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【lecca】議員活動、大切な人との別れ、7年間の思いが凝縮された『LIBERTY ERA』

2024.03.08
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インタビュー
2月28日に、7年ぶりとなるアルバム『LIBERTY ERA』をリリースしたleccaさん。4年間の都議会議員としての活動期間を含むこの間に触れたさまざまなこと、そこで感じたさまざまな思いが凝縮されたアルバムになっています。このアルバムの収録曲13曲について、ガッツリと語っていただきました!
 
 
「MCで繰り返し言うより、曲にすれば手間が省ける」と生まれた「素晴らしい人生」
 

 
──さっそく、アルバム『LIBERTY ERA』の収録曲についてお聞きしたいと思います。まず1曲目の「マクアケ」、まさに「再出発宣言」という感じの短い曲ですね。
 
lecca おっしゃる通りで、この「マクアケ」と最後の「start up」は非常に似たテーマの曲ですね。作った時期もおそらくそんなに離れてないかなと思うんですけど、この2年間ぐらい、私自身が「本当に音楽をもう一回やるのか」ということを自分自身に問い続けていた期間だったんです。なぜかというと、2年前の2月に、ずっと私のパートナーみたいな形で一緒に作ってきたディレクターの柳和実さんが他界してしまいまして。そもそもleccaを動かすメインエンジンみたいな人だったので、「その人がいなくなったけど本当に私は1人でleccaをもう1回やるのか」っていうのを、ちょっと自分でも信じていられないというか、疑ってるみたいなところもある中でのこの2年間の活動だったので、曲は昔のように作ることはできるんですけれども、曲を作るだけじゃなくてアルバムを出したりとか、ツアーやったりというものすごく労力とか、いろんなスタッフさんとの調整とかも出てくるので、そういうのも含めて考えると相当私は不安があったと思うんですね。
ただ、じゃあやらないのかっていうと、そっちには行かなかったっていう結果がこのアルバム、『LIBERTY ERA』なんですけど、この「マクアケ」と「start up」に関しては、そんな中で自分が、それでも自分の意思でこれをもう一度始めるんだっていうことを宣言するというか、そういう境地に至ったときに書いた曲なので、に制作期間の中では一番最後の方に書いた曲ではあるんですけれども。
 
──そうなんですね。
 
lecca 特に「マクアケ」の方は、入れるならアルバムの1曲目にっていうのを最初から想定して作った、ちょっと変わった曲で、サビとかがないんですよね(笑)。
 
──確かにそうですね。
 
lecca 繰り返しとかもなくて、全編語り口調というか、だんだんそれが展開していくというような変わった曲なんですけど、逆にこれはアルバムじゃないと入れられないような曲で(笑)、これを配信リリースとかできないと思うので、アルバムを作るならば、それの1曲目に入れたい曲として作ったのがこの「マクアケ」でした。
 
──だから、独立した曲ではあるけど、アルバム全体のイントロとしての役割も果たすような楽曲になってますよね。
 
lecca はい。アルバムの1曲目を作る時っていうのはツアーの1曲目を作るような、ライブの幕が開いた1曲目を作るような印象で作ることが多かったので、今回もそこに入れるとするならば、曲の中で抑揚がだんだんと上がっていくような、そんな感じの曲にできたらいいなと思っていました。

──では実際に、ライブでも1曲目になるんですか?
 
lecca どうでしょうね(笑)。そこはですね、自分もいろいろライブのことを考えながら、今このアルバムを聴き直したりすると、アルバムと過去も繋げたいなと思う自分がいまして。過去に出したたくさんの曲があって、その曲たちにもそれぞれ、私や、聴いてくださってる方たち、一緒に出るミュージシャンたちの中でもいろんな思い出があるんですよ。その曲たちを、ただ過去だと言って切り捨ててしまうこともできなくて、そうした過去と今、そしてこれからの未来が繋がっていくんだろうなというのが見えるライブになるといいのかなと思ったので、場合によっては、「マクアケ」ではなく、何らかの形でそこを繋ぐものから始まる可能性もあります。今、考え中です(笑)。
 
──2曲目の「GAME」は逆境からの復活というところで、「うまくいく気がしない」「負ける」「無様な」「散々」「ひどい姿」と、ネガティブワードが次々に出てきますね。そこから立ち上がると。
 
lecca そんなに入れてましたっけ(笑)。でも、最初はもっとひどかったんですよ。
 
──もっとですか(笑)。
 


lecca はい、かなりオブラートに包んで書き直して入れました(笑)。この曲、面白いのが、私自身の体験でありながら、この曲を書きたいと思わせてくれた一つの本があるんですね。アメリカの大学教授さんで、講演会とかもすごく大人気の方がいて、その方はnetflixで配信番組を持っているんですが、そのドキュメンタリーを見て本を買って読んで、感銘を受けて書こうと思ったもので。日本語で「脆弱性」という意味の「バルネラビリティ(vulnerability)」という言葉があるそうなんですけど、それを研究している方なんですね。その本には、その脆弱性というのを、私たち全ての人間が持っているからこそ、脆弱な自分を見つけた時、そこに向き合った時にどういう行動を取れるかによって、その人の真価が現れるみたいなところが書かれているんです。「脆弱性って何?」っていう話なんですけど、私に関して言うと、私は人前で歌を歌うという仕事をやらせていただいてるにもかかわらず、ライブで、人前で歌を歌う前にものすごく不安に駆られるクセが昔からありまして。
 
──そうなんですか。
 
lecca 10代20代の頃からそうなんですけど、20代の頃は、もう本当にフェスの前とか、ビッグタレントさんのオープニングアクトの前とかになると胃が痛くて、正直、胃薬を飲まないとライブが終わった後に立ってもいられないぐらいのストレスと緊張で大変だったんです。なぜそうなるかというと、すごくいろんな悪いことを想像したりとか、自分が表現しているものについて、こういう風に取られてしまって、こういう風に悪口とかがきたらどうしようとか、いろんな想像力が膨らんでそうなるんですね。そういう不安とか「もしこうなったらどうしよう」っていう気持ちというのは誰しも、歌い手じゃなくても、いろんな仕事の場面とか人間関係の何かの節目の時に感じることがあると思うんですけど、その時にそれを乗り越えるとか、否定するとか受け入れないとかじゃなくて、「それがある」という、その不安な気持ちがあるということを一回認めて、それを抱きとめた上でそのままそこに入っていくみたいな。不安をしっかり抱えながら持っていく、みたいなことが、その講演会でバルネラビリティについて語られていて。それがすごく面白い話で、私もいつも感じてることだし、その不安に向き合って、当日のプレゼンだったり仕事だったり、学校のテストだったり歌うステージだったり人によっていろいろありますけど、その不安を抱えながらそこに向かうっていう時に聴いてもらったら、その人が勇気を持てるような曲を書こうと思って書いたのがこの「GAME」という曲になります。
 
──曲の骨となる部分について、その本から影響を受けたわけですね。
 
lecca そうですね、モチーフ的に使わせてもらいました。ちょっと変わった書き方をしたんですけど、でも基本自分の話ではありますね。
 
──次が「素晴らしい人生」。昨年6月に配信された曲で、肯定、称賛というワードが思い浮かびます。そして詞が散文的というか文章的というか。
 


lecca 語り口調ですよね。これは自分が聞きたい言葉、言ってほしい言葉をたくさん入れたような曲になってるんですけれども、例えば「GAME」が、自分自身が自分自身に言い聞かせている言葉的な歌詞だとしたら、この「素晴らしい人生」は目の前に褒めたい相手がいて、その人に向かって褒め倒すと。MCでも何でもいいし、一緒に飲んでる時でもいいんですけど……実際、「本当にすごいね」「よくやってるね」っていうことを、2年ぐらい前、これを書いてた当時にMCでずっとお客さんに言ってたんですよ。でも、「これMCで毎回言うの面倒くさいから、もう曲にしようかな」と思って(笑)。
 
──曲にしちゃえば手間が省けると(笑)。
 
lecca そうそう(笑)。手間が省けるし、私がいなくても聴いてくれて伝えられるから、もうMCで言ってる場合じゃないぞと思って書いたのがこの曲で。だから、私も聴きたいし、聴きに来てくれる方たちも、私に伝わってきてた部分を拾ってみると、疲れてる方とか、非常に頑張ってきたんだけど、全然結果になってないやっていう方とか、悩んでる方とか、これでいいんでしょうかって思ってる方とか何か一言欲しいみたいな方もいらっしゃって。そういう方に何を言えるかな、何を言われたらその方が元気になってくれるかなって思った時に、私もそうなんですけど、やっぱり認めてほしかったし、褒めてもらえたら嬉しいし、「もう十分だよ」とか「すごいじゃん」って言ってもらえたら「あ、そう?」って思って前向きになれるかなっていう気もしたので。元はMCから生まれた曲ではあるんですけれども(笑)、これは本当に、私だったら、好きなアーティストがいるとして、「こういうことを言われたいな」っていうのを曲にした感じです。
 
──SNSとかも含めて、批判や中傷の言葉がものすごく溢れているし、それがすごく心に刺さることが多いですよね。だからみんな褒め不足、褒められ不足というか。

lecca そうですね、現代ならではの問題なのか日本の特性なのか、ちょっと私も分からないんですけども、でもテレビやいろんな媒体が作る作品もそうですけど、人をえぐったり、人を傷つけたり、その上に何か勝利の旗を立てるような表現ではなくて、人から見たら頑張ってないって言われちゃうような人の人生も含めて、「いやいやそんなことないでしょ、すごいじゃん、素晴らしいじゃん」って言い合えるような社会だといいかなと思いますけどね。なかなかそれも難しい、厳しい時代なのかなというのは思いますけど、せめて歌ぐらいはそんなこと言ってくれてもいいかなと思いました。
 
──こんな時代だからこそ、そういう歌の存在は必要だし、重要ですね。

lecca これを、20歳のかわいい人が歌ってくれてもいいんですけど、どっしりとしたこの私が歌うことに意味があるかなみたいな(笑)、ちょっと説得力があるかなみたいな気がするので、どっしりしたからこそ、こういうのを歌っていきたいなと思います。


「私たちはもっと楽に生きていいよね」というメッセージがこもった「おつかれさん」
 
 

──4曲目は「コペルニクス」。それぞれ個性があっていい、違っていてもいいということを認めて、肯定しているというか。
 
lecca これは本当に空気を歌ってる話で……空気って難しくて、自分は絶対そっち側じゃないと思っていてもいつしか誰かを責める側に入っていたりとか、誰かをあざ笑う側に立っていたりとかすることがあるかもしれないですよね。でもそんな空気が支配する私たちのこの日本社会の中でも、人と違うということを決して恥じないで、人と違うということを常に楽しんでいけるようなことがあればいいかなという、ちょっと希望も含めて、歌詞に入れてみました。
 
──ここまでの4曲は、曲調としてもサウンドとしても力強い感じというか、アルバムの中でもオープニングから飛ばすパートのように聞こえました。
 
lecca 力強いですよね。選曲と曲順は私一人で決めたわけではなくて、主に私の曲を一緒に聴いて選んでくれているエイベックスのスタッフの皆さんがいろんな意見をくださってこうなりました。私はけっこういろんな曲を書いたんですけれども、結果的にスタッフの皆さんが選んでくれたのが、今回はわりと力強い曲が多かったというのもあります。
 
──今回のアルバムには13曲収録されていて、3つのパートに分かれているような印象を受けたんですよ。この4曲目までが最初の力強いパートで、5曲目から8曲目までがちょっとペースを落とすパート、そして9曲目の「ohayo-gozaimasu」からラストのパートが始まるようなイメージで。そう聴いていくと、一つのライブの流れみたいに聞こえるなと思ったんです。
 
lecca ありがとうございます。選曲と曲順の意図はいろいろありまして、今回入る楽曲が全部出揃った時点で、私もスタッフの皆さんも含めて、どういう流れにしようか、そして最終的な“読後感”じゃないですけど、どういう気持ちを感じて歩いていってもらえるのかというのも含めて並べていったと思うんですね。そこで、けっこう新旧の曲が混ざってるというのもありますし、曲調もかなりさまざまというのもあったので、並べるのに悩ましいところはありました。ただそんな中でもみんなの中で、何となく「この曲はここだよね」っていうのがブレてないものが何曲かありまして。みんなが思っていた曲順の中で、「この曲とこの曲とこの曲は必ずここにあるね」っていうのがあったところから、だんだん他の曲も「この曲がこの隣かな」とかいう感じで収まっていったみたいな感じですね。
 
──なるほど。
 
lecca 新旧の“旧”はもう本当に古くて、4年前とかの曲だし、「灯」とかも実は3年前ぐらいに作ったものだったりもしながら、一番最近作った曲たちでそれをサンドしてるような状態なんですよね。でも聴いてもらった人が、最終的にさっき言ってくださったみたいに、まとまってメッセージを前向きに受け取ってくださるといいかなとは思います。
 
──次の5曲目が「SIGN」ですが、これは先ほど話されていた、亡くなられた方についての曲なんですね。
 
lecca そうですね。去年、一昨年に書いた曲のほとんどはその人のことが関係してる曲なんですよ。いろんな切り口で書いているんですけど、ここまで直球に書いたのはこの曲だけで。これは本当にそのまま、その人が残したサインを探しながら、まだ今も私は生きてるんだなっていうのをちょっと感じているところがありまして、それが歌詞になってる感じですね。
 
──先ほどのお話を伺うまで、以前の「マタイツカ」と関連した曲なのかと思いました。
 


lecca 「マタイツカ」はおばあちゃんのことを思って書いた曲ですからね。でも、「マタイツカ」はむしろ最近、ここ2年の中で私をライブ中支えてくれてる曲なんですよ。
 
──というと?
 
lecca あれを歌うと、そういう風に「柳さんのことでしょう?」って思ってくれてるファンの方とかいるかもしれないんですけど、「おばあちゃんだもーん」って思いながら歌ってるので(笑)、ちょっと心の支えになってるというのがあって。でもこの「SIGN」を歌うのはちょっとキツいかもしれないですね、思い出しちゃうので。
 
──6曲目が「おつかれさん」。タイトルの通り「頑張りすぎないでいいよ」という曲ですね。
 
lecca これもできたのはそんなに最近じゃなくて、Yota Kobayashi君という一緒にやってるギタリストが、珍しく「leccaにトラック作ったんだよ」って送ってきてくれたのが2年半前ぐらいで。この曲はまだディレクター柳さんがご存命の時に作り始めてるんですけど、その頃、柳さんが抗がん剤投与の最終段階みたいな感じで、けっこうキツい時期に入っていて。そのものすごいキツい時期に、アリシア・キーズの「Good Job」っていう曲をずっと聴いてたんですよ。「今、最もこの曲が、癒されるんだよね」みたいに言っていて、自分も聴いてみたら「なるほど」と思って。すごく優しい曲で、私が書いたことないようなタイプの曲で、私が書いた「おつかれさん」とは歌詞と曲調は全然違うんですけど、テーマが似ていて。というか、その曲みたいな優しい曲を作りたいなと、その柳さんの最後の戦いを近くで見ていて思ったことがあったので。がん治療してる人とかに限らず、すごく頑張ってる人がたくさんいるなと思ったので、その頑張ってる人に言える言葉って何かなっていうのを考えながら書いた感じです。

──この歌詞というかその根底にある考え方も、今の日本に必要な感じがします。
 
lecca 本当にそう思います。もうニュースとか見ると悲しくなっちゃうんですけど、何でみんなこんなに頑張らされて潰されて……っていうのを止められないんだろうっていうのがね。たぶん、これも空気の話だと思うんですけども、きっとその中で生きてきて、その中で「これが普通」って思ってる人がたくさんいて、「これが普通なんだから、脱落する方が悪いんだ」って思わされてるとしたら、恐ろしい社会じゃないですか。そういう風にしないためにも、やっぱり1人1人がもうちょっと声かけ合ったりもして、「もっと楽になっていいよね」「私たち、何のために生きてるんだっけ? 何のために生まれたんだっけ?」「何で仕事してるんだっけ? 過労死するためじゃないよね」とか……。自分はそこまで追い詰められたことがないので、あんまり言えないんですけれどもね。私も同級生で非常にいろいろつらい思いをしてる友達もいるので、もうちょっと楽になっていく方法はないのかなというのを思っています。
 

「ohayo-gozaimasu」は、自分にも目を覚まさせる曲!
 
 
──7曲目が「team try」。この曲はラグビー・ワールドカップに向けて書かれた曲で、4年前にはこの「avex portal」にも対談で登場していただきました。今回、改めて歌詞を読むと、ラグビー用語を一つも使っていないのに、分かって聴くと全編通して「ラグビーの歌」にしか聞こえないし、知らなければ普通の歌として聞こえるところが、やっぱりすごいなと思いまして。
 


lecca いい曲ですね(笑)。これは、元日本代表で当時対談もさせていただいた野澤武史さんに、ラグビーのことをすごく簡単に一通り教えてもらって、ラグビーをテーマに書いてはいるんですけど、やっぱり「チーム」というところにそのテーマがあるんだなっていうのがよく分かったんですね。野澤さんもおっしゃってたのが、「1対1で絶対勝てない相手に、ラグビーでは勝てることがあるんです」と。逆もあって、1対1だったら絶対こいつには勝てるはずだという相手に、ラグビーの試合になったらチーム戦で負けるということがあるというんです。「えっ、何なんですか、それ?」っていうのを聞いていくと、精神的な繋がりだったりがチーム全体に及ぼす作用みたいなものがあるらしくて、それを伸ばしていくために、普段からもかなり寝食をともにしてチームの結束を強めるらしいんですね。ちょうどこの頃、自分も議員活動をしていた時期で、しかも「そんなやり方あかんやろ!」って離党して、超ちっちゃい3人組だけでやっていた時だったので、1人の力を本当に少数でも何人か分集めて、大きな何かに立ち向かうみたいなことを、自分たちにも重ね合わせて歌詞を書いてたというのもあって、「これ、ラグビーの話なの?」みたいなところがちょっとあるかもしれないんですけどね(笑)。
 
──そうだったんですね(笑)。
 
lecca 基本は、とにかく誰か1人が目立つとかよりも「チームが勝つ」ってことしか考えてないみたいなのがすごくカッコいいし、それで結果出すのはすごい!みたいなのもあって。ラグビーって、実は紳士のスポーツなんですよね、思いやりのスポーツというか。すごい弱点を持ってるメンバーとか、「あそこはアイツにやられちゃうかもしれない」っていうのを全員が把握して、そこのサポートのために全員が動いたりとか。実はイギリスの紳士が始めた気配りのスポーツと聞いて、「えっ、気配り?」みたいな(笑)。いろいろ聞くと面白くて、自分も歌詞を書きながら「面白いな」「まだまだ知らないことがいっぱいあるな」と思ってました。

──8曲目が「奇跡」。出会いの大事さについての歌ですね。
 
lecca これは福岡良太さんという方が作ってくださったトラック先行の曲で、素晴らしいトラックがもうほぼ出来上がっていたので、すごく作りやすかったんですけれども、曲自体はアルバムの中でもかなり最後の方にできたものなんです。たしかラストの候補曲のうちの1つがこれで。この曲のテーマもちょっと変わったモチーフからいただいていて、ローラ・ダーンさん主演の「ENLIGHTENED」っていうTVドラマがあるんですよ。ローラさんはすごく冴えないOLさんの役で、会社の中で閑職みたいなところに追いやられて、地下の変な課で働くことになるんですね。そこで隣になった男性と仲良くなるんですけど、その男性が主人公になった回が1話だけあって。この冴えない男性が、毎日遠い会社に行って、毎日地下の閑職の部署で仕事をして、帰ってごはん食べて寝るだけっていう、何の変化もない毎日を過ごしてたんですけど、ある日、同じ会社のとある女性に出会うんですよ。その人と出会ってお付き合いをするようになった瞬間に、この人の毎日が変わっちゃうんです。もう見えてる景色とか食べてるご飯の美味しさとか、色も全て変わるっていうのをその1話で表現されていて、その中で、「君が見つけてくれた」みたいなセリフがあるんですね。それに私もガッと心を掴まれて。何かとの出会いとか自分の人生を決定的に変えた誰かとの出会いって、恋愛が一番分かりやすいですけど、恋愛以外でもいろんな形であると思うんですよ。それについて書きたいなと思ったのが、この曲を作った最初の経緯です。
 
──曲調からしてそういう雰囲気になってますね。
 
lecca そうですね、すごく素敵なトラックで、スケールが大きい感じの曲になりました。
 
──次の9曲目が、先ほどもお話しした「ohayo-gozaimasu」ですね。ここでまたガラッと空気が変わります。
 


lecca この曲はどこに入れても空気を変えちゃうので、どうしようかなと(笑)。
 
──これこそ1曲目でもよさそうな曲ですよね。
 
lecca そうですね、1曲目でもいいですし、ボーナストラックでもいいですし(笑)。この曲は昨年、「lecca say hello tour 2023 ~夏休みだから会いに行きます~」というツアーをやった時も、「狭間の曲」というか、1部と2部の真ん中という感じになって。それぐらいのパンチ力がある曲だというのは分かっていたので、入れどころが非常に難しくもありつつ、どこでもいいのかなというのもありつつ(笑)、非常に個性が強い曲です。
 
──朝起きて、戦闘開始という感じですが、ただここでも「自分のためにというのが大事」ということが強調されている気がします。。
 
lecca そうですね。起きてるんですけど、気づいたら寝てるように生きてるみたいな時代が自分にもたぶんあると思うので、そんな自分も起こしてやりたい、目を覚まさせてあげたいという気持ちもあって、書いたところがありました。
 

都議会議員としての活動がアーティスト・leccaに与えた影響とは……
 

 

──次の「チラカレ」は昨年の連続配信と同じ流れで、先ほどの「ohayo-gozaimasu」と2ヶ月連続で配信された曲でしたよね。前の曲からそのまま勢いが続くかのような。
 
lecca これは去年の夏前頃、「ohayo-gozaimasu」の後に制作したものだと思うんですけど、これもトラック先行で作った曲で、Justakiid君が作ってくれたトラックがすごく疾走感があって元気な曲だったので、自分が今伝えたいメッセージをすごくシンプルに、入れさせてもらってるっていう感じですね。この曲のMVはすごくカッコいい女の子が出てくれまして。

──田辺莉咲子さんですね。
 
lecca いろんなことをやられている方なんですよね。すごく強くてカッコいいイメージで、私も水を渡すシーンで、少しだけ出させてもらいました(笑)。
 
──次の「少年」は阿部慎之助さんに向けた曲ですね。先ほどの「team try」とはまた違って、わりとストレートなメッセージになっていますよね。
 
lecca 阿部さんが選手を引退されることが急に決まったところで、「これを引退のセレモニーで歌ってくれませんか」と言ってくれたエイベックスのスタッフさんがいて。正直、スケジュール的にできるかどうか分からなかったんですけど、急いで作らせていただいた曲です。「team try」と違って、作って完成して、OKになった場合はそれをグラウンドで、本人の前で歌うというハードルがあったので、「野球から離れるわけにはいかないよね」と(笑)。とはいえ、「どれぐらい寄ればいいんだろう?」みたいなところも分からなくて、けっこう手探りで作りましたね。私、野球はただ見てきただけで、やったことはないので。いろいろ想像しながら、自分も今子供を育てていて、子供と同じ学年には野球少年とかもいて、すごく一生懸命やってる子が多いので、その様子を想像しながら書いた感じでしたね。

──そもそもleccaさんは阿部さんや巨人との接点はあったんですか?

lecca 私の曲を気に入ってくださったのが阿部さんじゃなくて、会田有志さんっていう巨人の元投手でヘッドコーチの方だったんですよ。会田さんがコーチ陣とか選手に、私の歌を聞かせたらしいんですよ。CDを作って、キャンプの時はずっとそれ流してたら、阿部さんをはじめ何人かがハマって。それで阿部さん以外の巨人のコーチの方たちにもお会いして話しているうちに、けっこう仲良くなりました。阿部さんも2軍監督になったら、もうずっとそれを流すようになっちゃってたらしいんですよね。

──そうだったんですね。

lecca もうすごい頑張って、いかにして積み上げて勝ちを取りに行くかっていうことを、お酒の場でも話してるような野球バカなんですよ。だからこの曲も「野球バカ」というタイトルにしたかったんですけど、それはちょっと問題あるかなと思って、少年ってちょっと濁したんですけど(笑)。

──なるほど(笑)。
 
lecca 大人になってもやっぱり少年で、野球のことしか頭になくて、いい車とか乗っててもやっぱり野球のことで頭がいっぱいっていう中の、本当にレジェンドの1人が阿部さんなので、すごく純粋な熱みたいなものを大人になっても持ち続けてるっていうところに、今でもリスペクトがありますね。本当に、皆さんすごいなっていう気持ちです。

──12曲目が「灯」です。少しアコースティックな雰囲気で、「頼れる存在」について歌われていますね。
 


lecca 「心の支え」みたいなところですね。ただ、何のことを歌詞にしたか、ちょっと私が覚えてなくて。子供のことを歌ったような気もするし、音楽のことを歌ったような気もするんですけれども、でもどっちにしても、非常に苦しい時期に、そんな苦しい中でも「これがあるから、何か私、気づいたら笑ってた」みたいなものがあるといいよねっていうものです。それは物でも人でも、という感じで。
 
──で、13曲目の「start up」が、最初の方で言われたように、「マクアケ」と同じ頃に作られた曲でしたね。
 
lecca 完成させたのは相当最後の方だと思うんですけど、もともとのデモを作ったのは、「マクアケ」よりもうちょっと前かもしれないです。トラックは私が作ったもので、Yoshiさんがものすごくカッコよく作り変えてくださって出来上がったんですけど、目指すリファレンスとか全くなくてゼロから出てきた曲で、アルバムに入るとは思ってなかったので好き勝手作っただけっていう曲でした。
 
──以上で13曲について伺ったわけですが、このアルバムの内容に至るまでに、4年間の都議会議員活動の経験やそこでの思いというのが、どれぐらい影響していますか? 例えば、その時期の思いが一番色濃く出ているのはどの曲でしょう?
 
lecca それはたぶん、「素晴らしい人生」じゃないかなと思いますね。あの時期はすごくいろいろなことを感じさせられた期間で、いろんなことを感じすぎて、何を歌っていくっていうことがいっぱいあるような何もないような、そんな気持ちにもなっていたんですね。その中で、自分の中に歌いたいっていうテーマ、メッセージで一番先に出てきたのがこの「素晴らしい人生」だったので、これを言いたくて戻ってきたと言っても過言ではないと、MCで繰り返すぐらいなので(笑)。
 
──そうなんですね。
 
lecca たぶん、議員活動をやらせてもらわなければ、感じなかったことがたくさんあると思うんですよ。それまでの私が見ていた世界はまだまだ相当小さかったし、浅い部分だったのかもしれないんですけど、すごくすごくなんか広い世界のさまざまな、たくさんの人たちの色合いを見せてもらった時期だったし、本当にそこで感じたことがなければこの曲は書かなかっただろうなと思ってるので、影響は絶対的にあると思います。
 
──この先の活動、創作活動などにも大きく影響してきそうですか?
 


lecca そうですね、きっとそうなっていくと思います。もうすでに影響があるのは、メッセージの部分であったりとか、あと今は、すごく言葉を選ぶようになっているんですね。「これを言ったら誰かが傷つくかもしれない」っていう言葉は昔から外すようにはしてるんですけど、それがあまりにも増えてしまったので。例えばですけど、このアルバムのキャッチコピーになっている「再び、自分の人生に夢中になる」という、この言葉で傷つく人もいるんですよ。だから言えなくなっちゃうんです。そういうことを歌詞に入れられなくなっちゃっている自分もいた中でも、なるべく人を傷つけないであろう言葉を選んで、今書いてはいるんですけど、それが増えてしまったので。本当にいろんな方がいるっていうのを見れば見るほど、書くのは難しくなるなと思いながら、それでも書けること、書きたいことっていうのを書いていけたらいいのかなとは思っています。
 
──このアルバムが出て、5月にはZeppツアーもあります。それも含めて、ここからどうしていきたいでしょう?
 
lecca 私は音楽的な夢とかが何にもなくてですね、「ここでライブやりたい」とか「こんな風になりたい」みたいなのが一つもないので、それを探すのが私の今の目標です(笑)。
 
──探したくはあるんですね(笑)。
 
lecca 前は探す気もなかったんですけど(笑)、最近この『LIBERTY ERA』を完成させる頃に、ようやく「探そうかな」って思えるようになったので、一歩前進かなと思っております。
 
──それが見つかったら、またそこに向かってドーン!と。
 
lecca そうですね、私はいつも誰かと一緒に、その誰かの夢を一緒に追うのが好きっていうタイプなんですよ。誰か例えば友達のミュージシャンだったりとか、仲間のアーティストだったり、誰かが「こんな夢があるんだけど」みたいなのがあったら「いいなー、私もついてく!」みたいになるかもしれないですし(笑)。意外と他力本願というか、主体性がない人なので(笑)。夢とか野心とか本当何もなくて、すみません(笑)。
 


 
 撮影 長谷英史



『LIBERTY ERA』
2024.02.28 ON SALE

 




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高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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