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WALL_alternative

東京・西麻布から新たなナイト・カルチャーを発信するアートスペース「WALL_alternative」がオープン!

2023.12.08
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アート
インタビュー
80年代、音楽中心のカルチャーを担っていた東京・西麻布。その余韻を残した存在感抜群の建物の1階に、アートギャラリーを軸として音楽・カルチャーの交差する風景を発信する拠点、「WALL_alternative」がオープンしました。エントランスを抜けると目の前にはカウンターバーにワインがずらり、その向かい側からは大きな人型の彫刻作品がお出迎え……、ここはギャラリー?それともおしゃれなワインバル? ふらりと非日常な感覚へと誘ってくれるこの新しいアートスペースについて、仕掛人でありディレクションを担うMEET YOUR ART代表・プロデューサーの加藤信介さん、空間設計を手掛けた建築家・萬代基介さん、カウンターバーに立つワインと肉のスペシャリスト・恩海洋平さん、そして柿落としの個展「VERSE」のアーティスト・大野修さんのお話を交えながら、“多様な人が有機的に混ざり合う夜の溜まり場” をコンセプトとする「WALL_alternative」を、紹介します!
 
 
アートと人々の新たな接点の場、それが「WALL_alternative」
 
 

──さっそくですが、「WALL_alternative」という場が生まれたきっかけは?
 
加藤 まず、3年前の2020年の12月、MEET YOUR ART プロジェクトを立ち上げたところに遡ります。エイベックス=音楽業界にいると、たとえばインディーズのアーティストが音源を配信しようと思ったら翌日にすぐ全世界配信できる環境が整っていますし、全国どこにでもライブハウスがあり、イベントやフェスも行われます。そしてYouTubeはもちろん、テキストや動画メディアがたくさんあります。もちろんその色々なツールやメディアをどう使うかは本人たちの自由ですが、自分の活動を発信したいときに新しいことをやりやすい。一方で、アート業界にはメディアにせよイベントにせよ、新しい人との出会いが音楽業界より圧倒的に少ないと思ったのです。そこでこのプロジェクトでは、日本から世界に誇るべきアーティストであったり、才能に溢れたアーティストたちを、音楽業界で培ったノウハウを使いながら今までとは違う形でエンパワーすることや、新しいユーザーを開拓して、アート市場に新しい貢献をすることを信念としています。
 
──具体的にMEET YOUR ARTプロジェクトは3年の間でどのような取り組みが?
 
加藤 メディアという面では、世の中に少しでもアート情報を広めていこうとして立ち上げた森山未來さんが出演するYouTubeのアート専門番組「MEET YOUR ART」はチャンネル登録者数6万人を目前としていますし、アートを軸にして隣接したカルチャーを一堂に会して、たくさんのお客さんにたくさんのアートとの接点を作る取り組みとして開催した「MEET YOUR ART FESTIVAL」が、今年は4日間で4万人を動員しました。3年かけてこうやって歩みを進めているところです。これらを踏まえて、次に打ち出したいのが「WALL_alternative」というスペースでした。前述の2つとやりたいことや精神性は共通しているのですが、そこから、今までもアートに興味があったけれど知る機会がなかった、そういう人たちとの接点を生み出すために、常設店舗を構えることにしました。
 
──いろいろなチャンネルから身近にアートに触れるきっかけをつくる、その3つめのフェーズに突入したのですね。それでは、「WALL_alternative」の特徴を見ていきたいと思います。営業時間を夜に限定し、飲食もできるというのはアートギャラリーとしては挑戦的な部分も多いと思うのですが、どういった思いからここに辿り着いたのですか?
 


加藤 コンセプトとしては仕事終わりの方が足を運べることとしました。MEET YOUR ARTのプロジェクトを通じて、横串でアート業界と向き合いながら得たこと、そして自分自身ギャラリーへも足繁く運んで感じたこととしては、アートを見たいと思う人はたくさんいるけれども、忙しいビジネスパーソンは昼間にギャラリーに行くことができない。つまりせっかく興味があっても、自分の生活動線上で自然にアートに触れられる環境がないのですよね。だから大人が自然にアートに触れられる場を作りたいということが第一にあります。自分自身がそういう世代なので、アートっていうのが手触り感のあるコンテンツだと感じているんです。何を求めているのか、何が課題かに、リアリティがあって。
 
──ご自身が事業プロデューサーとして、そしてユーザーとしてもこういう場所があったらいいな、という場所を体現したのですね。
 
加藤 はい。そしてもちろん、お酒を目的に店内を覗いてくれて、そういう人がアートにも触れられる、という接点も大事にしています。
 
──常設ということで、空間としてのこだわりは?
 
加藤 ここは新しい建物でもないですし、ギャラリーは1階でストリートに面していて、ビルの高層階や複合的なアートコンプレックスのなかに入っているわけではない。でもある意味こういう地に足のついたところから、すでに完成しているアーティストというよりは、これからのエマージングなアーティストとともに、新たなカルチャーがミックスしたり、新しいうねりやムーブメントを作りたいと思っています。それを実現するには空間はもちろん、アーティストの方々の賛同や協力も重要ですし、いろんな人が集うということが大切だったので、その点でこの立ち上げにあたって、周りの人に支えられました。
 
──空間設計は建築家の萬代基介さんが担当し、ネオンアーティストのWakuさん率いるGokou NeonStudioがロゴデザインやネオンサインを制作、そして和泉侃さんが香りの演出を手掛けているということで、今の加藤さんのお話にあるとおり様々なジャンルの方が協働する場となっています。それらの軸となる空間設計を手掛けた萬代さんは、どのようにこの世界観を構築していったのでしょうか?
 


萬代 ぼくは普段建築の設計をしていて、お酒も飲めないですし、どちらかというと昼の人間なのですが(笑)今回お声がけいただいて。ナイトギャラリーということで、建築家としては自然光を取り入れることもできないという点で非常に難しいお題でした。それで、最初に考えたのはこのビルに特徴があるということ。バブル時代にナイジェル・コーツが設計したこの建物から、あの時代に繰り広げられていたナイトカルチャーの痕跡を取り入れられないかと考えました。そこで年月をかけて地層のように積み重なった塗装を、一枚ずつ剥がしていくことから始めました。そうすることで、実際このザラザラしたテクスチャーに触れていただくとわかる通り、人工的に作られたものより自然の一部のような荒々しい、強いものとして活かせます。それから床も、すべて研磨しています。磨くことによってコンクリートの中の石が現れてきます。崖のように見えている部分も、この場所に元々あった段差をうまくつなげるように新しくコンクリートを打って、そのコンクリートを手作業で、削り出しで作っていて、人工のコンクリートが自然に還っていくというコンセプトになっています。
 
──この空間と、柿落としとして展示されている大野修さんの作品たちが見事に融合していて、今回の展示のための内装なのかと思ったほどでした。
 
大野 そうですね。僕自身、ものすごく共感をしていて。僕の実家がコンクリートを作っていて馴染みもありますし、自分の作品も艶消しのザラッとした質感なので、非常にマッチしていると思います。
 
──ここまで大野さんがハマっているので、では今後はどんな世界に変わっていくのだろう?とワクワクします。加藤さんとしては、この雰囲気や質感を活かしたり、共存するアーティストさんをどんどん紹介していくイメージですか?
 
加藤 はい、たくさんいるんですよ!たとえばネオンを使ったり光をテーマにしている作家さんもすごくハマると思っていますし。やはりこういう空間なので、ストリートから出てきた作家さんも相性はいいですよね。無尽蔵にアイデアが思いついている状況です。
 
──今後のキュレーションは、すべてMEET YOUR ARTで?
 
加藤 基本的にはそうなのですが、このエリアにあるギャラリーとも協働していきたいですし、地方のギャラリーで盛り上がっているシーンを東京で紹介し発信していく場になっていきたいと考えているので、様々な形でコラボレーションしていきたいと思っています。
 
 
記念すべき第一弾の個展は、ブリコラージュの手法で作られた精緻な造形の数々に目も心も奪われる、大野修「VERSE」
 


 
──では、記念すべき第一弾の個展「VERSE」を発表した大野さんに、展示作品について伺えればと思います。

大野 まずは、今回このような記念すべき第一回展示に大きな役割を与えていただき光栄に思っています。今回は約10年ほど前にニューヨークで確立したブリコラージュというスタイルでつくった新作12点と、トレーニングの一環として描いているドローイングを展示しています。
 
──ブリコラージュは、分かりやすく伝えるためによく “冷蔵庫の中のありあわせの食材で作り出した料理” に喩えられますね。大野さんが、さまざまな要素を組み合わせて作るこの手法の彫刻作品に辿り着いたのは?
 
大野 完全に自分の趣味嗜好だったり、自分の生きてきたものが取捨選択されて記憶のなかで残ってきたものが、おそらく作品に投影されています。だからある意味、自分のセルフポートレートのような感覚で作っています。そこにはやはり自分の世代や生きてきた時代背景の影響がすごく大きいです。
 
加藤 大野さんが持つクラフトマンシップが、こういうブリコラージュという手法でのアウトプットにつながるということがおもしろいですよね。作品に対してもある種の世代的な共感もあるというか、大野さんのフツフツとした内面のモチベーションを感じています。
 
大野 加藤さんの言葉にもありますが、同世代の方から評価していただくことが増えています。自分自身が少しずつ技術的な意味も含めて熟してきたこのタイミングで、同世代の人たちが作品に共感し、またそれを発信してくれるような機会と出会えているということを感じています。
 
──まさに、「WALL_alternative」がめざすような出会いを実感しているということですね。ちなみに個展の「VERSE」というタイトルにはどのような意図や意味があるのでしょうか。

 

大野 音楽用語の「Aメロ(・Bメロ)」と「サビ」の構成を、英語圏では聴かせどころの「サビ」を “Chorus"  そこに向かうための情報としての「Aメロ(・Bメロ)」を “Verse” と呼んでいます。ぼくの作品のなかにはいろいろな情報が含まれていますが、その情報を、鑑賞した方が受け取った時に何か共鳴した部分を “Chorus"=「サビ」としてとらえ、その情報を担う部分、つまり “Verse”=「Aメロ(・Bメロ)」を作品として展示させていただく、という意識を持ったタイトルです。そしてもうひとつ、日本語で「バース」と発音すると、“Verse” だけでなく “Birth” つまり「誕生」のような響きになると思ったので、「WALL_alternative」の誕生に捧げるという意味も持たせています。

加藤 実は大野さんの存在は、ご自身がニューヨークで活動してからそのまま地元福岡を制作拠点とされているということもあって、今年3月の「MEET YOUR ART FAIR 2023『RE : FACTORY(リ ファクトリー)』」に、(アーティスティック・ディレクターを務めた)大山エンリコイサムさんの紹介で参加していただくことになるまで知らなかったのですが、初めて作品を見たときにまずその高い技術に驚いたことと、大野さんが音楽をルーツとしたアウトプットをしていることも含めて「この方と一緒にやりたい!」と思いました。我々としては、大野さんのような高い技術を持ったアーティストを東京からしっかり発信しつつ、これからのエマージングなアーティストたちと新しいムーブメントを作っていきたいと思っています。また、展示としては2つ行っていくコンセプトになっていまして、ギャラリーの奥には、2組の作家による「WALL SELECTION」のVol.1(東城信之介/前田紗希)も、開催しています。WALLを軸にして、現代美術の枠を超えた形で、ファッションや音楽、デザインなど、様々な業界の方に伝えていきたいということと、ここから何か新しいコラボレーションが起きたらいいな、と思うアーティストを紹介していきます。
 
 
ドリンク・フードもこだわりのセレクト! アート空間で、よりクリエイティブなワインとの出会いも。
 

 
──さらにカウンターバーには、元六本木祥瑞のシェフで、ホットドッグリーダーとして知られる恩海洋平さんが立ち、常時200本以上のナチュラルワインやオリジナルサンドイッチなどのスペシャルメニューを提供するとのこと。恩海さんはメニューをどのように組み立てたのでしょうか。
 
恩海 もちろんギャラリーの中にあるので、スタンディングカウンターで、さくっと食べられることがテーマです。あとはあまりアートに寄せすぎずに、純粋に楽しんでいただけるようにするということも意識しています。
 
──飲食可能なギャラリーに付随しているというより、バーとしてもしっかりと高いクオリティを楽しめるというのがポイントですね。アートに寄せすぎずということではありましたが、作品を鑑賞しながら飲食するという点でどのように共存することを考えていますか?
 
恩海 この業態は初めてなので、アートとの親和性について考えました。そのひとつの答えが、シェイクを提供することです。ギャラリーである以上はお酒を目的で来店する方だけでもないですし、片手でシェイクを飲みながらアート鑑賞する姿をひとつのテーマとしていて。というのは、シェイクってなんでもアリで、汎用性が高いのです。エキセントリックな素材が入っても大丈夫ですし、お酒もどんな種類のものを入れてもいいですから。今後は、アーティストさんたちが展示をしていくなかでアイデアをもらったり、展示をイメージしたシェイクなども作っていけたらと思います。
 
──アートとの親和性ということですが、ずばりこの豊富な品揃えのナチュラルワインにはどのような親和性が?

 

恩海 ナチュラルワインというのは、(農薬や化学物質を使用せずに栽培したブドウを使って造られる)サステイナブルな(手仕事が主体の)生産方法なので、生産者さんが少数精鋭のワイナリーさんが多いのですよね。そういう意味で、よりクリエイターに気質が近い方が多いとも言えると思います、どこかカウンターカルチャー的な印象ですね。ワインのボトルを見ていただくと、アバンギャルドなエチケットも多かったりしますので、そういう部分も楽しんでいただけたらと思います。お好みに合わせておすすめをお出しするのでお気軽に声をかけていただきたいです。
 
 
レアで個性的なクラフトマンシップ溢れるナチュラルワインやフードも含め、様々なカルチャーがアートと融合した、東京の夜を楽しむ新たな空間に、お仕事の終わりのひとときはもちろん、思いがけない出会いを求めて、ぜひ足を運んでみてください!



WALL_alternative
18:00 ~ 24:00(日曜休館)
東京都港区西麻布4-2-4 1F

https://www.instagram.com/wall_alternative/
https://avex.jp/wall/


第一弾展示として大野修 個展「VERSE」、グループ展「WALL SELECTION vol.1(東城信之介/前田紗希)」同時開催中


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ユカワユウコ
WRITTEN BYユカワユウコ
映画、演劇、展覧会、コンサートまでカルチャー全般のPRや制作にフリーで携わる傍ら、取材記者として各種イベントに出没するハリネズミ愛好家。
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