしょうか?
loundraw 高校生の友也、あおい、涼は三者三様の事情があり、生きることに疑問を持った子たちです。三人はサマーゴーストに会いに行き、生きることとは何か答えを尋ねるわけですが、なぜ生きるのかなんて、答えはないですし、多種多様な価値観があるなかで明確な答えが出せるお話ではないんだということは、最初からわかってはいました。ですが、生きていくなかで、いろいろな人と関わったり、予期せぬことが起きたり。そういうこと自体に価値があると僕は思っているので、もう一度見つめ直してほしいというのが一番のメッセージですね。それを受けてどう生きていくのかは、あえて描いていない部分でもあります。明確な答えを提示することがそもそもできないお話なので、観た人の何かのきっかけになればいいなというのがメッセージです。
──そういったことも受けて、こういう方に特に見ていただきたいというのは?
loundraw それはやはり、登場人物にあるように、「どうして生きているのか」「なんで人生を諦めちゃダメなのか」ということに対して、疑問を持っている人ですね。
──解決ではないでしょうけど、ヒントみたいなものは感じ取ってほしい?
loundraw そうですね、ヒントを感じ取ってほしいです。あくまでこの3人の出来事ではありますが、この3人が生きている姿を見て勇気付ける……というとちょっとおこがましいですけど、そういうことができたらいいなというのはありますね。
──この話は、ものすごく形を変えた「スタンド・バイ・ミー」なんじゃないかと思ったんですが……。
loundraw もしかしたら、そういう部分もあるかもしれないですね。強烈なワン・メッセージを込めることは、逆に浅はかだと思っているので、その点は制作しているときもすごく気をつけていた部分ではあります。
──自分なりの表現、例えば今までのアニメで見たことがないような表現というのは、この作品の中でできていますか?
loundraw 一番大きな部分としては、「色」ですね。日本のアニメーションは画面を白くしていくのが大きな枠組みでみると共通点だと思っていて。白くすることで画面を管理しやすくなる。かつ見栄えも軽くなるので、よくなっていくんですけど、画面が白くなればなるほどに、光の表現の幅というのは当然、少なくなっていくんですよね。実際、本当に夏とかの強い光を描こうと思ったら、影を強くしなきゃいけないので、美術のスタッフの方とかには、これまでのアニメーションの方法から外れていいから、もっと黒を使ったり、画面を締めてほしいという話をしました。「夏だけど、ただ白くしない」ということとかは、すごく意識しているので、その部分はもしかしたら新しい形を提示できるかもなという感触がありますね。
──撮影でこだわられているポイントは?
loundraw 僕は外から見させていただいているからこそ思うのですが、基本的には撮影後の処理はなるべく外していきたくて。やはり最終工程まで全て素材になっていってる部分がすごく大きくて、最後に何とかするという形がすごく強いなと感じるんですね。撮影の処理はその最たるものだと思っていて。なので、その処理が本当にいいかということと、画面として担保されているかっていうのは別のことだと思っているので、できるならば本当に必要な要素だけ、必要な分だけ足す。例えば、フレアがなくてもカッコいい画面が必要ならば、それで持たせるみたいなことを本当にやりたくて、それを成立させるためにどうすればいいかという話を、スタッフとはすごくしています。
──では、撮影前の時点で、ある程度完成しているところは、こういう読みで出していると。
loundraw そうですね、そういうことを目指しています。
──音楽について、こだわられたところは?
loundraw 今回、小瀬村晶さん、当真伊都子さん、Guianoさん、HIDEYA KOJIMAさんという4人の方にお願いしています。劇伴全体のトーンを統一するよりもシーンごとに適切な音楽を流したいという思いがあったので、他の方とのバランスを取るのではなく自分のカラーを出していただきたいと伝えました。
この作品にどのような反応があるのか、今はそれが楽しみ
──脚本を読ませていただくと、乙一さんの個性もすごく生きているというか、ともすると乙一さんが最初から作られたお話と言われても信じてしまうような印象を受けました。先ほど原案からのやりとりのお話が出ていましたが、最初から2人の志向が合うという確信のようなものはありましたか?
loundraw 僕が「あった」と言うのはおこがましいのですが(笑)。乙一さんが書いた脚本には共感する部分がたくさんあります。プロットの段階でも乙一さんと好みがズレるとは思いませんでした。なので、シナリオとして面白いか、映像として映えるかということを突き詰めることに集中させていただきました。
──やりとりの過程で乙一さんが柔軟に対応してくださったというお話がありましたが、「ここは譲れない」みたいなことはありませんでしたか?
loundraw 心象風景のシーンは僕が作らせていただいたのですが、そういうパートごとでも柔軟に役割を分担するなど、アシストに徹して下さったと感じます。エンディングシーンなど頂いた脚本から微調整を加えているんですよ。もともと乙一さんの作品が好きだった自分からすると、乙一さんが手掛けたものに手を加えることは勇気のいる作業ですし、恐れ多いのですが「シンプルになっていいと思う」と言ってくださり、安心しました。
──しかし、シーンをカットするなど、よく躊躇なくできましたね。
loundraw キャラクターたちがすごく生き生きしているので、シナリオを調整すればもっとキャラクターを深く掘り下げられるのではと思いました。なので、シーンをカットすることも、ある意味当たり前の判断として行うことができました。遠慮した結果、悔いを残すことは監督として無責任だと思ったので、自分が思うベストを提案させていただきました。ただ、そういう提案もありだよという空気感を乙一さんが出してくださったことに助けられたと思います。
──今、キャラクターのお話がありましたが、主要キャラクター4人の中で、監督にとって一番思い入れがあるのは誰になりますか?
loundraw 僕は友也に思い入れがあります。主人公ですし、自分のパーソナルな部分を含めて投影している要素が多いので思い入れは一番です。ただ、スタッフの方々に聞いてみると、それぞれ別のキャラクターがお気に入りだったりするので、人によって見る視点が違うなと改めて感じました。
──観客もそれぞれに想い入れてもらえればという感じでしょうか。
loundraw そうですね。物語の中心には友也がいますが、登場キャラクター全員を尊重した映画にしたいと思っていたので、観た方によって共感するキャラクターは変わるのではないかと思います。
──友也の境遇には、loundrawさんご自身の境遇も反映されていたり?
loundraw 厳密に自分の経験を反映してはいませんが「どうやって生きていこう」や「自分がしたいことと現実って違うよね」みたいな葛藤が含まれているキャラクターなんですよね。友也が抱えている問題は自分自身の内側というか、生きることに希望を見いだしてない理由が、置かれた環境や自分以外に原因があるわけでなく、自分の気持ちの問題なんですよね。しっかりと自分自身の葛藤を描くという意味でも物語の中心に据えました。
──今回1本作られて、これからもアニメ監督をやっていきたいですか?
loundraw もし機会をいただけるのであれば、やっていきたいなと思っています。今回学んだこと、次ならもっとできると思えることが現時点でもたくさんあるので、機会があれば生かしたいなと思います。
──これから作ってみたいジャンルとか作風みたいなものはありますか?
loundraw 作ってみたい作品はたくさんありますが、自分が作りたいものが社会に出すべきものかというと、考える余地はあるんだろうなと思います。この「サマーゴースト」が世の中からどう見られるか。その反応と自分が表現したいことを照らし合わせる作業のなかで、次に描くべきものが自然と出てくるのではないかと思いました。なので、今は「サマーゴースト」に何を感じたか、みなさんの感想を聞きたいですね。
──今回も1枚のイラストから始まっていますが、今まで描かれたものの中で、これからこれを膨らませて作品にしてみたいと思っているものもありますか?
loundraw 現時点で明確に膨らませたい1枚の作品はありませんが、基本的に描いた時の精神状態やその時思っていたことは思い出せるので、その1枚がアイデア元にならなくても、昔の絵を見返して、「この時の気持ちを映像にしたいな」ということは、十二分にあるだろうと思います。
loundraw(ラウンドロー)初監督映画作品
「サマーゴースト」2021.11.12(金)全国ロードショー
【「サマーゴースト」公式サイト】
https://summerghost.jp/
【「サマーゴースト」公式Twitter】
https://twitter.com/summerghost_PR
ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。