世界的ギタリストとして活躍する一方で日本文化に魅せられ、2004年から日本に拠点を移したマーティ・フリードマンさん。今回、日本のアーティストの曲をギター・カバーするアルバム『TOKYO JUKEBOX』シリーズの第3弾を9年ぶりにリリース! 収録曲についてのほか、ギター・アレンジの根底にある考え方など、いろいろと伺いました!
今作のコンセプトは東京マラソンと東京オリンピック!
──本題からは外れるんですが、ちょうど今朝(10/7)、エドワード・ヴァン・ヘイレンさんの訃報が届きました。ギタリストとして影響も受けられたのでは?
マーティ 直接影響を受けたというより、尊敬が溢れる存在ですね。そのニュースを聞いて本当に落ち込んでいて、何と言えばいいか分からないですけど……、世界クラスで尊敬されているギター・ヒーローの中で、僕の中でも一番です。「ギター・ヒーロー」と言われる人たちの中でも好みはありますけど、エディ・ヴァン・ヘイレンはどこから見てもカッコいいんですよ。自然な演奏者だと思います。ずーっとメトロノームを使って練習していたようなタイプではなくて、彼を経由して天国からのリズムと演奏がもたらされているような。本当に、誰よりもリアルでナチュラルで、「才能」という言葉では足りないほどだと思います。
──なるほど。
マーティ みんな彼のことを真似してますけど、彼の真似はできない気がします。本当に最高の最高のミュージシャンでした。メチャメチャ尊敬してます。それだけに、本当にショックですね。まだ若かったし、彼の中にはまだまだみんなにあげたい音楽があったでしょう。本当のギター・ヒーローでした。悲しいです。
──そうですね……。取材させていただく日にこのニュースが流れて、お聞きしないわけにはいきませんでした。では、新作『TOKYO JUKEBOX 3』についてなんですが、「1」(2009年)、「2」(2011年)に続く第3弾ということですね。
マーティ 間に何枚もオリジナル・アルバムを出しつつ、世界ツアーも何度もやっていたんですが、ずーっと「TOKYO JUKEBOXの新しいのはいつ出すの?」と聞かれてました。日本だけじゃなく海外でも。特に海外のツアーで日本の曲を演奏すると、日本の曲に興味を持ってくれる人がすごく多いんですよ。「マーティのおかげでこんなアーティストを発見しました」とか「マーティのおかげで日本の音楽に興味を持ちました」とか言ってくれるのは、すごくうれしいことです。『TOKYO JUKEBOX』というタイトルでも、最終的には自分の音になっちゃっていてオリジナルからははるか遠いものになってるんですけど、もしそれがオリジナルを発見する入口になっているとすれば、とてもありがたいことです。それに、僕が原曲を破壊してる解釈を、聞いた人が許してくれるのであれば、それもうれしいです。
──前2作から10年近く空いたのは?
マーティ ずっとやりたかったんですよ。その間も、「次は何を入れようかな」というのはずーっと考えてました。今回、マネジメントとかいろんなところから「やるなら今だよ」と言われて、「よし!」と思いましたね。タイミングが合ったというのかな。
──このシリーズに入れる曲というのは、どうやって選んでいるんですか?
マーティ 選曲のプロセスはこうです。とりあえず、「やれたらいいな」と思う曲を25~30曲ほどリストアップして、その許諾を申請する前に、まずデモを作るんです。なぜかというと、許諾をもらって曲を作り始めた時に、もしうまくいかなかったら、絶対アルバムには入れたくないんですよ。それで収録しなかったら、許諾してくれた人たちに申し訳ないですよね。だから許諾をお願いする前にデモを作って、「これなら僕はうまくできる」と思ったら、いったんストップします。それで最終的に20曲ぐらいに絞って大人の世界に投げて(笑)、結果を待ちます。その状態になっている曲については、どれが最優先とかはなくて、OKになった曲を仕上げて収録するんです。今回は2曲がオリジナルで10曲がカバーなので、その10曲の許諾をもらったらとても満足して、作業を始めることができました。
──全2作と比べると、今回は演歌が入ってないんですね。
マーティ そういえばそうだ!(笑) え、何でだろう? ……今回は全体的には、東京オリンピックと東京マラソンに向けてというのもコンセプトの一つだったんですよ。そのためというのもあったんだと思います。
──そうなんですね。
マーティ 今年もやるはずだったんですが、2017年から毎年、東京マラソンのスタート地点でギターを弾いてるんです。「ポリリズム」とか「天城越え」、「Story」とか、みんなが知ってる曲を弾いてるんですけど、そこで弾くのにふさわしい曲、応援になる曲をここでも入れようと思いました。それから東京オリンピックにふさわしい曲ですね。聴いた人が元気になるような曲をいっぱい選びました。
──では、東京オリンピックが無事開催となったら、開会式か閉会式で演奏を……。
マーティ それは夢ですね(笑)。叶ったら最高だと思います。東京マラソンで3年連続やらせてもらってるだけでもかなり贅沢ですからね。日本の素敵なミュージシャンがたくさんいるのに、外国人のくせに選ばれてるわけで。
──いやいや(笑)。
マーティ でも、オリンピックでもしやれる可能性があるんだったら、アピールしたいです。喜んでやりますよ!
──その雄姿も見たいですね。さて曲の方は、今回のどの曲も大胆なアレンジが施されていますが、アレンジにあたってはオリジナルのどういう部分を残していますか?
マーティ せめて、何の曲をやっているか分かるように。もう一つの基準は、カバーする理由が必要です。ただ「ギターで弾く」というだけだったら、やる意味は薄いですよね。何か新しい解釈、新しい楽しさ、全く違う新食感が必要。そして原曲に対する愛を込めます。その基準プラス、「マーティだったらここを変える」というところを、勝手に破壊する。そういうやり方ですね。
──アレンジをやりすぎそうになることは?
マーティ 僕はやりすぎタイプです。何もかもやりすぎだし、自分を抑えることもしません。「これは何だ!?」とか言われたい。「これは何だ!? でもまた聴きたい」「落ち込んでる時に聴いてたら鳥肌が立って、もうちょっと頑張ろうという元気が出た」という反応が出たら、とてもうれしいです。かなりやりすぎだからね。パッと聴いただけでは分からないかもしれないけど、2~3回聴いたら、どれだけやりすぎか分かるよ(笑)。
──それこそ、原曲が分からなくなるぐらいやりすぎてしまいそうなことも?
マーティ 部分的にはありますよ。「負けないで」ではDメロというか、原曲に存在していない部分を作りました。それは聴いた人がビックリする部分だけど、あの曲はすごくハッピーになる応援ソングだから、その中に強烈なメリハリを入れたかったんです。ダークで怖い部分を挟んだので、最終的にはよりハッピーになれると思います。
──その過程では、オリジナル曲が好きなファンのことは意識しますか?
マーティ そういう人たちをガッカリさせたくはないですね。僕は何よりその曲のファンですから。ただ、「オリジナルだけ聴いていればいい」と思ってほしくもないんですよね。オリジナルには人々の思い出もこもっているから、いくら面白く変えてもそこは越えられないんですけど、曲に対しての愛をファンの人も分かってくれたら一番いいですし、あるいは完全に別のオプションとして楽しんでもらえたらうれしいです。例えば、僕はうなぎが大好きなんですけど、ちゃんとしたうなぎ屋さんで食べると、牛丼チェーン店のうなぎはやっぱり違うな、ってなるじゃないですか。それは違うものじゃん? でも僕は両方が好きなんです。ZARDのファンの人から見ると、僕は牛丼屋のうなぎかもしれないけど、そっちの方がシチュエーションにふさわしいこともたまにあるでしょ?
──分かります(笑)。
マーティ 逆に「ZARDはそこまで好きじゃないけど、マーティの解釈は好き」という人もいるかもしれない。それはそれでいいんです。楽しみ方が違うわけだから。だから僕の曲にも、原曲と同じような楽しみ方は望んでないです。
日本在住アメリカ人として「U.S.A.」をカバーする気分とは?
──今作の収録曲の中で、「紅蓮華」を先行公開されていましたね。
マーティ あの曲に関しては、またちょっと違った現象がありました。あの曲のファンは「鬼滅の刃」のファンがほとんどなので、作品に対する思い入れがありますよね。だからあの曲のフレーズをチラッと聴いただけでも、いろんな思いが溢れるんですよ。正直、曲としてはものすごく革命的というわけではないんですが、そこにいろんな魔法が合わさってスーパー爆発になったんだと思います。まず、LiSAの解釈が素晴らしい。曲とアニメのマッチングがピッタリすぎるし、曲もどんなジャンルの、どんな年齢のファンにも受け入れられるような曲だと思います。あれは魔法ですね。
──確かにそうですね。
マーティ 僕は「I’m Proud」とか、すごく変わった……というか凝った曲が好きなんですよ。でも「紅蓮華」はそうじゃなくて、嫌いな人がいないような曲だと思うんです。だからそれをカバーしようというのは、かなり大きなチャレンジではありましたね。メロディが速いからそんなに崩せないし、僕の前にもいろんな人が、ピアノとかハーモニカとか、いろんな楽器でカバーしている。それを改めてカバーするのは大変です。でも、僕は僕で独特な解釈ができたと思います。ファンの人は「マーティの『紅蓮華』はどんな感じになるんだろう?」って知りたがるでしょう? それをガッカリさせたくないと思ったので、今回のアルバムでは一番苦労しました。
──なるほど。ではちょうどいい流れなので、他の収録曲についても伺えればと思います。「負けないで」と「紅蓮華」の間に入っているのが「千本桜 feat.初音ミク」ですね。
マーティ これもたくさんの人がカバーしているし、和楽器バンドのバージョンとか、素敵なカバーが多いですよね。それ超えられるわけないじゃん! でも、だからこそ自分的な解釈をやりたかった。たぶん、アルバムの中では一番、東洋的な曲になったと思います。その中で「ギター・オリンピック」という感じで弾きまくってて、僕が今までやったことのなかったフレージングもいっぱいありますし、新しいギターテクも入れつつ、ドラムとベースとギターが強烈なかけ合いをするようにしました。
──確かにハードなかけ合いがありましたね。
マーティ 一番理想的な変わり方は、演奏だけじゃなくて新しいモチーフを入れることなんです。例えば「負けないで」だったら暗い部分を入れて、モチーフを変えています。それができたら僕としては一番満足なんです。「千本桜 feat.初音ミク」はその次に満足な変わり方で、僕以外の素晴らしいミュージシャンたちにも限界まで頑張ってもらったんです。あのドラムとベースとのかけ合いは本当に汗だくで苦労してもらってできたものです。
──アルバム全体でも、ベースが印象的な場面は何度もありました。
マーティ でしょう? 本当に素晴らしいミュージシャンが曲ごとに揃っているので、自分よりも目立ってほしいと思ってるんです。
──次は「風が吹いている」です。
マーティ 今回のアルバムの企画がスタートした時に、最初に「やりたい」と思ってリストアップしたのがこの曲でした。「1」で同じいきものがかりの「帰りたくなったよ」を収録しましたが、あれは海外で一番人気なんです。ツアーでは必ず最後の曲で演奏していて一番盛り上がりますし、ライブ終了時はピアノ・バージョンを流しています。ライブの締めとして本当に素敵だし、いきものがかりの曲は大好きなので、とにかくもう一回やりたかった。「ありがとう」も考えましたが、オリンピックというテーマに向けては「風が吹いている」の方がいいと思ったので、収録OKとなった時はアルバムについての自信がかなり上がって、すごくインスパイアしたバージョンができました。
──その次は「ECHO」ですね。
マーティ この曲はTVでたまたま見かけた時に、「あ、これはTOKYO JUKEBOXにふさわしい曲だ」と思いました。ときどき、アルバムのことを考えていない時にラジオなどで曲を聴いて、「マーティならこうする」というアレンジが思い浮かぶことがあるんです。正直、この企画はアレンジが一番難しいところで、どの曲でも10~15ぐらいのバージョンを作るんです。テンポを変えたりキーを変えたり、間奏を変えたりという風に。それを聴いて反省会をして決めていくんですが、そのプロセスが一番大変です。だから、TVやラジオで聴いてすぐにアレンジがが頭に浮かぶということは、それはやるべきなんです。完成したバージョンは、最初に浮かんだものとほぼ同じでした。
──そういう場合もあるんですね。
マーティ 原曲の落ちサビのところの、ボーカルのハモりアレンジが面白いんですよ。それをギターでやるか他の楽器でやるか考えて、最終的にはキーボードでやってもらったんですが、その上でギターをかぶせるのは個人的にオイシかったですね。「ポリリズム」でもボーカルのアレンジが面白くて、それを守りたいと思って全部ギターで再現したんですが、あれはキャリアの中で一番難しいチャレンジでした。これもそういう感じですね。
──次はオリジナル曲ですね。「The Perfect World (feat あるふぁきゅん)」。
マーティ 2年前の曲のセルフカバーですね。オリジナル・バージョンはすごく満足のいく出来で、これ以上触りたくないと思っていましたが、前とは違う演奏者、違う解釈、違うボーカルでのカバーを提案されて、すごく魅力的だと思いました。まずボーカリストを見つけた時点で、新しい解釈が浮かびました。あるふぁきゅんの声は制限がなくていろいろできるので、オリジナルとはかなり雰囲気を変えることができましたね。ギターは違うキーでやったので、なかなか面倒くさかったんですが(笑)、手を抜かずにこのチャレンジを最後までやり切れたのはうれしいです。
──他の人の曲をアレンジするのと、自分の曲をリアレンジするのでは、やはり全く違いますよね?
マーティ 全く違いますね。他の人の曲を聴いたら、変えたいところが必ず何カ所か出てくるんですよ。「負けないで」だと、イントロから原曲にサヨナラしました(笑)。それができるのは贅沢ではあるんですけど、自分の曲、特に発売されている曲だと、自分の中で完成されているので変えたいところなんかないんですよ。「もともとおいしいのに、なぜレシピを変えなきゃいけないんだ?」ということだから。でも、今回はそのチャレンジがうまくいって、今では両方のバージョンが全く同じぐらい好きです。
──次は「U.S.A.」なんですが、この曲ってもともとユーロビートのカバーじゃないですか。
マーティ それを知らなかったんですよ!
──そうなんですか!
マーティ 完全にDA PUMPのオリジナルだと思ってたんですよ。2年前、「うたコン」というTV番組でDA PUMPと共演して、「U.S.A.」でギターを弾いたことがあるんです。「原曲にはギターが入ってないのに、なぜ? アメリカ人だから?」と思いましたが(笑)、その時に「ECHO」と同じように、「この曲をTOKYO JUKEBOXでやったら……」というアレンジが浮かんだんですね。ギターを入れないといけないからフレーズを考えていたから、そういう考えになったんです。それで、「次にやる時はこの曲を入れよう」と思うようになりました。
──しかもこの曲って、日本人がアメリカに憧れるという歌ですよね。
マーティ 憧れてるのかナメてるのか分からないけどね(笑)。もともとヨーロッパの曲を日本人がカバーして社会現象というような曲になって、そこに初めてアメリカ人が手を加えて。でもそのアメリカ人は日本に住んでて、ほとんど日本人みたいになってるアメリカ人なんだから、こんな組み合わせはないよね(笑)。だから、かなり楽しく作れましたし、アルバムの中でも一番楽しい曲になったんじゃないかな? ただ苦労したのは、サビの「U.S.A.!」って、メロディがないじゃん。
──ああ、確かに!
マーティ メロディがないと、けっこう困るんですよ。「何これ、メロディないじゃん!」って言われないように、裏技とか駆使しているので、とにかく楽しく聴いてもらえると思います。この曲のベースは特に強烈ですよ。清(きよし)さんという、ずっと一緒にやってるベーシストなんですけど、彼女のベースは本当に強烈だから。デモを作ってる時に、適当に彼女の真似をしたベースを入れたんですよ。僕のベースはガチ下手クソなんですけどね。ウチの奥さんはホントに、それを聴くたびに笑ってます。「早く清さんに直してもらってよ!」って。それはともかく(笑)、この曲の清さんのベースは注目してほしいです。
日本の音楽は何よりもメロディが素晴らしい!
──次は「宿命」ですね。
マーティ Official髭男dismさんは次々に感動的な曲を生み出してますよね。日本のメガヒットは、本当に素敵なメロディが入ってますね! アメリカの音楽は、もうメロディという点では死んでます。それは非常に悲しいことですね。特に海外のミュージシャン仲間は、アメリカのトレンドにすごくガッカリしてます。日本もそうならないように応援したいです。僕は日本の音楽のそういうところを誇るんですよ。日本のヒットチャートを見ると、ランキング上位の曲はどれも強いメロディがあるんです。そして解釈も豪華で。アメリカはラップとメロディなしのR&Bがあまりに圧倒的人気だからね。
──確かに、今のヒットチャート上位はほとんどそうですね。
マーティ だからメロディ自体の意味がすごく薄くなってるんです。僕は日本に住んでるから楽しんでますけど、アメリカのミュージック・ラバーたちは本当に厳しいと思います。音楽を楽しむきっかけが少なくなってると思いますから。本当に、日本もそうならないように祈ってます。だから僕はどこに行っても髭男を聴いてて、「あ、メロディがまだ生きてる」と思うんです。素敵な歌い方も生きてるし、オートチューン(音程を補正する音楽用ソフトウェア)だけじゃなくて生の歌声も生きてる、と思いますね。それで髭男の曲は絶対マストだと思っていて、この曲を入れました。
──では前作からここまでの10年間で、日本の音楽の大事なところは変わっていないと思いますか?
マーティ はい。大事なところは変わってないんですけど、日本の音楽は世界のいいとこ取りで、いろんな要素をうまく取り入れてると思います。これは僕の好みだけの意見なんだけど、日本の音楽シーンは世界の要素をうまく取り入れることで、よくなっていると思います。全世界のテクノロジーをうまく利用して、メロディをもっとうまく表現してますよね。たぶん、日本人のユーザーたちはメロディがないと許さないんだと思うんです。それを大事にしてるから、日本の音楽の存在がありがたいです。
──次は「行くぜっ!怪盗少女」ですね。ももいろクローバーZのファンには感慨深い選曲だと思います。
マーティ ももクロさんとはいろんな思い出がありますね。今でも、「2011年のさいたまスーパーアリーナでのライブは感動的でした」ってファンの人に言われますから。ただの飛び入りで2~3曲しかやってないのに。まあ、100人の合唱団がいるところに僕がいきなり地獄からせり上がってギターを弾いてたのは、いい演出だったと思います。ももクロさんとはいいつながりが続いていたので、1曲ぐらいは「TOKYO JUKEBOX」に入れたかったんです。
──次は「サザンカ」ですね。
マーティ 僕はいろんな曲のMVが大好きなんですけど、あんまり抽象的なイメージの作品は引いちゃうんですよ。「サザンカ」のMVはストレートでエモーショナルな感動があったので、そこからこの曲のファンになりました。バラードが大好きで、普通なら2~3曲は入れるんですけど、今回はコンセプト的に1曲だけにしようと思っていたので、この曲がマストでしたね。全体的には応援ソングを中心にしたんですけど、メリハリとして感動的なバラードを入れたかったので。
──実際、いいアクセントになっていると思います。
マーティ でもこの曲はけっこう苦労しました。オリジナルの完成度が高すぎて、破壊しすぎるとバカみたいになってしまうと思ったんです。そこで豪華なクラシックのアレンジにしようと思って、バイオリン、ピアノ、チェロ、ハープなどの楽器を入れました。ドラムはちょっと迷って、ずっと一緒にやっているドラマーは、メタルのドラマーとしては申し分ないんだけど、バラードはあまり場数を踏んでないなと思ったんです。それで、友だちのグレッグ・ビソネットさんというアメリカのドラマーにお願いしました。彼はたぶん、大ヒットしたバラードの曲では世界一たくさんドラムを叩いてる人ですよ。電話したらLAで録音してくれたんですが、やっぱり餅は餅屋でした。バラードのドラムの叩き方はやはり別のものですからね。
──次は「Time goes by」ですね。
マーティ 最近、90年代の曲の影響を受けたヒット曲が多いですよね。だから1曲ぐらいは90年代の曲を入れたいと思っていました。これも好きな曲なんですけど、解釈を相当変えないと、アルバムの中では弱くなってしまうかなと思って、一番メタルっぽいアレンジにしました。面白いことになっていると思いますよ。ちょっとバラードっぽい原曲をノリノリのメタルでギターソロ祭りにするというアレンジがうまくできたらいいなと思ったんです。うまくできてるかどうかは分からないですけど……。
──いや、まさに狙い通りに仕上がってますよ(笑)。
マーティ どの曲もそうですけど、オリジナルのアーティストの反応を知りたいです。
──それは確かに聞いてみたいですね。で、ラストは「JAPAN HERITAGE OFFICIAL THEME SONG」です。日本遺産テーマソングということで、文化庁公認の曲なんですね。そのため、和テイストに満ちた曲になっています。
マーティ 和テイストの入れ方に苦労しました。ほとんどの外国人ミュージシャンが思うような「和」の形とは別のものにしたかったんです。典型的なのは、「荒城の月」とか「さくら」とか、あるいは寿司屋さんのBGMの琴とか、そういうセンスですよね。でも、現代の日本人はそれでは盛り上がれないし、そんなのを毎日聴いてハマるわけないじゃん。
──確かに、正月の「春の海」みたいなもので、ちょっと退屈に感じそうです。
マーティ 切ないけどちょっとうれしさもあったり、ハッピーなんだけどちょっと涙が出そうなメロディとかメリハリを、「荒城の月」みたいな音階じゃなくて、日本の音楽ファンも楽しめるものにすることを目指しました。だから寿司屋さんのBGMではないでしょ?
──違うと思います(笑)。
マーティ 僕はもう16年日本に住んでいて、周りの人たちもみんな日本人です。その人たちの好みも込めつつ、文化庁がOKしてくれるようなものを作りました。その責任感はハンパじゃなかったんですよ! 文化庁から「日本遺産のテーマ曲を作ってほしい」と言われることはものすごく光栄ですけど、同時に「これはすごい責任じゃん!」と思って。曲を提出して「これは違うな」と言われたらすごくショックだから、非常に苦労してベストを尽くしました。曲ができた時、文化庁の人たちがスタジオに来てくれたんですけど、彼らはレコード会社の社員とは見た目からして違いますよね(笑)。彼らを前にして僕は冷や汗をかいてたんですけど、「いいじゃないですか」と言ってもらえた時は、本当にうれしかった! 達成感が溢れましたね。
──曲を作るにあたっては、どんなものからインスピレーションを得たんですか?
マーティ 日本遺産のイベントに出させていただくこともあって、有名じゃないものでも素晴らしいところがたくさんあるんですよね。そういうものもたくさん見ましたし、何より僕は日本に来たことで、ミュージシャンとしてたくさん成長させてもらいました。だから、ここで出会った人々のことも考えて作りました。
──ところでこの曲って、特有のタイトルがついてないですよね。なぜでしょう?
マーティ それはいい質問ですね。何でだろう?(笑) 逆にファンの人たちにタイトルをつけてほしいです。
──分かりました(笑)。今回はジャケットがまた、前作にも増してすごいことになってますね。
マーティ 最高に好きです! いろんな人の協力があって、専門家たちのお祭りでした。こんなロック育ちのバタくさいアメリカ人を、最高の団結力で最高の魅せ方に仕上げてくれて、本当によかったですね。「1」「2」のジャケットも本当に好きだったので、今回はそれをどうやって超えるか、非常に迷ったんです。スタッフと何回も打ち合わせをして、あれを超えることができました。
──「1」が赤の隈取りで、「2」が青ですよね。で、今回の「3」が赤。ということは「4」は青に……。
マーティ あり得る! でも「4」はかなりハードルが高くなりますね。今は考えさせないでください(笑)。ただ、候補曲はもうありますよ。
──そうですか!
マーティ 「この曲はTOKYO JUKEBOXに入れたい」っていうのは、常に考えてますからね。まだ美空ひばりさんの曲もやってないし、まだまだたくさんあります。キリがないよ(笑)。
──それも楽しみですね。アルバムも出て、この先やりたいことは?
マーティ やっぱり一番やりたいのはライブですよね。このアルバムに入れた曲はみんなライブに向いてますから。また海外のライブで日本の曲をやるのは特別な気持ちがあります。それは僕にしか味わえてない気持ちですよ。日本のアーティストもどんどん海外でツアーをやってますけど、僕はまたちょっと違う角度ですから。面白い架け橋のような気持ちも味わえているから、早く日本でも海外でもライブがやりたいです。今、このアルバムの発売に合わせてストリーミング・ライブを調整しているので、楽しみにしていてください。
──楽しいライブになりそうですね。ありがとうございました!
『TOKYO JUKEBOX 3』
2020.10.21 ON SALE
AVCD-96526 ¥3,300(tax in)
【Marty Friedman Official WebSite】
http://www.martyfan.com/
ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。