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【上野大樹】「雨シリーズ」第3弾「別れるのは雨の日が多いんです」

2022.06.29
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音楽
インタビュー
6月29日にニューシングル「きみと雨」を配信リリースした上野大樹さん。この曲は2年前から始まった「雨シリーズ」の3作目で、タイトルの通りに雨がテーマになっています。このシリーズはどういう意図で始まったのか、今回の曲はこれまでとどう違うのか、など、上野さんに伺いました!


「雨の日にちょっと気分が明るくなるような曲を」



──「雨シリーズ」の3作目、「きみと雨」についてお話を伺おうと思ったら、外は実際にけっこうな雨が降ってきました(笑)。この「雨シリーズ」ですが、そもそも始めたきっかけはどんなことだったんですか?

上野 僕は雨があまり好きじゃなくて、雨の日は憂鬱だったんですけど、コロナ禍で外に出られなくなって、余計に家にいなきゃいけなくなったじゃないですか。それも重なって、同じような人もたくさんいるんじゃないかと思って、雨の日にちょっと気分が明るくなるような題材の曲を作ってみたいなと思って始めました。

──雨を題材にした曲はいろんなアーティストが発表していて、名曲と言われるものもありますよね。ただ連作というのはあまり例がないと思います。

上野 そうですよね(笑)。たぶん、1作目の「勿忘雨」(2020年6月)を作ったときに、「これをシリーズ化したら面白いかもね」みたいな話は出ていて、何となく「来年も書いてみよう」ぐらいのことは決まってたんですけど、3作続くとは、2作目が終わるまでは思ってなかった感じです。

──「気分が明るくなるような」というお話でしたが、歌詞の内容はそこまで明るいものじゃないですよね?

上野 そうなんです(笑)。1作目、2作目(「楕円になる」2021年7月)のときも、楽曲だけはポップにして、でも歌詞はいつもの自分の世界観でいこうと。そんなに大きな世界観を描くというよりは、雨の日に見える一つの景色みたいなものを描きたかったんです。だから詞としてはそんなに明るい感じではないですね。

──ちょっとほろ苦さという共通項がありますよね。

上野 「勿忘雨」は、別れがあって、思い出しながら「忘れられたら」という詞で始まって、「楕円になる」はその先のストーリーみたいな感じなんです。以前とは全然違う僕だよ、みたいな。今回もそういうテイストを残しながら曲を書き終えたいなと思って、という感じです。

──ただ今回の「きみと雨」は、前の2曲よりもストレートな詞と曲調ですよね。

上野 もちろん比喩的な表現もいいんですけど、いろいろやり過ぎて、ストレートなものも「ああ、いいな……」と思えて。曲を聴くタイミングで、普段思ってるけど言えないことだったりを言ってくれる曲がいいなと思ったんです。そういうものも一回書いてみたいなと思って、それでサビがちょっとストレートになりました。

──タイトルもいつになくストレートですよね。

上野 そうなんです(笑)。今回、タイトルはみんなで話し合って決めた感じです。僕1人が突っ走って決めちゃうと、また分かりづらくなっちゃうし。それにこういう、いつもと違うことをする場所なので、もっと広く届いてほしいなあということで、いろんな人の意見を聞きました。

──サウンドもストレートというか、素朴な感じですよね。

上野 アレンジをお願いしたtasukuさんには、なるべく素朴な感じでとイメージを伝えて。あんまり大げさなことをやっちゃうと、書きたいことが奥に行っちゃうなと思って、お皿を作ってもらうイメージで、素朴にしてもらいました。

──そこも前2曲との対比ですか?



上野 歌詞は続いてる感じがあるんですけど、アレンジに関しては、一定のポップさが保っていければというざっくりしたイメージしかなかったので、曲ごとに、その曲に合ったアレンジを作ってもらったという感じです。ただ、雨の音とかいろんなSE的なものを伏線として入れてもらったので、あの頃の感じは残ってるかなあと思ってます。

──1年に1曲ペースだと、「去年作ったときはああだったなあ」とか思い出したりしますか?

上野 ありますね(笑)。曲はずっと書いてるんですけど、同じテーマでずっと書き続けることってないから、自分の成長と向き合ってる感じですね。1作目のテーマが「別れ」で、別れについてこう思っていたのに、1年ぐらい経つと考え方が全然変わってくるなという面白さはありました。もっと続けていったら、達観した感じになるかもしれないですね(笑)。

──この詞で特に描きたかったモチーフというと?

上野 「雨」はもちろんとして、あとはやっぱり「別れ」ですかね。1作目のときに、裏テーマとして恋愛っぽいものを書きたいというのがあって。他の曲ではあんまり恋愛に直結したことを書きたいと思ってなかったので、雨というテーマに付随して恋愛みたいなものを書いてみたいなと思ってました。その2つですね。

──この「雨シリーズ」は全体的に恋愛がテーマということですね。

上野 1作目、2作目が恋愛寄りで、今回に関しては恋愛にも聞こえつつ、もっと大きな「別れ」という括りで作ってみました。

──なるほど。これまでのアルバムの曲は、恋愛がテーマにも聞こえるけど、実はもっと広いというものが多かったですよね。それよりもちゃんと恋愛に寄っているという。

上野 そうですね。何か自分の恋愛のことを書いてると思われたら、ちょっと恥ずかしいんですよ(笑)。すごく照準を絞って曲を書くのが恥ずかしいんですけど、この「雨シリーズ」に関しては、「お話」だから書きやすいというのもあるんですけど、3作も書いてると人間的な成長というのも描きづらくなってきたんですよね。だからもっといろんな人にフォーカスを当てて、前2作も聴いてもらえるようなきっかけの曲になるようにしたいなと思って、「別れ」というのをちょっと広げて書いてみました。

──実際に詞を書くときには、ご自分の実体験というのはどれぐらい盛り込まれているものなんですか?

上野 曲によって違うんですけど、だいたい自分のことから膨らませていったり、自分で思ったこととかが多いですね。80%ぐらいは自分のことです。今回も、前作2曲も、「お話だから」という前提はありつつ、自分の経験談から書いてますね。どれが「お話」で、どれが「自分のこと」かは言い切らないよ、というスタンスで(笑)。


コロナ禍の中で分かった、自分に向いた制作方法



──「雨シリーズ」に関しては、制作方法も少し違うそうですね。

上野 もともとコロナ禍をきっかけに始めたので、みんなでリモートのやりとりから始めて、全部がその場所で完結できる、ちょっとライトなやり方というか。「スタジオに集合!」じゃなくて、トラックはトラックで完結してもらって、僕がボーカルを録って、ミックスとかもご自宅でやってもらって、みたいな感じで1作目を作りました。去年の2作目は歌だけスタジオで録ったんですけど、今回はオケだけ作ってもらってミックスとかは全部やってもらって。コロナ禍からの復活とともに、だんだんやり方も戻ってきたんですけど、もともとのテーマは、「リモートだけで完結する」みたいなところでした。

──コロナ禍以前の当たり前、つまり打ち合わせでも制作でも集まって顔を合わせて、というやり方とは、やっぱりだいぶ違うものですか?

上野 あまり変わらなかったですね。スタジオは清書する場所という感じで。あとはLowファイというか、打ち込みという感じで括ったから、「もっとこの音を入れよう」とかもなかったので、あまり不便を感じることはなかったですね。

──ボーカルを自宅で録るのと、スタジオのブースで録るのとでは、気持ち的に変化はありませんか?

上野 家だとダラダラしちゃって、始めるのに時間がかかります(笑)。でもリラックスして楽に歌えるようになるのは、家の方がいいかもしれないですね。

──自分のペースでやれるのがいい?

上野 そうですね。ただ、自宅だとあっちゃこっちゃ行っちゃうので、どっちもよさはありますね。スタジオに行くといろんな人の意見ももらえるし、自分もゾーンに入ることもあるんですよ。だから「スタジオの産物」みたいな奇跡的なことも起こりますけど、でもあのリラックスした雰囲気はスタジオじゃなかなか出ないなというのもあるので、やっぱり善し悪しがありますね。

──「雨シリーズ」は自宅から始まってるから、そっちの方が向いてるんですかね。

上野 でも、自宅でもディレクションをもらうこともあるし、デモの方がいいときもあるので、スタジオでも「あのリラックスした感じを出してね」と言われたりもするんですよね。今回の曲は、スタジオに座ってわりとボーッとしながら歌ったり、ちっちゃい声で歌った方が家っぽいなと考えたり。家ではどうやって歌ってるんだっけ?という感じでやってました。一番大事なのが「リラックス」だというのは発見でしたね(笑)。

──それは今後にも生かせそうですね。

上野 はい。最初の頃は「明日はいい歌を歌うぞ!」という感じで、前の日からノドにいいものを摂ったり早く寝たりもしてたんですけど、あんまり変わらなくて(笑)。気持ち的に、リラックスして歌った方がいいものが録れてるという実感が自分でもあったんですよね。「雨シリーズ」で録ったものがいいと言われて気づいたことは、意外とあるかもしれません。

──ちなみに、雨の日の好きな過ごし方というのはありますか?

上野 基本的に家から出たくなくて、すごく暗い映画を見たりしてます(笑)。沈みたくなるので、そこを無理矢理ポップにさせようとしても難しいので、暗い映画とか、悲しい恋愛ドラマを見たりします。

──でも、曲を聴いてる人には明るく過ごしてもらいたいんですね(笑)。

上野 雨の日の「やることリスト」じゃないけど、「雨が降ったからあの曲を聴いてみよう」みたいなきっかけになったらいいなと思ってます。最初のテーマというのが「雨の日を彩る」というか、晴れの日だけじゃなく雨の日にも楽しいことを一つ作ってあげようという感覚です。

──パッと思い浮かぶ「雨の歌」というのは?

上野 中西保志さんの「最後の雨」ですね。「♪本気で忘れるぐらいなら~」というヤツです。

──やっぱり雨の歌というとそういうトーンの曲ですよね。

上野 そうですね(笑)。世の中の歌は「雨の日の出来事」を描いてるものが多いんですけど、僕の詩は「雨の日に思い出す」ことなんですよね。「雨が降ると思い出す」ということを書いて、あえて雨そのものことは描かなかったりするんですよ。

──「思い出す自分」ということですね。雨の日の思い出で、特に印象深いことはありますか?



上野 僕、付き合ってた人と別れるのは雨の日が多いんですよ(笑)。ケンカするのは雨の日が多いとか、そういうイメージですね。そういう体験談が、「雨の日の曲を書いてみよう」という考えに直結したのかもしれないです。

──これでシリーズも3作になって、方向性も見えてきたのでは?

上野 そうですね。1作目が別れの歌で、2作目は本当にそこから1年経った時のことというイメージで。3作目ともなると、2年前ってかなり遠くの出来事のように思えてくるものなので、どんどん「お話」に近くなってきて「昔の自分って、今と全然違って女々しいな!」みたいな(笑)。今回、わりと昔との違いを感じましたね。

──もしこのペースでシリーズが続けば、このシリーズの曲だけでアルバムが作れたりしますよね。ただ、10年以上かかりそうですけど。

上野 はい、アルバムとかは全然できそうな気がしますね。2年前の自分、1年前の自分と、曲を聴けばその頃のことを思い出すわけじゃないですか。梅雨っていう、時期が決まっているシリーズってあんまりないので、10年後にどんなことが書けるのかなあというのは興味があります。

──夏の曲とかはありますけど、梅雨に必ずリリースって、確かに珍しいですよね。

上野 ですね(笑)。でも「雨シリーズ」を書いてよかったなあと思ったのは、梅雨だけじゃなくて1年通して、雨が降ったら思い出してもらえるじゃないですか。「雨の男」というか(笑)、そういうものになりつつあるので、いいなあと思ってます。

──「雨男」みたいですけど(笑)。

上野 実際、雨は降らなくても、「僕が来たら雲行きが怪しくなってきたなあ」みたいなことは多いんですよ(笑)。

──今日も降りましたしね(笑)。では、シリーズは続けていきたいんですね。

上野 続けるのはいいんですけど、これからは2年に1回とかでもいいかなとか思ったりもします。あんまり曲数が多くなると、みんな聴くのが大変になっちゃうので(笑)。でも楽しいので、またいつかは復活させたいと思ってます。ただ思ったのは、ここまで「雨」と「梅雨」をセットで出してきたので、しばらくはアルバムの曲とかシングルとかで雨をテーマにした曲を作ることはないかなあと。


ツアーではライブの楽しさも難しさも実感中!



──さて、5月頭までツアーだったんですよね。いかがでしたか?

上野 楽しかったです(笑)。これまでは東名阪ぐらいしか回ったことがなかったんですけど、今回は5大都市だったので、ツアー感もありましたし。東名阪だと、各会場にいろんなところから来る人も多いんですよね。でも仙台とか福岡に行くと、そこに住んでる人たちを肌感で感じて、「あったかいな」と思いました。最初は「仙台でお客さん来るのかな……」という不安があったんですけど、実際に感じるとやっぱりうれしいなと思いました。

──ライブも回数を重ねていますよね。

上野 でも、はじめの頃よりは難しさを感じるようになりました。最初は何も考えずにやっていたんだなあと改めて思うし、やればやるほど、「もっとこうしたかった」とか「こうできたのに」とか思って、そこの難しさとか楽しさとかを実感しつつあります。お客さんが増えると、見る場所によって見え方も変わるじゃないですか。でもどこにいるお客さんも満足させたいなとか。それに曲が増えてくると、曲の振り幅として1曲ごとにしっかり向き合わないといけないなとか思いますし。2時間とかやると緩急も難しいし、セットリストとかも「どうやってみんなを楽しませようか」と思うと、悩みポイントが増えますね。

──そうですよね。

上野 あと、会場が変わってお客さんも変わると曲は新鮮な気持ちでやれるんですけど、MCは同じことを話さないといけないので、毎回どう新鮮な気持ちで臨もうかとか、そういうこともツアーの難しさだと思いますね。

──毎回同じことを話すんですか?

上野 やることがある程度決まってるんですよ。今回、初めて僕を見に来る人も多いだろうなということで、自己紹介を兼ねて卒業文集の作文を朗読して「昔はこんなでした。今と変わってますかね?」みたいのをやるコーナーがあるんですけど、全公演で全然うまくならなかったですね(笑)。だんだんうまくなるのかなあと思ったんですけど、そうはいかなくて。

──お客さんの反応はどうでしたか?

上野 会場ごとに違っていて、それも楽しかったですね。ワーッと歓声が上がるところもあれば、ジーッと聴き入ってくれるところもあって。それも含めて、MCは今回すごく勉強になったし、少しうまくなれたかなと思える部分でもありました。ツアーを回って、ライブ自体をもっといろんなところでやりたいと思ったし、いろんな環境で同じことができるようになりたいと思いました。

──どんな会場でも、ということですか?

上野 会場もだし、自分のコンディションも含めてですね。「今日はノドが痛いな」という日があっても、同じようにやれるようにしたいですし。でもステージに向かうルーティンとかもちょっとずつ分かってきて、もっと回数をやりたいなと思ってます。

──それも含めて、これからはどうしていきたいですか?



上野 またツアーも決まっているので、そこに向けてできることを増やしていきたいですね。ギターを弾く場面も増やしていきたいです。また、ライブと同時に制作も、この3年間変わらずにやってきてるんですけど、それがこの半年ぐらいで他の人に曲を書くことが増えてきたんですね。それで作家という目線で見ることもできるようになってきました。お願いされて曲を書くと、そこにピントを合わせて制作するから、考えることも増えてきて。自分の曲の時でも、「この人はこう思うかもな」みたいな視点が増えてきて、曲を書く楽しみも増したので、もっといろんな曲を書いてみたいなと思ってます。チャンスがあれば、いろんな人にいろんな曲を書いてみたいですね。

──これからチャレンジしてみたいことは?

上野 わりとやりたいことはできてるんですよね(笑)。あ、でもバンドでは東京でしかやってないので、バンドでツアーを回ってみたいです。音源通りの音で披露できたらいいなと思うので。

──では最後に、今回の曲をどのように楽しんでほしいですか?

上野 曲を聴いてもらえるきっかけっていろいろあると思うんですけど、雨が降った時に聴いてもらえる曲というのがテーマなので、雨が降った時に思い出したり、3曲聴いてもらえたりしたらうれしいですね。ま、晴れの日も聴いてほしいんですけど(笑)。


 
撮影 長谷英史


「きみと雨」
2022.6.29 デジタルリリース



上野大樹 秋・冬ツアー『水槽 -suisou-』
11月5日(土) 東京・WWW X 17:30開場/18:00開演
11月18日(金) 広島・広島Live space Reed 18:30開場/19:00開演
11月19日(土) 愛媛・松山キティホール 17:30開場/18:00開演
12月11日(日) 北海道・Sound Lab mole 17:30開場/18:00開演
12月18日(日) 東京・LIVE STUDIO LODGE 17:30開場/18:00開演


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高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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