9月9日、自身の誕生日に新曲「GO」をリリースした大塚 愛さん。キャリアも18周年を迎え、公私ともに世界が広がっていく中で、攻撃力溢れる新曲をどんな思いで制作したのか、現状と合わせて伺いました。また、6月にリリースされた「なんだっけ」について、そして「さくらんぼ」や「プラネタリウム」などの楽曲がTikTokで若い世代に大きな人気を得ている現状などについてもお聞きしました!
2021年の大塚 愛は「遊んでいるのに楽しくない」?
──渾身の新作「GO」がリリースされる2021年現在、大塚 愛はどんなアーティストになっているなと自身では思われますか?
大塚 うーん……うーん……うーん……うーん……遊んでる!
──遊んでる2021年(笑)。具体的に言うと?
大塚 とりあえず皆さんに知っていただいているところで言うと、春にあっこちゃん(あっこゴリラ)と「あいびき」というコラボ曲をリリースして、そのあとに「なんだっけ」という新曲もリリースしたんですけど、その2曲に関しては完全に遊んでるなって(笑)。あとは、どちらも「更新したい」気持ちと「あ、大塚さんだね」と思われる要素が合わさっているなと思います。
──では、今は音楽を純粋に楽しめているんですかね。
大塚 何も楽しくないですよ(笑)。
──遊んでるのに?(笑)
大塚 これまでも活動してきて「うわー、楽しいな!」と思って楽曲制作したことってあんまりないんですよ。
──でも「音楽を続けてきてよかった」と多幸感に包まれたりする瞬間はきっとありますよね?
大塚 リスナーの方の感想というか「あの曲があったから今の自分があるんです」みたいな重みのあるコメントをいただいたときに「あー、よかった」と思います。
──それでも、18年間も音楽活動を続けて来れた要因は何だと思いますか?
大塚 ずーっと反省なんですよね。自分の中で「満足した」という感覚が欠けていて、毎回「もっとできたはず」とか「現状の自分では全然ダメでしょ」とか「もっともっと登っていかなきゃ」という気持ちになる。要するに満足できないからここまで続いちゃった。それでも「自分が満足するところにいきたい」という想いで作品は創りたいんですよね。
デビューしてから6年ぐらいは「売れなければ意味がない」と思っていたけど、その戦いにどこか疲れてきて「じゃあ、その先はどうする?」と考えるようになってきてからは、求められているモノだけをやるのは多分もたないだろうなと。なので、そこから「どうやって逃げよう」という思考回路になっちゃって、そしたらタイミングよく出産することになったんですよね。やっと休む時間ができたことで、ようやく呼吸することができた。
──産休が大きなターニングポイントになったと。
大塚 今までの自分を1回放り投げて、そこの責任感さえも背中から下ろしちゃった。それでラクになった分だけ失ったモノもあるし、手に入れたモノもあるんですけど、そのときは「自分が好きな音楽をここからはやっていきたい」ということで希望がたくさんあったから悲観的ではなかったんですけど、だんだん時代も変わっていって「私、もしかしたら今の時代に合っていないんじゃないか」と感じたり、それと連動していろいろできないことも増えてきたんです。そこで「全部イチから考え直さなきゃ」と、例えばミックスひとつ取っても模索するようになったり、昔はスピーカーで判断していたところを今は「スマートフォンからどう鳴るか」という判断に変えているんですけど、そうやっていろんなことを切り替えていかなきゃいけなくなったんですよね。だから音楽活動をこの年数続けることの大変さが身に沁みまくっていて。続けるって大変なんですよね。
──2021年は前作「なんだっけ」に対するYouTubeのコメント欄などを見ていると、新しいリスナーに「大塚 愛ってこんな音楽もやってるんだ!」みたいな形で評価されている印象を受けます。
大塚 確かに、YouTubeのコメントやTwitterで評価いただいているとスタッフから聞いたことはあります。
溜まりに溜まったモノが怒りをきっかけに噴き出した新曲「GO」
──その「なんだっけ」もストレス社会への苛立ちを歌った攻撃力の高いナンバーでしたが、新作「GO」は大塚さん史上最も爆発的な突進力を誇る楽曲ですよね。
大塚 大塚さん、プライベートでいろいろあったじゃないですか(笑)。それでいろいろ大変だったんで、その時期に体調も崩したりなんかして、正直「もう音楽どころじゃない」みたいな状態だったんですよ。毎日とりあえずご飯作って寝るだけで大変みたいな状態だったんで。そんな日々の中で「そういえば、曲作りしてないな。もうできないかもな。ま、いっか」みたいな。それぐらい疲れていたから「できなかったらどうしよう?」とかもないんですよ。でもそんな時期にある日突然、自転車に乗っていたらこの曲がふと思い付いて。自転車をこいでいるモードと多分一致したのと、その当時言われてイラっとしたことがこの曲の燃料になったと思うんですけど、えらく年上の人に言われた一言が「はぁ?」と私の怒りに火をつけたんですよ。だから「GO」は怒りの曲なんです。
──怒りから爆発的な突進力は生まれたんですね。
大塚 あと、その時期に感じていた「いつも通りにやることの大変さ」について歌い倒していますね。とにかく「いつも通り」をリフレインして「いつも通りって大変なんだよ!」みたいな。例えば、風邪をひいてダウンするとごはんが食べられただけで「よくやった、私」って思うじゃないですか。立ってまっすぐ歩けただけでも「よく頑張った、私」ってなる。それに私自身が気付けたので、この曲は怒りから生まれているんですけど、「いつも通り」をリフレインする部分とかは「それができただけでオッケーなんだよ」という想いも込めている。
──なるほど。この曲を聴いたとき「いつも通り」というフレーズに目頭が熱くなったんですけど、その理由が今の説明でよく分かりました!
大塚 熱いですよね!
──いつも通り生きるのってこんなに大変なんだな、すごいことなんだなと。それに気付かされる楽曲になっているから、自分の人生や生活と重ねて聴いたときに泣いちゃうんですよね。あと「ただただ幸の人にとって自分が不になりたくない」というフレーズも刺さりました。
大塚 あの歌詞は「自分の発言や行動で誰かを悲しませるのはイヤだ!」という想いから生まれたんですよね。そういう存在でありたくないし、そういう存在にならないことが一番ベストじゃないですか。もちろん誰も傷つけないで生きていくのは本当に大変なことなんですけど、だからこそソレができたのなら「それだけでベストだよ」っていう。この曲の重要なところは、プラスを考えるというよりかは「ゼロでいいや!」ということなんですよ。それまでプラスばかり求めて生きてきた自分にはなかった感覚なんですけど、「ゼロが最高じゃん。プラスもあったらあったでうれしいけど、ゼロっていいよ。マイナスじゃなきゃいいじゃん」みたいな新しい思考で「GO」のメッセージは構成されているんです。
──今の時代に響くメッセージでもありますよね、きっと。
大塚 コロナ禍になる前に創った曲ではあるんですけど、今の世の状況にも重なりますよね。コロナ禍になった当初は何を触るのも恐ろしいし、スーパーに行くのも命懸けだから1回で大量に購入して巣篭もりみたいな(笑)。戦場に行くかのような気の張り方でリュック何個も担いで買い物していて「何なんだろう、この状況は」っていう。でもそういう状況になったことでより「GO」の内容が身近に感じてきちゃって。とは言え、去年の時点でリリースしちゃうとそのために作った曲だと思われちゃうから、出すタイミングを迷ってはいたんですけど、今回18周年のタイミングで、終末か始まりか分かんないけれども(笑)「このタイミングがいいんじゃないか」ということでやっと出せることになりました。
──世界中の人々が「いつも通り」に生きることの難しさをこんなに感じた時期もないし、そういう意味では今の時代とも親和性が高いですよね。ただ、大塚さんはコロナ禍になる前から「いつも通り」に生きることの難しさを感じていたという。
大塚 そうですね。独り身だったらまた違ったと思うんですけど。泣いて喚いてどっぷり浸かることもできたと思うんですけど、私には娘という守らなきゃいけない存在があって、そこを一番大事に考えているから「うわぁー!」って泣き喚いてなんかいられないんですよ。そうなると感情を抑えて暮らさなきゃいけないから、それはそれでツラくもあるじゃないですか。そこが溜まりに溜まったモノが「GO」になったので。
──なので、この曲が完成したことで大塚さん自身もスッキリした部分はあると思うんですけど、聴いている側も同様にスッキリします。
大塚 自分の音楽活動を振り返ってみると、怒りや悲しみが原動力になっている事が多くて。怒りや悲しみのまま終わらないんですよ。怒りや悲しみが前に進む原動力になっているから、結果的にポジティブな楽曲になるんですよね。「愛ちゃん、天才!」と言われて育ってないし、大体貶されて落ち込むところから「見てろよ、このヤロー」と前に前に進んできたから(笑)、私にとって怒りはポジティブな感情なんです。今回の「GO」はそれがすごく顕著ですね。
TikTokで大人気の「さくらんぼ」には『どこまで行くんだろう?』
──そんな新曲「GO」、どんな風に世に突き刺さってほしいと思いますか?
大塚 皆さん、普段から大変だったところにさらなる大変に襲われているような状況だから疲れていると思うんですけど、音楽のすごいところって、疲れているところにポンと流すだけで、オーガニックな……オーガニックなメディスン(笑)。アハハハ!
──自分で言って笑っちゃってますけど(笑)。音楽はオーガニックなお薬に成り得ると。
大塚 「うわぁー!」っていう気持ちを吐き出したくても吐き出せない人のほうが多いじゃないですか。ムカつくんだけど、その想いを表出できる人は多分少ない。でもそれを音楽に昇華すれば歌ったり聴いたりすることで発散できるじゃないですか。で、今回の新曲「GO」は「もうダメだ、死んじゃおう」とネガティブな方向に進むんじゃなくて「もうダメだ。でも絶対に巻き返してやる」とネガティブをポジティブに転換できる曲なんじゃないかなと思うので、そういう効果を発揮してくれたらなと思いますね。
──そういう意味でも、この曲「GO」が大塚さんの新たな代表曲になっていったらいいですよね。
大塚 ライブで毎回求められたら疲れますよ、この曲。
──たしかに(笑)。かつてライブで披露するのが大変と言っていた「ロケットスニーカー」を超えるかもしれないですよね。
大塚 ロケスニが「すごくキューティーな歌だな」と感じるぐらい「GO」は大変なことになると思います(笑)。熱い気持ちがないと表現できない楽曲なんでね、軽いノリでは歌えないんですよ。ただ、すごくライブ向きだと思います。これだけ熱い楽曲だと、怒ってんのか、泣いてんのか、笑ってんのか、よく分かんない感情になると思うんですよ。特に最後の「いつも通り」をリフレインするアウトロは。それをみんなで声を出して歌えたときには……多分みんなでボロボロ泣いていますよね。
──感情が溢れすぎちゃって笑いながら泣いているでしょうね。
大塚 そうそう!「喜怒哀楽がぜんぶ出ちゃった!」みたいな(笑)。
──そんな新たな代表曲「GO」も楽しみな大塚さんですが、近年は「さくらんぼ」や「プラネタリウム」がTikTokなどの新しいメディアでヘビーローテーションされていますよね。過去の名曲がそうやって再評価され続けている状況に対してはどんな感慨を持たれていますか?
大塚 楽曲に寿命はないとは言え、これだけとんでもない数の楽曲が毎日生まれているので、その中で生き残るのは本当に大変だと思うんですよ。という状況下で長い年数これだけ大勢の人に楽しんでもらいながら転がり続けている「さくらんぼ」は本当にすごいと思うし、さらに勢いに乗って海外まで行っちゃってますから「あの人、どこまで行くんだろう?」みたいな(笑)。私を置いて「さくらんぼ」だけいろんな人に「うぇーい」ってされながら大玉転がしみたいにどんどん大きくなって世界へ旅立っちゃったんで「いってらっしゃーい」みたいな気分です。いよいよ私の元をしっかり離れたのかなって。アジアの次はヨーロッパやアメリカまで行っちゃうのか? そういう意味では「さくらんぼ」は希望ですね。私が死んだあとも誰かが転がし続けているような楽曲になってほしいです。
──かつて「中島みゆきさんの『糸』のような広く長く愛される名曲を作りたい」と仰っていましたけど、大塚さんの「さくらんぼ」もその次元のスタンダードソングになりつつありますよね。
大塚 「さくらんぼ」や「プラネタリウム」のカバーのされ方を見ていると、そこへ向けた一歩を踏み出しているんじゃないかということで、私もすごく応援しているし、同時に他の楽曲に対しても「みんな「さくらんぼ」や「プラネタリウム」に続けぇ!」みたいな(笑)。以前、抱いていた「それは昔の楽曲なんで。今の私を見てよ!」みたいな感覚はなくなったんで、どの楽曲も年数とか関係なく知名度を上げられるようになってほしいし、サブスクの時代だからこそソレができるのかなとも思っています。
──「GO」やこれから生まれていく楽曲たちがそうなってほしい想いもきっと強いですよね?
大塚 それしかないです。そのために戦い続けているんで。
──では、最後に「GO」を届けたい読者の皆さんにメッセージをお願いします。
大塚 「GO」というタイトルはアウトロに付け足したかのように出てくるだけで、歌詞とはそんなに関係ないんですけど、総称して「進むしかない」という想いを込めていて。人生って止まるときももちろんあると思うんですけど、結果的に進むしかない。だから「GO」は一部の人だけじゃなくて全員に当てはまる楽曲だと思うんで、ぜひ全員に聴いてほしいですね。どの人も「進むしかない」ところにいつも立っていると思うので、その先に何かが見つかる手助けになればいいなって思います。
9th オリジナルアルバム
タイトル未定
2021.12.8 ON SALE
【大塚 愛 YouTubeチャンネル】
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ライター
平賀哲雄
インタビュアー、ライター、MC、コメンテーター。1999年に音楽情報WEBサイト「hotexpress」を立ち上げ、2012年より「Billboard JAPAN.com」の編集長として活動。現在は様々なメディアで活躍している。ジャンルレスにこれまで1000組以上のアーティストを取材。小室哲哉、安室奈美恵、TM NETWORK、中島美嘉、倖田來未、大塚 愛、Do As Infinity、MINMI、モーニング娘。、BiS、BiSHなど様々なアーティストのイベントや番組の司会、解説も担当している。