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伊藤千晃

伊藤千晃 初のミニアルバム『New Beginnings』を語る

2018.11.28
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音楽
インタビュー
12月5日、伊藤千晃がソロとしては初めてとなるミニアルバム『New Beginnings』をリリースします。これまでパワフルなダンスと歌声を披露してきた印象の強い彼女ですが、今回は一転。本作には心地のよいビートに乗せて、彼女の今の心境をありのままに表現した5曲がラインナップされています。初の配信シングル「New Beginning」を9月に発表してから4カ月。伊藤千晃は今なにを思っているのか? 大いに語ってもらいました。


伊藤千晃という人間を見てもらいたい



――9月にソロデビュー曲となる「New Beginning」と2曲目「happiness」を立て続けに配信リリースしてから3カ月経とうとしていますけど、いかがですか、ソロ活動を始めてみて。
 
伊藤 すごく充実した気持ちです。音楽活動を再開させるまでにはいろんな悩みや葛藤が実はありましたが、それでも決断して、楽曲を制作しはじめたことで、その瞬間から心が満たされたというか。「やっぱり私は音楽をやりたかったんだな」とあらためて実感させられました。
 
――音楽活動再開のきっかけはファンの方の声だったんですよね?
 
伊藤 そうなんです。プライベートで初めての体験がいくつも重なったこともあって、この1~2年はいったいこれからどんな生活が待っているのか想像がつかなかったし、実際自分の想像をはるかに越えたいろんなことが起きていて。さらに1人での音楽活動以外の仕事を再開することになったら、プライベートと仕事のバランスがうまくとれなくなっていくんじゃないか、「いったい私はなにをやりたいんだ?」と悩んでしまった時があったんです。
 
――そんな伊藤さんをファンが救った?
 
伊藤 はい。この1~2年、すごく落ち込むこともあったんですけど、それでも前を向くことができたのは、SNSやファンレターという形で毎日のようにファンのみなさんが「千晃ちゃんのペースでいいから、いつかまた笑顔を見せてね」などというメッセージを届けてくれたことがすごく大きいです。そのおかげで「これだけ応援してくれる人がいるのになんで私はネガティブ思考になっているんだろう」と思えるようになって。さらに今年の春にトークショーで、みなさんが「お帰り」ってすごく温かい言葉をかけてくれた上に、今後私に望むことを聞いたら「歌って踊ってほしい」って答えてくれる方がたくさんいました。その声に背中を押されてようやく活動を再開することになりました。
 


――で、来月5日にリリースされる1stミニアルバム『New Beginnings』の収録5曲とも伊藤さんが作詞に携わってますけど、今おっしゃっていたような気持ちやファンの方との関係が……。
 
伊藤 歌詞に思いっきり反映されてますね(笑)。
 
――そういう印象を受けました(笑)。5曲とも、すごく身近な幸せを大切にすることや、個人的な不安や葛藤、悩みを克服して一歩踏み出すことを歌っている。
 
伊藤 実はそういうことを歌うのにはすごく勇気が必要だったんです。これまではカッコいい女性像を歌うことが多かったし、自分のマインドをここまでさらけ出すことがなかったので。自分の弱さを表現することってすごく難しいんだなと改めて思い知らされました。
 
――それならあえて弱さを見せなくてもいいんじゃない? という気もしますけど……。
 
伊藤 いや、せっかく「伊藤千晃」として新しいスタートを切るのに自分を演出することはしたくはなくて。ソロデビューが決まったころから、私のことを好きだと言ってくれる人たちに向けて、あくまで伊藤千晃という人間を見てもらいたいという決意がありました。
 
――ただ先ほどの言葉のとおり、作詞作業にはご苦労があった?
 
伊藤 「自分のマインドをさらけ出すんだ」って決めてからはそんなに苦戦してないですね。自分の中に「こういうことを歌いたいな」というストックがいくつかあったので、割とすんなり曲に言葉をハメることはできました。
 
――作詞って今回が……。
 
伊藤 ほぼ初めてです。
 
――そう考えるとすごいですよね。5曲ともテーマやメッセージは通底しているけど、描かれている風景は違うじゃないですか。「New Beginning」では不安や葛藤を乗り越えて一歩踏み出すことを歌っていて、「happiness」は……。
 
伊藤 この曲は私から見たファンのみなさんの姿をイメージした曲です。私の目にはファンの方々の想いが光のようなものに見えていて、1人1人の光は小さいけれど、みんなが集まったとき、それが大きな光になる。幸せってそういうことを言うんじゃないかな?と思い、そういうファンの方々をイメージして描きました。
 

――そして3曲目「Eternal Story」はクリスマスソングと、収録曲は登場人物もシチュエーションもバラエティ豊かなんだけど悩むことなく作詞できた?
 
伊藤 たぶんそれができたのは、今回作曲とディレクションをKEN for 2 SOUL(MUSIC Inc.)という、プライベートでも交流のある方にお願いできたからですね。KENさんは私のことをよく知っているから「今千晃ちゃんってプライベートでこうで、仕事でこうで、こういうことを思っているんだから、こういった曲を歌うとマッチするよ」ってすごく的確なアドバイスをくれたので歌詞も書きやすかったのかな、と思っています。
 
――KENさんのトラックメイキングの段階で詞のモチーフも浮かんでいた、つまり作曲することがつまり作詞にも……。
 
伊藤 つながっていましたね。逆に「千晃ちゃんがこういうことを言っていたから、サウンドもこんな感じにしてみた」って、音に私の気持ちや思いも反映してくれていたので、そのサウンドを手掛かりに言葉を探すこともできました。
 
 
新たなスタートだからこそ肩の力を抜きたい
 


――その“サウンド”ですけど、ちょっと驚きました。バリバリ踊れる方という印象があるからハードなダンスミュージックを作るのかしら?と思っていたら、レイドバックした結構渋めのトラックが並んでいて。
 
伊藤 そうなんですよね(笑)。
 
――歌詞同様、曲にも伊藤さんの意図が反映されていると思うんですけど、トラックメイキングはどのように?
 
伊藤 私自身は作曲の専門家ではないので感覚で(笑)。KENさんに、私が今好きな曲を聴いてもらいながら「この曲のこの音が私の今の気分」という感じでイメージを伝えさせていただいて。それを受けたKENさんが「あっ、こういうことね」って私に再確認してきて「そうそう、そういう感じ」ってなったら「OK、わかった。じゃあこの音をベースにちょっと違う感じに仕上げるよ」って返してくれる。という流れで作業を進めていきました。だから本当に私は感覚的なことしか言ってない気はするんですが、ちゃんと今の自分の気分がサウンドに乗ってる感じがあります。
 
――ちなみにトラックメイキングにおいて影響を受けたアーティストさんって?
 
伊藤 大沢伸一さんのMONDO GROSSOであったり、あとはキナ・グラニスというアメリカのシンガーソングライターの方です。今、キナ・グラニスの声と曲がすごく好きなので、この気持ちよさを表現したいとKENさんには伝えていました。
 
――確かにMONDO GROSSO、キナ・グラニスの影響を受けたと言われれば納得のサウンドなんですけど、今、なぜ伊藤さんはこの手のサウンドに傾倒しているんでしょう?
 
伊藤 いろんな壁を乗り越えて、新たに音楽活動をスタートさせる上で、あんまりカロリー高めでエネルギッシュなものを歌いたいという気分にはなれなかったんです。
 
――なんか面白い矛盾をはらんでますね(笑)。ソロアーティストとして新たなスタートを切る上に、今回発表する『New Beginnings』は伊藤さん初のCD作品。配信リリースとは……。
 
伊藤 全然気持ちが違いますね。私自身CD世代として育ってきたので、やっぱり手元にモノとして残せるものをリリースできるのはすごくうれしいことでした。
 
――でも「やるぞ!」とばかりにカロリー高め、テンション高めな音楽を作るつもりはなかった?
 
伊藤 今回のアルバムは「肩の力を入れない」っていうのを裏テーマに作っているので(笑)。耳に強めなアタックが残る音は今回は使うのはやめようという感じでした。基本的には気持ちよく浮かんでいるんだけど、印象には残る音を作りたいという思いが強かったです。今年は本当にいろんな波のある1年だったとは思います。逆にだからこそ自分の心の中に多少の波ではブレないひとつの芯みたいなものが通ったような気がしているんです。そういう自覚があるから「がんばるぞ!」って感じであえてエネルギッシュにパワーを放出しなくても自分自身強くいられたのだと思います。「いいよ、楽しくやろうよ。それがなによりも幸せにつながるんだから」って素直にそう言えるから、音にもその思いを落とし込みたかったんですよ。
 
 
力ってどうやって抜けばいいんですか?
 


――その口ぶりからするとレコーディングもスムーズでした?
 
伊藤 いや、大変でした!
 
――即答ですか(笑)
 
伊藤 これまでずっと力強いボーカルを聴かせなきゃ!みたいな感じで歌ってきていたので、力の抜き方がわからなくて(笑)。自分としては肩の力を抜いて歌っているつもりなのに、KENさんは「まだ力が入ってる」「まーだ力が入ってる」と。
 
――「気合いを入れろ!」って怒られるんならまだしも……。
 
伊藤 「気を抜け!」って言われて(笑)。「過去の伊藤千晃は脱ぎ捨てようよ」「もともと癒やし系の声を持ってるんだから、リラックスして歌ったらキレイに音が鳴るし、僕はその声を求めてる」って何度もディレクションされるんですけど「でもKENさん、私、もう力抜きまくってるんだけど……笑」ということの繰り返しでした。さっきお話したとおり、気持ちは完全にリラックスモードだったんですけど身体が気持ちに付いていかなかった感じです……(笑)。
 
――どうやって克服しました?
 
伊藤 KENさんのディレクションのおかげですね。例えば「A Song For You」なんかは「心地よい風が吹いている広い草原で千晃ちゃんが歌っていると動物たちがピョンピョン跳びはねながら寄ってくる風景をイメージして」ってアドバイスしてくださったり。そういうディレクションの仕方が私の中ですごくわかりやすかったんです。
 
――いや、そのビジュアルイメージを声で再現するボーカリスト伊藤千晃の能力の高さよ、という気もしますけど……。
 
伊藤 いや、やっぱりディレクションがうまかったんだと思います。「『このフレーズはもっと力強く歌って』とか『ここでは声を抜いて』って言うよりも『こういうシチュエーションで歌ってる感じ』って言ったほうが千晃ちゃんには伝わるだろうな」って、私の性格を理解してくれていたからこそのディレクションだったんだと思いますし。
 


――「LOVE or LIPS」は他の楽曲に比べて雰囲気がだいぶ変わったように感じましたが?
 
伊藤 この曲は異色というか、私のマインドを表現するというよりは、私のやっていきたいこと……ファッションとかメイクが好きなので、それを表現した伊藤千晃像を見せたいと思いました。
 
――だからほかの曲と違って物語仕立てになっているし、しかもちょっと強い女性像を描きつつ、ともすればセクシャルとも取れることを歌っている。
 
伊藤 だから歌うのが難しかったです。おっしゃるとおり、強めの女性のイメージがあったから、そういう女性像を思い浮かべながら歌ったら、やっぱり「力が入りすぎてる」と言われました(笑)。とはいえ、力を抜きすぎると強い女性にならないから、色々試行錯誤しながらディレクションしていたと思います。「もうちょっと誘っていいよ」とか「もうちょっと男に仕掛けていく感じで」とか、いかにも女性ならではって感じのワードが飛び出してきて……。
 
――伊藤さんは力を抜きつつも、バッチリ男を誘うことができた、と(笑)
 
伊藤 いや「それ、どんな女性ですか?」って思いながらも、私なりの力の抜けた、でも強い女性像を探ってました(笑)。
 

トータル的なクオリティの高さを目指したアルバムメイキング
 


――今作で伊藤さんは「happiness」では井上紗矢香さんと、その他の4曲ではEARTYさんと共作詞なさってます。
 
伊藤 まず私が書いた詞を作詞家さんがうまくまとめてくれて、それをまた歌う前に最終調整させていただくって感じで作業を進めていった感じです。
 
――あっ、2人のあいだで「こういう詞にしましょう」っていう打ち合わせがあったわけではなく、完全にリレー形式で。
 
伊藤 そうですね。たとえば「A Song For You」は今年の10月にファンクラブイベントで全国を回ったんですけど、そこで生まれたものを曲にしたい、という思いから生まれた曲です。
 
――ファンクラブイベントで生まれたもの?
 
伊藤 各会場にファンの方から私への寄せ書きができるメッセージボードを設置していて、そのメッセージを見ていたら「会う」っていうキーワードが私の心にすごく刺さったんです。「今日会えてよかったです」「いつかまた会いに行きます」「また会いたいです」。いろんな“「会う」に出会えた”上に「千晃ちゃんには千晃ちゃんらしくいてほしい」って書き添えてくれる方がたくさんいたので、1コーラス目はそんなみなさんの思いを歌詞にしていきました。
 
――「あなたには いつも 夢を」「追いかけて 欲しい ずっと そのままで」と、まさにおっしゃるとおりのメッセージが並んでますね。
 
伊藤 そして「目を閉じて 聴いて 欲しい」「永遠に 君のために 歌うよ」という2コーラス目は私からみなさんへのアンサー。そういう2部構成になっています。
 
――そこまで凝った物語を構築できるなら自分1人で歌詞を書いてもよかったんじゃない?という気もするんですけど……。
 
伊藤 いや、今の私はテクニカルに歌詞を書ける器では全然ないので、きちんと言葉のプロに手を加えてもらいたいと思っていました。
 
――「伊藤千晃のソロアルバム」なんだから、多少つたない言葉であってもご自身が歌いたいメッセージを思い付くさま書き上げるのもひとつの手ですよね?
 
伊藤 そうですね。でも今回は、私を前面に押し出す作品は作りたくなかったんです。今回のアルバムはどの曲もサウンドがすごく気に入っているので、そのサウンドを壊すような歌詞にはしたくなくて。きっと自分1人で言葉を当てはめると、おっしゃるとおり、まだつたない言葉を並べてしまうと思うし、自分で自分の言いたいことだけを書くことになると、きっとサウンドよりも歌詞のほうがインパクトが強くなっていったと思います。それは今回表現したいことではなかったので作詞家さんに入っていただいて、音の世界を壊さない言葉を探ってもらいました。
 
――シンガーソングライター的な発想ではなく、もっとミュージシャンシップにのっとった音作りを目指した、と。
 
伊藤 歌詞とメロディとアレンジと録音。そのトータル的なクオリティの高さこそが今回の私にとっては重要でしたね。またゆっくり時間を取れるようになったら、自分1人で作詞に挑戦することもあるかもしれないんですけど、それは次回でいいな、と思っていて。今回は背伸びせず、自分が安心、納得できる作品にしていこうと思っていました。

 

――で、この『New Beginnings』はタイトルどおり、伊藤千晃の新たなる始まりを歌った良作だと思うんですけど、来年はこの作品を引っ提げてなにをしましょう?
 
伊藤 オリジナル楽曲がたくさん集まったので、次は生でこの曲たちを届けることをしていきたいと思います。

――おーっ!
 
伊藤 ソロになって、改めて音楽を作る楽しさと、大変さを実感しました。
それを今度はライブという形でファンの方々に届けていきたいと思います!
 
――あと音楽活動以外の来年の目標ってあります?
 
伊藤 個人的にはやっぱりファッションやビューティの分野にも力を入れていきたいですね。なんていうか、基本的に女の子が喜んでいる姿を見るのが大好きなので(笑)。そういった方面にはこれからも力を入れていきたいな、と思っています。
 
 
 
『New Beginnings』
2018/12/05 Release

 

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ピクチャーレーベル仕様 
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https://avex.jp/itochiaki/

 
撮影 長谷 英史
成松哲
WRITTEN BY成松哲
1974年、大分県生まれ。フリーライターから音楽ナタリー編集部を経て、再びフリーライター。著書に『バンド臨終図巻』(共著。河出書房新社/文春文庫)など。
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