5月31日(土)まで東京・西麻布のWALL_alternativeで開催されている「GREY ART MUSEUM」。これはニューバランスの年に一度の祭典「Grey Days」とアートプロジェクト『MEET YOUR ART』の協働により、アート、フードなどを交えることによってニューバランスのクラフトマンシップを体感できる展示空間となっている。ここでは開催に先駆け、5月15日に開催されたオープン発表会の模様をレポートするとともに、関係者のインタビューをお届けする。
ニューバランスの「グレー」と「クラフトマンシップ」をテーマにしたアート展示!
ニューバランスというブランドを象徴する色、「グレー」を祝うために毎年5月に開催されているのが「Grey Days」。今回、日本ではWALL_alternativeという空間でニューバランスの根幹にあるクラフトマンシップを体感できるようにと、『MEET YOUR ART』との協働により、5名の現代アーティストによる作品、5年に一度しか発売されない伝統的モデル『Made in USA 1300JP』の展示、そしてサスティナブルな素材・製法にこだわったドリンクとフードのスペシャルメニューの販売から成る「GREY ART MUSEUM」というイベントとして展開されることとなった。
オープン発表会では株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部ディレクター・鈴木健氏、エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社代表取締役・加藤信介氏の挨拶と概要説明の後、今回様々なキーワードから「Grey」を表現した作品を寄せたアーティスト、小笠原周氏、金子英氏、品川亮氏、津田道子氏、長島伊織氏の5人が、自らの作品についてコメントを寄せた。そしてドリンクとフードのスペシャルメニューが紹介されると、国産ナチュラルワインを提供する「ドメーヌ・デ・テンゲイジ」代表/醸造責任者・天花寺弓子氏、「グレヌー(のどごし生麺)」を共同開発した「富貴製麺研究所」代表取締役社長・村上誠一郎氏がそれぞれの製品について説明した。
会場内に展示されたアート作品は、「Grey」を表現する5つのキーワードに沿っている。まず彫刻家・小笠原周氏の作品は「MASTERPIECE」というキーワードの元、自身が10年間履き続けたニューバランスの「1300CL」を御影石で彫った石彫。自身が愛したニューバランスの製品が5000年以上の歴史を持つ御影石という素材で再構築されることで、時間の蓄積や身体の記憶が表現されている。
コラージュ技法を用いたドローイング作品を手がける金子英氏の作品は「SEAMLESS」というキーワードに沿った≪NB Ⅰ≫≪NB Ⅱ≫という二連作作品。自身の過去作品をコラージュしての再構築を続ける金子氏は今回、ニューバランスのロゴをグラデーションさせることで「日の出」「日の入り」を表現した。
「TIMELESS」というキーワードで3点の作品を発表したのは画家の品川亮氏。東洋の絵画、文化的な歴史を再考しながら現代における新しい絵画の可能性に挑戦している彼らしく、「Grey」の世界観から着想した銀箔による「椿」、墨による「椿」の新作2点、そしてそれらに関連した軸装作品「椿」の計3作品が会場2階に上がる階段部分の壁に展示され、「TIMELESS=時代を超越する」が具現化されている。
インスタレーション、映像、パフォーマンスなど多様な形態で作品を制作している津田道子は、「RUNNING」のキーワードの元、何点かの作品を展開。フレーム、鏡、ビデオカメラを用いたインスタレーションの代表作「振り返る」の再構築版では、場内に仕込んだカメラで撮影した映像が時差で投影され、自身のしぐさや身体性に気付きを与える。また自らランニングをライフワークとする彼女らしく西麻布周辺から六本木通りを走った際のルートを元にしたドローイングと、その際の様子を記録した映像を展開。この映像には心拍数が反映されており、ここで描かれたランニングマップは来場者が自由に持ち帰れるようになっている。
都市の風景や人々の営みに垣間見える一瞬の静寂などを絵画作品として再構築する長島伊織は「URBAN」というキーワードの元、「都市」をテーマにした新作絵画2点を発表。グレーを基調に都会的な風景を描き、その中でニューバランスを履いて歩く人物が表現されている。
これらの作品とともに展示されているのが、5年に一度だけ発売されるニューバランスの伝説的なモデル「Made in USA 1300JP」だ。1985年に発売され、その希少性のみならず、ニューバランスならではの卓越したクラフトマンシップが随所に感じられる品質で人気を博した。最新の2025年バージョンは5月19日より抽選受付開始、5月29日から販売が予定されているが、会場ではその実物をいち早く目にすることができる。
サスティナブルな素材・製法によるスペシャルメニューも!
またこのイベントのために用意されたスペシャルメニューも、ニューバランスのクラフトマンシップ、素材へのこだわりをまた違う形で表現したものとなっている。
「ドメーヌ・デ・テンゲイジ」国産ナチュラルワイン(Grey Daysパッケージ)は、「未来につなぐ、ほんまもんのワイン」をビジョンに2017年、山梨県北杜市明野町で2017年にオープンされたワイナリー「ドメーヌ・デ・テンゲイジ」が厳選した国産ナチュラルワインとなっている。自社の「ドメーヌ・デ・テンゲイジ ドゥ・ラパン 甲州フレンチオーク熟成2023」、「ドメーヌ・デ・テンゲイジ ドゥラパンマスカット・ベーリーA ロゼ フレンチオーク熟成2023」の2点に、「マスカット・ベーリーA サンセリテ 2023」を加えた3点を用意。
1972年に熊本県で創業された「富貴製麺研究所」と「GREY ART MUSEUM」が共同開発した「グレヌー(のどごし生麺)」は、阿蘇の天然水を使って国産小麦で作られた麺に竹すみを配合したもの。まろやかでつるっとしたのどごしの麺となっている。
WALL_alternativeのシグネチャーメニューであるバニラシェイクに、「和田萬」の国産黒ごまを加えたのが「GREY ART MUSEUM」限定の「自家製黒ごまシェイク」。日本で使われているごまの内、国産品は0.1%と言われるだけに、創業140年以上という専業メーカー「和田萬」の国産黒ごまだけを使ったこのメニューは貴重! ごまの風味を存分に味わいたい。
また、お茶の多様性を大切にしつつ、その可能性を探る「7T+」の京都ラボで厳選された灰色の茶葉も販売。「Silver needle tea」というこの茶葉は、「GREY ART MUSEUM」のためにセレクトされたものだ。
オープン発表会の会場では、訪れたメディア関係者にこれらのドリンク、フードのサンプルも提供され、その味わいを体感しつつ関係者の会話にも花が咲いていた。
協働により「Grey」の深みが増したイベント
イベント終了後、関係者に話を聞いた。まずは会の中でも挨拶していた株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部ディレクター・鈴木健氏。
──「Grey Days」というのはニューバランスにとってすごく重要なイベントなんですね。
鈴木 そうですね。すごくシンボリックなイベントです。我々はスポーツ用品の会社なので、通常だと商品についてのイベントであったり、何かの大会イベントという形になるのですが、「色」をテーマにするというのはブランドのイベントではなかなかなくて、そこにオリジンというかストーリーがあって、しかも懐古的になりすぎず新しいことにチャレンジするという意味合いもあります。商品の展示もあるのですが、商品に限定せず、ブランド全体でカラーのお祝いをするということを、特にここ最近、世界中のニューバランスで毎年5月にやっています。
──会社の成り立ちをただ紹介するとか、限定商品が多数出るというだけにはとどまらないというか。
鈴木 どっちかというと、一般的にはそういうイベントの方が多いのですが、もっと違う形で、見ている人たちも関われるものということで、文化的な活動としてやりたいと思っているんです。だからアーティストとの協働なども非常にフィット感がいいというか、我々のカラーを豊かにしてもらえていますね。
──この形は世界中で行われているものなんですか?
鈴木 アーティストとの協働は日本が主導してやっていますが、海外ではまた違う表現もあります。もちろん世界共通でやっている表現もあるのですが、世界のそれぞれの文化と結びついた表現をするというのがテーマでもあります。
──今回は5名のアーティストが参加されていますが、起用された理由というのは?
鈴木 そこはエイベックスさんとお話をして、「Grey」を構成するいくつかのキーワードを元に作品を作っていただこうという形でした。もう一つは、我々は100年以上続くブランドではありますが、別に懐古的になりたいわけではなく、好きな人だけが集まるというよりは、これをきっかけにニューバランスを知らない人たちの共感を得たり、スニーカーを知らなくても興味を持ってもらえるようなものを目指したいので、大御所というよりは、どちらかというと若手の方々が中心になっています。特にニューバランスが好きではなくても、新しい視点を提供してくれる人、というのが一つの基準ですね。
──過去にも坂本龍一さんとの協働などもあり、ニューバランスにとっては「アート」自体を大事にされているんですね。
鈴木 そうですね。そこはニューバランスが大事にしているクラフトマンシップ、ものづくりの精神と深く関わっています。この規模のブランドで、アメリカに自社工場を持っているというのは非常に珍しいんです。機械的な大量生産ではなくて、ものづくりにこだわってやっているということが重要で、その精神と、アートとしてものをつくるということはそんなに遠いものではないと思っているんです。だからアーティストとの協働にしても、全然畑の違う人たちに何かを頼むというよりは、共通する価値観を持つ人たちと共同で何かをつくっていくという感覚があります。
──やはり有名メーカーということで「大量生産」というイメージを持たれることも多いかと思いますが、ニューバランスはそうじゃないんだと。
鈴木 確かに大量の製品を作ってはいるのですが、丁寧につくっているというイメージも強いと思うんです。そこが我々のよさでもあるし、逆に製品を使っていただく方々にもそれを感じていただきたいというところがあります。またアーティストの作品づくりというのも、何かテーマとプロセス、ストーリーを持って何かをつくり出すという点では、われわれのものづくりと全く同じなんですよね。我々も単純に「靴を作っています」ということではなくて、この靴で何をやりたいか、どういう表現をしたいか、あるいはどういう人たちに使ってもらいたいかということをイメージしながらものをつくっているので、アーティストの方々のやっていることを一つの例として挙げると、我々のことも伝えやすいと思っています。ストーリーテリングという点で、アーティストの方々がものづくりというものをシンボリックに表現してくれるので、こういう過程を持つニューバランスが「GREY ART MUSEUM」というものをやっていること自体、ブランドと離れたものではないんですね。我々も今回「1300JP」という製品を展示していますが、「1300JPも同じようにこだわって作っているんですよ」ということを感じていただければという意図があります。
──今回、会場であるWALL_alternativeや「MEET YOUR ART」との協働も、そのコンセプトを提示するための相乗効果を生み出していますね。
鈴木 それも大きいと思います。言い方を変えると、「Grey」の世界観の“深さ”を作っていただけているという感じがします。我々が考えていることの一部をただ示すのではなくて、今回の作品もそうですし、提供する食事のメニューにこだわっていただくというようなことも、我々のものづくりと同じような神経の使い方と丁寧さでやっていただけること自体が、ニューバランスの「Grey」の深みを増していただいているように思います。
──今回展示されているアート作品について、ご感想をいただけますか?
鈴木 最初、アーティストの方々がこのコンセプトでどういう風に作品をつくってくださるのかなと思っていたんですが、単純にグレーのものを描いたりつくったりしてくださるだけじゃなくて、各作家さんの個性や見方によって面白いものにしていただけたらいいなという期待もありました。各作品を通じて「Grey」のコンセプトを再発見したところがあって、それは非常にありがたいなと思いますね。過去にアーティストとの協働をした時の作品も会社に飾ってあるのですが、今回の作品もぜひ購入して会社に飾りたいなと思うような作品がたくさんあるなと思いました。
──それから今回のスペシャルメニューに関してはいかがでしょうか?
鈴木 これがやっぱり、いろんな人に一番親しみやすいものなのかなと思っていて。もちろんアート作品を鑑賞していただくというのもありますが、食というのはニューバランスとしても取り組みたいカルチャーの一つだったので、その一つの例を作っていただいたかなと思います。丁寧にやっていただきましたし、今日の発表会の中でも、協働していただいた方々があれほど一つのメニューについて語ることはないと思うんですよね。日本人は食が好きですし、食の世界というのは非常にクラフトマンシップが生かされているものなので、そういうものとニューバランスの親和性は高いのではないかと思います。
──ちなみにワインが3種類ありましたが、一番気に入ったのは?
鈴木 ワインは家で飲みたいなと思って、先ほど購入をお願いしました。家でじっくり楽しみたいと思います(笑)。
ニューバランスのクラフトマンシップ、その「手触り感」を体感してほしい!
続いては、エイベックス・アライアンス&パートナーズ株式会社 第1アライアンス営業ユニット チーフプロデューサーの村川 惇治氏。
「ニューバランスさんのマーケティング部門とは3年前から関係が生まれてお付き合いがあったんですが、アート関連も展開したいということで『MEET YOUR ART FESTIVAL』にも来場いただいたりしていたんですね。その中でこの5月の『Grey Days』に関連してイベントをやりませんかということで、この開催につながりました。
今回、ニューバランスさんが掲げていたテーマは『クラフトマンシップ』と『Grey』というところで、それをエイベックスが持つアートの領域で表現するというところに共感いただいた部分が大きかったですね。日頃からコミュニケーションを密に取っていたこともあり、先方のやりたいことを本音レベルで伺えたことが、スムーズな展開につながりました。
工夫が必要だったのは、見せ方の部分ですね。ニューバランスのロゴ表示にもガイドラインがいくつもある中で、それをどう効果的に見せるかというところには気を配りました。その中でアート作品に関しては本当に自由にやらせていただきました。ここはお互いにいい効果を生んだ部分だと思います。
そうした共同作業の中で特に感じたのは、ニューバランスの皆さん自身が本当にニューバランスというブランドや製品を愛しているということですね。だからこそ、ニューバランスのものづくりが守られているのだということがよく分かりましたし、皆さん自身が楽しまれていて、すごくカッコいい大人たちだなということが印象に残りました。
当社は、昨年はパートナー企業さんと一緒に楽曲を制作したりもしていて、今回はアートでしたが、そのように『楽しいことをパートナーさんと一緒にやっていく』ということを第一に考えていまして、今後も様々な展開を模索していければと思っています」
そして、MEET YOUR ART共同代表を務める古後友梨氏。
「今回のコンセプトはまず、ニューバランスさんの根幹にある『クラフトマンシップ』を表現するということでした。その中でも、ものづくりのプロセスやストーリーを大事にされていて、『ザ・NBクラフトマンシップ』というものをキチンと世に出していきたいという思いが強く感じられたので、アーティストの選定においても、制作のプロセスを大事にしていることだとか、クラフトマンシップをより強く持っていることなどをキーにしていきました。
『Grey Days』というイベントの中での開催ということで、ニューバランスさんの『Grey』を巡るキーワードの中から、5つのテーマを選んでいき、またそれに沿ってアーティストを選定していきました。
例えば『MASTERPIECE』というのは、グレーがマスターピース、つまり『傑作』を生み出す色、というところから来ているんですが、小笠原周さんのように石彫表現を追求されている現代アートの作家さんは少なくなっているんですね。今回の御影石の技法は5000年以上前から続くと言われており、例えば1000年後にその石彫が化石のように発掘されるということも予測しながら制作されているところが、クラフトマンシップの精神と『MASTERPIECE』というテーマにすごく紐付くなというところからお声がけさせていただきました。
また『RUNNING』というテーマは、津田道子さん自身が5年ほど前からランニングを作品の制作プロセスに入れていて、実際にマラソン大会にも出たりされていることから、これ以上の適任者はいないと思いました。ニューバランスさんもプロセスを大事にされている中で、そのプロセスにランニングを取り入れているわけですから。アーティストの選定については、そのようにテーマとの親和性を重視しつつ、考えていきました。
WALL_alternativeでは様々な企画展示をしていますが、今回はやはりニューバランスさんのクラフトマンシップを大きなテーマにしながら構成していますし、バーのメニューもそこを重視して共同開発しているので、『手触り感』みたいなものは特に感じていただけるのではないかと思っています。津田さんのインスタレーションには映像の中で自分も登場したりということもあり、普段アートをあまり見に行かないという人も楽しめると思いますし、グルメ目的で来ていただいてもご満足いただけるのではないかと思います」
ニューバランスの製品が好きな人も、クラフトマンシップを重視したアートに触れたい人も、サスティナブルなグルメを味わいたいという人も楽しめる『GREY ART MUSEUM』。ぜひ会場で実感していただきたい。
「GREY ART MUSEUM」
■期間:2025年5月16日(金)~5月31日(土)※期間中全日営業
■出展アーティスト:小笠原周、金子英、品川亮、津田道子、長島伊織
■時間:18:00-24:00
■入場:無料・予約不要
■会場:WALL_alternative(東京都港区西麻布4-2-4 1F)
ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。