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大塚紗英

シンガーソングライターとしてのシンプルな私【大塚紗英『スター街道』インタビュー】

2021.07.14
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音楽
インタビュー
昨年の『アバンタイトル』に続き、セカンドミニアルバム『スター街道』をリリースした大塚紗英さん。人気タイトル「バンドリ!」の声優でもありそこから誕生したバンド「Poppin’ Party」のメンバーとしても活動する大塚さんですが、今作は「本当の自分」をさらけ出して、なおかつできる限りキャッチーに作った作品だと言います。各曲、そしてミニアルバムを通して全体に込められた思いとは? 2度目の登場となる大塚さんに、今回もガッチリ伺いました!



めちゃくちゃピカピカ光る音楽で「人を笑顔にしたい」

──まず、『スター街道』というタイトルについてお聞きしたいと思います。この意図は?
 
大塚 素直にお話しすると、アルバムのタイトルを決めてなかったんですよ、ずっと曲先行で制作していて、出来上がってから告知のタイミングで「タイトルを決めなきゃなあ」ということで決めた感じなんですけど(笑)。今回のアルバムに関しては、自分の中のテーマが「人に楽しんでもらう」というか、「聴いた人を笑顔にしたい」という、ある種のコメディアン精神で曲を作っていたところがありまして。なぜ、そういう「面白いもの」にしたかったかというと、私の中の「自分が音楽をやっていく上での“答え”」みたいなものがそこにあるのかなという風に考えたんですよね。
 
──答え、ですか。
 
大塚 前作の時は、自分ができることとか、自分がどういう人間かという自己紹介の1枚として制作してたんですね。でも、今作に関しては、まず「売れたい」。売れるためには、やっぱり人が聴きやすい曲じゃないといけない。というところで、メロディーとかは「ザ・J-POP」で、キャッチーで、私の好きなのがバンドサウンドだったりするから、そういうところでの曲作りを心がけて、あとはさっき言った「人を笑顔にしたい」という気持ち。その2つの答えって何だろう?と考えた時に、「スターになりたい」って言葉がすごくしっくり来たんですよね。で、前作が『アバンタイトル』だったので、「エピソード・オブ・スター」みたいな感じの案を出したんですけど、スタッフさんが微妙な反応をしてたから、これはちょっと違うんだろうなと(笑)。

──路線が違う感じだったんですね。
 
大塚 それで「スター」にまつわる言葉を探してた時に、何となく『スター街道』っていう言葉が浮かんで。カタカナに漢字をつけるっていうタイトルのつけ方が、わりと自分の手法だったりするので、気に入ったんですよ。そしたら現場的にもいい反応だったので、これでいこうかと。「スターになるんや!」という気持ちですかね。まあ、後からすごく後悔というか……こんなイキったタイトルつけて大丈夫かな、恥ずかしいなという気持ちもちょっとあったんですけど(笑)。
 
──発売前に迷いが(笑)。でもタイトルは看板ですから。
 
大塚 ですよね。これでスターになれたらカッコいいかなと思うので、頑張ろうと思います。
 
──スター街道をバク進したい?
 
大塚 (かぶせて)したい!(笑) 今回の作品で結果を出したいという思いがメチャクチャ強くてですね、やっぱり2作目が本当の勝負というか。「人にどう思われたいか」っていうこともあるし、世の中が今何を求めているかっていうこともすごく考えて。今、世の中はあまり明るくない時代が続いてるじゃないですか。最初は、その中で共感してもらえるような、世の中に寄り添うような曲を考えてたんです。ただ、その世の中を生きてる一個人の私が、「すごく楽しい音楽を聴きたいな」という気持ちが強くて。世の中が暗くて、ヒットチャートも暗かったら、一体何に光を求めて生きていったらいいんだろう?みたいな。だからシンプルに、めちゃくちゃピカピカ光る音楽を作ってやろうと思ったんです。
 
──確かにアルバム全体を通して、バンドサウンドで覆われている上にキラキラした音作りもされていると思います。ただ、随所に陰りも感じられるとも思うんです。明るいだけじゃないというか。
 
大塚 そうですね。根幹にある大きなテーマの一つに、「言葉にできないことを代弁する」というものがあります。自分自身が本当にそうだからなんですけど……こんなに素直に何でもしゃべってそうな私ですら、人に言えないこととか、我慢して言えないこととか、多いんですね。たぶん、皆さんそうだと思うんです。会社に勤めていて、「これ、自分のせいじゃないのに!」ってことでも謝らなきゃいけないとか。そういうことって、世の中に普通にたくさんあるじゃないですか。そういうことを、曲を聴いて「ああ、そうそう! そういう気持ち!」って消化したかったみたいな。そういうことがすごくテーマになってるから、全体に陰りがあるんだと思います。
 
──なるほど。
 
大塚 あと、これは「田中さん」という曲が一番そうかもしれないんですけど、「劣等感」について、うまく書きたかったんですよね。それほど自信満々の人間って、実はそんなにいないというか、根拠なく自信が持てたら素晴らしいですけど、それはやっぱり成長にはつながらないじゃないですか。成長していく過程で、みんなだんだん自分のダメなところに気づいていくものだと思うので。で、思春期真っ盛りな世界観の中で、「自分だけがおかしいんじゃないか」とか、「自分がマイノリティなんじゃないか」って、意外とみんなが感じてることなんじゃないかと思ってて。だから、「マイノリティであることは、別に悪いことではないのだよ」ということをうまく表現したくて。それが「田中さん」だったり、「キミをペットにして飼いたい」という曲もそういう、端から見たらちょっとマトモじゃない、猟奇的な恋愛感情みたいなものを第三者が見た時に「面白れぇ~!」みたいな(笑)。だから別に、その当事者同士は大変だったとしても、第三者から見た時にはものすごく面白い、エンタメの提供だったりするっていう。
 
──「ネタになる」という感じですね。
 
大塚 そうです。物事って全部、多面的な要素でできているものだから、誰かから見たらすごく悪いことでも、他の誰かから見たらメチャクチャいいことだったり、オモロいことだったりするから、そんなに「『絶対的に悪いこと』というのはないんだよ」ということを伝えたかったというのはあります。でも、あんまり説教臭い曲を今回はやりたくなかったので、笑いの方にシフトしたっていう感じですかね。
 


収録された6曲のために、3ヵ月で100曲を書いた!?



──各曲のタイトルからして「ん?」と思わせるようなものが並んでいますが、アルバム全体を通して、歌詞に込められている感情自体は、前作よりもストレートになっていませんか?
 
大塚 そう感じましたか? だとしたら、私という人間が以前よりストレートになったのかもしれないです(笑)。そこをあんまり意識したわけではないですけどね。『アバンタイトル』は“インディー・メジャー”的な感じで、昔書いてた曲をブラッシュアップしたりもしたので、元の曲は何年か前からあったというものも多いんですよ。たぶん、いわゆる「劣等感」とか「コンプレックス」、「不安」とかっていうネガティブな感情というのが、その頃と比べて、ものすごく減りました。
 
──そうなんですか。
 
大塚 この1年、皆さん大変だったと思うんですけど、私も大変なことは少しはあって(笑)。思うようにいかない時こそ、すごく考えさせられたりするじゃないですか。考える時間がすごくたくさんあったので、その中で一個一個、整頓できたという気がします。例えば、今この会社を辞めるのか、続けていくのか、それとも他の部署に移るのか。そういうことを、たぶん皆さんも一人一人が考えてジャッジして、今の場所にいると思うんですよ。選択したり整頓したりが私の中にもたくさんあったので、その中で一個一個、そういうネガティブな感情とおさらばしてきたというか。以前は「みんなもそういう風に思ってるよね? だから同じことを言うよ」みたいなところが確かにあったんですよ。
 
──それこそ寄り添う的なところが。
 
大塚 はい、等身大的であることが、その年齢感としてはよかったんですけど、今私が考えていることはあんまりそういう感じではなくて。人の前に立つとか、人に対して何かを発信するということに、必ず何か意味を持たせたいということを、より強く考えるようになったというか。だから今回の作品は、私の思う哲学みたいなものが、よりシンプルに反映されてるのかもしれないです。そういう意味で、「同じ人間です」「仲良く手を取り合って」みたいな曲ではなくなっちゃったのかも。
 
──昨年のインタビューでは、「ネガティブな感情が溜まっている時の方が曲が作れる」というお話がありました。今回は、そういう形とは違うということですね。
 
大塚 アプローチは全然違いますね。制作期間がザックリ3ヵ月ぐらいあったんですけど、その中の2ヵ月間ぐらいで60~70曲、残りの1ヵ月ぐらいで30曲を書いた感じで、だからおおむね100曲を作るぞ!と決めて、ワーッと書いて……
 
──ちょっと待ってください、100曲ですか? 10曲ではなくて?
 
大塚 100曲です(笑)。その中から選び出すために、まず100曲作ろうと。終わった今だから言えるんですけど、舞台の稽古から本番の期間で、しかも初めての舞台だったから、メチャクチャ大変でした(笑)。だから、あまり感情的に書くということはしなかったですね。何をやるかというのをキッチリ決めて。何というか……プレゼンに近かったですね。「いい作品を作ろう」という感じで。そういう時って、いい感情とか悪い感情とかに、あまり左右されないじゃないですか。頭で考えるから。だから今回は、頭で考えた曲がいっぱい入ってます。
 
──「作品を作ろう」と思って作ったという感じですか。
 
大塚 基本はそうですね。反対に感情的に書いたものもあって、「疲れました、こんな会社」とかはそうですね。あれは『アバンタイトル』の時と同じやり方で書いてます。自分の感情を世のフォーマットに当てはめる感じで。あとは「檸檬サワー」もけっこう好き勝手に書きましたね。「檸檬サワー」はJ-POPっぽい収まりのいい曲で、すごく頭で考えたっぽいんですけど、実はけっこう好き勝手に書いてますね。歌詞も、普段私の頭の中は「仕事仕事!」って感じで、恋愛に関しては、コロナ禍で時間があったので、ピュアな少女漫画とかもたくさん読んだんですよね。それで素敵な気持ちになって、ポンポン書けたみたいな(笑)。
 

「僕がキスしたらスタンガン」に込められた“裏テーマ”とは……



──ではいくつか曲の話も出たところで、改めて収録曲それぞれについて、歌詞に込めた思い、サウンドで試したことなどを含めてお話しいただければと思います。まずは1曲目、「僕がキスしたらスタンガン」。
 
大塚 これは難しかったですね。とにかく100曲、雑でもとにかく数を書こうという中で、このタイトルを私のチームの方が気に入ってくださって、タイトルだけ先に決まったんです。私的にはワンアイデアだったので、採用されたのがすごく意外だったんですよ。だから「これはちょっと、ちゃんと作っていこう」となった時に、10回ぐらい書き直して、曲の世界観もメロディーも歌詞も何もかも、骨組みから作り直して今の形になりました。
 
──タイトル先行だっただけに苦労が大きかったんですね。
 
大塚 最初は、もうちょっと分かりやすい感じで書いていたんですよ。もっと直接的というか。でも自分のイメージとかも考えた時に、あまりに生々しかったら美しくないなと思って、「ホントに分かる人にだけ分かればいいや」っていう書き方をあえてした感じです。だからキレイな言葉でまとめてるんですけど、あの曲は「愛」について書いてるんですね。基本的には恋愛もののフォーマットで書いていて、もちろん恋愛がテーマなんですけど、私の裏テーマとしては弟の存在が大きくて。
 
──弟さんですか。
 
大塚 深い家族愛みたいなものを、今の若々しいイメージの中で残しておこうというのが一つあって。2番の歌詞なんかは、実は弟に向けて書いてるところがありますね。だから等身大の自分の考え方が、この曲には一番反映されてるんです。自分にはずっと「逃げんな」「頑張れ」って言葉をかけてきたけど、それを人には言いたくないというか。つらい時には逃げたっていいよと思うし、それは人に与えられた選択権じゃないですか。(涙で言葉に詰まる)ごめんなさい……話してたら胸がいっぱいになっちゃって。
 
──いえいえ、落ち着いたらで大丈夫です。
 
大塚 (ほんの少しだけ時間を取って)どういう選択を取るにしても、それはその人の価値観で、自分の感情ではないし。ただ、その人が自分の意見とは合わないことをしたとしても、それでもあなたのことが好きっていう、そういうことを言いたかったんですよね。で、このメロディーをメチャクチャ考えたんですけど、自分が好きだと思うものを丁寧に丁寧に詰めていったので、自分の言いたいことも丁寧に削ってシンプルにしていったというか。なので、すごく気に入ってます。ミックスとかアレンジとかは自分としてもすごく挑戦があって、各セクションのプロの方にお任せはしてるんですけど、その中で判断するというところですごく苦戦はしました。だから今後の課題とかも、この曲には一番あるなっていう感じもあります。ちょっと悔しい部分もあったりします。
 
──いろんなものを詰め込めて満足、というだけではなくて?
 
大塚 自分の手が及ばないというか、アレンジについても、それぞれの楽器についても、ミックスとかマスタリングとか一個一個の過程の中で、「もっとこうできたかな」と思うところも正直あるし、それはやりたかったことをやれたからこそ、新しい課題が見えてきたというところがあるんですけど。あとさっきも少し話しましたけど、「自分のガワってこうだから、こうあるべきだよね」っていうフォーマットの中でやったことで、それに関しての判断が間違ってたとは全く思わないんですけど、もっと自分自身が成長していったり、世の中が変わっていく中で、同じことについて同じように曲を書いても、全然違う答えが出てくる気がするんですね。だから、また挑戦したいなというテーマです。今25歳なので、25の私の思う愛はここにあるよ、というのが形になった1曲目でした。
 
──この曲、サビのところがすごく高い音になってますよね。昨年のインタビューでも「自分で作っといて、『何でこんな高くしちゃったんだろう』と思う」とおっしゃっていたんですが、もしかして今回もそれかなと思って。
 
大塚 あ、そうです!(笑) プリプロの時にキーを下げようかすごく悩んで、結局そのままにしました。基本、作り込んでいるので、キーチェックとかしてないんですけど、あれだけはすごく悩みましたね。そのキーに対する色とか意味って、自分の中ですっごく決めちゃってるので、いじりようがなかったんですよね。あの曲のコード進行にも自分の中ではすっごく意味があったので、歌うしかないなと思いました。悔しいですね、自分が歌いやすい曲を作りたいです(笑)。
 

「オタクフレンズ」を自分でコーディネート! 楽しかった「田中さん」MV撮影



──次は2曲目、「37兆2000億個の細胞全てが叫んでる」です。人間の細胞って、全部で37兆2000億個あるんですね(笑)。
 
大塚 そうなんですよ(笑)。自分の感情表現をすることを、私は「体中が~」って言いがちだなと思って。その言葉を何か言い換えたくて探してたら、「37兆もあるのか!」って(笑)。これもタイトルから決めたんですけど、こっちはタイトルに答えが書いてあるので、答えから根拠を作っていくみたいな(笑)難しさがありました。
 
──タイトルから先に決めて作っていった曲が多かったんですか?
 
大塚 今作に関しては、多かったですね。実は私、この曲は『スター街道』に入るとは全く思ってなかったんですよ。かなりギリギリまで。別の曲でアレンジの発注をしようと思って準備をしていたら、「これにしましょう」みたいになって、「え!? そうなんですか?」って。でも実は、この曲はいつか音源化したいと思って、自分で勝手に何回も作り変えたりはしてたんですよ。それがたまたま採用されて、今の形になったんですけど。でも、この曲と「僕がキスしたらスタンガン」と「田中さん」「疲れました、こんな会社」は、どれもリード曲になる可能性があると思って書いてたのも確かですね。
 
──結果的にリード曲は「田中さん」になっていますが、確かにどれがなってもいい感じはありますね。
 
大塚 この曲も、わりと人生観とかについての歌なんですが、ベクトルとしては「夢」と「愛」だったら、「夢」の方向で書いてます。これは頑張ってる人に聴いてほしくて。今回はあえてそういうことはしてなかったんですけど、この曲だけは対象を絞って、「頑張ってる人が聴け!」みたいな(笑)。だからサウンドもちょっとヘビーなのも、そういう意図があるからなんです。
 
──次がその、リード曲にもなっている「田中さん」です。
 
大塚 「田中さん」は……どうやって作ったっけなあ?(笑) とにかく覚えているのは、「全国苗字ランキング」をネットで調べて、一番、言ってて楽しい苗字を探したんですよ。「鈴木さん」「佐藤さん」「高橋さん」「田中さん」とある中で、「田中」は全部ア行なんですよ。ひらがなだと3文字というのもすごくよくて、4文字の苗字よりもリズムが作りやすいんですよ。さらに「た」にも「か」にも破裂音が入っていて、「音としてメチャクチャいい苗字じゃん!」と思って決めました。
 
──苗字予選を勝ち抜いたわけですね(笑)。
 
大塚 あと、カラオケでメッチャ歌ってもらえる曲がほしかったんですよ。前作の反省点として、収録曲が難しすぎて、カラオケで歌えないというのがあったので。歌ってみたら難しくて誰も歌えないんだけど、「すごく難しい」ということは歌ってみるまで誰にも分からない、みたいな(笑)。歌える/歌えないというよりも、「歌いたくなる曲」を作りたくて。
 
──歌詞の内容も面白いですよね。
 
大塚 最終的には学園ラブコメに落ち着いたんですけど、最初はOLを主人公にしてたんです。OLさんが、田中さんっていう営業部のエースに人知れず恋をしていて、ストーカーをしちゃうっていう話だったんですけど、少し年齢を落とすことでファンタジー的な要素を入れました。内容的には、ストーカーはよくないんですけど(笑)、恋をしたら誰でもそうなるよね、っていう。「あなたがおかしいというわけではないのよ」ということや「好きなことをメチャクチャ好きで、何が悪いねん」っていうことを、怒りっぽくない口調で言いたかったというか。そういうテーマがあるから、「ただのバラエティ的な曲には聞こえない」って言ってもらえるのかなと思います。あとこの曲は、MVがメッチャ楽しかったです(笑)。
 
──確かに楽しそうでした(笑)。
 
大塚 わりと自分の中では、MVのイメージがそこそこできてたんですけど、やっぱり人には伝わらないじゃないですか。
 
──出来上がったものを見てからお聞きしていますが、あれをイチからとなると確かに大変かもしれません(笑)。
 
大塚 そんな当たり前のことを、私自身がどこかでちゃんと理解してなくて、MVの打ち合わせの時に、「学園」という要素だけは共通項としてあったんですけど、最初はそれ以外があんまりまとまらなかったんですね。よく考えたらそれは当たり前なんですけど「あ、自分の頭の中だけで考えてることって、伝わらないわ。言ってないもんな!」みたいな(笑)。と同時に、「それを伝えることが映像であって、伝えなければいけないんだ」ということにも気づいて。そんな当たり前のことに今さら気づいたので、「自分で言わなきゃ」と思って「オタクフレンズ」と呼んでいる主人公の友人の女の子たちは自分でデザインさせてもらいました。あれはすごく気に入ってます(笑)。
 
──そんな感じはしました(笑)。
 
大塚 オタクであることも悪いことじゃなくて、好きなものを好きなだけじゃないですか。何かそういうことも、うまく言いたかったんですよね。ハッピーなイメージにしたかったというのもありますね。「好きなことを好きなことは素晴らしいことだ」というのが、あの曲の裏テーマとしてあるんですよね。
 
──4曲目は「檸檬サワー」ですね。先ほどの話でも少し出ましたが、バラードですね。
 
大塚 ミドルバラードですね。歌詞の頭に出てくる「0:26」っていうのは、小田急線のどこかの駅の終電の時間なんですよね。どこだったかは忘れましたけど。そこから思いついたみたいな歌詞で、終電間際に高架下の道を歩いていて、そこにお店を出た二人がいて「酔っちゃった~」みたいなのがいいなあ、って。そういう、ただただハッピーな曲を自分が聴きたかったんですよね。曲からでもいいからキュンキュンしたいなと思って。この前、すごく仲のいい幼馴染みの友達が結婚したんですよ。彼女は今でも旦那さんとすごく仲がいいんですけど、付き合いたてから知ってるから、時間が経つとともに2人の関係性がどんどん変わっていくのも見ていて。彼らは2人ともすごく努力をして、いい家庭を築こうとしている結果が今の形なんですけど、ただ、付き合いたてだった時期には、その時期にしかなかった素晴らしさがあったんですよね。そういう一つ一つをラベリングして、忘れないように取っておきたいというのを、彼女を見ていて思ったというのがすごくあって、作ったのがこの曲です。
 
──その時その時だけの幸せをパッケージすると。
 
大塚 はい。この1年、思ってたことなのかもしれないんですけど……イヤなことでも、過ぎていくと鮮度が失われるから、「アイツ、すごくキライ! ……でも、根拠は何だったっけ?」みたいなことになるじゃないですか(笑)。そういうのの一個一個を、常に鮮明に覚えていたいというのはいつも思ってるんですけど、特にそういう、「この時にしかない尊さ」みたいなものって、一個一個あるじゃないですか。これはそのうちの、「恋愛」という一個なんですけど、たぶん私が書いた『檸檬サワー』の中の恋愛観って、20代のものなんですよね。それを、20代のうちに残さなかったらイヤだなと思っちゃって、書いた曲です。


「疲れました、こんな会社」はサラリーマンに弾き語りしてほしい!



──5曲目が、「キミをペットにして飼いたい」ですね。
 
大塚 これはライブでずっとやってきた曲ですね。3年以上前に作った曲だと思うんですけど、それを音源化するにあたって直した感じで。なので、ライブでお客さんが「ペット、ペット~」って言ってくれたらオモロいってとこから始まったんですけど(笑)。
 
──分かります(笑)。
 
大塚 だからこの曲、前まではそんなに中身がなかったんですよ(笑)。それで中身を作ろうってなって、女の子が彼氏の浮気を疑っていて、彼が「アオキカズヒト」でLINEに登録しているのが本当は「ルミ」っていう浮気相手の女の子のことだって知っている、でも彼女は知っていながら彼を泳がせている、っていうストーリーなんですけど、これ、友達の実話なんですよ(笑)。
 
──リアルだなあとは思っていましたが、そういうことでしたか(笑)。
 
大塚 他人の不幸を面白がっちゃいけないんですけど、「めちゃくちゃネタになるじゃん!」みたいな(笑)。その子の家に泊まりに行った時に一部始終を聞かされて、そのままいただきました、という(笑)。
 
──それを曲にするということは、その友達には言ってあるんですか?
 
大塚 言ってないです。曲中の二人のような経験をしている人は他にもいると思いますし、フィクションなんで(笑)。ただ、万が一彼女がこのインタビューを読んだらマズいなとは思ってますけど(笑)。あ、でも「アオキカズヒト」と「ルミ」は実名ではないですよ。
 
──そりゃそうですよ!(笑)
 
大塚 でも「アオキカズヒト」が近くにホントにいたらどうしようと思って、一応調べました(笑)。
 
──最後の6曲目が、「疲れました、こんな会社」。先ほど、この曲は感情で書いたというお話がありました。会社員を主人公にした、大塚さんとは境遇が違う人を主人公にした曲なので、これこそ頭で考えて書いたのかと思いきや、違うんですね。意外でした。
 
大塚 そうですよね。実はそれが狙いだったりもするんです。なぜかというと、「疲れました、こんな会社」っていう曲が本人のことを歌ってるんだとしたら、私が、すごく辞めたそうじゃないですか(笑)。
 
──そうなりますね(笑)。
 
大塚 感情としては、本当に思ってることをそのまま歌ってるんですけど、それが文字通り私の境遇とかにとられちゃうと、今後の活動が問われるので(笑)。「こういう気持ち、みんな持ってるよね」っていうことを、ストーリーにした感じですね。だから、逆輸入パターンです。具体的な固有名詞以外は、自分の言いたいことをそのまま言ってます。勢いで書いたというか、これに関しては作り込まない方がいい曲になるだろうなと思ったので、転調も一切せず……弾き語りをしてほしかったんですよ。
 
──弾き語り?
 
大塚 会社を辞めたいサラリーマンとかに、この曲を弾き語りしてほしかったんです(笑)。私の曲では転調する曲が多いんですけど、転調すると難しくなるからそれも入れないで、ピアノだと白鍵が多いように、ギターだと開放弦が多いように、要は意図して弾きやすいようにしてあって……じゃあ、全然感情的に作ってないじゃん!
 
──今気づいたんですか(笑)。
 
大塚 (笑)。でもまあ、けっこう素直に作ったつもりです。メロディーも一緒に思いついて、ほぼ1時間ぐらいで作れちゃったんですけど……意外と考えてて、今しゃべっててビックリしました(笑)。
 
──早い段階から収録曲のタイトルだけツイッター等で公開されていましたが、曲名の段階で共感の声が多数届いてましたよね。
 
大塚 そうなんですよ! 私のことを皆さんに知ってもらったきっかけが、声優やキャラクターコンテンツというジャンルだったので、「恋愛の曲が生々しかったらいけないだろうな」とか「こういうものは受け入れられないだろうな」っていうのを、すごく勝手にセーブしてたところもあるんですよね。だからこのタイトルへの反応を見て「あ、みんな疲れてるやん!」って(笑)。そこは反応をいただいて気づけたことでした。
 
──よかったですね(笑)。
 
大塚 まあ、好き勝手やらせてもらってはいるんですけど、先に勝手に「自分はこうあるべきだ」って決めちゃって、「こうですよね? だから自分はこうあるべきですよね?」って、勝手にいい子ぶってるところもあって。もっと自由にやっていいのかなあ……でも、これ以上自由にやったら、さすがに調子に乗りすぎかなあ……(笑)。ただクリエイトのところでは、もうちょっと自由でもいいのかもしれないなって思えましたね。


また曲を作るために、新しいものを吸収していきたい!



──今作の資料にも、「さらにパワーアップした大塚紗英の天才・鬼才ぶりが爆発した勝負作」っていう煽り文句があるんですよね。「天才・鬼才」ってなかなか書かれないですよ。
 
大塚 ですよね(笑)。でもこれを書いた人によると、最近は「鬼才」だけにしてるらしいんですけど(笑)。ありがたいことです。
 
──先ほどから伺っていると、今作は「バンドリ!」の世界からはさらに離れた印象が強いんですが、それでもそことのバランスというのは常に考えられているんですね。
 
大塚 ものすごく恩義もありますし、そこに失礼なことはしたくないのでバランスは考えてますね。ただ、これが2作目でアーティスト大塚紗英としてのイメージがついちゃうので、ここで本当にやりたいことを今やらないと、二度とできなくなっちゃうのではないかという思いがあって。だからこそ、なるべくそっちにと、自分で手綱を引っ張ってきた感じはあります。
 
──なるほど。
 
大塚 自分の理想としてスターになりたいし、結果を出したい。そしてそこで「バンドリ!」さんに恩返しをできるのであれば、それがまたいいサイクルになるじゃないですか。そういう形で恩返しをしていきたいですね。「バンドリ!」のキャラクターのイメージを持たれている方が多いと思うので、いろいろなフィルターを取っ払ったシンプルな私、普通に生きているだけの私というのを意外に思う人は、たぶんすごく多いと思うんですよ。
 
──外からの勝手なイメージなんですけど、大塚さんのファンの方々って、大塚さんのいろんな面も込みで、時によっては「しょうがねえなあ」と言いながら許容して応援している人たち、っていうイメージがあるんですが、いかがですか?
 
大塚 うーん……ライブとかにも来てくれるようなコアな人たちは、多分そうなんですよ。でも広く知られてるところでいくと、そうではない人たちの方が多いので、ごくニッチなコミュニティになりすぎてるところがあるんですよ。そうではなく、「もともとそっちが本当なんだよな」っていうところを、紹介していこうかな、みたいな。今まではそこを紹介してないから、それはしょうがないんですよ。こちら側の責任だから。だから単純に「こうですよ」と提示していくのが、この作品でもありますね。
 
──では、反応が楽しみなのでは?
 
大塚 怖い部分もありますけどね(笑)。自分が思う一番キャッチーな形というのは、今回、本当にやり切っちゃったので。これで無理だったら、これ以上面白くてキャッチーなものをって言われても、私は無理なので。
 
──で、この先ライブ活動などは……。
 
大塚 9月11日に、Raychell×大塚紗英『Live Crew 2021』という2マンライブが決定しています。他にも追い追い告知されていくとは思います。いろいろ楽しみですね、私自身も。
 
──それも含めて、ここからはどうしていきたいですか?
 
大塚 今は、曲をもっと作りたいですね。動けないというのは悲しいので、曲を制作してたくさんリリースして、ライブもたくさんやって……以上、みたいな(笑)。「売れたい!」とか「大きいハコでライブをやりたい!」とかももちろんあるんですけど、そういうのは、あくまでそこに付随していく願望というか。今は経験値もほしいし、リリースしてもライブしても、それで自分が満足することはないので。もっとやりたいことがどんどん見つかるので、それを毎日やっていくだけというか。だから、取り立てて「こういう願望があります」と話すよりも、音楽活動をたくさんやりたいです、という感じですね。
 
──今作を作るために、100曲作ったという話でしたよね。それをやって、「もうしばらくいいや」という感じにはならなかったんですか?
 
大塚 あ、普通になりましたよ(笑)。100曲やり切ったことで、曲の書き方はすごく変わりました。やっぱり100もやれば自分の引き出しは全部開けきってしまうから、新しいことをやろうと思ったし、その後も40曲ぐらいは作ってるので、いろいろ変わってますよ。それに100曲作った中から今作には6曲しか入ってないので、リリースしたいなと自分が思う曲が手元にたくさんあるんですよ。だから生むという作業はしばらくいいかなとも思います。今までの20年間ぐらいはずーっとそうやって生きてきたので、いったんはいいかなと。今あるものをブラッシュアップしていくこともできるから。今は、それよりもやるべきことがいっぱいある気がするんですよね。優先順位が変わるだけで、音楽活動をひたすらやることには変わりないんですけど、今は他の知識とかものの見方というのを吸収しないといけない時期なので、生きてきて初めて、作るということから離れてるんです。
 
──また作るために、ということですよね。
 
大塚 そうです! 私は「must」の考え方をすることがすごく多いんですよ。「今はこれをするべきだ! しないといけない!」みたいな。「義務」というよりは「使命」に近いのかもしれないですけど。曲作りは自分で自分に与える使命みたいなもので、今はそれをひと通りやり切ったから、また新しいものを吸収しにいってる時期なんですよね。曲作りが再び自分に課せられるまで、どれだけ引き出しを増やせるか、という時期なんだと思います。初めてそういう発想になったのは、本当に今作でやり切れたからなんですけどね。チャンスがほしいです。そのチャンスが来た時のために、できることは全部頑張るからと、今は待ってる状態です。
 
──その時が来たらどうなるか、また楽しみですね。ありがとうございました!
 
撮影 沼田 学
 


『スター街道』
2021.07.14 ON SALE


 



『田中さん』Music Video公開直前!緊急生配信
2021/07/14 19:30



『田中さん』Music Video
2021/07/14 20:00 プレミア公開



【大塚紗英 オフィシャルサイト】
https://saechigo-crew.com/
 
【大塚紗英 Twitter】
https://twitter.com/osae1010
 
【大塚紗英 Instagram】
https://www.instagram.com/o_t_s_u_k_a_s_a_e/
 
【大塚紗英 YouTube】
https://www.youtube.com/channel/UCfxVCmWSjk7H6tCjjbSyHXw
 
 
高崎計三
WRITTEN BY高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。

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