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【花譜】ホログラムみたいになって、本当に走ってみんなの元に行くとか、実現できたらいいな

花譜

【花譜】ホログラムみたいになって、本当に走ってみんなの元に行くとか、実現できたらいいな

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5thアルバム『深愛』をリリースしたバーチャルシンガーの花譜さん。今作は『カミュの歌鳥 ─花譜小説集─』(中村紬・著)という小説と連動し、AIとともに進んでいく未来の世界と、その中での人々の心の変化を描いた作品になっています。このアルバムの収録曲や花譜さんの活動、スタイルなどについて、いろいろとお聞きしました!

無機物が人間らしくなっていく様を歌い方でも表現した「エラーソング」

──まずは自己紹介をお願いできますか?

花譜 はい、花譜といいます。普段は歌を歌っていて、肩書きはバーチャルシンガーと名乗ることが多いんですが、自分の姿をアバターに投影して活動しています。活動を始めたのは2018年の10月で、今年の10月で8周年になります。

──今回リリースされた『深愛』は5枚目のアルバムになりますが、『カミュの歌鳥 ─花譜小説集─』(中村紬・著)とも連動しているということですね。アルバムの企画、制作はどのような形で進められたんですか?

花譜 今回の『深愛』というタイトルは私のプロデューサーさんが命名してくださったんですけど、花譜という存在をスタートにして、音楽と物語を一連のものにさせるという試みから始まったと聞いています。小説のプロットが元にあって、そこからテーマとかキーワードだったりを作家さんが汲み取ってくださって、楽曲制作も同時進行で進んでいきました。

──では花譜さんのところには、楽曲と小説が届いたのは同じぐらいのタイミングだったんですか?

花譜 小説の方が先でしたね。レコーディングの前には小説を読んでいました。お話の舞台は少し未来の世界だと思うんですけど、人とAIが共生していって倫理観とか価値観みたいなものも変わっていく中で、主人公がいろんな人と出会って、いろんな感情と触れていって、いろんな気持ちがうごめいている物語だなと感じました。

──その小説の世界が曲として表現されたものを歌うという試みになるわけですが、そこで表現として気をつけたり、心がけたのはどんなことでしたか?

花譜 この歌を聴いて得た、インスピレーションとか、聴いた時にバーッと自分の中に想起された景色とかをそのままにして歌いたいなと思ったんですね。なので、いつも通り、自分がその曲を聴いて「その曲の中に自分がいたとしたら、この言葉をどう歌うだろうか」ということを考えていったので、自分の歌うスタイルとしては、特に変わりはなかったかなと思います。

──収録曲の中で、まずの12曲目先行配信曲「エラーソング」について教えていただけますか?

花譜 この曲はTAKU INOUEさんに作っていただいた楽曲なんですが、どこか未来だったりとか、サイバーっぽいものを感じさせるようなキラキラした音だったりが織り込まれていて。歌詞もロボットっぽい無機物が人と関わり合っていく中で、感情の質感を伴って知らないものを知って、「自分の方が壊れたんじゃないか」っていう思いになっていくっていう、ある種人間らしくなっていくみたいなことを書かれた曲なのかなと自分は解釈しました。Aメロ、Bメロは少し感情が分かりづらく、ミステリアスに歌う感じで、そこの歌詞では「壊れた 壊れたのかな また会いたい」っていうサビの部分が何回か繰り返されたりしてるんですけど、そこではちょっと熱が入るような歌い方をしてみようとか、そんなことを考えて歌っていました。

──6曲目の「学園戦線」については?

花譜 この曲はタイトルの通り、学校の中ですごくみんなの目を引くようなことをしていくというか。何か大きかったり、正しいとされているものと戦って、踏ん張って、立ち上がっていくような、そんなイメージのある楽曲ですね。曲自体はすごくポップで、言葉遊びもすごく楽しい楽曲なんですけど。楽しく出力されている言葉だったりメロディーの裏に、闘争心だったり、「負けないぞ」という気持ちだったり、楽しさだけじゃなくて、苦しみもがいて来たんだろうなみたいな、そういう暗さがたまに見えたりするのが、この曲の危うさを表現していて、そこがすごく好きな楽曲です。

──この曲はアルバムの中でもとりわけポップでキャッチーですよね。

花譜 そうですね。踊りたくなるような楽曲だと思います。自分としては、すごくポップさが際立つところなので、その根っこのところにちょっとだけ見え隠れしている暗さみたいなものを、常軌を逸した歌い方で表現しました。「楽しい」に全振りして、リズムもサビ前の「無敵のシークレット」というフレーズとかはいつも以上に跳ねて歌ってみたりとか、笑っている表情が見えるような歌い方を、けっこう意識しました。

──個人的には、11曲目の「周波数0の合言葉」がすごく壮大で、印象に残りました。

花譜 本当に、すごく壮大な楽曲ですよね。誰かと思いを通じ合わせるために自分が紡いできた言葉の中で、どれが本物なのか自分で信じきれなくなっても、それぐらいその人を思っている気持ちは本当だというか、大切な人に伝える言葉だからこそ悩むというか。愛ってどういうものかって、よく説明しようとしがち、させようとしがちだけど、相手のことを思って、こんなにも苦しくなったり切なくなったりするっていうこと、そのものがもう紛れもなく愛なんだなと思う楽曲で。

──そういった内容が壮大な曲調にすごく合っていますよね。

花譜 はい。2番のところで、ポエトリーリーディングのように語る言葉が入ってくるんですけど、そこはもう思いのままに一発入魂って感じで歌いました。

──他にご自分で、特に印象深い曲は?

花譜 8曲目の「君は水、私は魚」は、傘村トータさんに作っていただいた楽曲なんですが……この曲はこのアルバムの中でもひときわピュアというか、まっすぐすぎて、歌っているこちらも、心が洗われて綺麗になっていくというか。私は、愛が何だったのかに気づくという、すごく温かい曲なのかなと思っていたんですけど、傘村さんがレコーディング現場に来てくださった時にお話しさせていただいたら、「この曲は失恋の歌なんだ」とおっしゃったんですね。私はそのことに気づいてなかったんですよ。確かにそう言われてみたら、最後の「君に見せた全部愛だった」とか、確かに全部過去形だったんだと気づいて。

──ああ、確かに。

花譜 その歌の主人公にとっての想い人みたいな人が、文学とか絵画とかいろんなものにたとえられていくんですけどこの子にはその人が、綺麗なものとか心安らぐものとか、落ち着くものとか、その子にとっての全部だったんだったんだけど、それがもう「今」じゃなくて「過去」になってたんだというのを、レコーディングで歌ってた時に初めて知って。それで曲の印象がガラッと変わったという意味で、心に残ってますね。

──それによって、表現の仕方も変わりますよね。

花譜 メチャクチャ変わりました。自分の全てだったけど、もう隣にいないみたいな悲壮感というか、悲しい感じが乗るようにということを、すごく意識して歌いました。

『深愛』はどんどん深まっていくものを何年もかけて見ているような作品。そこを味わってほしいです。

──アルバム全体としては、例えば3曲目「明滅」はすごく激しくて、その次、4曲目の「乳白の宇宙」みたいに、全体に漂うような歌声や歌い方の曲があったりと、スタイルの対比がすごく特徴的だなと思いました。そうかと思えば、その次の「愛想」はその両方のスタイルを併せ持った感じになっていて。そういった声とか歌い方、ボーカルスタイルの幅について、ご自分ではどういうところが強みだと思っていますか?

花譜 けっこう、激情的に歌うようなオリジナル楽曲が多いんですね。特に「明滅」はもう120%でバーストをかけて歌うような気持ちだったんですけど、「乳白の宇宙」は無邪気で無垢な、色にたとえるなら白、子守唄みたいな絶対的安心感というか、そんなイメージを多く持って歌っていて。その曲を聴いて、自分の中で受けた印象をまとった歌声を出したいし、自分が初めてその曲を聴いた時に見えた景色みたいなものが、歌からも滲み出るようにレコーディングするというのをいつも心掛けています。何回も歌って聴いて、「これじゃまだ、ちょっと浮かんでこないな」みたいなことをレコーディングの中で繰り返して。そこに対しての執着の賜物が自分の歌声だなと思っていますね。

──なるほど。曲ごとに、そうやって調整と試行錯誤を繰り返した結果なんですね。

花譜 はい。一文、一単語の言い方とかも、すごく気にしています。

──あえて言うとしたら、自分の“素”の声、“素”の歌というのは、「明滅」的なものと「乳白の宇宙」的なもの、どちらが近いんですか?

花譜 “素”……どうだろう? どちらかというと「乳白の宇宙」に近いというか、普段は劇場型は秘めているかもしれません。

──サウンドの方も曲によってかなり幅がありますが、今回のアルバム各曲のサウンド面に関してはどう感じていますか?

花譜 今回もすごくたくさん、いい曲を歌わせていただいたなという気持ちでいます。曲の幅も本当に広くて、ロックチューンもあれば、ピアノのバラードだったりとか、劇的にストリングスがバッと入ってくる楽曲があったりとか、一枚の中でいろんな曲が楽しめるなと思ってます。

──3月1日、ぴあアリーナMMで行われたの5th ONE-MAN LIVE「宿声 / 深愛」ライブでも、バンドが入って盛り上がっていた場面も多かったですね。あのライブの感想は?

花譜 3月1日のライブは1stアルバムから年表みたいに進んでいって、最後に『深愛』の新曲たちにたどり着くという構成だったんです。私も久しぶりに歌えた曲が数曲あったりして、今やライブで歌う曲を選ぶのが難しいくらい、たくさん歌ってきたんだなという感慨がありました。そして、今はワンマンライブを年に1回くらいのペースでやらせてもらっているんですけど、私の曲をずっと聴いてきてくれたファンの皆さんの顔、みんなの反応をリアルタイムで見られる大事な機会なんですよね。そういうことができる機会はライブの時ぐらいなので、自分自身もすごくパワーをもらうし、「もっと頑張らなきゃ」という気持ちになりました。

──あのステージで、新曲への反応はどう感じましたか?

花譜 あの日が初披露だった楽曲に関して言うと、「君は水、私は魚」について、感想で触れてくれていた方がけっこういましたね。あと演出面で、今回の小説と関連するような言葉とか景色が映し出されたりしたんですけど、その部分は「謎要素」というか。お客さんはあの時点では、まだ小説の内容もアルバムの全貌も知らないので、「何だこれは?」みたいになってたと思うんですけど、そういう、よくわからないもの、未知なものがライブの中に入ってるのは私自身もすごく楽しいし、ワクワクしました。「オーギュメント」を披露した時には、羽を生やしてもらったんですよ。他にも今までのライブにはない演出をしていただいて、そういうところもすごくワクワクしました。

──さて、これからの活動予定と目標は?

花譜 「KAF WORLD CIRCUIT 2026 -Global Live Appearances-」という、いろんな海外のフェスとかステージに立たせてもらう機会をサーキットにたとえて、順々に巡っていくような企画が今進んでいるんです。そこは花譜のことをまだ知らない人と出会うチャンスになると思うので、自分自身もすごく楽しみだし、そこも含めてこれからもたくさん歌っていきたいという気持ちです。

──「こういう舞台で歌ってみたい」というような目標はありますか?

花譜 まだ野外でライブをしたことがないので、いつか星空の下で歌ってみたいというのはありますね。それから、これはもっと先の夢なんですけど、自分がホログラムみたいになって、会場中を自由に歩けるようになったとしたら、本当に野原とかまで走ってみんなの元に行くとか、そういうことが実現できたらいいなって、最近はすごく思っています。

──今回のアルバム『深愛』は、聴く人たちにどう届いてほしいですか?

花譜 先ほどもお話しした通り、自分自身が初めてその曲を聴いた時に思い描いたものを、歌に乗せて届けたつもりです。それと同じように、皆さんがこのアルバムの曲を聴いて、私の歌だったり、書いていただいた言葉、メロディーを受け取って想起するものって、きっと私とも、各曲を作ってくださったアーティストさんたちとも、完全に一致することはないですよね。そういう自分だけの思い出だったり、記憶を重ねて、楽しんでいただきたいし、そんな風にその人だけの気持ちを乗せて、何回も何回も聴いて、もしかしたら聴くのをやめる日が来て、また何年後かに聴いた時に、「この曲の愛は、あの時はこう思っていたけど、今はこう思うな」とか「あの時と変わってないな」とか、『深愛』というタイトルにも紐付くように、どんどん深まっていくものを、何年もかけて見ていけるようなアルバムになっているのかなと思うので、そういうところも含めて味わっていただければと思います。

花譜5thアルバム「深愛」 起点の物語

書籍『カミュの歌鳥 花譜小説集』著者:中村 紬/発行:KADOKAWA

https://www.kadokawa.co.jp/product/322511000292

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記事情報

高崎計三

ライター

高崎計三

1970年2月20日、福岡県生まれ。ベースボール・マガジン社、まんだらけを経て2002年より有限会社ソリタリオ代表。編集&ライター。仕事も音楽の趣味も雑食。著書に『蹴りたがる女子』『プロレス そのとき、時代が動いた』(ともに実業之日本社)。