11月29日からのさいたまスーパーアリーナ3連戦で開幕し、2025年3月6日の横浜アリーナでのファイナルまで、「全国8都市19公演のアリーナツアー」として開催されている「東方神起 20th Anniversary LIVE TOUR ~ZONE~」。ファンにとっては公演そのものだけでなく、オフィシャルグッズも楽しみなことでしょう。今回のツアーでもたくさんのグッズが展開されていますが、そのグッズって、どうやって制作されるんでしょうか? そんな素朴な疑問を、東方神起のツアーグッズのプロデューサーでもあるエイベックス・ライヴ・クリエイティヴ株式会社 MD事業本部クリエイティヴグループの石川亜希子さんに伺いました。
マルチタスクすぎる! グッズ製作の大変な現場!
──石川さんはライブでのグッズのプロデューサーということですが、どこからどこまでに関わっているんでしょうか?
石川 もう全部ですね。企画から、会場販売の売り場作りもやりますし、素材撮影の手配もします。デザインのディレクションもするので、アイデア出しから売るところまで、全部の工程に携わらせていただいています。
──全体の流れはどんな感じなんですか?
石川 ライブが決まると、そのライブのコンセプトを聞いて、グッズのラインナップを提案用に作ります。同時にメーカーと予測数はこれぐらい、上代はこれぐらいで、スケジュールも含めて実際に作れるのかという裏取りをして、「作れる」となって初めて提案の候補に乗せられるんですね。提案した後に「やっぱり作れませんでした」ということはできないですから。そうやってメーカーと摺り合わせをして、アイテムのラインナップをバーッと考えたものが、提案用のラインナップになります。それを事務所に提案しに行って、その中から絞ってもらいます。
──それでラインナップがまず決まると。
石川 その中にアーティストの肖像を使用する商品があれば、肖像の撮り下ろしをさせてもらいます。まれに事務所から提供してもらえる場合もありますが、ほとんどは撮り下ろしになるので、撮影周りの準備に入ります。まず撮影のコンセプトですね。AD(アートディレクター)さんに入ってもらいつつ、ADさんと一緒にアイデアを練ってコンセプトを決めたら、それをまた提案して、「じゃあこういうコンセプトで作りましょう」というのを決めます。そこからスタイリストさんの手配などを経て、ロケハンなども行って、撮影をします。
──実際の撮影に入るまでにもけっこうな工程があるんですね。
石川 それと同時に、グッズのラインナップが決まったら、一つひとつに相見積もりを取ってメーカーを選定して、決まったメーカーと仕様についての打ち合わせを細かくやります。並行してデザイナーさんにデザインを発注し、デザインが上がってきたらそれを事務所に提案して、NGが出たら修正してというのを2~3回やりとりして、決定したデザインをメーカーさんに入稿してサンプルを出してもらいます。この段階では複数のパターンを作ることもあるんですが、それをまた事務所に見せて、確定したらやっと校了になります。
──それを同時に複数の商品で進行しているわけですね。
石川 はい。決定したサンプルは撮影に出して、同時に販促のための施策を考えます。「○○円以上のお買い上げで差し上げます」というような。そこでもらえる特典品の検討に入って、そのものも作ります。また最近は受注販売の商品が多いので、ECサイトの部署に販売スケジュールを確認したりに、解禁文言を作ったり。そこでEC関連は終わって、次は会場販売ですね。会場販売の担当者と、「今回はディスプレイを凝ったものにしたい」とか「予算があまりないから、今回はシンプルで」とかというやりとりをして。その指示をしないと会場販売の班が動けないので、そのへんも全部動かす役割ですね。
──それを全部……
石川 もちろん各セクションの担当者の協力あってこそですが、統括するのは企画担当がやります(笑)。その間に数量会議というのもあって。編成チームが数を読んでくれるんですけど、ECサイトの受注状況を見て、会場でどれぐらい売れるかというのをみんなで考えるんですね。その予測が外れると在庫過多になっちゃって、売れても在庫分がマイナスになっちゃうんですね。その数字読みもけっこうキモなんですけど、そこにももちろん入って、「この商品は前回こうだったから売れると思う」とか言いつつ、数が抑えられそうになったりするので、そこを戦うというのもあります。なので、一つのツアーでやることがかなり多い上に、これが2本、3本と並行する場合もあるので、そうなってくると危険な状態になります(笑)。
──2本、3本重なるというのは?
石川 別々のアーティストだったり、同じアーティストでも次のツアーの予定が入ってくる場合ですね。追加公演の追加グッズを作らないといけなくなる場合も出てきますし。規模の大きいアーティストは負荷も大きいんですけど、規模が小さいアーティストだったら楽かというと、やることはそんなに変わらないので、大小かかわらず大変だとは思います。
──アーティストサイドとのスケジュール的な連携も大変そうですが。
石川 そうですね。ツアーごとにテーマが変わるので、そのテーマに沿ってできることもあれば、テーマが決まるギリギリでMD(マーチャンダイジング)も先走らないといけないことも多いので。スケジュールはかなり前倒しでやらないといけないので、そこでいかにライブとシンクロしていくかというのがなかなか難しいところではありますね。
──やはりそこも大変そうですね。
石川 意外かもしれないですが、ツアー・ロゴをMDで制作することも多いので、その場合は「早くツアータイトルを決めて!」と催促します(笑)
「アーティストの意向、ファンの要望は加味されている?」気になる質問をぶつけてみた!
──伺っていると、心が安まるヒマはなさそうですね。
石川 休まるヒマはないですね。商品が校了した時はいったんホッとはしますけど。でもその時に並行している案件があると、そちらもいろいろあるので、結局休まらないですけど。
──大変ですよね……。例えば、来年1月からツアーがスタートするとしたら、だいたい何月ぐらいから動き始めるものなんですか?
石川 東方神起みたいに規模が大きいと、半年前ぐらいですかね。だから1月だったら、8月ぐらいですか。6ヵ月前から草案作りを始めて、2.5ヵ月前ぐらいから受注販売が始まるので、そこまでに校了を目指します。
──聞けば聞くほど怖ろしい話ですね(笑)。
石川 怖ろしいことばかりですよ。商品事故は絶対あってはならないので。ほんの細かいミスが、お客様、アーティストの両方にご迷惑をかけてしまうので。校了されるといったん手は離れるんですけど、量産中も「大丈夫かな?」と不安はつきまといます。
──出版関係も全く同じなので、身につまされてよく分かります(笑)。
石川 だから事故の話を聞いたりすると「それは私にも起きるかも」と思うので、全然他人事じゃないです。そういう意味では重圧があるというか。万が一誤植があっても、お客様の手に渡る前に対処するためにもスケジュールには余裕をもちたいものです。
──それは往々にしてありますよね。
石川 ありますね。だから日頃から2~3人でチェックしたり、事故防止のための体制を取っています。それでも校正サンプルを何パターンか用意して、決定したパターンと違うもので進行してしまったなんてことが起こり得るので、パツパツの進行の時こそ細心の注意を払わなければならないというのは、ちょっと大変なところですね。
──いや、本当に大変そうですね……。
石川 今回の東方神起のツアーでは20アイテム出すんですけど、1アイテムの中で絵柄が10あるものもあって、全部に細心の注意を払わないと、どこにミスが隠れているかは分からないので。でもすごく急いでいたりもするので、「確認はしたけど、じっくり見たかな?」と、後から不安になったりもするんですよ。そう考え出したらキリがないし、私はたまたま性格が楽天的な方なので、「何とかなる」と思えるんですけど、でもふとした時にヒヤッとする時が、いまだにあります(笑)。また納品された商品も、そこに間違いを発見してしまったらもう直しようがないじゃないですか。それが全部の商品に対してなので、もはや見たくないというのはありますね(笑)。もちろん見ますけど!
──グッズの企画に関しては、アーティストの意向が加味されることはあるんですか?
石川 それもアーティストによりますね。こだわりたい方もいらっしゃいますし。そういう方の場合はご自身の意向がふんだんに取り入れられていますし。アーティストと一緒に作るのは大変ではありますが学びも多く、成長するチャンスでもあります。
──あと、ファンの方からいろんな声が届くと思うんですが、それはどれぐらい意識されていますか?
石川 いろんな声は、聞いてはいます。ただ、アーティスト・グッズは驚いてほしい、喜んでもらいたいというのも大きいんですよね。そこも含めてエンターテインメントの一環だと思います。これはアーティストや周辺の考え方もあると思うんですが、ファンの人が「ほしい」と思うものだけを作るのは面白くない、という考え方もあって。もちろんファンの方々の声は聞くし、いいアイデアは参考にさせてもらうこともありますが、それに左右されないようにはしています。そうでないと、意外性がないものがポンポンできるという状態になりかねないですし。またツアーやプロジェクトごとにテーマがあるので、それに準じたグッズという意識はブレないように気をつけています。
ファンからも好評でやり甲斐もあった、ヨックモックとのコラボ!
──今回の東方神起のツアーグッズで、一番手間がかかったのはどれですか?
石川 手間で言うと、やっぱりヨックモック関連、「東方神起×ヨックモック プティ シガール缶」と「TBキーホルダー(ヨックモック)」ですかね。これは今回の目玉商品でもあるんですけど、ヨックモックさんとコラボ商品を開発できたというのは特別なことなのですが、東方神起とヨックモックさんのご理解のおかげもあって今回は実現することができました。キーホルダーでTBが持っているシガール®もヨックモックさんの監修のもと、中国で試作品を何度も出して完成に至りました。大変だったけど、その分クオリティを上げることができて、個人的にも満足しています。。
──この小ささなのに、シガール®だと分かるところがすごいですね。
石川 そうなんですよ。この焼き色のグラデーションにはヨックモックさんもできる限り忠実に再現してほしいという思いがあったので。この3つはサンプルを一度に提出して、「どれが一番近いですか」と監修を仰いだものです。ちなみにシガール®の袋の印字は特色のゴールドを使用しています(笑)
グッズには意外と、こういう見えない努力があるものなんですよね。
──「プティ シガール缶」については?
石川 こちらは缶のデザインを、関根正悟さんという個人的にも大好きなイラストレーターさんにお願いしました。20周年という節目にふさわしい演出を考えた時に、パッケージにも拘りたいと思って。通常のツアー・デザインを当てるのではなく、そこから切り離して20周年の特別感を出して。商品が高額になってくるのは分かっていたので、いかにそこに価値を乗せるかということを考えて、こうなった形です。
──そもそもヨックモックさんとのコラボが目玉なわけですよね。
石川 はい。老舗企業さんなので、すごく丁寧に細かいところまでお伺いを立てていったんですね。先ほどもお話しした通り、特にシガール®の扱いに関してはしっかり監修が入りましたが、そもそもこれを「やってみましょう」と賛同してくださった経緯や、対応してくださった担当者が社内稟議を通してくださったのはすごく大きかったですね。ヨックモックさんのブランドイメージを崩すようなことがないよう、できる限り丁寧に進める努力をしました。やりとりもとても気持ちよく進めていただいて。
──要望はたくさんあるんですけど、理不尽なことはないというか。
石川 そうですね。焼き色のところはすごく細かい要望が出たんですけど、そこは会社の顔になるところなので、こだわるのは当然かなと思いましたし。だから逆に、すごく時間をかけて丁寧に作れましたし、手に入れたお客さんにも喜んでいただけて、そこはちゃんと伝わったんだな、感動を届けられたという点で、報われた気分になりました。
──なるほど。頑張ってコラボをやった甲斐があったと。
石川 コラボはまた本当にさまざまですね。いろんなご縁やストーリーがあるので。「個人的に好き」とか、ノリでやってみようか!なんて流れでチャレンジすることもあります。
──グッズのページを見ると、「Tライト」も今回の主力商品になっていますね。
石川 はい。今までは「Tホルダー」というスティックライトのジョイントパーツをツアーごとに作っていたんですが、20周年を機に今回はそれが進化して、ホルダーそのものが光るようにしたんですね。「オリジナルのライトを作りたい」という気持ちをずっと持っていたのですが、従来の「スティックライト」の形はもはや文化になっていたので、それを崩したくないというのもあって。そこで「ホルダーを光らせれば、折衷案になるのでは?」と思いついてご提案させていただきました(笑)。
──ナイスアイデアが浮かんだんですね(笑)。
石川 それと、今まではホルダーをツアーごとに作っていたので、次のツアーが始まると新しいホルダーを買うことになるじゃないですか。もちろんコレクション性もありますが、ちょっとそこが気にかかっていて。いい解決策がないかなと思っていたところに、ホルダーを光らせればいいかなと。今後は、デザインが進化することがあるかもしれないけど、この「Tライト」を長く使っていただけると嬉しいなと思います。
──他のグッズについてはいかがですか?
石川 クリアフォトカードが9種類ある(ランダム)んですが、これが先ほどご説明したMDの撮り下ろし素材になります。コンセプトをご提案して撮影させていただきました。今回のツアーは11月に発売した20周年記念アルバム「ZONE」と一貫したクリエイティブで展開していくことが決まっていたので、撮影も同じチームで編成しています。アルバムジャケットのメインビジュアルが黒のジャケット姿なので、パンフレットの表紙は対照的な白衣装にして連動性をもたせるなど…。ちなみにパンフレットの形状はアルバムの超豪華盤に付属しているブックレットと同じサイズになっているので、実は同じ箱に収納していただけます(笑)
──今回はポップアップストアも展開されていますね。
石川 今回の東方神起に関しては、ツアー会場とECサイト以外にも販路を拡大したいという目的ももちろんありますし、広く多くの人と接点を持てるチャンスだったり、ツアーの盛り上げという部分もあります。今回、東京では日比谷ミッドタウンで展開したんですけど、ちょうど季節的にクリスマスで、ミッドタウンのクリスマス・イルミネーションと東方神起でコラボできたら素敵だなと思って各所に調整していただきました。結果的に点灯式が実現し、東方神起カラーの赤い光の演出も叶ったのは嬉しかったです。こういう形のコラボをMDが主体になって進められたことや、宣伝的なところまで見込んで実現させたのは、もちろん私だけじゃなくMDのチームワークと事務所やご本人達のご協力があって実現した結果なので、これからもこういったチャレンジができたらいいなと思います。
──これができたことで、事例として積み上げられますしね。
石川 そうですね。ただ商品を作って売るというだけじゃなくて、グッズ以外の部分でもファンと接点を持つことができる展開が考えられるし、そこを理解してもらえる事務所の協力もあってですけど、販売して終わりじゃなくて、それを膨らませて、「どんなワクワクが作れるか」というところを、今後も考えていきたいと思います。
──しかし今回のお話を聞くと、グッズへの見る目もだいぶ変わりそうですね(笑)。ありがとうございました!
東方神起 20th Anniversary LIVE TOUR ~ZONE~グッズ
https://toho-jp.net/goods/detail.php?id=1002389
東方神起 20th Anniversary LIVE TOUR ~ZONE~
https://toho-jp.net/live/tour.php?id=1002624
TOHOSHINKI 20th Anniversary POP-UP STORE ~ZONE~
大丸 梅田店 5F特設会場
https://www.daimaru.co.jp/umedamise/access.html
開催期間:12月21日(土)~12月29日(日)
営業時間:10:00~20:00
入場料:無料
衣装展示:東方神起 20th Anniversary LIVE TOUR ~ZONE~ツアービジュアル衣装、20th ANNIVERSARY ALBUM『ZONE』JACKET衣装
【東方神起 オフィシャルウェブサイト】
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ライター
高崎計三
1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。