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昭和から平成そして未来へ向けて...新井ひとみに聞く"昔の話"とこれからのこと。

2020.11.20
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インタビュー
「80年代風アイドル」をコンセプトに、ちょうど1年前の昨年11月に東京女子流からソロデビューした新井ひとみさん。「デリケートに好きして」「少女A」のカバー路線で衝撃を呼び、CITY POP on VINYLに参加とした初のオリジナル曲「恋のミラージュ」も発表した彼女の次作は、加藤登紀子さんのカバー「時には昔の話を」。ジブリ・アニメーション「紅の豚」のエンディング・テーマとしても知られるこの曲に、彼女はどのように挑んだのでしょうか。またこの1年のソロ活動で、彼女が掴んだものとは?

 

「自分なりの表現の仕方を考え、飾らず素直に歌ってみました」

 


──いきなり新曲について伺いたいんですが、今回の「時には昔の話を」はジブリ・アニメーション「紅の豚」のエンディング・テーマですよね。映画は見ていました?

新井 今回、この曲を歌うことが決まってから初めて見ました。ジブリ映画は「となりのトトロ」、「千と千尋の神隠し」など見た作品もあったんですが、今回一緒にいくつか見て、「こんなにたくさんあったんだ」ということを再確認しました。

──なるほど。では「時には昔の話を」の原曲に触れた時はどんな印象でしたか?

新井 加藤登紀子さんがすごく大きな存在なので、その味が楽曲にすごく染み込んでいるなという感じがしました。声の出し方とかアレンジとか、聴いているだけでその情景が思い浮かぶようなところがすごいなと思いました。



──そもそも、加藤登紀子さんに関してはどれぐらい認識されてましたか?

新井 お名前はもちろん知っていたんですが、正直、「時には昔の話を」をきっかけに詳しく知って、「百万本のバラ」など他の曲もいろいろ聴きました。どの曲もストーリー性があって、聴きやすいし曲の情景が想像しやすいなと思いました。

──この曲で歌われている情景、世界についてはどういう印象ですか?

新井 歌詞を貧しい頃の話なんだなと思うんですけど、「紅の豚」の映画と合わせて見ると、青春を振り返るという意味で、自分に重なる部分もあったんですよね。東京女子流としての私もいるし、ソロとしての私もいるし、2010年にデビューする前の過去の自分もいるなって。「一枚残った写真をごらんよ」という歌詞があるんですけど、実家に子供の頃からの写真アルバムが置いてあって、それを帰るたびに見るというのが私の習慣で、そういうところがちょっとリンクするなとも思いました。

──そんなこの曲を「自分の曲」として歌うとなった時に、意識したことはありましたか?

新井 レコーディングに臨む時に、改めて加藤さんの歌を聴かせていただいたんですが、その素晴らしい部分は残しつつ、カバーとしては自分のバージョンにしていかないといけないですよね。だから1番の部分では軽く置く感じで、相手に問いかけるような優しい感じをイメージしました。最初から深い色を出すのではなくて、ちょっと軽めな感じで。それが3番では深みを出して、感情を表現することを意識するようにしました。サビの最後に「そうだね」「どこかで」というフレーズがあるんですが、そこに全てが込められているというか、そこを聴けば全てが分かるような気持ちの込め方を意識して歌ったので、そういうところにも注目して聴いていただきたいなと思います。

──曲が進んでいくごとに深みが増していくように意識したわけですね。

新井 ソロで2曲リリースして、次はどんな曲にしようかと思っていた時にスタッフさんから「こんなのもあるよ」と勧めていただいて、何曲か聴いたんですね。今はコロナのこととかもいろいろあって、何が本当なのかよく分からない状況じゃないですか。でも一度立ち止まって、青春時代だったり楽しかった過去のことを思い出して、未来につなげていけたらいいなという思いに、この曲が一番合っている気がして。それでこの曲を選んだんです。

──なるほど。

新井 最初はカラオケで試して、加藤さんの歌い方に似せて歌ってみたりもしたんですが、やはり私と加藤さんでは違うので、自分なりの表現の仕方を見つけていきました。

──確かに、これまでの2曲は新井さんが曲の世界に近づけている感がありましたが、今回はそれに比べると素直に歌っている印象を受けました。

新井 はい、素直に歌ってみました。カバーさせていただくので、近づけるということも大切なところではあるんですけど、あまり飾らずに、自分なりの思いの伝え方をしてみようかなということになりました。

──その意味では、今まででは一番、女子流での歌にも近いものがあるのでは?

新井 今回の楽曲は、AメロとBメロが音程が低いのが特徴的なんですけど、女子流の歌でも低いパートを得意としていることもあるので、あまり気を張らずに歌えたのかなというのもあります。

──カバーして歌ってみて、改めて感じたこと、発見したことはありましたか?

新井 加藤さんが歌われているのは本当の「昔」という感じがするんですけど、私が今回、レコーディングで歌わせていただいたのは、「つい最近のような、でももっと昔のような……」という時代なのかなと感じています。私が産まれた頃とかではなくて、「ちょっと前のことを思い出してみて?」と寄り添うような感じの聞こえ方のような気がして、それが伝わればと思います。

──MVはどんな雰囲気になっているんですか?

新井 世界観としては、「紅の豚」で加藤さんが演じているジーナをオマージュしたものになっています。衣装も今着ている白の衣装と、紫の衣装を着ていて、喫茶店で思いを巡らせているようなシーンとか、そこで歌っていたりしていて。それと、ゴージャスな背景でガイコツマイク(SHURE社の55SHシリーズのマイク。集音部分がガイコツに似ていることから呼ばれる)を初めて使って歌い上げているシーンとかもあって、今までのMVとはひと味違う作品になっていると思います。



──曲に合わせてムーディーな映像になっていそうですね。

新井 そうですね。振り付けという面でも、「デリケートに好きして」ではダンスがあったり、「少女A」では音に身を任せて踊ったりもしているんですけど、今回はちょっと手を動かしたり、サビで壮大になったところで手の動きをつけているぐらいで。ただ、バラードで歌詞の世界をじっくりと表現することができるので、すごく歌いやすかったし、こういう形もいいなと思えました。

──では、この歌によって成長できた部分も?

新井 私のソロではバラードは初めてというのもありましたし、ダンスがない分、表情だったり手の動きだったりで表現しないといけないという点では、成長できる部分でもあるかなと思っています。


いろんな人々とご縁を感じるソロ活動

 

──ソロデビューからちょうど1年になりますが、最初の「デリケートに好きして」に始まり、次が「少女A」。オリジナル曲の「恋のミラージュ」を挟んで、次が「時には昔の話を」。見事にバラエティに富んだ楽曲ですよね。

新井 そうなんですよ!(笑) ただ、どの曲も自分で「これがいい」と決めてやっているので、いろんなことを考えて自分なりの表現の仕方を見つけ出したいなと思って、それぞれ、目の前にあるものにぶつかっていった感じはありますね。「デリケートに好きして」はデビュー曲ということもあって、みんな「おめでとう!」という反応だったんですけど、次はどういう楽曲が来るのかというところで、みんなドキドキワクワクもしつつ……というのがあったと思うんですね。それで次の「少女A」を初めて披露した時は、「こういう感じで行こう」という私の意志もすごく固まってたので、親衛隊の皆さんも私がぶつけるものに正面からぶつかり返してくれて。それに動じずにパフォーマンスさせていただいたので、すごく手応えを感じました。

──その次が「恋のミラージュ」ですよね。

新井 この曲ではアナログ・レコードも発売させていただいて、韓国のプロデューサーのNight Tempoさんにリミックスしていただいたりして、そのファンの皆さんも聴いてくださったのがうれしかったですね。ジャケットは韓国のアーティスト、TREE 13さんにイラストを描いていただいて、親衛隊の皆さんが「かわいいからこのまま飾るね」って言ってくださって。「少女A」の時も7インチのアナログ盤を発売して、それをきっかけにレコードプレイヤーを購入してくださった方も多かったんですね。それで「恋のミラージュ」も聴いていただいて。

──親衛隊の方々にとってはアナログ・レコードとの出会いにもつながったんですね。

新井 私も、ある時下北沢駅の近くでカフェを出たら、すぐ近くにHMVがあってレコードが目に入ったんですよ。それで見に行ってみたんですけど、店員さんとお話して「こういう企画があるんです」って言ったら「じゃあぜひ、ここでライブしてください!」って言ってくださったんです。そこからライブが実現して、さらにそれがきっかけでレコード盤を発売させていただいて……何だかこの1年間、すごくいろんな人とご縁があって、それでお仕事をさせていただいたり、ライブをさせていただいたりというのが増えた実感があります。



──女子流の活動とは違うラインのご縁が着実にできているということですね。そのレコードなんですが、CDどころか配信が当たり前という世代の新井さんにとって、どういう印象がありますか?

新井 私もレコード・プレイヤーを持っているので、それで自分の楽曲だったり中森明菜さんの楽曲だったりを聴くんですが、まずCDにはないちょっとした手間が必要で、だけど味があるんですよね。ちょっと「プチッ」みたいな音が入ったりするじゃないですか。それが現代では感じられないようなものなので、CDとかとはまた違った味を感じますね。ちょっと高級感があるような気もします。

──自分の曲がレコードになるというのも、誰もが経験できることではないですよね。

新井 そうなんですよね。レコードのジャケットの表裏に私がいること自体が、驚き桃の木山椒の木ですね(笑)。

──出た、昭和ワード!(笑)

新井 でもホントに新鮮な感じがします。先日、22.5歳の、半年遅れのバースデー企画をzoomでやらせていただいたんですが、その時に久しぶりにファンの皆さんとか親衛隊の皆さんにお会いしたんですね。はっぴとかはちまきとか私のレコードとかを部屋に飾ってくれている人たちがいて、すごく温かい気持ちにもなりましたし、そうやって大切にしてくださるのもうれしくて。たぶん、「どうやって配置しようかな」とか、私のことをすごく思ってくださってるわけじゃないですか。そういうところに、すごく心が温かくなりました。


ソロ活動の手応え、そしてこれからの目標とは?

──今感じる、ソロでの手応えはいかがですか?

新井 はじめはやっぱり、「大丈夫かな」「一人で歌ったりできるかな」っていう心配があったんですけど、やっていくうちに、私一人で頑張っているわけじゃなくて、親衛隊の皆さんとともに歩んできているなというのをすごく感じるようになったんです。「一緒に頑張ろう!」っていう道ができていることがすごく素晴らしいなとも思いましたし、「一人じゃないんだな」ということがすごく感じられた1年だったなと思います。

──女子流での活動とはまた全然違いますよね。ソロだからこそのいい部分とは?

新井 私がやりたいことを何でも、ハチャメチャにというか……「じゃあこれをやってみよう!」って急にやり始めても、他の人に迷惑をかけないというか(笑)。ステージに立ってるのは私一人なので。何でもできちゃうなというのが、いいところだと思います。同時に、グループだとステージ上で助け合いができるっていうよさがあることにも改めて気づいたんですよね。パフォーマンスしてる時とか、たまに「みんな楽しんでるかな?」って思うことがあったりするんですよ。それでメンバーとかと顔を合わせると、「楽しい?」「アツい?」とか確認し合ったりするんです。そこで「メンバーも楽しんでるから大丈夫だ」とか「このままみんなで一緒に楽しんでいこうよ」って思えるので、すごく心強いんですよね。あと、トークで混乱しちゃっても、メンバーが助けてくれたり(笑)。



──なるほど(笑)。

新井 私、しゃべってる途中にわけがわかんなくなると、頭が真っ白になっちゃうんですよ。そういう時とかでも、「大丈夫だよ」「こっちだよ」ってみんなが引っ張ってくれるので。一人だと自分だけで「これも話すでしょ? これも話すでしょ?」って考えないといけないので、飛んじゃう時もあったりして(笑)。親衛隊の人たちが教えてくれて「あ、これ言うんだった!」って思い出すこともあるんですけど(笑)。

──何て頼りになる親衛隊なんだ(笑)。ところで1年前のソロデビューの時には、「これから昭和のことをもっと勉強したい」と話していましたが、昭和研究は進んでますか?

新井 私は東京女子流の方では大学4年生だったりするので、卒業論文を書かないといけないんですが、松田聖子さんが大好きなので、彼女がどうして今でも活躍し続けられているのかというテーマでまとめようと思っていて。それで今は「松田聖子論」という本を読んでいるところなんです。

──おおっ!

新井 その本でオーディションの時のいろんな事情とかを知ったり、「ザ・ベストテン」の映像とかを見たりしてます。地元のお母さんに電話がつながって泣いちゃったりする姿を見ると、私もウルッと来ちゃったりして。電車の中で映像を見ることも多いんですけど、思わずニヤニヤしてることも多いんです(笑)。聖子ちゃんが実は何度もオーディションに落ちてたとか、いろんなエピソードがあってビックリしますね。

──もしタイムマシンがあって、昭和の時代に行くことができるとしたら、やってみたいこと、行ってみたい場所ってありますか?

新井 うーん、何だろう……あ、松田聖子さんのライブは見てみたいです。聖子ちゃんカットの頃の。あとは、昭和の日常生活を体験してみたいですね。



──もし当時に行けたとしたら、「ライブ」じゃなくて「コンサート」って言わないと通じないかもしれないですよ(笑)。あるいは「リサイタル」とか。

新井 リ……サイタル?



──知らないですよね(笑)。では、調べてみてください(笑)。さて、ソロ活動も活発化してきて、女子流との兼ね合いはどうですか?

新井 女子流ではできないこともやらせていただいてたりするので、両方あって大変とかは感じたことないですね。どっちもあってすごくバランスが取れてる感じです。

──女子流の他のメンバーからはどんな反応がありますか?

新井 「この曲好き!」って言ってくれたり、「時には昔の話を」については「みんなに聴いてほしい!」って言ってくれてたりもするので、すごくうれしいですし、私ももっと頑張らなきゃと思います。

──女子流は11/28に10周年記念ライブが控えていますが、ソロでのライブもそろそろ……。

新井 そうなんですよ! 配信ライブはちょこちょこあるんですけど、直接ファンの皆さんの前に出る機会はここ半年ぐらいはあまりないので、早くできるようになったらいいなと思います。



──ソロとしての今の目標は?

新井 オリジナル楽曲ももっと作って、ソロライブ……コンサート(笑)がしたいですね。10曲ぐらいは用意して、みんなに楽しんでもらいたいです。

──その時には親衛隊の皆さんに大集結してもらって。

新井 そうですね! オンラインで「親衛隊MTG」というのをやってるんですが、1回目にそれぞれの係を決めたんですね。それで前の曲では「コールを一緒に考えよう」というテーマで盛り上がったり、メンバーの方が「こういうことをやりたいんですが」と提案してくださったり、チラシ係の方がチラシを作ってきて披露してくださったりとか、いろんなことをやっててすごく楽しいんです。今回の曲についても「MVを一緒に見ない?」とか「どんなキャンペーンをやろうか」とか、あとは私の目標を伝えたりして。

──それは親衛隊員の皆さんも励みになりますね。

新井 はい。「こういう風にしていくよ」って話した方が、みんなで一緒に頑張っていけると思うし、私も頑張れるので。

──突き進むのを楽しみにしてます! ありがとうございました!


撮影 長谷 英史

2020年11月25日(水)発売
『時には昔の話を』




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高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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