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辻井伸行

天才ピアニスト“辻井伸行”10年の軌跡が凝縮! 『スペシャルLIVEコレクション』について、日本ツアー直前の“辻井伸行”にインタビュー

2018.01.31
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インタビュー
音楽
クラシック
幼少のころから“天才ピアニスト”と謳われ、2007年のCDデビューから早10年。これまで国内外問わず、名だたるコンサートホールにてリサイタルやオーケストラとの共演を行い、異例の若さでクラシックの分野に旋風を巻き起こしている“辻井伸行”。
彼も今年で30歳を迎える。そして本日1/31(水)に『début 10 years スペシャルLIVEコレクション』をリリースした。このアルバムは、過去10年で世界的に有名なホールで演奏した際の貴重なライヴ音源を、CD3枚・DVD1枚に収録した“至極のLIVEコレクション”となっている。“辻井伸行”のファンのみならず、クラシック初心者も必聴の1枚だ。

19歳の時、デビュー・アルバムで売上28万枚以上という快挙を達成



“辻井伸行”のピアニストとしての才能は天性のものだった。わずか2歳で母が買い与えたオモチャのピアノで、楽譜も見ずに母の鼻歌に合わせて “ジングルベル”を伴奏していたというのだから驚きだ。10歳の時には、オーケストラと初共演もはたす。そこからプロの音楽家になることを決意し、2007年 “辻井伸行”が19歳の時にリリースしたデビュー・アルバム『début』は、28万枚以上の売上を記録。クラシックとしては異例のベストセラーとなった。

“天才ピアニスト”の肩書を確固たるものにしたのが、2009年6月にアメリカで行われた「第13回 ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」だ。 “辻井伸行”は日本人として誰も成し得なかった“初優勝”という快挙を達成する。そこから名実ともに世界が認める“天才ピアニスト”として大躍進していく。2011年にニューヨークの名門カーネギーホールで、リサイタル・デビュー。2012年には20世紀を代表するピアニストでもある“ウラディーミル・アシュケナージ”の指揮でロンドン・デビュー。2013年にはイギリス最大の音楽祭「BBCプロムス」へ出演し「歴史的成功」と称賛された。



“辻井伸行”は2017年にデビュー10周年の節目を迎え、同年11月に記念アルバム『début 10 years』をリリース。若き天才ピアニストの活躍は、まだまだとどまるところを知らない。



ここで本日リリースされた “辻井伸行”の『début 10 years スペシャルLIVEコレクション』を紹介する。先述した名門カーネギーホールのデビュー・ライヴ(2011年)、彼が尊敬する“ウラディーミル・アシュケナージ”指揮、シドニー交響楽団との共演によるシドニー・ライヴ(2016年)、同じく“ウラディーミル・アシュケナージ”指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団と共演したベルリン・ライヴ(2017年)の貴重なライヴ音源と、BBCフィルハーモニックと共演した「BBCプロムス」(2013年)のライヴDVDが収録された、まさに『スペシャルLIVEコレクション』だ。

2月より日本各地で開催される「CDデビュー記念リサイタル」直前で多忙を極める中、 “辻井伸行”本人のインタビューが実現した。当コラムでは、等身大の “辻井伸行”に迫ってみよう。


憧れの “アシュケナージ”の前で、彼が得意とする“ショパン”を演奏



―まずはデビュー10周年おめでとうございます。この10年を振り返っていかがですか。

辻井) とにかく忙しかったですね。まさかこの10年がこんな風になるとは思ってもいませんでした。長いようであっという間でしたし、特に「第13回 ヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクール」で優勝した後から、ほんとうに時が経つのが早く感じられました。

―10年前と比べて、音楽に対する考え方は変わりましたか。

辻井) 10年前は20歳前後でしたから、勢いで演奏していた部分もあります。でも、今は落ち着きがでてきたというか、音の幅や表現力が増えてきたのかなと感じています。僕は“ショパン”が好きで中学生のときに初めて勉強したのですが、CD3に収録されている「ピアノ協奏曲 第2番」は“ショパン”が初恋の人に書いた曲なんですよ。当時は、その気持ちが理解できない部分もありましたが、今なら少しずつ理解できるようになってきましたし、そういう気持ちを大事にしながら演奏するようになった気がします。生家があるポーランドを訪れたのも良い経験になっています。

―“ショパン”の生家で、実際に使っていたピアノに触れられたんですよね。いかがでしたか。

辻井) やはり今のピアノと全然違いますね。タッチも軽くて音量や音の幅も出ない。どちらかというと繊細さというか、軽さとかキラキラした感じを重視しているんだなと気が付いたんです。ポーランドを訪れて、“ショパン”が育った街や文化を肌で体験することによって、どういう気持ちで曲を書いたのかというのが理解できるようになりました。作曲家の想いを深く知ることで、自分が代弁者となって伝えていきたいなという想いが、より強くなった気がします。

―その“ショパン”を、世界的なピアニストでもある“アシュケナージ”の指揮のもと、ベルリンで演奏された曲が収録されていますね。

辻井) “アシュケナージ”さんは、小さいころから憧れていたピアニストでした。CDもずっと聴いていましたし。彼の指揮で、しかも彼の得意な“ショパン”を弾くなんて、最初はちょっと複雑な気持ちで緊張しました。僕にとって、「あのCDの方が」一緒に共演してくださる…という感覚。でも共演してみて、やはりピアニストのことを分かっていらっしゃるなと。息もぴったり合わせてくれましたし、何より憧れの人と共演させてもらえるのは幸せでした。


名門カーネギーホールでは演奏後、感極まって涙が止まらなかった



―CD1に収録されているニューヨークのカーネギーホールでのライヴはいかがでしたか。

辻井) 歴史あるホールで演奏するということが本当に信じられなくて、珍しく緊張してしまいました。コンサートで緊張するなんて初めての経験でした。でも、いざ演奏が始まってみると、会場のお客さんがリラックスしているのが伝わってきて、会場との一体感が伝わりました。演奏が終わった後は、達成感と終わっちゃうことの寂しさみたいな感情が入り混じって、思わず感極まって涙が止まりませんでした。今でもあの時のことを思い出します。また機会があればカーネギーホールで演奏したいですね。

―演奏中でも聴いているお客さんが演奏にのっているかどうかって、分かるものなのですか。

辻井) もちろんすごく感じますよ。特にアメリカの方って反応がストレートですし、ノリが良いなってカーネギーホールでの演奏を通して、そう思いました。

―CD2には、シドニー・オペラハウスで演奏された“ベートーヴェン”の「ピアノ協奏曲第3番」も収録されていますね。

辻井) はい。今回シドニーは初訪問でした。オペラハウスといえば世界遺産に認定されていて、バレエやオペラ等、名だたる公演を行っているので、まず楽屋の数が70~80室ぐらいあるのに驚きました。ホールもとっても良くて、自分のピアノ音がちゃんと聴こえたので、 “アシュケナージ”さんの指揮やオケと息がぴったり合いました。3日間ライヴをしましたが、回を重ねるごとに良い演奏ができたと思います。テレビや新聞にも出させてもらったので、演奏後のオフの時にもホテルやジム等で、いっぱい声をかけてもらったのもうれしかったです。



(辻井 伸行 Official Web Site ++ Nobu Piano. ++ http://www.nobupiano1988.com/参照)
Photo: Keith Saunders

―“ベートーヴェン”の「ピアノ協奏曲  第3番」の聴きどころはどこでしょう。

辻井) 第1楽章はかっこよくて華やかで、壮大な感じがします。ソロの表現に苦労しましたが、ここが一番の見せ場だと思います。第2楽章は美しい旋律が聴きどころ。第3楽章は楽しく爽快感を感じる曲調の中で、最後の盛り上がりをみせます。オケとぴったり合わせるのは難しいのですが、本番で疾走感がでると演奏家としても非常に気持ちが高揚します。

―辻井さんは、“ベートーヴェン”の「3大ソナタ」のアルバムもリリースしましたね。

辻井) 「3大ソナタ」は大変有名ですし、皆さんが弾いている楽曲なので、忠実に弾きつつ“僕らしさ”というところにこだわりました。実はここ何年かで“ベートーヴェン”の良さを感じるようになったんです。耳が聞こえなくなっても、それを乗り越えてこういう作品を書いているというのも尊敬できますし、自分と少し重なる部分も感じていて、晩年の“ベートーヴェン”の素晴らしさが分かるようになったんです。苦しみ等がある中でも、悦び等を表現されているところも素晴らしいなと。特に「熱情」は自分でも好きな作品ですし、「悲愴」は第2楽章をアンコールでもよく弾いている曲ですので。自分にとって、“ベートーヴェン”は生涯取り組みたいと思っています。


今後も様々な事に挑戦して、より幅広いファンにクラシックの魅力を届けたい
 


―今後、チャレンジしたいジャンル等ありますか。
辻井) クラシックでいうと、“バッハ”やロシア作品をもっとやっていきたいと思っています。それから映画音楽もつくっていきたいと思います。作曲は小さいころからずっとやってきていて、最近そちらのお仕事も増えているので、今後も勉強してやっていきたいと思っています。あとは、ジャズ等も取り組んでみたいです。
 
―ジャズですか!? どうしてそちらに興味をもたれたのですか。
 
辻井)10歳ぐらいのときに、“ビル・エヴァンス”をよく聴いていて、ジャズかクラシックかで迷った時期もあったんです。今、新しく勉強しているロシアの“ニコライ・カプースチン”の「8つの演奏会用エチュード」にもジャズの要素が入っている部分がありますし、こういう未来性のある作品も今後は弾いていきたいと思っています。そうすることで、今クラシックをあまり聴かない方たちに聴いていただくチャンスになるのではと思います。
 
―まだまだ日々、勉強されているんですね。
 
辻井) そうですね。たまたま“アシュケナージ”さんと楽屋が隣になったことがあって、楽屋から“バッハ”の「イタリア協奏曲」が聴こえてきたんです。あの“アシュケナージ”さんだって、いまだに“バッハ”を楽屋で弾いて練習しているんだから、自分もやらなければだめだなと思って。この経験があって、僕も“バッハ”もやっていこうと決心したんです。
 
―いろいろとお話しを伺いましたが、辻井さんにとってこの先10年をどんな年にしたいですか。
 
辻井) 今後の10年はより色気を出して、演奏にも深みを増やしていこうと思っています。もちろん作曲家が書いたものを忠実に再現するというのがクラシックの音楽家は大事なことだと思っていますが、その中でも自分の作品の素晴らしさや自分が感じているイメージを、お客様に伝えていければと思っています。
 
―ちなみに、今一番感謝を伝えたい方はどなたでしょうか。
 
辻井) ファンの方や周りのスタッフ等、感謝を伝えたい方たちは数えきれないほどいるので、一番というのはなかなか難しいですが、あえて挙げるとすれば両親ですね。ここまでずっとそばで僕を支えてくれましたので―。最近は趣味で陶芸も始めたりして、家族にもプレゼントしたりしているんです。
 
―それは素敵ですね。では、最後に『スペシャルLIVEコレクション』を手に取るファンの方にメッセージをお願いします。
 
辻井) このコレクションは、10年間の想いがつまっている作品になっていますので、とにかく楽しんで聴いていただきたいです。10年を通して成長している僕を感じていただきたいですし、これから20年、30年経ってもずっと愛してもらえればうれしいです。そして、ぜひ生のライヴにも足を運んでもらえればと思います。



これだけの名声を手に入れても、まだ日々勉強だと語る“辻井伸行”。その謙虚な姿勢と時折みせるあどけない笑顔が印象的だった。この先10年、20年経って、さらに円熟味を増していく姿をぜひ見届けたいと思う。これを期に、『スペシャルLIVEコレクション』を手にして、彼の感動的なピアノの旋律に酔いしれてみてはいかがだろうか。


『辻井伸行/début 10 years スペシャルLIVEコレクション(初回生産限定)』

CD3枚+DVD1枚(豪華ブックレット付)
¥12,000(税抜)
 
■収録曲
・DISC1:カーネギーホール・デビューライヴ(2011/ 11)
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第17番
リスト:リゴレット・パラフレーズ
ムソルグスキー:展覧会の絵ほか
・DISC2:シドニー・オペラハウスライヴ(2016/10)
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番
ウラディーミル・アシュケナージ指揮、シドニー交響楽団
・DISC3:ベルリンライヴ(2017/5)
ショパン:ピアノ協奏曲 第2番
ウラディーミル・アシュケナージ指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団
・DVD:ロンドン・BBCプロムスライヴ(2013/7)
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲 第2番ほか
ファンホ・メナ指揮、BBCフィルハーモニック



『辻井伸行/ベートーヴェン:《悲愴》《月光》《熱情》』
¥3,000(税抜)
 
■収録曲
・ピアノ・ソナタ 第8番 ≪悲愴≫
・ピアノ・ソナタ 第14番 ≪月光≫
・ピアノ・ソナタ 第23番 ≪熱情≫


【辻井伸行 OFFICIAL WEBSITE】
http://www.nobupiano1988.com/
撮影:向山裕太
武田 真那実
WRITTEN BY武田 真那実
編集兼ライター。グルメ系、住宅系メディアへの執筆多数。趣味は全国の温泉地めぐりと、グルメ開拓。最近「日本酒」の奥深さに目覚め、酒蔵巡りもやっています!トランジットデザイン社所属。
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