「忘れられない、あの頃の風景がよみがえる」。
ともに出荷30万枚を超えた「Summer Ballad Covers」「Heartful Song Covers」に続く、大ヒットカヴァーシリーズの第3弾!
日本の音楽史に残る数々の名曲の中から、80年代の楽曲を中心にセレクト。
忘れられない、あの頃の風景がよみがえる。
『Sweet Song Covers』は、May J.の元に集まったJ-POPを代表するアレンジャーや、 ジャズやクラシック・フィールドの凄腕ミュージシャンたちが、音楽を大切にする彼女の姿勢に共鳴して作られたアルバムだ。言い換えれば、現代の歌姫が、J-POPの核を作ってきたミュージシャンたちにすべてを委ねて名曲のカバーをしている。 現在と比べて圧倒的に文 字数の少ない歌詞で、存分に感情を伝えてくれる往年の名曲を、May J.は持てる力のすべてを使って表現する。
選ばれたのは、20世紀を代表するラブソングたちだ。 たとえば「RIDE ON TIME」のオリジナル発表当時、それまでの貧弱なバックに不満だった若いリスナーが、爽快なサウンドに乗って聴こえてくる日本語のポップスにどれだけ心を解放されたか。その解放感を、May J.と いうタイムマシンに乗って追体験するのが『Sweet Song Covers』なのだ。
May J.の『Sweet Song Covers』は、この時代観にピタリと合ったカバーアルバムだ。古くはシンガーソングライターの草分けの小坂明子の73年作品「あなた」から、J-POPの 認知直後の94年作品「ただ泣きたくなるの」(中山美穂)、「春よ、来い」(松任谷由実)までの13曲が収められている。
日本に“サウンド”という言葉を定着させた立役者の一人が、山下達郎である。『Sweet Song Covers』の冒頭を飾る「RIDE ON TIME」のオリジナルは、達郎が手塩にかけて育てたドラムス青山純とベース伊藤広規でレコーディングされている。この2人はボズ・スキャッグスのバックで知られたバンド“TOTO”のリズムセクションと並び称された気鋭で、その後もMISIAの初期を支えた名人たちでもあった。
May J.の「RIDE ON TIME」 は、ドラムス山木秀夫、ベース高水健司で、共に80年代初頭のフュージョン界の重鎮である。2人はフュージョンの旗手、渡辺香津美バンドのメンバーだった。またピアノの中西康晴は75年 に17才で“上田正樹とサウストゥサウス”に参加した天才で、達郎や小沢健二のレコーディングも行なっている。 そして面白いのは、ギターの名越由貴夫だ。May J.の「RIDE ON TIME」のイントロで揺れる不思議なギター・サウンドに、「あれっ?」 と思ったリスナーがいるだろう。名越は、椎名林檎やCHARAのバックで活躍するギタリストで、90年代以降に生まれた非常にエッジの効いたプレイを得意としている。普通は達郎のサウンドと相いれないと思われがちだが、聴いてみると実にマッチしていて心地よい。この名越の起用という“冒険”は、ただハイクオリティーだけのカバーではなく、名曲をアップデートする意志をMay J.が 持っているということを示している。このクリエイティブ・マインドが、『Sweet Song Covers』の最大の特長と言っていい。
2曲目の「木綿のハンカチーフ」は太田裕美の76年のヒット曲。はっぴいえんどの ドラマーから作詞家に転身した松本隆の初期の代表作で、遠距離恋愛の男女のセリフが交互に展開される画期的な構成を持つ。今ではあり得ないシチュエーションの、ピュアなラブソングだ。おとなしく田舎で待つヒロインには松本の理想の女性像が反映されているが、歌手の太田はさばさばした江戸っ子気質で、そのギャップが成功につながったと言われている。 巨匠・筒美京平のポップなメロディが、スムーズな男女の歌い分けを助けている。 May J.もこの“歌い分け”に挑戦していて、明るく懐かし い恋愛観を表現することに成功している。
名曲カバーのポイントのひとつは、オリジナルとの距離感だ。オリジナルとすべて同じでは意味がないし、オリジナルと離れ過ぎても楽しみは 減ってしまう。 では『Sweet Song Covers』の場合はどうだろう。サウンドに関し ては前述のように“アップデート”に気が配られている。対してMay J.のボーカルは、独特のポジションを取る。オリジナルのシンガーの魅力と、May J.自身の持ち味の、ちょうど中間に位置しながら、奇跡のバランスで個性を発揮しているのだ。
May J.は非常に耳がいいので、オリジナルそっくりに歌うことができる。彼女はその能力を前提として、歌を組み立てている。たとえば「う・ふ・ふ・ふ」は、オリジナルのEPOにかなり寄せて歌っている。ただし、リスナーが「似ているな」と感じた瞬間、さっと彼女自身の歌い方に戻す。そのタイミングの良さは心憎いほどだ。一方で「木綿のハンカチーフ」では女子パートでは太田裕美に近く、男子パートでは太田と異なるタイプのボーイッシュな発声に切り替 えて自分をアピールする。この独創的なボーカルセンスは、カバーを多く経験するうちにMay J.が身に付けたもので、彼女のオリジナリティの源泉になっている。