昨年、「未来型花火エンターテインメント」としてスタートし、大きな話題を呼んだ「STAR ISLAND」。日本伝統の花火に、3Dサウンド、ライティング、パフォーマンスを融合させた全く新たな体験は、“感情を揺さぶる唯一のエンターテインメント”として、「花火イベント」の概念を大きく変えることになった。そんな「STAR ISLAND」が5月26日(土)、TOKYO ODAIBA STAR ISLAND(お台場海浜公園)に再び帰ってくる!
そもそも「STAR ISLAND」とは何なのか? そして今年は何が違うのか? 気になる部分を、総合プロデューサーの小橋賢児さん、エイベックス・エンタテインメント株式会社イベント事業グループ・ゼネラルマネージャーの坂本茂義さんのお二人に、存分に語ってもらった。
「STAR ISLAND」という理想郷につながる日
──「STAR ISLAND」の、そもそもの出発点、基本となったコンセプトを教えていただけますか?
小橋 簡単に言えば、「日本の伝統の花火と、テクノロジーと、ショーパフォーマンスが交わった、新しい未来型の花火エンターテインメント」ということになります。噛み砕いて言うと、まず最新のテクノロジーというのは3Dサウンドといって、砂浜に300台以上のスピーカーを置いて、完全なる立体音響を作り出します。鳥が自分の周りを舞って、飛んでいった先で花火が上がるとか、見えないものを見させることができる、想像力をかき立てるようなサウンド体験です。音楽と花火は完全シンクロして、新しい花火体験を作り出します。
また、花火とお客さんの間には空間があるので、その空間は総勢100人以上のパフォーマーによって埋められます。
炎や水を利用したファイヤーパフォーマンス、ウォーターパフォーマンス等と花火、3Dサウンド、ライティングがシンクロすることにより、今までにないエンターテインメントの体験が可能となります。
STAR ISLANDは、「花火の観方を変える」というテーマを持っているんです。
──花火の観方を変える、ですか。
小橋 何で花火の観方を変えるかっていうと、今の世の中には情報が溢れていて、ついつい新しいものに目が行って、元からあった景色がないがしろにされがちですよね。花火もその一つだと思うんです。でも、ちょっと観方を変えるだけで、花火ももっと美しく見えるんだよと。例えば、砂浜にベッドを置いて寝転びながら花火を見られる夢のような環境を作ったり、キッズエリアを作って子供と一緒に見られたりとか、今年はカップルで見られる「ペアシート」や、グループや家族で見られる「グループシート」というのを新設したりしています。でもこれは、表層的なテーマなんですよ。「裏テーマ」というか、僕がこれを作りたいと思った背景には、『アミ 小さな宇宙人』(エンリケ・バリオス著)という小説があるんです。
──というと?
小橋 ある日、アミという宇宙人が地球にやってきて、ある少年と出会うという話なんです。その宇宙人がいたのは僕らにとっては理想郷のような星で、そこでは全てが愛で動いていると。今の地球みたいにみんなが足を引っ張り合ったりすることなく、人々はみんな愛で動く高度な知的生命体なんですね。アミは少年を自分の星に連れていってくれて、「地球人はみんな足を引っ張り合ったりしてるけど、本当は愛で動けるんだよ」ということを少年に見せてくれるんです。一瞬の体験なんですけど、その少年は、「自分たちの地球ももっと変えていける」と思うようになると。それを読んで、日常の中に非日常を作り出して、一瞬でも非日常を体験してもらうことによって、自らの人生に落とし込むことができるようになるんじゃないかと思ったんです。だから、お台場で行われるこの日は「STAR ISLAND」というパラレルにつながって「想像すれば全てをクリエイトできる」という理想郷を味わわせてもらえる日、というのがコンセプトなんです。
坂本 七夕みたいなものだよね(笑)。
小橋 そうそう(笑)。まあこういう物事っていろんな理由があって動き出すものなんですけど、花火をイベントにしようと思ったのは、「ULTRA JAPAN」で2年目から花火を上げさせてもらったのがきっかけで。そこで出会ったのが、東京湾や隅田川の花火大会に関わっていて、150年の歴史を持つ丸玉屋小勝煙火店さんです。彼らから見ると10万人以上の若者が花火を楽しんでいる姿を見るのは新鮮だったし、僕は僕で伝統のある花火師さんと仕事をさせていただくのは初めてだったので、そこでお互い「新しい可能性があるかもね」と共鳴したんですね。そんな中、無料の花火大会が次々に中止になっているというニュースがあって。
「伝統って、“守らなきゃいけない”ものなのか?」という疑問
──確かに、最近多いですね。
小橋 花火師さんに理由を聞いたら、「時代が変わって企業のスポンサードがつきにくくなったり、規模が大きくなると警備費用がかさんで、続けていくには有料イベントにするしかなくなってるんだよね」と仰っていて。でも、お客さんにしてみたら、今まで無料だったものが、中身は変わらないのにいきなり有料になったら、イヤだろうなと。そういうちょっとした違和感から、もし僕がやるんだったら、有料にするならアップデートしていかなきゃいけないと思いました。それと、みんな「伝統を守る」っていうけど、待てよ、伝統ってただ「守る」だけのものなのか?という疑問があって。だって、伝統ってそれができる前は、ものすごい熱量を持ってクリエーションしてイノベーションした人がいるはずじゃないですか。当時、それを見た人たちが、毛穴が開くような感動を体験したからこそ、「これを守りたい」と思ったはずなんですよね。でも現代、これだけ情報過多の中で、ただ「伝統を守る」なんて言ってたら、若い人たちにすれば何だか分からなくて、ただ「古い」だけのものになってしまう。
坂本 それは「押しつけ」でしかないよね。
小橋 そう。だから本質的な部分で僕らがそれを「守る」には、当時の人たちのように全身の毛穴が開くような体験であったり、作る側も同じだけの熱量を持ってクリエイトしていかなきゃいけない。そのために、様々な才能だったり、時代時代のテクノロジーを融合しないといけないと。そんな中、avexの坂本さんと「ULTRA JAPAN」をやっていく中で、並行して「そうだよねー!」なんて話をしてたんです。坂本さんは新しいこととか、「こういう体験をさせたいよね」っていうことに対してすごく熱くて、リスキーなことにすごく乗っかってくれるんです(笑)。「いいね、それやろうぜ!」みたいな感じで。乗っかってくれる人がいないと、こういうのって始まらないじゃないですか。坂本さんが熱くなってくれなかったら、これは全てなかったですね。
坂本 この情報過多の時代に、クリエイターって世の中に溢れてるんですけど、しっかり自分のアイデンティティを持って語れる人って、実はすごく少ないと思ってるんですよ。立場上、いろんな人とお会いする機会があるんですけど、本質をしっかり突き詰めて話す人も少ないんですね。小橋さんはそこをすごく持ってて、「ULTRA JAPAN」でも、あるインタビューでは自分のことを「クレーマー・ディレクター」って言ったりしてて(笑)。
小橋 「クリエイティブ・ディレクター」じゃなくて、「クレーマー・ディレクター」だと。でも、けっこう本気で組織図に「クレーマー・ディレクター」って書かれてたこともあるぐらいで(笑)。
坂本 僕は「ULTRA JAPAN」のときに、ちょっと離れた立場から関わってたんですけど、対岸から見てて「クレームじゃないよな」って思ってて。「別に間違ったことは何一つ言ってないじゃん」っていうのが、僕の中ではあったんですよ。物事を進めていくと、どうしても小さいところでやるようになりがちなんですけど、プロジェクトの目標とか到達点ってあるわけじゃないですか。北極星みたいなものなんですけど。彼はそこを見て言ってるだけで、見過ごしてるものを指摘してるだけなんですよね。その彼から花火のことをガーッと言われた時に、「ああ、やっぱ本物じゃん」と(笑)。僕達みたいな人間が乗ってくれば、彼はもっと力強くスピークアウトできるし、いろんなところから仲間を集めてくる力もあるし、そうなるともっと大きくなっていくわけじゃないですか。そのイメージができたかなと。
小橋 たぶん僕はお客さん目線なんだと思うんですよ。想像できることはいくらでもあるのに、現実になるとあれもできない、これもできない。そういうことっていっぱいあるじゃないですか。10代から20代前半には自分でやれることにフタをしてしまっていたところがあって、俳優を休業して世界に出たら、可能性が無限にあるなと気がついて。でも日本に帰ってきたら、できないことがたくさんある。「なぜ?」って言いたくなることがたくさんあるんです。それを少しでも解決しようよって言ってたら、周りからはクレームに聞こえるっていう(笑)。それが僕の中では、「ホントはできるんじゃない?」っていう疑問が常にあるんですよ。
実現できたのは、コンセプトの100分の1!?
──いろんなコンセプトを持ってスタートされたわけですが、実際にイベントという形にしてみて、そのコンセプトはどれぐらい具現化できましたか?
小橋 100分の1かな?(笑) まあそれは大げさかもしれないけど、ものすごく大きな絵を描いて始めましたからね。
坂本 いや、100分の1でいいんじゃない?(笑)
小橋 そうかな(笑)。この地上に落ちたら、100分の1でもすごいかもしれない。地上をはるかに越えた話をしてましたから。「(手のひらを高く掲げて)将来的にはここまでできるんですよ」ってところを話して、「(その手をテーブルすれすれにまで下ろして)でも今はここですけど」(笑)。
坂本 想像の領域だとそうだったよね。可能性は無限大にある中で、現実にできることの第一歩があのお台場だったんだな、みたいなイメージかもしれないですね。
小橋 お台場にしたかった理由もあるんですよ。以前の僕は日本があまり好きではなかったんですけど、海外に出て海の向こうから日本を見たら、実はいいところがいっぱいあって。お台場の景色もすごいんだけど、「昔から知ってるよね」って感じで忘れ去られてて。海外から飛行機で帰ってくると、空から見えるお台場の景色って、未来都市みたいですごいカッコいいんですよ。観方を変えることで、「お台場ってやっぱりスゴイ!」みたいにしたかったんですよね。
──なるほど。
小橋 3Dサウンドにしても、日本のトップの音響会社と話をしても「そんな規模でやったことないし、できるわけない」みたいな感じで、けっこう門前払いを食らったんですよ。予算もものすごくかかるし、一度は「もう諦めよう」って言ったんです。最初のコンセプトで肝となる部分だったものを、ナシでやろうと。
坂本 あったねえ!(笑)
小橋 もうリリースも出さなきゃいけない直前って時期で、諦めかけてたら、坂本さんが……
坂本 「いや、全部でしょ! 全部やらなきゃダメでしょ!」と(笑)。僕は実は音響マニアなんですけど、海外のアーティストのサウンドはけっこう作り込まれてるのに、国内の一部のライブは音がすごく物足りなくて。でも、katsuyuki seto君のスタジオに行って彼の作る3Dサウンドを聴かせてもらった時に、さっき小橋さんが言った「見えないものを見させる」空間がバーッと広がってたんですよ。これは本当に広めなきゃ、世の中に発信しないとダメだと思って。それも僕の一つのミッションだと思うんですよ。
──ミッション?
坂本 何かを受け入れて新しいものを創造する人たちが、もっと広がっていけばいいのにというイメージがあるんです。それができるようにするのが、僕の社会的大義なんじゃないかと。僕がavexに入った意義の一つに、3Dサウンドをもっともっと広めることがあるんだなと思って。
「感動体験をしてもらう」という大義そのものに直結するイベント
──しかし坂本さんの立場としては、全体的な予算なども含めて、リスクを管理しなければならないという面もあるのでは……?
坂本 それももちろんあるんですけど、さっき言った通り今はまだ100分の1で、まだやってないことが99あるんですよ。だから、最初に「風呂敷広げよう」って話はしました。当時は、広げたといっても100のうちの3とか5とかだったかもしれないんですけど、ただ、この先に10がある、100があるっていうことは、ビジョンとして明確に掲げようと。僕らavexの大義って、お客さんにいかに感動体験をしてもらうかってところにあると思うんですよ。そう考えると、「STAR ISLAND」はそこに直結してるというか、開催そのものが大義というか。そこで僕の役割は、会社を説得することだったりするのかなと。
小橋 いいのかな(笑)。
坂本 もちろん、チケットが売れるかどうか心配で寝られないとか、いろいろあるんですよ。でもその大義に立ち返っていろんな新しいことを実現させるのは、僕がやらなきゃいけないことであり、avexというブランドのリソースを最大限に使ってそれを現実にする作業が「サラリーマンの究極形」だと思うんですよね。そこは、僕のもう一つのテーマでもあります。
小橋 お金を出してもらってる立場だから偉そうに言えないんですけど(笑)、「ULTRA JAPAN」も「STAR ISLAND」も、やればやるほど、avexさんと一緒じゃなきゃ絶対になし得なかったなと思うんですよ。お金の面とか行政との折衝ももちろんなんですけど、お金儲けだけを考えてやるんだったら、こんないいクリエーションできないですから。大企業で、今、そういうことができているところはあんまりないし、特に「人」の部分で、坂本さんみたいな人に会うこともそうそうないですから。
坂本 僕は、優秀なクリエーターがアイデアを出してくれると、その先のビジョンがバッと広がって見えてくるんですよね。それが面白くて。そこに入り込みすぎると「あ、やべえやべえ」ってなるんですけど(笑)。
小橋 何か溢れてるときあるよね(笑)。「あーっ、気づいちゃった!」とかって。僕ら何も言ってないのに「あー、なるほどぉ!」って飛んじゃってるときがあって(笑)。
──そうやって実現した第1回ですが、お客さんの反応をどう感じましたか?
小橋 一部の人からは、「フェス好きの人のための進みすぎたイベント」みたいに見られてたんですけど、実際は音楽のジャンルも幅広く網羅してるし、そんなことはなくて。ただ、どんな人たちが来るのかは分からなくて心配してたんですけど、当日は家族連れとかもたくさん来てくれて。しかも、すごくストーリーのある音を作ってたんですけど、楽しい場面では子供も大人も飛び跳ねて踊ってくれてたし、感動する場面では泣いてたりとか、映画や舞台を見るように見ていただいて。報道の方も来てくださっていて、ある親子連れにインタビューしたら「子供にとってはこれが初めての花火で、この子にとってはこれからこれが花火の基準になっていくんでしょうね」って話していたんです。親が、自分たちの見てきたのと同じものじゃなくて、新しい価値観を子供に与えられる場になったんだなということがすごくうれしかったですね。
──逆に第1回の反省点、今年に向けて感じた改善点は?
坂本 反省……というよりは、「こうあったらいいな」って感じかな?
小橋 もちろん、細かいところではめちゃくちゃいっぱいあるんですよ。「クッションが固かった」とか(笑)。そういうのも含めて今年考えるところはいっぱいあって。テーマも、去年は「四季」だったんですけど、今年は「One」という言葉の元に「地球の誕生から人類の行く末」というものになっています。その中にも去年からつながる裏テーマ、裏のストーリーみたいなものが込められてるんですけどね。今年はパフォーマーの数も増えますし、ステージも増設します。
坂本 LEDのリストバンドもね。
小橋 お客さんに配るLED内蔵のリストバンドがシンクロして光るっていうのを去年もやったんですけど、今年は分割して細かくできたりとか。あと、前にも言ったようにペアシートやグループシートも新設しますし、キッズエリアも拡大しますし。
坂本 花火の数も去年の10000発から12000発に増えますし、スピーカーも260台から300台以上になります。「いいじゃん、やっちゃおうぜ」って(笑)。ただ僕は「バージョンアップ」って言葉にはそこまで興味がなくて、「●●の数が増えました!」というよりは、「よりいいものになりました」というか。
小橋 「今年は何がアップデートしてるか」を問われがちなんですけど、「アップデート」がメインになるときりがないというか、欲望は無限になっちゃうじゃないですか。もちろんアップデートもしてるんですけど、僕らは「変化」してるんですよ。今回もいろんな新しいものを作って用意しています。だから、今年初めて来られる方はもちろん、去年も来てくださった方も、また新しい体験をしていただけると思います。
未来型花火エンターテインメント「STAR ISLAND 2018」
2018年5月26日(土)※予備日27日(日)
TOKYO ODAIBA STAR ISLAND(お台場海浜公園:東京都港区台場一丁目)
開場/16:00※当日の演出によって時間が変動する場合があります。
【OFFICIAL SITE】http://star-island.jp/
【instagram】@STARISLAND_jp
【facebook】https://www.facebook.com/starislandjp/
【twitter】@STARISLAND_jp#STARISLAND#STARISLAND2018
ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。