前作『Grow apart』からわずか10ヵ月でニューアルバム『Grower』をリリースするAwesome City Club。ヒット中の映画「花束みたいな恋をした」のインスパイアソング「勿忘(わすれな)」も収録されているこのアルバムには、どんな思いが込められているのか? 3人のメンバーに各収録曲のこと、バンドとしての今、などいろいろとお聞きしました!
avex移籍 このスタッフチーム、このメンバーだからこそ通じる共通言語が生まれた
──新作『Grower』は、一見して前作『Grow apart』と関係があるんだろうなというタイトルですよね。これは続編ということなんでしょうか?
atagi ざっくり言うと続編ですね。前作と地続きになっているという感覚です。『Grow apart』では「すれ違い」をテーマにしていて、自分の中ですれ違っている二律背反的な心だったり、他者とのすれ違いだったり、心理的な揺れを描いた楽曲が多かったんですけど、今回のアルバムも心の機微とかに着目するという点は似ています。ただ、その後どうなっているかという答えとして、『Grow apart』から時間が経過し成長した我々 Awesome City Clubが与える側の『Grower』(栽培者)になったという感覚で、2部構成みたいな作品になりました。
──前作が昨年4月リリースだったので、約10ヵ月という期間での発表となりました。けっこう間が短いですよね。
PORIN 今までで一番間が短いですね。ざっくり言うと1年に2作品ということになるので。
atagi もともとこの時期を目指して作っていたというのはあるんですけど、それとは別にこのコロナ禍で、例えば本当は予定していたライブとかができなくなっちゃったり延期になったりして、楽曲制作に割ける時間が増えたというのはあります。喜ばしいことではないんですけど、コロナの副産物的な感じですね。
──前作がavexからの1枚目、そして今作は3人体制になって初のアルバムということになりますが、そういった外的な変化によって制作環境にも変化は生じてますか?
PORIN そこはあんまり変わってないですね。
atagi 作り方というか、順序はほぼ変わってなくて。メロディーを作って歌詞を乗せて、その後にアレンジ、肉付けをどんどんしていくという、そのやり方は変わってないです。
PORIN アウトプットの仕方がちょっと変わったぐらいですね。
──なるほど。ではその中で、曲作りの過程での役割分担というのは?
atagi 曲によって違いますね。
PORIN でも根本は、atagiからスタートしています。デモができた後の作業はアレンジャーさんと2人でやることが多いので、その2人で詰められるところまで詰めて、私がたまに詞を書いたり、モリシーがギターを弾いたり、アレンジもしたり。
モリシー ですね。
──前作からavexでのリリースとなったことで、周りからの反響といった部分での変化はありますか?
atagi 『Grow apart』の前に「アンビバレンス」という曲で先行配信という形を取らせていただいたんですけど、それがavexに移籍して一発目で。そこで明らかに反響の違いを感じていて、自分達の今のモードというか……どういう方向に進んでいきたいとか、どういうことをもっともっと知ってほしいかとか、そういうことがどんどん固められていったタイミングだったので、かなり変わったんじゃないかなと思うし、様々な反応がありましたね。
PORIN avexについて、「チャラい」とかそういうイメージを持たれてる方も多いじゃないですか。だから移籍を発表した時は「えっ! オーサムがavex?」という感じで、あんまりイコールでつながらなかったみたいで。でも、「avexらしくない」と言ったらおかしいかもしれないですけど、自分たちのことは貫き通しつつもavexと一緒にやっていくことで、いい意味で予想を裏切ることができたなとは思いました。
──ファンの方たちからすると「avex移籍!?」と驚いたけど、オーサムらしさは変わらないことで安心したと。では、移籍してよかったことというと?
atagi いろいろあるんですけど……基本的に自分たちが行きたい方向、やりたいことというのがめちゃくちゃクリアになったし、言葉を選ばずに言うと、単純にやりたいことがやれるということが、一番大きいかもしれないです。それは、別に今までやりたいことがやれなかったというわけじゃないですけど、今このタイミングで、このスタッフチーム、このメンバーだからこそ通じる共通言語みたいなものをちゃんと持てているということがうまく噛み合っているなという実感がありますね。
PORIN メジャーで5年間やってきたからこそやれるやりとりなのかなと思っていて、自分たちもいい意味で成長できたから、今はスタッフの方たちとも対等にお話ができて、チームワークもすごくしっかりしてきていてすごく楽しいですね。
──自分たちの意識が変わった部分はありましたか?
モリシー そうっすねえ……人の話を聞くようになった(笑)。
一同 (笑)
atagi 今まできかん坊だったからねえ、ホント(笑)。
PORIN 丸くなった?(笑) でも実際、レーベルの人が言う言葉ってアーティストにとってはトゲになったりという風に感じちゃうことって、けっこうあるんですよ。でも今は、その言われた背景に何があるかが分かるようになったというか。
モリシー ああ、そうだね。
PORIN 「何のためにそう言っているか」というのは、すごく理解できるようになってきたなと思います。
モリシー 今までは表面でしか聞いてなかったから。
PORIN そうそう。その先に何があるかも理解できるようになったから、ちゃんと分かるようになったというか。
映画出演と、インスパイアソングの誕生の秘話
──では、曲についてのお話を伺えればと思います。アルバムの1曲目「勿忘(わすれな)」は、映画「花束みたいな恋をした」のインスパイアソングということですね。曲の制作自体が、映画のイメージに沿ってということだったんでしょうか。
atagi そうです。そもそもその映画に、PORINとか僕らメンバーが本人役で出させていただくというご縁があったんですね。それで出来上がった映画を見させてもらったら、すごくいい作品で感銘を受けて。そこで感じたものをテーマに曲を作りたいということを制作会社の方とかに相談させていただいて、「それは是非やってください」という許可をいただいた上で制作していたら、お話がいい意味で二転三転して、「この曲を映画の予告編で使いましょう」という話にまでなってですね。もちろん、いろんな運とか、他の方の尽力とかもあったんですけど。そういう不思議ないきさつがある曲なんですけど、基本的には映画ありきでできた曲です。
──なるほど。最初から映画側の依頼があって作られたのかと思ってましたが、逆なんですね。
atagi はい、そうですね。「映画に影響を受けたから曲にしたい」というのを無許可でやるのも、何かちょっと変な感じがしたので、まず最初にお断りを入れて、そこから始まったという順番ですね。だからいろいろラッキーでしたし、人の優しさでいろんなことが動いたみたいな感じがありますね。
──聴いていて一番意外に感じたのは、2番でサビに行くタイミングで、ギターソロが入るという展開だったんですが。
モリシー ああ、確かに。全然意識してなかった。
atagi あれは、1番を作る時からそうしたいなという思いがあって。この曲は、音楽に対してものすごくピュアでありたいと思いながら作った曲でもあって、映画を見て感じた「ピュアであることの強さ」であるとか、「まっすぐであることの強さ」とか、そういう強さ……イコール美しさみたいなものでもあると思うんですけど、それを音楽に落とし込みたいと思っていて、とにかくギターを大音量で聴きたいと思ってたんですよ。あの曲で言うと、一番カタルシスを得られる場所がギターソロだったんですね。普通に考えたら、人が聴いて一番グッとくるポイントはサビだというのが当たり前だと思うんですけど、でも僕にとっては、あの曲で一番のカタルシスはギターにあって。そこに、言葉にならない感情が一番乗ってるみたいな。だからあれは、狙ってというわけではないんですが、そういう作りにしたかったという感じです。
──モリシーさんは「意識してなかった」とのことですが、今のお話のようなことをメンバー間で細かく話して作るわけではない?
atagi あっ、そうですね(笑)。
PORIN 曲の構成とかについては基本atagiに任せていますね(笑)。
モリシー 僕も何となく弾いて、「じゃあこれで」みたいな(笑)。尺はあらかじめ指定されていて、僕も「あ、ここでギターソロ。ソロがあるなんて珍しいねえ」なんて思いながら弾いてました。最近はギターソロがある曲をあんまり作ってなかったので。でもソロが入るタイミングはあまり意識してませんでしたね。
──そのギターソロの後のサビは、バックがストリングスですよね。前作に収録されていた「トビウオ」ではサビのバックがハンドクラップだったりというのもあって、オーソドックスではない作りというか、一筋縄ではいかない構成の曲が多いと思うんですが。そういう意識はされてますか?
atagi いや、全く……「オーソドックスじゃない」と思ったことがないんですよね(笑)。
PORIN 確かに(笑)。でもその2曲は同じアレンジャーさんなので、その方の傾向みたいなものはあるかもしれないですね。自分たちも、いわゆるJ-POPらしいというか、1番があって2番があって大サビがあって……みたいなものはわりとやってこなくて、「やらないことが自分たちの当たり前」みたいな感じがあったので、意識をしてそうなったわけではないですね。
atagi あえて外しているというわけではないんですけどね。でも、よくよく聴くと最近の曲って、わりとそうなってると思うんですよ。だってドラムをスネアの音で使ってる曲って半分ぐらいになってる気がしますし、スネア+クラップ、みたいに何かしらレイヤーされてたりして。自分の中でもしばらくそういう感じなんですよね。
──曲全体のテーマとしては、先ほどあったように「ピュアであることの強さ、美しさ」ですね。
atagi そうですね。小手先でやることから逸脱したかったというのはもちろんあって、でも「変わったこと言ってやろう」とかいうところに自分たちの意識が行っちゃまずいなと。とにかくテーマに忠実に、というか、まっすぐに向き合ったという感じですね。
──この曲は先行してラジオで解禁されましたが、反響はいかがでしたか?
PORIN ファンの皆さんがカバー動画をすごくたくさん上げてくれているんですよ。今までにそういうことはあまりなかったし、しかもリリース前の時期に耳コピして上げてくれてるのがすごくうれしいねという話をしていました。それだけ、これまで届いていなかった人たちに届いている感じがすごくしますね。新しい現象が今起きてる様に感じます。
──それはやはり、映画といい相乗効果が出ているということですね。
PORIN そうですね。予告がたくさん流れていたんですけど、その予告もすごく感動的で、そこに華を添えられているような音楽になれているなと思ってうれしいです。
──先ほどのお話からすると、「予告編で何秒使われるからこういう感じに」というのでもなかったんですよね?
atagi はい。予告編などで使われるということが決まったのも、曲の完成度がほぼほぼ上がってきたところだったんですよ。だから「何秒以内に」という指示とかも全然なくて、のびのび作った上で、ラッキーなことにそういうことになったという感じですね。
──この曲もそうですが、ボーカル割りは普段どのように決めてるんですか?
atagi これもケースバイケースなんですけど、そもそも誰がメインを取るのかということと、もしその曲が一人で成り立つなら、どちらが歌うかというのがまずあって。基本的には2人で歌うことを想定して作っていって、引き算していくというイメージです。「これだったら一人のほうがいいかな」と思ったら一人の曲にするし。
──「勿忘」は1番がatagiさん、2番がPORINさんになっていますが、これについては?
atagi 最初、自分の構想の中では、かけ合いみたいになったらいいなと思ってたんですよ。でもそうすると、ちょっと説明過多になるというか、聴いてる方が誘導されてる感が強いというか。映画の中だったらいいのかもしれないんですけど、この曲の中ではうまくいかない気がして。だったら1番と2番で、それぞれが思ってることを手紙を読み上げるように、淡々とした温度感で物語を進めていくというストーリーテラー的なものも併せ持ちながら進行していくのがいいかなと思って、こうなりました。
PORIN 内省的なことを表現するのに、かけ合いだと難しいなという感じだったよね。
atagi そもそもかけ合いになってる時点で、心の秘めた部分を描けないんですよ。そこが合わなかっただけかもしれないですけどね。
初めてのコラボ曲は自分たちのことを知ってくれて、自分たちも好きで、愛がちゃんとそこにある人と
──2曲目は「tamayura」です。
atagi これも男女の物語の歌なんですが、1曲目の「勿忘」が、それぞれ別れた昔の大切な思い出を慈しんでるみたいな美しい曲だとしたら、この「tamayura」は明日別れるという2人を描いた曲なんです。同棲していて明日別れるカップルが、最後の夜をどう過ごす、という。別れる時って、キレイなことばかりじゃないはずなんですよ。特にお互いをリスペクトできる部分と許せない部分がちょうど半々あるはずなんですね。その半々というのが、シーソーのように重さでバランスが取れるようなものではなくて……優劣のつかない半々ってあると思うんですよ。こっちも100%、こっちも100%、みたいな。本当にこういうところが許せない、だけど嫌いになれないというような。そういう部分をうまく歌に落とし込みたいなと思って作った曲ですね。
──サウンド的にはすごく浮遊感のある曲ですよね。
atagi タイトルの「tamayura」というのが、「少しの間」という意味のざっくりとした言葉なんですけど、自分たちにとっての「過去」「今」「未来」以外のことについて歌っている歌なので、思い出をフラッシュバックさせるようなサウンドというか、ちょっとノスタルジックなサウンドという感じですね。
──次は「Sing out loud, Bring it on down」。
atagi これは僕が歌詞を書いたんですけど、コロナ禍の中で、ナーバスな話題が増えたと思うんですよね。それに対して、「うるせえっ!」ってやりたかった曲です(笑)。
PORIN 吠えたんだね。
atagi 「うるせえっ! とりあえずやれ!」っていう。でも、「頑張ろうぜ、俺たち」じゃないんですよ。「うるせえっ!」なんですよ、何か。そういう意味では、一番感情が突き抜けた瞬間を歌ってる曲なのかもしれないなと思ってて、クーラ・シェイカーみたいな、UKの人たちがインド音楽に目覚め始めるみたいな、そういう感じの雰囲気を勝手に感じてるんですけど。そういう、本来トラッドなものじゃないんだけど一周回って妙な色気がある、みたいな不思議な曲になったなと思ってて。今出てきている新しい、不思議な価値観を飲み込むんじゃなくて、全部弾き飛ばすみたいな(笑)。「うるせえ、やれや!」と。
──「ゴチャゴチャ言ってんじゃねえ!」みたいな。
atagi でも説教がましくないところが自分的には気に入っていて、「俺はこれなんだよ!」っていう強さがある曲という感じですかね。
──こういう、曲のコンセプトみたいな部分については、モリシーさんは制作時に聞いてるんですか?
モリシー いや、聞いてないですね。今、初めて聞きました(笑)。
──それで大丈夫なものなんですか?
モリシー 大丈夫です!
atagi こういうことって、あんまり共有したことないかもしれません。
モリシー ないよね。バンド結成してから、そんなに話してないよね。
PORIN 曲を聴けばある程度は分かっちゃうから。
モリシー そうそう。分かっちゃう。
──では、1曲1曲についてこんなに細かく聞いたり話したりすることはないけど、ある程度はわかり合えている、ということなんですね。
atagi そうですね、確かに。こういう話、したほうがいいんですかね?
──いやいや、今それでいけているのなら、このままで大丈夫だと思います(笑)。
atagi 実家で母親がご飯を作ってる時に、「何でこのご飯作ったの?」って聞かれるような感覚というか。だってその食材があったからだったり、私がこれを食べたいだったり、いろいろだと思うんですけど……だから特別そういう話はしてないですね。
PORIN お互いに信頼感がそれだけあるってことです。
──なるほど。では次の曲に行きます。「ceremony」。
atagi 曲によく表れてると思うんですけど、「ミニマムな多幸感」というのがテーマになっていて、MVは一つの部屋の中で完結するストーリーになってるんです。小さな幸せを一つ一つ紡いでいくような。その「小さな幸せ」が曲の大きなテーマでもあります。自分たちがコロナの中でライブができない、決まってるライブも延期になったり、その先もどうなるか分からないみたいな中で、定期的に続けていた活動が「ホーム・セッション」なんですね。それぞれが家の中で個人で演奏した動画を合わせて配信したり、ひと部屋使って生ライブをやったりとか。今の自分たちのリアルな活動範囲、リアルな規模感みたいなところに落とし込んだ多幸感、というのがテーマになってる曲です。
──サビのポジティブ感に向かって進む感じは、そう聞くとよく分かりますね。次は「湾岸で会いましょう feat.PES」。まさにパーティーソング!という1曲ですが。
atagi 「PESさんとやりたい」っていうところから始まったんですよ。
PORIN 初めてのフィーチャリングで、「誰とやろうか」「PESさんがいい!」って感じで。PESさんは昔からオーサムを応援してくださってイベントとかにも呼んでくださったりしていたので、そういう、ちゃんと自分たちのことを知ってくれて、自分たちも好きで、愛がちゃんとそこにある人とはじめはやりたいねっていう話でPESさんにお願いすることになりました。自分たちだけだったら、こういうパーティーソングって、今のメンタルじゃ書けないなと思ったんですけど、PESさんとだったらこういうのやってもいいんじゃないかな、っていうのが始まりですね。
──PESさんとの組み合わせだったからこそ生まれた曲と。
atagi そうですね。僕らだけだったら、こういう曲にはなってないと思います。曲の中に新木場のSTUDIO COASTという箱がちゃんとモチーフとしてあって、だからタイトルが「湾岸で会いましょう」なんですけど、PESさんと初めて出会ったのもCOASTだし、この曲を初お披露目しようぜって決めたのもCOASTのワンマンだったし。とにかく、自分たちにとってライブハウスとか遊び場ってものがいかに大事かというのを感じた最近の流れっていうのもあるし。その懐かしみというのも含めて、「あ、こういう風景いいよね」っていうことを感じてもらえたらなと思ってる曲です。
──実際、共同作業をやってみていかがでしたか?
PORIN メッチャ楽しかったね(笑)。
atagi うん。
PORIN 打ち合わせ自体は1回だけだったんですよ。ざっと話をして、こっちはそういうテーマを持っていって「PESさん、どうですか?」「ああ、いいじゃん」みたいな感じで。それをどんどん膨らませていってひな形は自分たちで書いて、「ここのヴァースお願いします」みたいな感じで。
atagi ほぼほぼ、直接というよりはLINEとか本当に身近なツールで連絡を取り合いながら作ってったって感じなんですけど、出来上がるまでメッチャ早かったっすよ。
PORIN うん、ビックリ。PESさんのレスが早すぎて「えぇっ!」みたいな(笑)。2番のラップのかけ合いがあるじゃないですか。atagiと夜に事務所に集合して、お酒飲みながら書いたんですよ(笑)。そういうことをやるのが久しぶりだったんで、新鮮でしたね。
──今回やってみて、もっといろんな人とコラボしてみたいという気持ちになったりしましたか?
atagi なったんですけど、でもやっぱり、お互い愛がある上で成り立っていることなんだろうなって思うし、そういうことのほうが逆に大切だなって改めて思えたっていうか。
PORIN そうだね。
atagi 僕らもPESさんのことやっぱ好きだなって再確認できたし、そういう気持ちで参加してくださったのかなって感じるからうれしかったし。そういう経験ならいくらでもしたいなって思いましたね。
「波のない普通の日常」を楽曲にした「Fractal」
──次は「記憶の海」。これはPORINさんが1人で歌ってますね。
PORIN はい。久しぶりに自分一人で歌う曲を作りたいなっていうところから始まって。この曲はけっこう昔のデモから引っ張ってきていて、それをもともと交友があった永井聖一さんにアレンジをお願いして一緒に作っていきました。歌詞の世界は「昔の恋人を想う」みたいな内容になってるんですけど、コロナの時におうち時間で、恋愛に限らず昔のことを思い出すことが増えたなと思って、記憶の海を泳ぐことが増えたなと思って、それを歌にした感じですね。
──やっぱり今回は、コロナ禍の中だからこそできたという曲が多いんですね。
PORIN 影響されてますね。
atagi だから、めちゃくちゃリアルタイムなものがパッケージされてると思います。
──1人で歌う曲って、気持ち的には違いますか?
PORIN 1人か2人かっていうのそんなには変わらないですね。曲のイメージによって変わるだけなので。
──次は「Nothing on my mind」。アコギがメインの曲ですが。
atagi 結果的にそうなったって感じですね。あのアコギは、最初に僕がデモを作った時の音をそのまま使ってるんですけど、メチャクチャ暗い曲で……あ、そうだ、「暗い曲を作りたい」って言って作り始めたんだ。
PORIN そうそう。
atagi デモも「暗い曲2」っていう。
何で暗い曲を作りたかったのかっていうと、アルバムの中で気持ちの振り幅みたいなものを作りたかったというのと、ミドルテンポの曲って自分にとっても作りやすいし色々なイメージが湧いてくるけど、そのもう一つ深いところにはどういうものがあるんだろうとか、どんなことを歌いたいんだろうっていうのを考える良いきっかけになったと思っていて。もっと言うと、最終的に希望を持てる歌みたいなのがスッと入ってくる時もあれば、希望がない歌のほうがスッと入ってくるっていうタイミングもあったりして、そこがリアルにヒリヒリするような曲を作りたかったっていう感じがあって、この曲を作ったんですよね。「Nothing on my mind」って、「俺の心には何もねえ」ってことでタイトルがエグいなと思うんですけど(笑)、でも「何もねえよ」ってことを言えることがすでに前向きであるというか、「無」を知るって意外と難しいというか。自分にないんだっていうことを知るには人間的な深みが必要というか。そういう成熟された感性を持ちたいよね、みたいな願いも若干入っているというか。そういう曲ですね。
──最初に思っていたように、暗い曲にできた感じですか?
atagi そうですね、自分の持っている部分は出せたかなと思ってます。暗いというか、今まで手を伸ばしたことのない深みに手を突っ込んだ、みたいな曲かなという感じです。
──次は「Fractal」ですね。
atagi この曲はESME MORI君と一緒に作ったんですけど、これも一つ大きなテーマがあって、「日本人の好きな侘び寂びを排除した曲」、要は抑揚のない曲を作りたいみたいなところが最初にあって。抑揚はあるんですけど、いわゆるJ-POP的な抑揚ではなくて、僕らが普段聞いているような洋楽が持っている低体温のよさがずっと続いているってところに美学を持ってった歌っていう感じですかね。歌っているテーマとかも……Fractalって幾何学模様のこととかを指すんですけど、僕にとっては、その言葉から連想する模様があんまりキレイではないんですよ。美しいものを「美しい」って言うのは簡単だけど、日常ってもっとまだらがあるし無駄もあるし、ヨレもあるし、そういうのの積み重ねかなと思ってるんで、「すごく日常的なもの」という意味でFractalっていう模様を提示してるんです。いいことと悪いことの波って、常にずーっと上下してることはないし、特に僕はコロナ禍でちょっと浮いたりちょっと沈んだりの繰り返しの日々を続けてたから、ある種リアルな感情だなあと思ってて、「感動したい」とか「絶望したい」とかあんまり思わなかった時期とかもあって。それが自分にとってリアルだったから、その時の感情みたいなものを歌にしたって感じです。
──大きなメリハリがない時に「これを歌にしたい」と思うこともあるんですね。
atagi そっちのほうがむしろ普通ですよね。「楽しい」「悲しい」っていう喜怒哀楽の端っこって、つまもうと思えばつまめるんですけど、そうじゃない時を過ごしてるほうが圧倒的に長いじゃないですか。その大半の中に大事なことを封じ込めるんだけど、人ってやっぱり極端なことしか覚えてないじゃないですか。「よかった」「悪かった」って。それが、変な感じがするというか。「“普通”が悪い」みたいな価値観と戦う曲かもしれないですね。
──9曲目は「僕らはこの街と生きていく」。
PORIN 『Grow apart』の「Okey dokey」という曲の続編みたいになったんですけど、バンドのことを歌った曲です。2019年、2020年はメンバーの脱退とかもあっていろいろ激動の年だったんですけど、それを不安に思うファンの方もいるんだろうなっていうのもあり、そういう人たちに向けて一曲書くべきだなと思って書いた曲ですね。コロナ禍の時代感と、自分たちのバンドのことと、未来をちょっと書いた曲になってます。
──だから、この「街」というのはAwesome Cityのことで、そして「僕たち」なんですね。
PORIN メンバーのことなんですけど、一人称は自分(オーサム)を指す「私」じゃなく、「僕」ですね。
atagi それってたぶん、受け取る側の入ってきやすさを考慮しているものだと思うんですよ、無意識にね。「自分たちの曲になってくれる」みたいな。
PORIN そうですね。語感とかもあるんですけど、「僕たち」のほうが飛距離があるというか、みんなのものになるんじゃないかと。
──最後は「夜汽車は走る」です。アルバムの締め方というのはいろんなやり方があると思うんですが、静かな締めですよね。
atagi この曲は実は、今回の楽曲の中で一番古い歴史があるというか。2年前ぐらいに、ワンマンのツアーをしてる中で、福岡のホテルで書いた曲なんですけど、その時の僕はものすごく寝台列車に乗りたかった時期で(笑)。音楽制作会議をしてる時に「乗りたいんですよね」っていう話をしたら、「今日しかまとまった時間がない。じゃあ今日行こう」っていうことになって、そのまま体一つで東京駅から出雲に行ったんですよ。
──「サンライズ出雲」ですね。JRではもう唯一の定期寝台急行という。
atagi そうです、そうです。僕は「サンライズ出雲」にずっと乗りたくて、そこで夜行列車の曲を作りたいと思ってて。実際に車窓から見える街灯とか、真っ暗の海とか、室内灯もついてないから、本当にいろんな光が走っていくんですけど、その独特の空気とか湿り気とか温度、そういうものを曲にしたいと思って作った曲なんです。このアルバムを結ぶとなった時に、やっぱり自分たち、オーサムが等身大のものであってほしいという気分が今あって、だから知っている人は知っているこの曲で締めるというのも面白いかなと思って選びました。あとは、フォーキーな曲を最後に聴きたいなと思っちゃったというのもあって。そういう歴史もあって、なおかつこれはメンバー内で完結できている曲なんです。モリシーがアレンジをしてくれて、それもまたいいなと思って。
モリシー 確かに。もともとツアーの時に聴いてて、僕も気に入ってたんですよね。メンバーみんな「いい曲だねえ」って言ってて。その時のことがあって、atagiが弾き語りしてるのを何回も聴いてたので、曲が体に染み込んでたんです。だからアレンジするのがすごくイメージしやすかったというか。だいたい、アレンジする時って「どうしよう……」ってなって楽器をいろいろいじって「うーん……」ってなるんですけど、この曲については、ものの2時間ぐらいだったかな?
atagi メチャクチャ早かったよね。
モリシー メチャクチャ早く戻したよね。たぶん人生最短記録なんですけど。というぐらい体に入ってきてた曲で、基本がもうあったというか。atagiのギターと声だけ入ったデータがあって、そのギターはまんまパターンで使ってますし、そこに料理みたいに野菜をこう盛り付けて、塩こしょうして、みたいな。それが容易にできた曲って、やっぱり名曲なんだなと思いましたね。
atagi じゃあ、名曲なんですか!
モリシー 名曲です! ブラボー!
PORIN ブラボー!(2人で拍手)
──名曲認定も出ました(笑)。しかし、本当に夜汽車の曲だったわけですね。
atagi そうです。だからサブタイトルを「サンライズ出雲」にしてもよかったんですけど(笑)。あの時に乗れたのは、本当に一生ものの思い出という気がしてるんですよ。
2021年もいい曲を作る、いいライブをする、与えられたことを一生懸命に
──と、そういう曲で締まるアルバムということですね。で、ジャケットやビジュアルは前作に続いて木村豊さんですね。前作とそのシングルはトゲが印象的でしたが、今回のコンセプトは?
PORIN アー写、シングルからアルバムまで一気に撮影したんですよ。で、一番いいヤツをアルバムに持ってきました。シングルはアルバムに通じるわけで、世界観を統一したくて。シングルはどこをピックアップするかという感じで決めてます。今回のコンセプトは「広告」というか……一番最初にやりたかったのは、3人の顔を使うことだったんです。メンバーのビジュアルを出したジャケットって今まで一回もなかったので、このタイミングでやってみたいなっていうのがあって。あとはそこにユーモアをプラスしたいと思った時に、「昔の広告みたいにしたらいいんじゃない?」っていうアイデアが木村さんから出たんですね。「ceremony」は歯ブラシの広告だし、アルバムはレコードプレイヤーの広告という感じでシリーズ化していて。
──ああ、アメリカで家族がリビングに集ってレコードを聴いているイメージですね。
PORIN そうです、そうです。
モリシー ニコッとしながらね。
atagi 60年代の広告ポスターっぽい感じですよね。
PORIN そういう、半分遊びみたいな感じでいつも作ってます。
──ちょっと話が戻るんですが、映画「花束みたいな恋をした」では、バンドとして出演にクレジットされていて、PORINさんはその他に個人名もありますよね。
PORIN バンドとしては演奏シーンがあって、私はウェイトレス役でお芝居もちょっとしています。初チャレンジでした。
──やってみていかがでしたか?
PORIN 向いてないなと思いました(笑)。申し訳なさすぎて、「すみません~!」って感じでしたけど、いい経験でした。脚本家の坂元裕二さんが以前から応援してくださっていて、その方の作品に出られるということがすごく光栄でした。
──じゃあ、もう出演することはない?
PORIN もしもオファーをいただけるのであればやらせていただきたいです(笑)。
モリシー それはやるんや(笑)。
──演奏シーンで映画に参加するという経験はいかがでしたか?
モリシー 演奏を終わってから楽屋にはけていくという流れっていつも通りではあるんですけど、何かちょっとこっぱずかしかった感はあります。
PORIN MVを撮るのと同じ感覚ですね。
──さて、この先5月7日には中野サンプラザでのワンマンライブも予定されていますが、2021年はここからどうしていきたいですか?
atagi 僕、インタビューを受けるたびにその質問に困ってるんですよね(笑)。「どうしていきたいか」で言うと、答えは「今までと同じでいきたいです」になるんですよ。いい曲を作る、いいライブをする、与えられたことを一生懸命やる。ホントにそれだけなので、それ以上に何か言えるかというと難しいんです。まあ、いろんなことがありがたいなって思える時期だから、ありがたがって、面白がっていきたいなって感じですね。
PORIN 音楽業界もすごく厳しい状況になってますけど、こうしてアルバムも作らせてもらえて、ライブもやらせてもらえるというのはすごくありがたいことだし、今いるお客さんとかスタッフとかをちゃんと、より一層大事にして活動していきたいなって思います。
モリシー 音楽業界だけじゃなく、他の業界も含めて大変ですけど、オーサムとして、一人の人間として何か力になれれば幸せですし、そういうのを何かひたすらやっていきたいですね。そこの中心軸は音楽にあって、オーサムにあって、っていう。そんな感じで今年も頑張っていきたいなって思ってます。
──永福町でやられているという「MORISHIMA COFFEE STAND」の抱負はいかがですか?
モリシー このタイミングで聞きますか! 不意打ちですね(笑)。そっちの抱負は、「赤字にしない」ですね、リアルなところでいくと(笑)。でもまあ、あんまり気にせずのんびりやりたいです。
メンバーとかスタッフもポロッと来てくれたりするし。こういう時だからこそ、ポロッと来れる場所を……
PORIN 憩いの場ですよね。
モリシー そうそう。憩いの場があって、僕は常に待ってる状態なんで。ヒマだったらおいで、みたいな。そうやっていろんな人が寄って来てくれたらいいし、そういう場所になるように頑張ってるって感じですね。でもまだ、実現したのは半分ぐらいなんですよね。
──半分ですか?
モリシー 本当は実家を改装してコーヒー屋をやりたいというのが夢なんですよ。今は実家じゃなくて、別のコーヒー屋さんを間借りしてやってるんで、まだ50%。いつか実家でやりたいですね。
──そのためにも、バンドもコーヒー屋さんも頑張ると。いいお話を聞いたところで、ありがとうございました!
モリシー これが締めでいいの?(笑)
『Grower』
2021.2.10 ON SALE
●CD+Blu-ray+スマプラ
品番:CTCR-96010/B
価格:¥5,500(本体価格)+税
●CD+スマプラ
品番:CTCR-96011
価格:¥2,900(本体価格)+税
【収録曲】
1. 勿忘
2. tamayura
3. Sing out loud,Bring it on down
4. ceremony
5. 湾岸で会いましょう feat.PES
6. 記憶の海
7. Nothing on my mind
8. Fractal
9. 僕らはこの街と生きていく
10. 夜汽車は走る
■ライブ情報
Awesome Talks – One Man Show 2021 –
【日程】
2021年5月7日(金)
【場所】
東京 中野サンプラザ
【時間】
OPEN 18:00 / START 19:00
【チケット】
前売りチケット料金:7,000円
未就学児入場不可。12才以下は保護者同伴かつ要チケット
企画: avex / RENI
制作: SHAFTRONG
【Awesome City Club Official HP】
https://www.awesomecityclub.com/
【Awesome City Club Twitter】
https://twitter.com/ccawesome
【Awesome City Club Instagram】
https://www.instagram.com/awesomecityclub/
【Awesome City Club YouTube Official Channel】
https://www.youtube.com/channel/UCW66DYvzKs5bmcCqjMqT3-w
PORIN (Awesome City Club)がディレクターを務めるアパレルブランドyarden(ヤーデン)よりファッション×音楽を融合させた新プロジェクト「in the yarden」始動
【Awesome City Club】全国9都市のライブハウスをまわるツアー「Awesome Talks Live House Tour 2024」を完走。
【Awesome City Club】最新曲「シャラランデヴー」10/23(水)配信開始!同日20:00からミュージックビデオも公開!
【Awesome City Club】10月23日(水)に10ヶ月ぶりの配信シングル「シャラランデヴー」リリース決定!!
ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。