コロナウイルス(COVID-19)感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令を受けて外出自粛、営業自粛が要請されるなか、オンライン映画館STAY HOME MINI-THEATER Powerd by “mu-mo Live Theater” が、2020年4月29日から5月1日の3日間プレオープン。シアター1では齊藤工監督『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』&コロナ禍にテレワークで制作をスタートした『TOKYO TELEWORK FILM』#1を併映、シアター2ではセルフプロデュース型の弾き語りトラックメイカーアイドル眉村ちあきの映画『眉村ちあきのすべて(仮)』をそれぞれリアルタイム上映。本編後にはスタッフ・キャストたちによるオンライン舞台挨拶もセットで楽しめるという新しい映画体験がスタートしました。
今回このオンライン映画館を立ち上げた株式会社スポッテッドプロダクションズ代表取締役 直井卓俊さん、エイベックス・エンタテインメント株式会社 レーベル事業本部 企画開発グループ 映像制作ユニット 細見将志さん、そして監督最新作のプレミア上映という形でプロジェクトに関わった齊藤工さんにお話を伺いました。
見ている方も巻き込んで、一緒に作っていく文化
──まず、STAY HOME MINI-THEATER Powerd by “mu-mo Live Theater(以下SHMT)の構想はいかにして生まれたのでしょうか?
直井 ミニシアターを取り巻くムーブメントは一気に起こった感じがしていましたが、配信の動きはどうしてもボランティア的なものが多くなりがちでした。無料でYouTubeに作品をアップしたり、慌てて“何かをしなくてはいけない”という印象のものが多くて。配給会社を経営する立場としては劇場が止まること=配給が止まることですし、製作も止まって新作も作れないという映画業界を揺るがす状況下におかれた今、“通常の映画興行の仕組みをそのままオンライン化”できれば業界の経済がまわるだろうと考えていました。それを実現する方法を模索していた矢先、細見さんからmu-mo Live Theaterについてお話を伺ったのです。
細見 SHMTは、わーすたの5周年記念ライブを生配信したmu-mo Liveという無観客ライブ・プラットフォームを映画用にカスタマイズしたものなのですが、コロナ禍の状況にあってエンターテインメントでできることが制限されていくなか、これまでの仕事で培ったノウハウや人脈を活用して、今だからできる新たな映画の形を提案できればいいな、と考えていました。
──興行を実現する“場”を探していた直井さんと、“場”の活用方法を検討していた細見さんの思いが合致したわけですね。他方、齊藤工さんは2月下旬からロングランしていた監督作『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』がコロナ禍で上映終了や延期になるという状況でした。今回は公開がかなわなかった地方上映の代替としての側面があると同時に、テレワークによる新作を制作されSHMTでプレミア上映となりました。
齊藤 予期せぬ状況に時代が転がったものの、エンターテインメントは形を変えながら何かができるのではないかと探っていたなかで、今回SHMTで上映と舞台挨拶を実現することができました。上映してみた感触としてはトライ&エラーを繰り返してできていくものだと実感していて、観ている方も巻き込んで一緒に作っていく文化だと思っています。このプレオープンでの上映の結果と反応をきちんとみて、今後どうするのか、直井さんやみなさんと相談してきたいですね。
直井 齊藤さんはこういう状況や新しいものに対してまったく抵抗なく、さらにそれを逆手にとって新しいことを推進できるという強みがありますよね。こういう状況で一発目に斎藤さんのこういった作品をやれるというのは大きいなと思っています。いきなり攻めすぎかもしれませんが(笑)
齊藤 今はこの深刻な状況をどうするかが最優先で、もっといえば人命や医療、インフラにまつわる方が僕たちの毎日を支えてくれています。そんななか映像業界はいかにフリーランスの方に支えられてきたかということに気づかされ、映画館に何ができるかということで現在一丸となっています。そういうなかで僕は作品をどう軽やかに生み出していけるだろうかと考えた時に、多くの映画人が家にいる時間とエネルギーを放出できるよう『TOKYO TELEWORK FILM』という“場”をつくってみたという段階にいます。作品に落とし込んで、オンライン上映だからこその柔軟性で発信していくことが課せられているのではないか、と。今、自分がやっていることに対して興味を持ってくださり、挙手してくれる方がたくさんいる状況なので、そういう方たちとしっかりとエンターテイメントを作っていきたいとおもっています。今オンラインで関わっている方たちと、起きていることをタイムリーに感じていくことが僕にとって大事な時期でもあります。
直井 柔軟にスピード感をもってやっていくことが重要ですね。スポッテッドプロダクションズの配給作品には、インディペンデントだからこそフットワーク軽くいろんなことがやれるという強みがあります。また“インディーズとメジャーのパイプになる”というスポッテッドの立ち位置からしても、エイベックスさんのご協力のもとミニシアターやインディペンデント映画の活路を見出していけるということはおもしろい試みではないかと思っているので。
細見 このプラットフォームのコンセプトは“ミニシアターにある独特の空気感をオンラインで表現すること”で、そのための工夫をたくさんいれています。そのひとつは、ミニシアターの楽しみ方のひとつである舞台挨拶に変わる、オンライン上のイベントを特典上映としてつけるようにしています。
直井 本編上映だけでなくあくまでもイベントをセットで配信することにこだわりがあります。突然「明日、行きます!」と連絡して翌日に舞台挨拶をさせてもらえたりするのがミニシアターの良さでもあって。これはシネコンではなかなか対応してもらえないことなのですけれど、そうやって上映後にトークをして作品について掘り下げるカルチャーなので、それをSHMTでもやっていきたいなと。今後はミニライブなどコンテンツも変えて、ごちゃごちゃしている感じを出していきたいですね(笑)。
細見 ミニシアター好きのお客様のニーズに答えられるように、立ち上げに至るまで直井さんと毎日WEB会議をして色々アイデアを出しあったのですが、打ち合わせのたびに企画がブラッシュアップされておもしろかったですね、今後の企画にもご期待いただきたいです。
“今がチャンス”と思えるような企画や作品が生まれてほしい!
──現在、有料/無料を含めてさまざまな形でオンライン上映企画や劇場サイトが立ち上げられていますが、mu-mo Live Theaterというプラットフォームを利用することのメリットは?
直井 まずセキュリティが安心なことと、映画を上映するという点では視聴できる映像のクオリティが高いことが大きいです。それからチケット販売もmu-moのシステムでできて、もし自分たちだけでやろうとすると非効率な部分は全て解消できる環境でした。さらにmu-mo Liveは1000人規模のユーザーが視聴する無観客ライブも成功しているという経験値もある。また、実はコロナ禍に背中を押された形になりましたが、僕はこれまでもオンライン映画館の立ち上げをゆくゆく実現したいと考えていました。ですからミニシアターが復活するにあたっては共存し、こちらも通常興行として映画を上映していく場として先を見据えています。コロナウイルスの影響は長期化する見通しですし、1、2ヶ月我慢すればいいということではありません。まずはこのSHMTを継続して、様々な上映形態を実現して流れをつくりたいです。
細見 僕もチャレンジしたいことがまだまだたくさんありますし、SHMTの第二弾の上映作品の交渉や企画も既に始めています。コロナ禍から生まれたプラットフォームですが、直井さんもおっしゃるように、コロナ終息後もリアルミニシアターと共存しながらそういう面白い作品を広くお客様に届けたいと思っています。mu-mo Live Theaterは生配信もできるシステムなので、リアルミニシアターと連動した企画などもやりたいですね。
直井 他のオンライン映画館でシネフィル志向だったり硬い方向のラインナップがあったりするので、こちらは、スポッテッドらしいもの--サブカルチャーというと死語かもしれませんが--をまずやって、だんだんそれに共鳴してくれる配給会社だったり自主製作をやっている方たちと組んでいきたいです。
──リアルタイム上映、つまり決まった時間に視聴する方法というのは、サブスクリプションの動画配信サービスとはどのような違いがあるのでしょうか?
細見 リアルタイム上映にこだわっているのは、ミニシアターの空気感を表現するための工夫のひとつです。僕自身がそうなのですが、ミニシアターに映画を観に行く日は、上映時間を調べて、その時間を軸に一日のスケジュールを組み立てているんです。つまりその日の中心が映画なのですよね。映画の上映を待つ時間も楽しみのひとつで、だからこそ映画をイベントとして楽しめるのかなぁと思っています。いつでもどこでも見ることができるサブスクは便利ですが、その高揚感は得られないかなぁ、と。また、サブスクには入っていないミニシアターファンに刺さる作品ラインナップも違いのひとつです。だから、お客様にも存分にミニシアターに行く気分を味わいながら楽しんでいただければと思います。
直井 時間が決まっているということは、リアルな劇場の場合は“不特定多数の人たちと同時に見ている”という状況が目に見えるということですよね。その点はもっと試行錯誤して、たとえばSNSでの実況などもそうですが、上映とあわせて同じ時間を共有している楽しみ方を提案していく方法もあるかなと思っています。
齊藤 時間の主導権がどこにあるかという問題があると感じていて。自分の自由な時間のなかでサブスクで映画を観るということとの比較で言うと、リアルタイムで上映することは時間のイニシアチブを発信者側に渡すことになっているわけですよね。SHMTは劇場として有料で上映していますので、その意味も考えて雰囲気づくりをどうしていくかトライしていきたいですね。というのは、ミニシアターは味わいのある映画館と言い換えられると思うのですが、そこに訪れた観客は運命共同体のように一緒に映画を体験している。そうやって空間・作品をシェアすることこそ映画を観る一番の喜びだと思っています。この思いは今の状況でより強くなりました。こういうオンライン上映をしていくにあたっては我々のような発信者と観客の側でそういう意識を持ちながら構築していかなくてはいけない。それは、裏を返すと「これでいいんだ」ではなく、一緒にバージョンアップしていかないと、なくなっていく文化のような危機感も感じています。
──オンライン映画館の立ち上げによって映画を取り巻く文化はどのように変わっていくでしょうか?
直井 SHMTはリアルな劇場に代わるもので今は仮設ではあるけれど、これが本当に必要な場所になるという気はしています。コロナ・ショックがなかったとしても地震や気候変動なども含めて何が起こるかわからない時代を生きていると実感していまして、そうすると映画館へ足を運ぶことのハードルも高くなっていきます。ですから映画館は最高の場所ではあるけれど、配信も活用していくというような、インディペンデントならではのフットワークの軽さでやっていきたいと思っています。それからオンライン映画館の特色として、今回齊藤さんがテレワークで撮影した『TOKYO TELEWORK FILM』をプレミア上映したように、短編でも新作を併映していくというような企画も進めていけると思っています。ただ現時点では新作を撮るにしてもステイホームの状態でやるしかないので、ZOOMでできる限界のなかでということにはなってきますがそれでもいろいろと応用はできそうですよね。
細見 オンラインだと全国どこからでも鑑賞することができるので作品に触れる機会がすごく増えると思います。そうなることで、制作サイドの意欲も高まり、作家性の強い作品やアイデアが詰まった作品が多くなったり、新作を出せるタームが早くなったりして、より一層映画業界が活性すると思います。今回の上映作品の中で齊藤工さんもおっしゃっていましたが、オンラインで映画を上映できる時代なのだから、活用しない手はないかなぁ、と。
齊藤 今ちょうど世界が同じ問題で交点を持っているのですよね。だから同じ考えを持つ人々が横の連携をとって、より良いものを生み出し、より“今がチャンス”と思えるような企画や作品が生まれていってほしいです。リモートならではの映像表現も生まれていて、個々のクリエイティビティの化学変化が旨味になっていますので2020年は本当にあたらしい映像が生まれる年になるとも思っています。それに対してあたらしい見方も生まれていく。映画産業の未来を提示する段階に入っていると思います。
STAY HOME MINI-THEATERプレオープン記念『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』舞台挨拶@YouTube LIVE!!!!!!!!!!(アーカイブ)
5.1(金) スケジュール
15:30 『眉村ちあきのすべて(仮)』+TALK【B】
眉村ちあき(出演・音楽・劇中歌)、松浦本(監督)、岩田和明(『映画秘宝』編集長)、石田涼(元町映画館STAFF)、溝口徹(横川シネマ支配人)
18:15 『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』『TOKYO TELEWORK FILM』+TALK❸
伊藤沙莉(女優)、大水洋介 (ラバーガール)酒井健太(アルコ&ピース)、齊藤工(企画・原案・脚本・撮影・写真・声・総監督)、MC:岩田和明(「映画秘宝」編集長)
21:00 『眉村ちあきのすべて(仮)』+TALK【C】
眉村ちあき、 辻凪子(女優)、上村奈帆(監督)、松浦本(監督)、上野遼平(プロデューサー)
23:00 『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』『TOKYO TELEWORK FILM』+TALK❷
飯塚貴士(監督)、岩切一空(監督)、齊藤工(企画・原案・脚本・撮影・写真・声・総監督)、岩田和明(『映画秘宝』編集長)
【オンライン映画館 STAY HOME MINI-THEATER powered by mu-mo Live Theater】
https://stayhome-minitheater.com
ライター
ユカワユウコ
映画、演劇、展覧会、コンサートまでカルチャー全般のPRや制作にフリーで携わる傍ら、取材記者として各種イベントに出没するハリネズミ愛好家。